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お父さん、魔法少女になる  作者: 春風ヒロ
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第13話「最終決戦」2

第13話「最終決戦」2


 ラディシティアは無力感にさいなまれていた。

 ヘドローンの攻撃に、逃げ回ることしかできない。

 強くなったと思っていても、コレスの技にも、トランスのパワーにも、まったく届いていない。

(ボクは結局、キャロティアがいないと何にもできないんじゃないか……)

 反撃の糸口をつかむのも、トランスとコレス、プリンに任せきりなのだ。

 何のために、これまで戦ってきたのか。

 何のために、体を鍛え、技を磨いてきたのか。

 逃げ回るためではないはずだった。

 しかし、反撃したくても、なすすべがない。

 それがもどかしくて、悔しくて、切ない。

 死んでしまったのどかが、いまの自分の姿を見たら、何と思うだろう。

 そんなことを考えていたとき、視界の隅に、ポンニュの姿が映った。

 ポンニュも、先ほどまでハエの大群から必死で逃げ回っていたはずだった。しかし、いま、ポンニュはじっと佇み、空中を見上げている。誰かと話しているようだ。その体は不思議な燐光に包まれ、襲い掛かるハエの大群から守られていた。

「ニュ!」

 ポンニュは力強くうなずく。どうやら、話がまとまったようだ。そして、燐光をなびかせながらラディシティアの元へやってきた。戦闘の真っただ中だというのに、その表情には欠片ほどの緊張感もなく、フワフワと飛ぶ様子は呑気そのものだった。

 ポンニュを取り巻く燐光が、ラディシティアの体も包み込んだ。温かい安らぎに身も心も満たされていく。それは、以前にも味わったことのある、不思議な感覚だった。

「ラディシティア。『始源はじまりの魔法少女』から、キミにプレゼントだニュ」

 ポンニュは静かにそう言うと、きらめく花束を模したブローチを取り出した。

(いったい、どこから出したんだろう?)

 そんな疑問が、ふとラディシティアの胸をよぎる。

「……これは、何?」

「『シャイニーブーケ』。始源の魔法少女の変身バトンが、形を変えたものニュ。始源の魔法少女以来ずっと受け継がれてきて、ベジーティアの変身アクセサリーの元になったものニュ」

「これを、どうすればいいの?」

「ベジージェムの隣に近づければ、魔法でくっつくはずニュ」

「こう……かな?」

 ラディシティアはハンマーのベジージェムに、おずおずとシャイニーブーケを近づける。引きつけ合う磁石のように、カチンと音を立ててシャイニーブーケがハンマーに吸いついた。元からそこに埋め込まれていたかのようにピッタリと吸着し、指で押してみても、びくともしない。

 シャイニーブーケがまばゆい光を放った。

「うわっ!」

 びっくりして、片手で目を覆う。その光の中で、ラディシティアは不思議な光景を見た。

 バトンを振りかざし、変身する魔女っ子モモ。

 モモだけではない。

 魔法使いラブリーメグ。

 魔法少女サクラ。

 魔法使いピンクキャット。

 魔法マジカルプリンセス・リップル。

 そして、ハートの守護天使・聖ココア――。

 ラディシティアが知っているアニメの主人公もいれば、彼女が生まれるよりもはるか昔に放映されていたアニメの主人公もいた。

 何十人という魔法少女たちが、バトンやコンパクト、ペンダント、ブローチといったアイテムを使って変身し、戦い、困難を乗り越えていく。

 時代を超えて、次元を超えて、歴代の魔法少女たちに受け継がれてきたのが、このシャイニーブーケなのだ。あふれる光の中で、ラディシティアはそれを感じ取っていた。

「ベジーティア、負けないで。あなたたちは、一人で戦っているのではありません。この世界、この宇宙全ての魔法少女たちが、あなたと共にいるのです」

 そうメッセージを送ってきたのは、魔女っ子モモだった。

「そして、私たちもまた、孤独ではないのです。ほら――」

 魔女っ子モモが周囲を指し示す。そこには、テレビの向こうでベジーティアの活躍を応援する何百人、何千人という子供たちの姿があった。

「負けないで」

「頑張って」

「ヘドローンをやっつけて」

「頑張れベジーティア!」

 ベジーティアを応援する、純粋な子供たちの祈りが伝わってくる。それは、シャイニーブーケによって力に変換され、ラディシティアのもとへ送られた。

(世界を、この子たちの未来を守るために、ボクたちは負けるわけにいかない――!)

 ギリ、とラディッシュハンマーを握りしめる。

 もう迷いはなかった。

「ありがとう、ポンニュ。そして、先輩たち。みんなの思い、受け取ったよ。ボクたちは、最後まであきらめない」

 光が薄れていく。ラディシティアはハンマーを両手で構え、大地を蹴った。

 純白のオーラをなびかせ、風を切って飛ぶ。

 ヘドローンの体内へ、トランスを追って飛び込んだ。

 目指すのは、ヘドローンの核。

「ベジーティア・ビタミンストライク!!!」

 歴代魔法少女たちの、テレビの前で自分たちを応援する子供たちの祈りのこもった一撃が炸裂した。


 トランスは死に直面していた。

 ヘドローンの核を見つけ、そこに最大級の攻撃を打ち込む。

 それで、決着がつくはずだった。

 たとえヘドローンであっても、核を砕かれてしまえば、存在を維持することはできないのだ。

 しかし、トランスにとって最大の誤算は、ヘドローンの体内にあるヘドロの深さと、核そのものの耐久性だった。

 極大爆裂拳の一撃に全魔力をつぎ込んだため、ヘドロから身を守るための防御障壁は最低限のものでしかない。それでも、一瞬で核を破壊すれば、何も問題はないはずだった。

 しかし、最大出力の攻撃を撃ち込んでも、ヘドローンの核は砕けなかった。

 それはある程度、想定されていたことだった。

 一撃でダメなら、二度、三度、追撃すればいい。

 全力に次ぐ全力で、核が砕けるまで攻撃を続けるのみ。

 トランスはそう考え、実際に全力攻撃を繰り返し撃ち込んでいた。

 間違いなく、ヘドローンにダメージは与えている。

 ヘドローンが苦痛の絶叫を上げながら反撃してくるのは、自分の攻撃が効果を上げているからだ。

 しかし、トランスの攻撃が核を砕くよりも、ヘドローンがトランスの体を侵蝕するほうが早かった。

 全身がヘドロに侵され生命が蝕まれる感触。それは純然たる恐怖をもたらす。

 銃弾などで一瞬のうちに命を奪われれば、恐怖を感じる暇もない。しかし、じわじわと自分の体がヘドロに変えられ、死に近づいていくのは、筆舌に尽くしがたい恐怖を伴うのだ。

(オレの体がヘドロになるのが先か! 貴様の核を砕くのが先か! 命がけの殴り合いだ!)

 頭でそう思っていても、末端の筋線維がヘドロに侵蝕され、動きが鈍り始めると、心に焦りが生まれる。全力を出しているはずの自分の攻撃が、徐々にパワーダウンしていくのが分かるからだ。

 時間を掛ければ掛けるほど、力が奪われていく。それでも、核を砕くことができない。

(くそぉっ!)

 焦る。しかし、どうすることもできない。ヘドロの深淵の中で、捨て身の攻撃をひたすら続けるしかなかった。


 このままでは――

 死ぬ。


 絶望が込み上げそうになるのを必死で押しとどめ、殴り続ける。

(ダメか……)

(ダメじゃない! オレはこんなところで終わらない!)

(無理なものは無理だ……)

(無理でもなんでも、オレはオレの意地を貫く!)

(それでも、もう限界だ……)

(限界なんてものは、弱虫が逃げ出す理由に作ったものだ!)

 トランスの中で、弱気と強気がせめぎ合う。

 しかし、どれだけ意志の力で恐怖をねじ伏せたとしても、ヘドロが肉体を侵蝕するのを防ぐことはできなかった。

(ダメ、なのか……。オレのパワーをもってしても、コイツを倒せないのか……)

 トランスがそう思った時だった。

 どす黒く濁った視界の隅を、純白のオーラが切り裂いた。

「ベジーティア・ビタミンストライク!!!」

 ラディシティアがまばゆい光を放つハンマーを振り下ろす。

 その一撃がヘドローンの核を捉えた。光が炸裂し、二人を取り巻いていたヘドロを一瞬で吹き飛ばした。

「うおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 ヘドローンが断末魔の叫びを上げた。

 純白の光の中でヘドローンの体が消えていく。

 核が砕かれ、ヘドローンの肉体を構成していたヘドロがただの汚泥に戻り、浄化されていった。

「ま……マジか……」

 トランスはあっけにとられてつぶやいた。

 さっきまで、あれほど執拗に自分の体を蝕んでいたヘドロが、一瞬で消え去ったのだ。

 何度も何度も、繰り返し全力で攻撃しても砕けなかった核が、一撃で消滅したのだ。

 自分の目の前で繰り広げられたことであっても、にわかには信じがたかった。

 それでも、ヘドローンを倒したことは紛れもない事実だった。

「や……やったですぅ……。やったですよ、プリン!」

「う、うん! やった、やったよ!」

 スピナティアがプリンの手を握り、ブンブンと振り回して喜ぶ。

「佳奈……。最後に、おいしいとこ持っていきやがって……」

 コレスが苦笑する。

「ははっ……。やるじゃねぇか……」

 力を使い果たしたトランスは疲れ切った顔に笑みを浮かべ、親指を立てた右拳を突き出した。

「やったんだ……。ボクが、やったんだ……。いや、みんなの力のおかげで、ヘドローンを倒せたんだ……」

 ラディシティアは握りしめたハンマーを見つめた。そこにはシャイニーブーケが燦然と輝いている。

 どれだけ邪悪なものが蔓延しても、この世界から希望が失われることはない。

 思いはつながり、受け継がれてきた。

 そして、これからも受け継がれていく。

 シャイニーブーケは、連綿とつながれていく希望の象徴なのだ。

 だからこそ、ヘドローンの核を砕くことができた。

 ラディシティアはそのことを確信していた。


 ヘドローンを倒したことに安堵し、一同が喜び合っていた矢先のことだった。

「よくも……よくも、やってくれたな……」

 どこからともなく、禍々しい声が響いた。

 それは紛れもなく、たったいま倒したはずのヘドローンの声だった。

「そ、そんな、まさか!」

「ど、どこにいるです!?」

 プリンとスピナティアが周囲を見回す。虚空から瘴気が湧き出し、五人を、魔法城を、そして兜山を飲み込んでいく。

 世界がどす黒く濁っていく。その混沌の中心に、ドロドロと、グジュグジュと、巨大な粘稠質の生命体が姿を現した。

「ヘドローン!!!」

「貴様らも……この世界も……全てを飲み尽くしてやる……」

「う……嘘、だろ……?」

 コレスが蒼白な顔でつぶやいた。

 現れたヘドローンは、一体だけではなかったのだ。

 何百、何千というヘドローンが、虚空から姿を現したのだ。

「たったいま、あんなに苦労して倒したヘドローンが……こんなに大量に……」

 ラディシティアの手から力が抜け、ハンマーが滑り落ちた。地面に落ちたラディッシュハンマーは、ガラガラと大きな音を立てる。

「命乞いしたとて、もはや許さぬ……。この世界だけではない。この宇宙も、多元世界の全ても、飲み尽くし、蝕んでやろう……」

 ヘドローンの声が無情に響いた。

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