第12話「つながり合う思い」3
第12話「つながり合う思い」3
「来るよ! 油断しないで!」
「任せなさい!」
「おうっ!」
ラディシティアの声に、コレスとトランスの返事が重なる。
巨大なメタミートたちばかりが目立っていたが、近づいてみると、メタミートの間には何十人という戦闘員の姿もあった。
「アイツらはボクがメタミートの耐久試験のために作った戦闘員です! 一人ひとりがプロレスラー二、三人をまとめて相手にできるぐらいの強さと耐久力を持ってます! みんなのパワーで押し負けることはないと思いますが、不意打ちには十分注意してください!」
プリンが警告する。
「時間稼ぎのためなら、雑魚でも何でも総動員ですか!」
スピナティアが叫ぶ。
ラディシティア、コレス、トランスの三人が前衛としてメタミートの大群と直接戦い、スピナティアとプリンがそれを援護する。
誰かが指示したわけでもないのに、自然とお互いが役割を分担し、敵に相対する動きを取っていた。
「フンッッ!!!」
最初にメタミートと接触したのは、スピードに長じたコレスだった。正拳突きの一撃で二、三人の戦闘員を吹き飛ばす。さらに左下段蹴りから右上段蹴りの連携攻撃で数人の戦闘員が宙を舞った。衝撃で吹き飛ばされた戦闘員たちは、地面に叩きつけられてもしばらくすると起き上がり、再び戦列に戻ってくる。
「……なるほど、大した耐久力だわ」
コレスはあきれたようにつぶやき、
「じゃあ、こっちも全力で行くわよ」
不動立ちの構えを取った。両腕を十字の形に上げると同時に大きく息を吸い込み、十字を切りながら丹田で圧縮した空気を吐き、最後に「コッ!」と残った空気の塊を吐き出す。空手の「息吹」である。さらに、鷺足立ちへと姿勢を移し、半眼の相を取った。
十人ほどの戦闘員が一斉に襲い掛かる。
「フッ!」
右中段蹴りから左の後ろ回し蹴り。流れるような連続蹴りで戦闘員をまとめて吹き飛ばし、先頭にいたラーメン型のメタミートに肉薄する。ムチのようにしなりながら繰り出される無数の麺を紙一重でかわし、密着しそうなほどの距離から、
「破ッッ!」
強烈な右正拳突き。ラーメン型メタミートは複数の戦闘員を巻き込みながら数十メートル後ろまで吹き飛ばされる。
「――隠神流奥義『止水』」
コレスからわずかに遅れて、ラディシティアが流水のように滑らかな動きで周囲から伸びてくる戦闘員の腕をかわしながら、群れの中に飛び込む。
「草薙舞」
ハンマー一閃。攻撃と同時に発動する突風が、ラディシティアを取り囲んだ無数の戦闘員とブタ型メタミートを、まとめて吹き飛ばした。
「優しき導きの光よ、この地の敵を討ち果たせ! ベジタブルシューティングスター!」
スピナティアが呪文と同時に上空へ向けて矢を放つ。青空に吸い込まれた矢はきらめく無数の流れ星となってメタミートたちの上に降り注いだ。光に包まれたメタミートは、「ベジタブルぅ~……」と気の抜けたような声を上げながらそのまま消えていった。
「……コレスとラディシティアが戦闘員二十人、メタミート五体と戦闘中、スピナティアの攻撃で戦闘員十三人、メタミート三体が殲滅、トランスが間もなく接敵――。このエリアのデータ分析完了! 最適化射撃発動!」
スピナティアの隣でブツブツとつぶやきながら戦況を分析していたプリンが、おもむろに上空へ向けて巨大な火球を放つ。
同じころ、トランスが両腕を広げ、群がってきた二十人ほどの戦闘員を、文字通り押し返していた。
「ふんぬぅっ!」
気合いを振り絞り、戦闘員たちをまとめて投げ飛ばす。戦闘員たちが吹き飛ばされた地点に、先ほどプリンが上空へ向けて放った火球が絶好のタイミングで落ち、炸裂した。
「……計算通り。っと、さな、危ない!」
火球が炸裂するのを見届けていたプリンが、不意に隣のスピナティアの肩を押した。メタミートの放った光線がその腕をかすめて飛ぶ。一瞬でも遅れていたら、スピナティアの体は光線に貫かれていただろう。
「あ、ありがとですぅ。ってか、こっちではさなって呼ぶなです!」
「ご、ごめん、つい……」
「コラそこー! スキあらばイチャつこうとするんじゃないっ!」
「い、イチャついてなんかないですぅ!」
コレスのツッコミに、スピナティアが真っ赤な顔で言い返す。
「お前ら無駄口叩いてるんじゃねぇ!」
たこ焼き型メタミートの超高熱たこ焼き弾を素手で叩き落としながらトランスが叫ぶ。
「大丈夫よ、手は動かしてるから!」
コレスが言い返し、左ローキックの一撃で戦闘員を、返す右ハイキックの一撃で焼き鳥型メタミートを吹き飛ばす。
「いや、どう見ても使ってるの足ばっかりですぅ!」
スピナティアがツッコむ。メタミートの放つ弾丸や光線を踊るようなステップでかわしながら、矢継ぎ早にスピナボウを放つ。そんなスピナティアの傍らでプリンも相次いで火球を放ち、戦闘員の接近を許さない。
「……まったく、キリがないね!」
ラディシティアが七、八人の戦闘員を叩き伏せ、返す一撃で上空から直滑降攻撃を仕掛けたトリ型メタミートを撃墜した。
「だが、戦闘員はずいぶん減らした! 後は大型のメタミートだ!」
トランスが言う。彼の前方には、森の木々を容赦なくなぎ倒しながら、ノロノロと迫り来る超大型のブタ型メタミートの姿があった。プリンが召喚し、倒した後も体から出た油脂で街を火の海にした、タチの悪いメタミートである。
「ぬぅん!」
トランスがフルパワーの右拳を撃ち込む。右腕が肩の近くまで肉の中に埋まった。分厚い脂肪の層はブルブルと震えながら衝撃を吸収し、ダメージを受けた様子はない。ブタ型メタミートが前足でトランスを払いのけた。超重量級の一撃に、さしものトランスも踏みとどまることができず跳ね飛ばされる。
「トランス! コイツに打撃はほとんど効かない! 凍らせて、固まったところを少しずつ砕いていくんだ!」
ラディシティアがアドバイスを送る。彼女の後ろから、スピナティアが立て続けに冷気属性をまとった射撃を放ち、少しずつ、しかし着実にブタ型メタミートの急所を凍らせていた。
「……そんなかったるいマネ、やってられるか! オレこそがパワー、パワーこそが正義。つまり、オレは絶対正義ッッ! オラァッ!」
トランスはおもむろにブタ型メタミートの片方の前足を両腕で抱えた。前足だけでも直径数メートルはある。トランスがどれだけ腕を広げても、抱え込める大きさではない。しかし、トランスはそんなことを一向に意に介さず、万力のように両腕を締めつけた。腕が脂肪の層にズブズブと沈み込んでいく。
「ブギイイイイーッ!!!」
ブタ型メタミートが前足を振り回して振りほどこうとするが、ガッチリと踏ん張ったトランスの両脚は、地面に溶接されているかのように動かない。既に脂肪の中に埋まってしまった両腕は、一秒ごとになおも締めつけを増した。そして――
「オラァッ!!!」
「ブギイイイイーッ!!!!」
トランスが全身を反り返らせると、ブチブチと音を立ててブタ型メタミートの前足が千切れた。切断部からは、鮮血の代わりに真っ白な光が噴き出している。
「うわっ、グロいですぅ……」
「ボクたちがやってることだって、かなり残酷なんだけどね……」
前に戦った時と同様、スピナティアが氷雪系攻撃でブタの巨体を少しずつ凍らせ、ラディシティアがその場所を破壊する。コレスとプリンもペアを組み、凍結と破壊を繰り返していた。
「爆裂放射!」
トランスがブタに向かってエネルギー波を放つ。爆風がメタミートと、その周辺にわずかに残っていた戦闘員たちを飲み込み、まとめて消滅させた。
「オラァッ、いっちょ上がりだッッ!」
トランスは天に向かって咆哮した。
「あらぁ……。トランス君はやっぱり強いわねぇ……」
感心したように魔女っ子モモがつぶやいた。
私たちは「導きの世界」と聖ココアが呼んだ空間で、ラディシティアとスピナティア、そしてトランス、コレス、プリンが共闘する様子を見守っていた。
その姿は、茶の間でテレビを囲んで団欒をする家族に似ていた。
画面の中で、息をつく間もなく繰り広げられる激闘に次ぐ激闘。それはまさに、一年近く続いてきたアニメ「魔法少女ベジーティア」の最終戦を飾るにふさわしい、ド派手なアクションの連続だった。
光線や光弾が交錯するなか、五人が目まぐるしく飛び回り、文字通り、バッタバッタと敵をなぎ倒していく。
「ラディシティア……。『止水』、使えるようになったんだ……」
画面の中で、ラディシティアが隠神流奥義「止水」を発動させ、無我の境地で敵を倒していく姿が見えた。一緒に修行したことを思い出し、私は少し胸が熱くなった。
「佳奈おねーちゃんの力と、若菜おねーちゃんの力、それに魔法城の力が合わさって、ベジージェムがパワーアップしてるんだよ」
聖ココアの言葉に、私はなるほどとうなずく。言われてみれば、ラディシティアだけでなく、スピナティアの攻撃も、いつもより威力がずっと高まっているように思えた。
そして、残る敵はわずかな戦闘員と、三体の巨大なブタ型メタミートだけになった。
それらの敵も、ベジーティアと元敵幹部の三人が鮮やかな連携を見せ、危なげなく倒していく。
「これで、終わりだぁーっ!」
ラディシティアのハンマーが一閃し、最後のブタ型メタミートの頭が叩き潰される。地響きを立てながら巨体が倒れ、動いている敵の姿は見えなくなった。
「やった! おねーちゃんたち、おめでとー!」
その様子を見守っていた聖ココアが、パチパチと手を叩いて祝福した。
画面の向こうでは、五人が疲れ切った様子で勝利の喜びを分かち合っている。全員、満身創痍とまではいかなくても、まったくの無傷ではなかった。体のあちこちに傷を作り、全身は砂や土、メタミートの体液らしきものにまみれている。
じっとその様子を見つめていた私は、不意に形容しがたい気持ちの悪さを感じた。
背中に冷たい氷の塊を無理やり押し込まれたような、不愉快な感触。
私にそんな予感を覚えさせるものは、一つしかない。
「ダメだ……」
知らず知らずのうちに、私はつぶやいていた。
「えっ?」
聖ココアと魔女っ子モモが、不思議そうな顔で私のほうを見る。
「ダメだ、まだ終わってない! 気を抜くんじゃない!」
聞こえるはずがないと分かっていても、私は画面に向かって叫ばずにいられなかった。
「ヤツが来る! ヘドローンが!!!」




