鳥籠のぼくら
いつもより早く家を出た日。
この日は一本早い電車に乗った。
通勤時間から外れているためだろうか、車内はガラガラで、男一人だけ座っていた。普通ならば椅子に座ることができないが、今日は腰を落ち着けることができた。
そして、すぐさまスマホを取り出し、その中を覗き込む。
一駅すぎてしばらくした後、何故だか視線を向けられている気がした。顔を上げると、向かいの席に座っている人がこちらをみつめている。
──いや、僕の後にある窓の外を眺めているようだ。
その男はスーツを着ており、サラリーマンのようだが、何も考えていないような顔または、この先の未来が暗いような顔にも見える。
その顔のまま、暫く先の駅で彼は降りていった。
翌日、その日も早い時間に家を出た。
電車の中にはあの男が同じ場所で座っていた。
なぜか気になったが、あまり気にも止めず席についた。
男は昨日と同じ駅で降りた。
明くる日も車内で男を見かけたが、同じ時間に同じ席に座り、同じ駅で降りていった。
僕はその男に親近感を覚えた。
その男はプログラムされた行動だけをするロボットのように毎日同じことを繰り返している。
自分の意志に反して機械的に学校に行く自分と被さる部分があったのだ。
この日は男はいつも降りている駅に降りようとはしなかった。
「あのー…駅、着きましたよ。」
と言ってみたが、
「あぁ、これでいいんだ。」
と心もとない声量で返ってきた。
僕が降りる駅についたとき、男は未だ降りようとはせず、そのまま乗って行ってしまった。
彼は扉が開けられた鳥籠の中で飛んでいこうか──、飛んでいくまいか──、悩んでいる鳥のように、
窓の外ではなく床を見ながら背を丸めている姿は妙に記憶に残った。