表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お父さん、魔法少女になる  作者: 春風ヒロ
13/39

第6話「圧倒的パワー」3

第6話「圧倒的パワー」3


(正真正銘、コイツはバケモンだ――)

 どれだけ攻撃しても、まるで効いている様子が見えない。

 分厚い壁を、素手で突き崩そうとするような。

 巨大な山を、小さなスコップで掘り抜こうとするような。

 そんな絶望的な気持ちになる。

 スピードもスタミナも衰える気配はない。

「きゃあっ!」

 パンチの直撃を受けたラディシティアが跳ね飛ばされた。後ろにいたパンプティアが巻き添えになって一緒に倒れる。変身が解除され、ベジーティアの衣装から私服姿に変わる。二人は意識を失ったのか、グッタリとして動かない。


「一方的な虐殺になりますね」

 その言葉がリフレインする。


(まずい!)

 変身が解除されるほどの大ダメージ。それは「中の人」の死、あるいはそれに近い重傷を意味するはずだ。

 私は全身から血の気が引くのを感じた。

(守れなかったのか……!!)

 どす黒い絶望感が胸に広がる。

 もしも明日、兜山中学の生徒が事件か事故に巻き込まれて死亡したなんてニュースが流れたら――。

 もちろん「現実世界」において、その中学生の死と自分には何の接点もないだろう。

 しかし、私は、そのニュースを平然と聞き流せるだろうか。

 自分の力不足のせいで、うら若い女の子を死なせてしまったのだと思わずにいられるだろうか。

「いやあっ! く、来るなですぅ!」

 スピナティアが涙目になって弓を連射する。その矢を、蚊でも追うように払いのけながらトランスが迫る。

「させるかぁっ!」

 私は必死でトランスの前に立ちはだかり、

衝撃炸裂ソニック・インパクト!」

 衝撃波を撃って少しでも距離を稼ごうとする。しかし、距離を取るどころか、わずかな足止めにしかならない。

切裂リッピングブレイド!」

フリージングスラッシュ!」

爆撃斬エクスプロージョン!」

 手当たり次第に斬撃魔法を発動する。たとえ、効果が薄くても――

「邪魔だ」

 アッサリと払いのけられバランスを崩した隙に、トランスはスピナティアに肉薄し、剛拳を一閃した。重すぎる一撃を腹に受け、スピナティアが吹き飛ばされる。地面に体が叩きつけられるのと同時に、緑の衣装が緑川さやかの私服に変わる。

「あああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!!!」

 私の喉から、絶叫がほとばしった。

 トランスは満悦の吐息を漏らす。

「んーむ……。もうちょっと歯ごたえがあると良かったんだが。やはりお前たちには、まだ筋肉愛が足りないようだねえ……」

 言葉の合間合間に、恍惚の表情でボディビルのポーズを決める。

 サイドチェスト。

 バックダブルバイセップス。

 バックラットスプレット。

 サイドトライセップス。

 モストマスキュラー。

 つい数分前、思わず見とれた肉体美にも、いまは絶望しか感じられない。

(こんなバケモン、自分一人でどうしろって言うんだ……。ベジージェムを使っても太刀打ちできないのに……)

「んっんー。どうした、ベジーティア。もう終わりなのか?」

 ポーズを決め、余裕綽々のトランスに、私は言葉を返せない。

「じゃあ、そろそろケリをつけるとしようか」

 酷薄な笑みを浮かべ、トランスがポーズを解いてこちらを向いた。


(ミサ……)

 ミサの顔を思い浮かべる。自分が倒れたら、あの子はどうなるのか。

(お前を守るために……)

 絶望の中から、わずかな勇気を振り絞る。

(お父さんは、絶対に、負けない!)

 ギリ、と奥歯を噛みしめ、キャロットソードを握る手に力を込め直した。

 その時。

 私の背後から、ピチュン! と弾ける音がした。髪が一瞬、風圧で軽く揺れ、何かが私の横を飛ぶ。

 トランスの胸板に突き刺さったのは、一本の矢。

「えっ!?」

 振り返った私の目に映ったのは、私服のまま弱々しく上体を起こし、弓を放ったさやかの姿だった。

 その隣では、明日香がパンプキンボムを作ろうと両手に魔力を集め、若菜がラディッシュハンマーに寄りかかりながら、立ち上がろうとしている。

「まだ、負けてな……い……です……」

「ボクたちが……相手……だ……」

「キャロちゃん……だい、じょうぶ……」

「みんな!」

 私は目を見張った。

(この子たちは……、どうして立ち上がれるんだ。こんなに痛い思いをして、こんなに怖い目に合って……、それでも、どうしてまだ戦おうと思えるんだ!)

 驚きで、言葉が出ない。

「私たちは……ベジーティア……です……。最後まで、あきらめない……」

 ふらつく足を踏みしめ、必死で立ち上がろうとするさやかの言葉に、私は頭を殴られたような衝撃を受けた。

(オレは大人なのだから、この子たちのことも守ってあげなくてはいけないのだと思い続けていた……。だけど、この子たちも『魔法少女』の力を受け継いで、戦う決意を持ってこの世界へやってきてるんだ! この子たちの仲間であるオレが、この子たちの決意を認めて、信じて、一緒に戦わないで、どうするんだ!)

 彼女の言葉は、私の気持ちを奮い立たせるには十分だった。

(この子たちがまだあきらめてないのに……、オレだけあきらめるわけにはいかないよなあっ! ミサ、お父さん頑張るからな!)

 大きく息を吸って、トランスに飛びかかろうとした、その時だった。

 空から柔らかい光が降り注ぎ、スポットライトのように、私たち四人を包み込んだ。

(この光は……!)

 見覚えのある光。

 春の昼下がりのような、穏やかな温もり。

 痛みが、苦しみが淡雪のように溶け、消えていく。

 まるで、生まれたばかりの乳児が、母親の腕の中に安らいで眠るような、そんな静かで安らかで穏やかな平和――。

 そして、

「――あきらめない心、大切な人を守りたいという思い。その気持ちの強さこそが、本当の強さにつながるのです」

 聞き覚えのある女性の声が、どこからともなく響く。

「この声……、アナタ、誰!?」

 私は、声の主に呼びかける。

「――私は、いつもあなたたちを見守っています。絶望の底に、希望はいつも眠っているのです。最後まであきらめないで……」

「ねえ! あなたは誰なの!」

 しかし、女性の声は答えることなく、そのまま光とともに消えていった。


 私は、トランスに向き直った。

 再び深紅のオーラが噴き出し、全身を包む。

 先ほどまで感じていた、絶望は既にない。

 ただ、「できる」という確信だけが胸を満たしていた。

 何が「できる」のか。何を「できる」のか。

 具体的なことは何も分かっていなかったが、それでも私には確信があった。

 それは、私の後ろに立つ三人の仲間も同じだったようだ。

 白。

 緑。

 黄色。

 それぞれ、まばゆいオーラを全身にまとい、新しい形状の衣装を身につけて、自分の武器を構えている。

「みんな……」

 私の呼びかけに、三人がうなずいた。

 パンプティアとスピナティアの姿が消える。いや、消えたのではない。消えたと思うほどの超高速で移動したのだ。

「なんだと!?」

 トランスが明らかに戸惑いながら、周囲を見回す。急激にスピードアップした私たちの動きに、対応できないようだ。

束縛バインド・ショットMarkⅡ!」

ボム・オブ爆弾・ライトネス!」

 先ほどの攻撃では、全弾直撃しても足止めにすらならなかったが、今回は一撃一撃が確実に効いているようだ。トランスの動きが止まり、苦痛で表情がゆがむ。

 すかさずラディシティアが迫る。

「隠神流『薙落なぎおとし』!!」

 複雑な軌道を描かせてハンマーを連続で撃ち込みつつ、合間に蹴撃を放つ。トランスがそのコンビネーションをしのぎ切った瞬間を狙って、

灼熱ヒート・斬撃スラッシュ!」

 私の横薙ぎの一閃がトランスの首筋に迫った。

「ふぬうっ!」

 トランスは私の一撃をかろうじて腕で受け止めた。しかし、高熱をまとった刀身が皮膚に食い込み、筋繊維を焼き焦がしているのが分かった。

「ぐあああっ!」

 それは、明らかな苦痛の叫びだった。

「みんな!」

 私は三人に呼びかけた。

 四人同時に距離を取り、横一列に並ぶ。

 四種の武器を構えた手を、まっすぐトランスに向けた。

 四人の唇が、同時に動いた。


「ベジーティア・ミラクルビタミンシャワー!」


 そんな必殺技があるなんて、誰も知らなかった。

 ただ、明確なイメージとして、「こうするんだ」というものが全員の心の中に浮かんできたのだ。

 あの、光の中で聞こえた「導き手」とでもいうような存在が、教えてくれたのだろうか――。

 四人の構えた武器から虹色の光線が放たれた。

 シャワーヘッドから噴き出す水のように、しかし、その一条がそれぞれに意思を持っているかのように、四つの輝きは絡み合いながらトランスの全身を包み込む。

「んほおおおおあああああああっ!」

 つい先ほどまで、あれほどの頑健さを見せていたトランスが、光の中で苦痛の絶叫を上げた。

 浅黒い巨体が、光に飲まれ少しずつ分解されてゆく。

 このまま消え去るのかと思った刹那、

「ふんぬうううううううううううううぅっ!」

 トランスは気合で光を弾き飛ばした。

 荒い息をつき、滴る汗を拳で拭う。

「……素晴らしい。やるじゃないか、お前たち。次は、全力でやろう!」

 そう言い残し、トランスは姿を消した。


 私はヘタヘタと座り込んだ。

 緊張が途切れたせいもある。しかし、それ以上に、全身を猛烈な脱力感が襲って立っていることができなかったのだ。

 それは、ほかの三人も同じようだった。

「なにこれ……。ものっすごい疲れるんですけど……」

「ホント……。全身の力が、完全に絞り尽くされた感じ……」

「ボクも、もう動きたくないな……」

 テレビアニメや特撮ヒーローは、最後の最後まで必殺技を出さない。それは一つの「お約束」である。

 子供心に、「最初から必殺技を出せば、こんなに苦労しなくても敵を倒せるんじゃないのか」と思った経験が、私にもあった。

 大人になった今なら、決まった放送時間の中でさまざまな見せ場を作り、最後に一番の大技を繰り出すことで視聴者にカタルシスを味わわせるため、番組に必要な演出なのだと分かっている。

 しかし、その必殺技を出す側になって、初めて分かったことがあった。

 この攻撃は、極めてリスクが高いのだ。

 四人全員の持つ全生命力・全魔法力を、たった一撃で使い切る。

 もしも、この一撃で相手を倒すことができなかったら、もはや逃げ道はない。

 だからこそ、「奥の手」は最後の最後まで取っておきたい。

 可能であれば必殺技など使わずに決着をつけたい。

 それができないのであれば、できるだけ相手を消耗させ、絶対に外さない、そしてこの一撃だけで確実に、間違いなく相手を倒せるという状況に持ち込んだうえで使うしかない。

 今回はたまたま「導き手」の援助があり、完全な不意打ちができたから、トランスに直撃させることができた。

 しかし、バトルが始まった直後、全力で向かってくるトランスにこの技を放って、一撃で決着をつけることができるとは、とても思えなかった。

 事実、トランスは最後に光を弾き飛ばし、脱出を果たしているのだ。

 そんなことを考えながらも、私は両足に力を込めて立ち上がった。ふらつきながら、何とか仲間のもとへ歩み寄る。

「みんな……ありがとう……。無事、なんだよね……? 本当によかった……」

 一時は、三人が死んだのではないかと思った。絶望もした。

 私があきらめないでいられたのは、三人があきらめずに立ち上がってくれたからだ。

「もちろん、無事ですよっ」

「キャロちゃん、心配かけてゴメンね」

「キミがいたから、ボクたちは立ち上がれたんだ。キミを守りたかったから……」

「ううん、私こそ……みんながいてくれたから……」

 それ以上は、言葉にならなかった。熱いものがこみ上げ、双眸からあふれた。

 私たちは四人でお互いの体に腕を回し、固く抱き合った。

 四人とも、涙を流していた。

「本当に、もうダメだと思った……」

 すすり泣きながら無事を喜び合う。

 その足元には、四人の武器が置いたままになっていた。

 ラディッシュハンマー、パンプキンボム、スピナボウ。それぞれの武器の中心に、深紅の輝きを放つ宝石――ベジージェム――が現れる。

 そして、キャロットソードには、二つ目のベジージェムが現れたのだった。


 光のゲートを抜けて、目を開けるとそこは見慣れた公用車の運転席だった。

 バトルの後遺症の全身倦怠感は、まだ全く抜けていない。できればこのまま風呂に入り、ビールを飲んで寝てしまいたかった。

 助手席にチョコンと座ったポンニュが話しかけてきた。

「ヒロシさん、今回もありがとうニュ。ヒロシさんのおかげで、ほかの三人も無事だったニュ」

「そりゃよかった。いろいろ聞きたいことや、言いたいことはあるんだけど、正直に言って、いまは疲れすぎて、何も考えたくない……」

「それはもう、仕方がないニュ。次まで、しっかり休んでくださいニュ」

 それだけを言うと、ポンニュは姿を消した。

 私は腕時計を見た。退社するには早すぎる時間だった。公用車で出かけている以上、このまま直帰するわけにもいかない。

「コンビニの駐車場に止まったのは、ある意味、ラッキーだったか……」

 私はそうつぶやくと、ふらつく足取りで店に入り、医薬品コーナーを探した。陳列されている栄養ドリンク剤の中で、一番高価な商品を手に取る。会計を済ませ、店の外に出ると私はそれを一気に飲み干した。濃厚な薬品の匂い。そして、ひりつく刺激が喉を通り、胃袋がじわっと熱を持つ。

 しばらくすると、心臓がバクバクと音を立てて動き出すのを感じた。

 カフェインやタウリンその他諸々の成分が血圧を上げ、有効成分を全身に循環させていく。さらにしばらく待つと、意識がスッと冴えて体が楽になってきた。

 実際は薬が効いている間だけのその場しのぎであり、元気の前借りである。それでも、せめて帰社するまで元気を保つことができればよかった。

 飲み干したドリンクの小瓶を店の前のごみ箱に投げ入れ、私は車に戻った。

「よし、とりあえず帰社しよう。その後どうするかは、帰って考えよう」

 見慣れた町を地味な公用車で走るうち、さっきまで生死を賭けた戦いに身を投じていたという非現実な感覚は少しずつ薄れていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ