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お父さん、魔法少女になる  作者: 春風ヒロ
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第11話「最終決戦を前に」2

第11話「最終決戦を前に」2



 翌日から、私はデスクワークの合間を縫って外回りを始めた。

 外回りといっても、特別なことをするわけではない。過去に自分が取材した店や会社を訪ねてあいさつをしたり、近況を尋ねて雑談を交わす程度のことだ。しかし、そうした雑談の中から新しい情報が手に入る場合もある。最近はデスクとしての仕事が主になっていたため外回りから遠のいていたが、出稿原稿や取材先に関する相談などが立て込まない空き時間を活用して、あちこちへ出歩くようにした。

 日刊の新聞や週刊誌であれば、何時間ものんびりと中抜けして出歩くわけにはいかないが、幸い、『兜山TOWN』は月刊誌である。一カ月単位で仕事を進めるため、特に校了後の数日は急がねばならない仕事が少なく、デスクの私が不在でも大きな問題はなかった。

 もちろん、目的は魔力反応スポットの探索である。兜山市内の中心部の探索はほかの三人に任せ、私は主に、車でないと行くことができないような場所を巡ることにした。

 特に私が重点的に訪れたのは、江藤が送ってくれた、妖怪退治や鬼退治伝説の伝わるスポットだった。それらは市内だけでなく、隣町や郊外の住宅地など、かなり広範囲にわたって点在していた。

 最初に訪れたのは、かつて「鬼のうろ」があったという、郊外の住宅地だった。

 江藤は鬼が住んでいた洞窟のあった場所を正確に突き止めており、ファイルにはその場所に残る小さな石碑の写真が添えられていた。

 石碑の前に立った私は、早速、ニンジンアクセサリーを取り出してベジージェムを確認する。

「これは……いきなりビンゴ、だな」

 ベジージェムは普段のオレンジ色ではなく、赤から黄色、緑、青と、目まぐるしく色彩を変えている。明らかに、尋常の反応ではなかった。

 その後もビンゴは続いた。

 室町時代、武士が切り落としたという鬼の腕を供養しているお寺。

 妖怪に襲われた村人が逃げ込んだところ、炎をまとった毘沙門天が現れて怪物を追い払ったというお寺。

 甲冑武者が火の玉になって現れたという交差点。すぐ近くには、その火の玉を斬ろうとした侍が、間違って斬ったと伝えられる「首切り地蔵」もある。

 人通りが少なく、昼でも薄暗いことから「薄闇峠」と呼ばれていた峠道。現在は自動車道が整備され、その面影は失われているが、かつては旅人を襲う妖怪が住み着いていると言われていた。

 戦国時代、攻め滅ぼされた豪族の妻女たちが斬首された場所に建つ神社。現代もすすり泣く女の姿や怨霊の噂が絶えず、鎮魂の儀式が続けられているという。

 あらためて調べてみると、この町はやたらと心霊スポットが多いと思わずにいられない。

 やはり、だからこそ「魔法少女遺伝子」保持者が多数存在するのだろうか。

 ともあれ、魔力反応スポットを探すうえで、江藤の作成した資料が大いに役立ったのは事実だった。

 佳奈、明日菜、さなたちも、それぞれ調査を進めていた。

 特に、まとまった時間を取ることができる週末には、三人からそれぞれ複数の魔力反応スポットの報告があった。日を重ねるうちに、私の手元の地図は何十というピンで埋まっていった。

 集まるデータが増えると、今度は新たな悩みが生まれた。

 スポットが多すぎて、マジックキャッスルがどこにあるのか、特定できないのだ。

 ごく限られた場所だけに魔力反応が集中していれば、その付近に魔力の根源があると考えることができただろう。しかし、スポットは兜山市のほぼ全域どころか、市外にも点在しており、そこからなんらかの規則性を見出すのは至難の技だった。

 それでも、現実の兜山市と、ベジーティアの世界を比較していて、気づいたことがあった。

 魔力反応スポットと、私たちがベジーティアとしてメタミートと戦った場所が、重なり合っているのだ。

 初期のころ、メタミートが単体で登場してきた場所の多くは市の中心部にあり、佳奈たちが見つけた場所のほとんどが、それらのスポットと合致していた。ショッピングモールや体育館、隣町の公園などは、現実の兜山市でも同じ場所にあったし、コレスと戦ったときの荒野は、郊外の住宅地がその場所にあった。

 もちろん、兜山で見つかった魔力反応スポットのすべてが、メタミートと戦った場所にリンクしているわけではない。また、小学校や高速道路のように、食をテーマとする作品の「ベジーティア」とは、一見なんの関係もなさそうな場所でも反応が見つかっていた。

「あーもう、一体なんだってんだ……」

 謎は深まるばかりだった。


 外回り中、一度だけポンニュの呼び出しがあった。

 ゲートを抜けると、巨大なカツ丼型メタミートが暴れている。しかし、周囲に仲間の姿はない。

「あ、あれ? ラディシティアたちは?」

「みんな、別々の場所で戦ってるニュ!」

「ってことは、今回はソロバトル?」

「そういうことニュ!」

 一瞬、不安が胸をよぎる。

 この期に及んで、メタミート単体で襲ってくるというのは、どういうわけだろう。敵幹部はすでに全員撃破している。つまり、このメタミートはヘドローンが直接送り込んできたもののはずだ。だとすれば、トランスやコレスのような幹部よりも強い可能性がある。

「一人で……大丈夫なのか?」

 自分のこと以上に、仲間たちのことが心配だった。しかし、ノンビリと他人の心配をしている暇はなかった。

「カツドーンッッ!」

 巨大なトンカツが、ご飯粒をまき散らしながら飛んでくる。

「チェンジ! 戦闘特化形態エクストラバトルフォーム!!」

 バチンと音を立てて火花が散る。一瞬でトンカツとご飯粒が焼き尽くされ、目の前から消失した。

(おおっ、すごい! あの程度の攻撃なら、完全に迎撃できるんだ……)

 感心すると同時に、それだけの威力の自動反撃オートカウンター機能を「イテッ」のひと言で片付けてしまったトランスの強靭さに、あらためて感心する。

(っていうか、こっちの戦闘を先にやって戦闘特化形態の強さを印象付けてから、トランス戦にしたほうが、あいつの強さが一層引き立っただろうに……。視聴者から『脚本やシナリオ構成が雑』ってツッコまれるぞ)

 記者・編集者の目線で、つい余計なことを考えてしまう。

 メタミートが機関銃のようにご飯粒を連射し、目の前で火花がバチバチと炸裂する。このまま自動反撃に任せてもいいが、足止めを食らい続けるのも面倒くさい。私はタン!と地面を蹴り、射線をかいくぐってメタミートに肉薄した。

「ええいっ!」

 丼のど真ん中に飛び蹴りを食らわせる。

「カツドーン!」

 悲鳴らしき声を上げてメタミートが吹き飛んだ。

 一気に距離を詰め、追撃のパンチを打ち込む。再び吹き飛んだメタミートを追いかけようとした瞬間、背筋にビリッと電撃が走るような感覚があった。

「!?」

 悪寒にも似た強烈な不快感。直感を信じ、防御障壁を張り巡らせる。

 一瞬遅れてメタミートが光線を放った。光線は自動反撃の火花と防御障壁を貫通し、私の腕をかすめる。焼けた鉄の棒を押し付けられたような痛みが走った。

 何も考えず突っ込んでいたら、直撃だっただろう。第一話でキャロティアの命を奪ったのも、これと同じような光線技だったのではないか。

「あっぶなあ……」

 戦いの経験を積み、自分が強くなった実感を得ていただけに、少し油断があったようだ。

 冷や汗を拭い、メタミートに向き直る。

「カツドーン!」

 私の視界いっぱいに、巨大な丼の底が迫っていた。メタミートが、その巨体を生かしたボディプレスを仕掛けてきたのだ。

「押し潰される!?」

 反射的に両手を掲げ、バレーボールのトスの要領でメタミートを跳ね飛ばす。ずっしりと両腕に重量がかかるが、先日のトランスの攻撃に比べれば、まだまだ我慢することができた。勢いをつけて跳ね飛ばした丼に向かってジャンプし、さらに、下から蹴り上げる。運動エネルギーを追加されたメタミートは、サッカーボールのように飛んでいった。

(これでキラッと光って青空の彼方へ消えてしまえば、いかにもアニメ的な展開なんだが……)

 もちろん、そんな甘い目論見が許されるはずもなく、

「カツドーン!」

 たっぷりと加速をつけて、上空からメタミートが降ってきた。しかも、私の立っている位置を狙って、さっきと同じ光線を連射してくる。直撃を受ければ、ただでは済まないだろう。

「チェンジ・ベジーティア、飛翔形態フライトモード! 反射盾リフレクトシールド展開!」

 キャロットソードを掲げて反射障壁を展開。そのまま上空へ向かって飛び上がる。メタミートの光線が立て続けに炸裂し、四方八方へ乱反射する。そのたびに衝撃が腕を震わせるが、トランスの「極大爆裂放射ギガ・エクスプロージョン」に比べれば、恐れるほどの威力ではない。一気に肉薄し、キャロットソードを突き出す。その一撃で、メタミートを真っ二つに叩き切った。

分子崩壊ディスインテグレート!」

 メタミートの体が分解され、光の粒子となって空気中に溶けていく。

「お野菜の力は、甘くないんだからねっ!」

 ポーズと共に決め台詞。ものすごく久しぶりに口にしたため、言った後で、猛烈に恥ずかしさが込み上げてきた。


 戦いを終えて、ふと思いついたことがあった。

「これって……もしかして、シナリオの都合で挿入されたバトルシーンだったのか?」

 ひたすらマジックキャッスルを探索するだけでは、物語として盛り上がりに欠ける。絵柄も単調で、退屈な話にしかならない。しかし、メタミートとの戦いが入れば、前半のドラマパートと合わせ、一話分のストーリーにすることができる。

 もしそうだとしたら、ヘドローンとの最終決戦までに四話、すなわち四週間の時間があることになる。

 この時間を長いと見るか、短いと見るかは人それぞれだろう。それでも私にとって、この一カ月弱という期間を確保できたことは、非常にありがたかった。


 十数日を経て、私は江藤に呼び出された。

「ずいぶん、苦戦してるみたいだな」

 勤務時間中も、暇さえあれば地図を睨みつけて眉間にしわを寄せている様子を、さすがに見かねたようだった。

「いやあ……手がかりが多すぎて、収拾がつかなくなっちゃってるんです」

 私は最近ずっと持ち歩いている地図を、小会議室のテーブルに広げる。無作為に点在する数十カ所の印に、江藤は軽く目を見張った。

「これ、全部調べて回ったのか」

「ええ。四人で手分けして、ですけどね」

「道理で最近、ずいぶん外回りに出ているわけだな」

「一応、業務に支障をきたさない範囲でやってるつもりですが」

「当たり前だ、バカ。しかし……ふむ……」

 江藤は地図を手に取り、しばらく考え込んだ。

「……龍脈って、知ってるか?」

「単語ぐらいは。たしか、風水で気の流れる道筋を表す言葉ですね?」

「そうだ。もしかしたら、このスポットが、龍脈に沿って現れてるのかもしれんと思ってな」

「しかし……、気の流れなんて、どうやって調べれば……」

「それは、オレにも分からん。しかし、何かしらの手がかりにはなるだろ」

「んな、無責任な……」

「とりあえず、本業に支障をきたすんじゃないぞ。上層部の間でも、お前が最近、ちょいちょい中抜けしてるのが話題になってるんだ。今のところは外回りで今後の特集のネタ探しをやってるんだろう、ぐらいに思われてるみたいだが、あまりにも頻度が高いと問題になるぞ」

「……分かりました」

「話はそれだけだ。まあ、頑張れよ」

 江藤からすれば、龍脈の話はついでのようなもので、本題は私の中抜けに対する注意だったのだろう。

「やれやれ……」

 私は自分の席に戻ると、パソコンで「龍脈」を検索した。

「龍脈……。『地中を流れる気のルートのこと。 大地の気は山の尾根伝いに流れると考えられており、その流れが龍のように見えることから「龍脈」と呼ばれる』か……」

 私は検索結果に表示されているサイトを次々と読み進めていった。

 山の稜線だけでなく、断層も龍脈の一つと考えられる。そのため、検索結果の画面には九州から関東まで伸びる大断層、中央構造線の画像が表示されていた。確かに、兜山市もこの中央構造線の真上に位置している。

 また、龍脈と竜神信仰の関連について記しているページもあった。竜神といえば、水を司る神であり、湧水で有名なスポットも全国に存在する。

 私はふと思いついて、国土地理院のホームページを開いた。リンクをたどり、兜山市の標高地形図をダウンロードする。また、国土交通省が作成した地下水マップや、産業技術総合研究所地質調査総合センターの水文環境データベースなど、地下水脈について関連するデータを片っ端からダウンロードした。

 これまで魔力反応が見つかった場所を、一つひとつ、標高地形図や地下水マップと重ね合わせていく。

 その結果に、私は目を見張る思いだった。

「つながって……いく……」

 これまで無作為に点在していると思われていたスポットが、等高線や地下水脈によって結びつき、線になっていく。

 それらの線が集約される場所。マジックキャッスルは、そこにあるに違いない。

 地図をたどり、私は一つの場所を指さした。

「ここ、だな」

 それは市のシンボルであり、市名の由来ともなっている。

 兜山だ。


 兜山。こんもりと盛り上がった形状が兜の鉢に似ているところから命名されたこの山は、標高五百メートル。室町時代、この地に住んでいた鬼が、近隣の武士たちから討伐軍を差し向けられ、そのことごとくを返り討ちにし、積み上げた首が兜山になったという、途方もない伝説が伝わっている。その伝説を裏付けるように、山腹には「首塚」があり、過去には実際に大量の人骨がその近くから発掘されたことがあるという、いわくつきの山である。

 なお、調査の結果、実際にこの首塚が設置されたのは室町時代ではなく、戦国時代後期と判明している。首塚にまつわる伝説の真偽はさておくとしても、血なまぐさい歴史に関わる場所であることに変わりはない。

 とはいえ現在は、登山道が整備され、山の中腹まではドライブウェイも通っており、兜山市民の憩いの場である。

 さすがに山全体を調査するのは無理がある。しかし、龍脈、もしくは龍の気が表出するスポット「龍穴」を探せば、マジックキャッスルも見つけられるのではないか。

「考えられそうな場所は……、山頂と、この首塚。あとはこの『白龍神社』か……」

 白龍神社は兜山の中腹にある小さな神社だが、豊富な湧水で有名だ。市内の飲食店でも、わざわざこの水を汲んで客に提供したり、調理に使ったりするところがある。

 私はマップアプリ上のその三カ所にマーキングをしておいた。

 今度の週末、全員で確かめに行こう。


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