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お父さん、魔法少女になる  作者: 春風ヒロ
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第8話「希望、願望、そして過ち」2

第8話「希望、願望、そして過ち」2


 光のゲートを抜けた先に広がっていたのは、特撮ヒーロー戦隊のアクションシーンのロケに使われる、採石場のような場所だった。

「……本当にキャロティア、なんだね」

 私のほうを向いて、ラディシティアがポツリとつぶやく。

 城井佳菜と白井若菜は年も背格好も髪型も、ほとんど同じだ。変身してもそんなに違和感がない。

 しかし、私と赤坂ほのかは、性別も体型・体格もまるで違う。ついさっきまで、背の高い大人の男だったのが、ゲートを抜けた瞬間、小柄な女子中学生に変身するのだ。すぐ隣で一緒にゲートを抜けた佳菜からすれば、やはり信じられないという思いがあるのも無理はない。

「あんまり人には言わないでね」

 赤坂ほのかになると、言葉づかいも女性っぽくなる。最初のうちは意識して女性的な言葉づかいを心掛けていたが、最近は自分の中のスイッチが切り替わるのか、あまり意識しなくても、口調が変わるようになってきた。

 苦笑しながら、ニンジンのアクセサリーを取り出す。

「じゃ、始めましょっか」

「そうだね」

 若菜も、大根のアクセサリーを取り出す。

「「チェンジ、ベジーティア!」」


「じゃ、今回の特訓の内容を説明するニュ」

 私たちの変身が終わったところで、ポンニュが言った。

「前回のコレス戦で、ベジージェム解放前にキャロティアの動きが変わった瞬間があったニュ。キャロティアには、あれを、いつでも自由自在に再現できるようになってもらうニュ。そして、ラディシティアには、キャロティアと同じことができるようになってもらうニュ」

 アッサリ言ってのけるポンニュに、思わず素っ頓狂な声が出る。

「はぁ!? ずいぶん簡単に言ってくれるけど、あれ、メチャクチャ難しかったんだぞ!?」

 あの時は必死の集中のおかげで何とか実践できたが、あれをもう一度再現するぐらいなら、四百メートルハードルを全力疾走しながら三十桁の円周率を暗唱するほうがまだ簡単なのではないかとすら思う。

「そのための特訓ニュ。キャロティア、頑張って♪」

 今さらながら、無邪気な笑顔で無理難題を言い放つこの不思議生命体をギリギリと締め上げるか、バレーボールのように思いっきりアタックしてやりたい衝動に駆られるが、「魔法少女にふさわしくない言動」に該当するのだろうと思い、自粛する。

「で、キャロティア、どうするの?」

 ラディシティアに聞かれ、私はあらためてコレス戦のことを思い出した。

「うまく伝わるかどうか分からないけど、私がイメージしたのは、潜水艦のアクティブソナーだったの。自分の周囲に魔力の波を広げて、跳ね返ってきた感覚を読み取る。コレスの攻撃より一瞬早く気配――殺気と言ってもいいかもしれない――が跳ね返って肌に突き刺さってくるのを、必死で避けたって感じかな」

 私の言葉に、ラディシティアは驚いた顔をした。

「キャロティア、それ……。隠神流の『止水しすい』とまったく同じだよ……」

「えぇっ!? 何、それ?」

「隠神流の奥義で、気配の読み取りの究極形らしいんだ。この技に熟達すれば、目隠ししたままでも動作に支障がなくなると言われたよ」

 波一つない水面がある。そこに石を投げると、落下点から同心円状に波紋が広がる。広がった波は水面に浮かぶ木の葉や、波をさえぎる石などにぶつかると、跳ね返って複雑な紋様を書く。すなわち、自分の周囲に気を放ち、周囲の静物、動物から返ってくる波動を読み取ることで空間を認識するのだという。

「この奥義の奥義たる所以は、ただ相手の動作を追尾・認識するのではなく、動作を先読みするところにある。どんな生き物も、体を動かす前に『次はこう動こう』という電気信号が脳から発せられる。それが『気配』の正体でもある。相手が次にどう動くかを感知し、それに対応すれば、相手に先んじて攻撃することも、相手の攻撃をかわしてから反撃することも、思いのままだ――っていうのが、隠神流の草壁師範の説明だった。実際に、目隠しした師範に本気で打ち込んだけど、あっさり避けられてビックリしたよ」

 ラディシティアの説明に、私は驚きで言葉も出ない。

(なんてことだ……。アニメに出てくる古流剣術の奥義を、知らないうちに再現してたとはな……)

 しかし、考えてみれば、類似の逸話は枚挙にいとまがない。漆黒の暗闇で敵と切り合う剣豪や盲目の剣士、複数の敵から同時に切りつけられても、見事な体捌きで斬撃を避け、反撃する達人の話は、古今東西、さまざまな小説や時代劇、アニメで描かれている。詰まるところ達人の境地や奥義というものは、「まろばし」や「夢想剣」など、流派によってさまざまな呼び名がつけられていても、共通するところがあるのだろう。

「じゃあ、あれの再現にチャレンジしてみよっか……。ラディシティア、好きなタイミングで打ち込んできてくれる? ハンマーを使うのは危ないから、寸止めの空手でお願い」

「分かった」

 私は両手を前に突き出し、無手のまま正眼の構えを取った。一度大きく深呼吸し、目を閉じる。

(あの時の感覚を思い出せ……。イメージするんだ。潜水艦のアクティブソナー……水面に広がる波紋……)

 イメージを広げようとしていた矢先、「ブン!」という音と共に、顔に風圧を感じた。目を開けると、顔面の数センチ手前に正拳が突き出されている。実戦であれば、瞬殺されているところだった。

「うわっ!」

 一瞬遅れて悲鳴が出た。とてもじゃないが、気配を読むどころではない。

「だ……大丈夫?」

 拳の向こうに、心配そうなラディシティアの顔が見える。

「……大丈夫。もう一回、お願い」

 冷や汗をぬぐって答えると、私は再び目を閉じ、無刀正眼の構えを取った。

(実戦では、のんびりとイメージしてる時間はない。精神を張り詰め、波紋を広げる――!)

 強く念じた瞬間、再びラディシティアの拳が風を切る音が聞こえた。そして、ゴツンと額に衝撃が走る。

「あっ、ごめんっ!」

「あだっ!」

 体が反応しかけたせいで間合いが狂い、私の額とラディシティアの拳がまともにぶつかってしまった。涙目で額をさすりながら、私は言う。

「大丈夫……。特訓なんだから気にしないでいいよ。続けて!」

 その後も何度か繰り返すが、なかなかうまくいかなかった。ラディシティアは可能な限り、打撃を寸止めにしてくれているが、それでも時折、拳や蹴足が体にめり込み、私は痛みに悶えることになった。

「だーめーだー……」

 十数回目の失敗で軽く心の折れた私は、大の字になって地面に寝そべった。

 体中、あちこちがズキズキと痛い。

 コレスやトランスとの戦いで、もっとひどい打撃を受けたこともあるのだが、やはり、敵と、信頼する仲間を相手にするのでは、緊張感が違うのだろう。

「緊張感が足りない……のか……」

「……ハンマー、使ってみようか?」

「やめて。それは本気で危ないから」

「でも、能力を出すために必死の集中力が必要なんだったら、寸止めじゃダメなんじゃない?」

「それは、そうかもしれないけど……。(……大学卒業以来、二十年近くまともに運動してないデスクワークばかりのサラリーマンに、プロ格闘家みたいなことを求めないでくれよ……)」

 当然ながら、後半部分は口に出さない。

「ベジージェムを解放してみたらどうニュ?」

 割り込んできたポンニュの言葉に、私は思わず叫んでいた。

「それだ!」

 考えてみれば、前回もコレスと戦う前に一つ目のベジージェムを解放していたのだ。ベジージェムを解放すれば、身体能力や感覚が格段に鋭くなる。第六感とも言うべき感覚が鋭くなるのも当然だろう。

 跳ね起きた私は再び正眼の構えを取り、叫んだ。

「ベジージェム、解放!」

 全身を包むオレンジのオーラ。魔力が駆け巡り、さっきまでとは比べ物にならないほど感覚が研ぎ澄まされる。

(これなら……いける!)

 目を閉じたまま、イメージを広げる。

 漆黒の闇の中に広がる水面。中心に立っているのは自分だ。そこに、光の雫が落ちて波紋が広がる。波紋が人の形を取り、跳ね返って――。

(来る!)

 肌に突き刺さる殺気を紙一重で避け、体をひるがえしながら一歩踏み込む。同時に手刀を振り抜き、ここぞという瞬間で静止させた。

 目を開ける。私の手はラディシティアの首筋、数センチ手前で止まっていた。

「……さすがだね、キャロティア。じゃあボクも、本気出していくよ」

「えっ、あ、ちょっと――」

「ベジージェム、解放! 全力でいくから、気をつけてねっ!」

 次の瞬間、有無を言わさずラディシティアが飛び込んできた。肌に殺気のトゲが次々と刺さってくる。

「ちょ、これ、コレスと同じパターン――!」

 感覚が鋭敏になったおかげで分かる、容赦のない連撃。

(本気っていうか、殺しにきてないかコレ!?)

 超スピードで繰り出される左右の連続蹴り。さらに中段、下段と続く正拳突き。それらを必死に避けたところで、体重を乗せていた右足を蹴り払われた。体勢が大きく崩れる。ラディシティアは地面に倒れた私の鳩尾に正拳を落とし、数センチ手前でピタリと止めた。

「……参りました」

 戦闘力はラディシティアのほうがずっと高い。それはおそらく、「中の人」城井佳菜のほうがずっと若くて力があり、普段から体を鍛えているからだろう。地力の差とでも言うべきものを思い知らされた。前回は、そんなラディシティアよりもずっと強いコレスと戦って、よく勝てたものだと、我ながら思う。

「さ、まだまだやるよ! っていうか、ボクも『止水』を習得したいんだから、そろそろ交代してほしいんだけど……」

「分かった。じゃあ一度、交代しよう。コツとしては、糸を張り詰めるように精神を集中させてから、静かな水面に波紋が広がっていくイメージを持つこと、だと思う」

「うん、やってみるよ」

 ラディシティアはス……と右手右足を前に出し、半身の姿勢を取りながら目を閉じる。私は彼女に正対し、自分の呼吸を整えた。タイミングを計り、隙を狙って打ち込もうとした瞬間、

(――っ!?)

 ラディシティアが音もなく踏み込んできた。寸秒遅れて私の打ち込み動作が始まる。私が一歩踏み込み、二人の間合いが詰まったところでラディシティアの拳が風を切って突き出された。

「うそ……、できちゃった……」

 ラディシティアの拳は、私の鳩尾の数センチ手前で止められていた。目を開けたラディシティア自身が、一番驚いている。

「なんていうか……、一瞬だけど、キャロティアの動きが〝視えた〟んだ。それを先取りしたら、あんなふうに……」

「ラディシティア……。アッサリできちゃったら、私の立つ瀬がないよ……」

「ご、ゴメン」

「謝らなくていいよ。とりあえず、いまの感覚をつかんで再現性を高めていこう。私もあの時の動きと感覚を思い出していくから」

「分かった」

 その後、私たちは何度も攻守を交代し、特訓を続けた。

 私はラディシティアから何度も打ち込まれた。そもそも、魔術による能力の底上げがあるからと言っても、数時間の特訓で古流剣術の奥義を習得するということ自体が無茶なのだ。しかし、実戦形式の特訓は、確実に私たちの技術向上につながった。少しずつ感覚が研ぎ澄まされ、動きも滑らかになる。それにつれて、「止水」の精度も上がっていった。


 何時間、特訓を続けただろう。

 私もラディシティアも疲れ果て、地面にへたり込んだ。

 無言のまま、しばらく体を休めていたとき、ふと私は前から気になっていたことを尋ねた。

「若菜……、いや、『城井さん』は、ベジーティアとして戦うことを、怖いと思わないの?」

「ラディシティア・白井若菜」としてではなく、実在の生身の人間、城井佳菜に対して、率直な気持ちを聞いてみたかったのだ。

 ラディシティアはしばらく考えていたが、やがて、

「……怖い、です」

 ポツリと言った。

「空手の世界でも、メチャクチャ強い人がアッサリ負けちゃうことがあるんです。試合だったら負けても次があるし、拳や蹴りが変なところに当たって大けがすることはあるけど、死ぬことは滅多にない。だけど、ベジーティアとして戦って負けたら、本当に死んじゃう。それは……、すごく怖いです」

「じゃあ、どうしてベジーティアを続けてるの? この前のコレスや、トランスとの戦いでは、下手したら本当に死んでたかもしれないのに……」

「……のどかのためなんです」

「どういうこと?」

「ボクにとって、のどかは一番の親友でした。のどかって、いつも笑顔で、優しくて、困ってる人を見たら放っておけなくて……。本当に、アニメの主人公みたいな子だったんです。ポンニュに誘われてベジーティアになったのも、のどかが『この子をたすけてあげたい、困ってる人たちの力になりたい!』って言ったからなんです」

 ラディシティアはそう言って、遠くを見つめた。

「初めてメタミートと戦ったとき、のどかが死んだなんて、思いもしませんでした。キャロティアは倒れたけど、すぐに復活して、それどころかパワーアップして、あっという間にメタミートをやっつけちゃったし。だけど、向こうに戻ったらのどかが殺されてて……。そのとき、ポンニュの説明で『メタミートに負けたら、本当に死ぬこともあるんだ』って分かったんです。

 でも、この世界の人たちが困っているのをたすけたいっていう、のどかの気持ちをつなぎたい。ここに来れば……、ベジーティアを続けていれば、『赤坂ほのか』を通して、のどかに会える気がするんです」

「そっか……。のどかさんは、本当に大切な友達だったんだね」

 私の言葉にラディシティアはうなずくと、はにかんだ笑みを浮かべた。

「なんだか、変な気分です。キャロティアは松嶋さんだって分かってるんだけど、のどかに話を聞いてもらってるみたい……」

「ありがとう。そんなふうに思ってもらえるなんて、光栄だよ。これからも、よ――」

 よろしく、と続けようとしたところで、遠くから爆音が聞こえた。市街地のほうに目をやると、立ち上る黒煙が見える。普通に考えたら、爆弾によるテロ事件のような規模の破壊行為だ。

(こういう世界の警察とか公安、自衛隊って、何をしてるんだろう……? ヘドローンのやってることなんて、どう考えても組織的なテロ行為だろうに……)

 無粋なことと分かっていても、つい、そんなことを考えてしまう。とはいえ、ヘドローン、そしてメタミートに対抗する唯一の戦力である自分たちが、この場でノンビリ考察しているわけにはいかない。

「ラディシティア、行こう!」

「ええ!」

 私たちは飛翔形態に変身すると、一気に爆心地を目指した。


「やれ! メタミート! 街を破壊しろ!」

 ビルの屋上から街を見下ろし、プリン・タイは指示を下した。眼下には2体の超大型のブタ型メタミートがヨタヨタと歩いている。身動きするのも苦労するほど大量の脂肪を全身に蓄えており、一歩進むたびに、ブヨブヨと肉が震える。頭が、分厚い脂肪の層が、前足が、進行方向にあった家や車にぶつかるたび、それらを問答無用になぎ倒し、踏みつぶした。迫り来る破壊の災厄から逃れようと、大勢の人が悲鳴を上げて逃げ惑う。

「プリン・タイ! いい加減にしなさい!」

 その声と共に現れる、カラフルな戦闘コスチュームに身を包んだ四人の人影。

「来ましたね、ベジーティア。今日こそはヘドローン様のために、お前たちを始末してやりますよ」

 プリンは酷薄な笑みを浮かべた。

「いけ、メタミート!」

「やらせない!」

 私とラディシティアは二手に分かれ、メタミートの前に立ちはだかった。私の後ろにはスピナティアが、ラディシティアの後ろにはパンプティアが、それぞれ援護についている。

(で、でっかい……)

 あらためて近くで見ると、今回のメタミートの大きさは想像を絶していた。

 前回、プリンが呼び出したメタミートが大型トラックと同程度の大きさだったのに対し、今回のものは戸建住宅数軒分ほどの大きさがある。

「とにかく、まずは攻撃あるのみ!」

 私は飛翔形態で上空へ舞い上がった。スピナティアの矢が数本、立て続けにメタミートの顔に突き刺さる。そこを狙い、加速をつけて切りつけた。

「嘘だろ……」

 私の斬撃は、まともに当たっていた。しかし、分厚い脂肪の層がブルブルと震えたばかりで、剣先は皮膚を貫きさえしていなかった。たとえ皮膚を貫いたとしても、数メートルにわたる脂肪の層を何とかしない限り、決定打を与えることはできないだろうと思えた。

「危ない!」

 スピナティアの声で、瞬時に身をひるがえす。一瞬遅れて、私の体のあった場所をメタミートの頭が通り抜けた。体勢が崩れるほどの風圧が襲い掛かる。

(攻撃の破壊力自体は、前回、暴走したときのコレスに比べれば大したことない。だけど……こっちの攻撃が、まるで通用しない!)

 あの巨体に通用するとすれば、四人全員で撃つ「ビタミンシャワー」クラスの必殺技しかないだろう。しかし、それでメタミートを倒すことができたとしても、プリンが残る。個人戦闘力は高くないが、狡猾なプリンのことだ。私たちが身動きもままならないほど消耗しているのを見れば、間違いなく襲い掛かってくるか、追加のメタミートを召喚することだろう。

(どうしたものか……)

 悩んでいた私に打開のヒントをくれたのは、ラディシティアだった。

「乱打! 乱打!! 乱打ァッ!!!」

 ラディシティアは縦横無尽にハンマーを振るい、メタミートを打ちのめしていた。ただ無為無策に乱打するのではない。パンプティアの投げる冷気の爆弾でメタミートの体を凍らせ、固まった部分を狙ってハンマーを打ちつけていたのだ。凍りついた脂肪は衝撃を吸収できず、砕けて飛び散る。

「外側が脂肪で包まれてるっていうのなら! 片っ端から砕いて、削り落としてあげるよ!」

 長い髪をなびかせ、舞うように攻撃を繰り返すラディシティア。その合間を縫って次々と爆弾を投げつけるパンプティア。二人の連携は見事だった。

「スピナティア! アイツを凍らせて!」

「分かったですぅ! 氷結フリージング・アロー!」

 矢の撃ち込まれた場所が凍りつく。そこを狙ってキャロットソードを打ち込むと、固まった脂肪が砕け、ゴッソリと落とすことができた。

(数百トンのうちの、ほんの数十キロかもしれないけど……! それでも地道に削っていけば!)

 ブタ型メタミートが痛みにのたうち回るのを避け、攻撃を繰り返す。そのうち、砕けた脂肪が住宅の瓦礫と混じり合い、街の至る所にドロドロの脂がこびりついていった。

(気をつけないと、瓦礫の上で足を滑らせて思わぬケガをしてしまいそうだ。しかし……)

 ふと、私の中に形容しがたい疑念が浮かんだ。はっきりと断言できないが、妙な違和感を覚える。

(前回、洗脳ガス弾を町にばらまいたプリンが、今回はメタミートが破壊されていくのを黙って見ている。いったい、ヤツの狙いは何なんだ……?)

 のたうち回り、町を破壊するメタミートの体をひたすら切り刻む。

(町を破壊しつつ、あちこちにこの脂肪をばらまくのが狙いなのか?)

 その可能性はあるかもしれない。被害の拡大を防ぐため、私たちは可能な限りメタミートの動きを抑えようとしていたが、それでも町の広い範囲が破壊され、黄色がかった白の脂肪が、あちこちに散らばっていた。

(この脂肪が揮発すると、毒ガスに変わる……とか?)

 いくら何でもそこまでは、と思いつつ、プリンのことだからやりかねない、とも思う。

「これで、とどめだぁーっ!」

 大きく飛び上がる。足元には、脂肪の層を削り落とし、デコボコになったメタミートの顔。その中でも一番脂肪の薄い、眉間を狙ってキャロットソードを振り下ろす。

「分子崩壊!」

 魔力が浸透し、メタミートの頭がキラキラと輝く粒子になって消えていく。体が大きすぎるため、頭を分解したところで魔法の効果が消えた。メタミートの胴体が横倒しになり、数軒の家が巻き添えで押し潰される。

「あっちの二人は!?」

「大丈夫、いま、ラディちゃんがメタミートを倒したですぅ!」

 スピナティアの言葉を裏付けるように、ズズン……と巨体の倒れる地響きが聞こえた。


「プリン・タイ! 下りてきなさい!」

 倒したメタミートを背に、私はビルの屋上に立つプリンに向かって呼び掛けた。

 メタミートを倒されたプリンは、まったく動じる様子もなく、悠然と私たちを見下ろしている。それどころか、妙にうれしそうに笑っているようにさえ見えた。

(何を考えているんだ……?)

 プリンはパチ、パチと数回、手をたたいた。

「ベジーティア諸君、ご苦労様。じゃあ、そろそろ――」

 開いた両手の間に、ボッと音を立ててバレーボールほどの火球が生まれる。

「――死んでもらうよ」

 そう言って、プリンは火球を放り投げた。落ちた先にあったのは、倒したばかりのメタミート。その体はドロドロに崩れ、半固形状の脂肪の山になっている。

「あ……」

 私はこの瞬間になってようやく、プリンが何を企んでいたかに気づいた。

「馬鹿ァッ!」

 私が絶叫するのと、火柱が上がるのが同時だった。

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