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タイトル未定2024/04/07 09:54

 数日後、体育の授業。

 上下ジャージ姿のいかつい体育教師が、芋ジャージ姿の生徒たちにきびきびと指示をだしていく。


「次は二人一組になってストレッチだ」


 白馬は自分と同じようにまだクラス内になじめていない男子の一人に声をかけ、適当にストレッチをこなしていく。


「白馬くん、結構足腰しっかりしてるね」

「まあね…… ありがとう」


 自分よりやや背が低いとはいえ、男子一人を担いでも白馬は微動だにしなかった。


「何かスポーツしてたの?」

「運動はしてるけど…… スポーツとは違うかな」

「そ、そうなんだ」


 踏み込まれたくない雰囲気を感じたペアの男子は、それ以上話さなかった。

 聞かれれば丁寧に答えるが自分からは話さない。

 当たり障りのない会話を心がけ、距離が縮まりすぎないようにする。


 それが友人恋人にあまり価値を感じない男子、白馬峻の人付き合いの仕方だった。


 運動場の別のスペースで望月は佐久に声をかけ、二人一組で行うストレッチのペアを組んでいた。

 その周囲にも数人の女子が集まり、軽い雑談に興じながらも体をほぐしていく。


「望月さー、中学時代は何部だったの?」

「バスケ部かな? 一応、キャプテンだった」


「あー、似合ってる。リーダーシップありそうだし」


「そうだよねー」


 背をそらしながらも器用に答える望月の下で、佐久が足を震わせながら親友を担ぐ。

 お互いに腕を組んで、仰向けになる形でペアを担ぐストレッチ。下になる佐久には相当な負担だった。


 白磁のような顔が今は真っ赤に染まっている。だが一年前までは一秒たりとも支えることができず潰れていたから、少しは体力がついてきたのか。


 二人でいるというのに、望月と佐久へのクラスメイトからの扱いは明らかに差があった。

 望月に対しては笑顔たっぷりに。


 佐久に対してはどこか壁を作っているかのようで、会話もそこそこに切り上げる。


 体育教師は、彼女たちを見てため息をついた。優し気な視線にふと悲しみが混じる。


「古き良き時代のブルマーは、一匹残らず駆逐されてしまったのか。尻にかけての食い込みがたまらなかったのだがな」


彼のつぶやきは誰に聞かれることもなく、風に溶けて消えた。


 今日は新年度ということもあり、体力測定の時間だった。男女に分かれて体育館やグラウンドを使用して測定していく。


 二クラス合同で二時間を使用できることもあり、ほとんどの種目を一日で終わらせる予定だった。


 白馬峻は、体育会系の男子のマウント合戦を横目に種目を次々に消化していく。


「どうだった?」

「オレの握力、六十だぜ!」

「いや、俺の五十メートル走、六秒代だったし」


 見慣れない男子ということもあってか、最初は何人かが白馬を見ていたがすぐに感心は薄らいでいった。

 短距離や反復横跳び、握力といった種目は平均点で話題に上るようなものではなかった。

 だが最後に行われた種目では、クラスの視線を一身に浴びる。


 陸上のフォームとは違っているが、無駄のない走り。


 千五百メートルを走っても崩れないペース。グラウンドを駆ける中肉中背の姿は、後半に至って徐々にペースが落ちてきたクラスメイトを次々に抜かしていく。


 運動のそれほど得意でない彼が唯一活躍できる種目であり、無表情を貫きながらも内心鼻高々だった。

 陸上部の楢川を抜かすことはできなかったが、結果としてクラス二位でありクラスメイトたちが目を丸くしていた。


「あいつどこ中だよ」

「確か白馬とか……」


 ゴールを駆け抜け、グラウンドの隅で息を整えていた彼に楢川が声をかけてきた。


「俺、楢川っていうんだけど」

「僕は白馬峻」


「知ってるって。クラスメイトだしな」


 楢川はそう言って、快活に笑った。


「今の走り見てた。陸上やってた俺が見ても、なかなかのものだった。そこで相談なんだけど、陸上部に入らないか?」


 百八十を超える長身に引き締まった手足。爽やかイケメンという言葉がぴったりな彼。

 もし白馬が乙女ならば落ちていただろう。


「ごめん、ちょっと……」


「見学だけでもしてみないか? 他に部活入ってないんだろ?それだけの早さがあれば即レギュラー入りできるぜ。もったいないし、部活入れば学校生活もっと楽しくなるぜ。俺が保証する」


 熱く語る楢川に対し、遠回しに断るだけでは駄目と悟った白馬は事情を話すことにした。

「僕、山登りが趣味で…… 休日はいつも登ってるんだ」


「登山? 陸上のトレーニングでも高地でやるのもあるが、やっぱ効果あるのか?」


「トレーニングで登る人もいるね。でもやっぱり町じゃ見られない景色を見られるのが良いな。オレンジ色のユリとか、真夏の雪とか。半日で全然別の世界に行けるのがすごくたまらなくて、」

「そ、そうか。魅力はよくわかったぜ」



 楢川が引いているのに気が付くと、またやってしまった、と自己嫌悪して白馬の表情が暗くなる。


 だが楢川は気にしていない様子で会話を続けた。


「登山もいいが、陸上もいいぜ。タイムが上がるのを見るたびにおっしゃあ! って感じるしな。まあ、気が変わったらいつでも声をかけてくれよな」


 楢川はそのまま、その場を立ち去った。

「登山……」


「……望月。どうしたの? 次の測定、始まるよ?」

「あ、ごめんー。今行くー」



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