表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/93

80 弟

書く時間が時間がなかなかとれず、いつもより短くなってます。本当にあと10話で終わるか、少し心配になってきました。

 見下したような眼をして僕を見つめるジン。マリさんとテイジがすぐに僕の前に飛び出して、背中で僕を庇った。


「下がって、カナメっち!」


 大盾を構えたテイジの傍らで、マリさんはジンを睨みつける。しかし、それを見たジンは、彼女のことを鼻で嘲笑った。


「邪魔すんなよ、子猫ちゃん。お前らなんかじゃ、相手にならねえ。俺の目的はその化け物野郎だぜ。」


 ジンは無造作に立っているが、その全身からは圧力を感じるほどの闘気が放たれている。僕はその場から進み出て、マリさんとテイジの前に立った。


「マリさん、この人の相手は僕がするよ。エイスケたちを守ってあげて。」


 フードを外して、ジンと正面から向かい合う。ジンは、ペッと唾を吐きだした。


「相変わらず、気味の悪いツラだな。見てるだけで虫唾が走るぜ。」


「それは、お互い様だろう?」


 互いに数歩の距離を開けた状態で、視線が絡み合う。ジンの目からは、怒りとも憎しみともつかない、強い感情が読み取れた。


 彼と対峙するのはこれで3回目。会うたびに高くなっていく彼の感情に、僕は違和感と奇妙な親和性のようなものを感じていた。


 彼は僕からクロの秘密を聞き出し、あわよくばその力を手に入れようとしている。でも、それはあくまで、太政官に命令されているからのはずだ。


 それなのに、僕に対する彼の憎しみは、次第に増していっている気がする。


 もちろん、これまで命じられた任務に失敗したことが、プライドの高い彼には許せないのかもしれない。もしくは、単に僕のことが気に食わないだけかもしれない。けれど、彼から向けられた視線からは、そう言った単純な憎しみや怒りとはかけ離れた何かが感じられる。


 僕は、何とも言えない漠然とした不安を抱かずにはいられなかった。


 険しい目で僕の顔をじっと見つめていたジンが、ふっと表情を緩めた。


「はっ、言うじゃねえか、化け物野郎。だが、その通り。俺もお前も互いに化け物同士ってわけだ。」


 彼は両手を軽く広げ傲然と、しかし少し穏やかな表情でそう言い放った。すると、僕の後ろで身がまえていたマリさんは、彼に向かって声を上げた。


「カナメっちを、お前なんかと一緒にするな!」


 途端にジンの顔が、激しい怒りの表情に変わった。


「ちっ、お仲間に囲まれて、大層なこった。」


 彼から放たれる闘気がより一層強くなった。肌にチリチリと痛みを感じるほどだ。僕は彼に対抗するため、胸の中で魔力を高めていった。


「(カナメ、私も補助する。)」


 胸ポケットに隠れたクロが、脳内で僕に声をかけてきた。クロが僕の魔力を増幅して、全身の隅々にまで行き渡らせてくれた。体に力が満ちていく高揚感が僕を包む。僕は心の内側で彼にありがとうと答えた。


「(先程の突入時に失った魔力はまだ回復しきっていない。気を付けろカナメ。)」


 僕は無言で小さく頷くことで、クロに答えた。ジンは怪訝な表情でその様子を見ていた。でも、すぐに嘲るような顔つきで、僕に話しかけてきた。


「お前、新道ハヤトの息子なんだってなあ。」


「・・・なぜ、お前が僕の父さんの名を?」


 突然、父さんの名前を出されたことで一瞬、魔力の集中が途切れる。動揺を隠すように再び魔力を練り始めた僕を見て、ジンは狂ったように笑い出した。


「そうか! やっぱりそうなのか! 道理で最初に会った時から、気に食わねえツラだと思ったはずだぜ!!」


 引きつった表情で笑いながらも、彼の闘気はどんどん高まっていく。僕は油断なく、ぐっと拳に力を込めた。


「何が可笑しいんだ!」


 僕の叫びで、彼はすぐに表情を改めた。


「何が可笑しいかだって? そりゃ、何にも知らずにいる、おめでたいお前の頭が可笑しいに決まってんだろ。」


 彼は吐き捨てるようにそう言うと、僕に問いかけてきた。


「お前の親父が死んだ後、その死体がどうなったか、聞いてるか?」


「なぜ、そんなこと?」


 訳が分からず問い返した僕に、彼は怒りと苛立ちを露わにした。


「質問してるのは俺だ。いいから答えろよ。」


 本当はこうやって、ゆっくり会話をしている暇なんかない。今にも、蛭子が危害を加えられるかもしれないからだ。


 でも、彼の様子を見る限り、会話を止めることを許してくれそうにない。それに僕の方も、会話を止めようと思わなかった。彼の問いかけの理由を知りたい気持ちがったし、それ以上に、この会話を止めてはいけないという、予感じみた何かを感じていたからだ。


「・・・死体は皇国軍が焼いたって聞いてる。灰は僕の母さんが引き取って、お墓に埋葬した。でも、それがどうしたの?」


 僕は、宇津井先生から聞いた話をそのまま彼に伝えた。父さんの体を焼いたのは、宇津井先生だ。血が継がってはいないとはいえ、息子として生活していた父さんの体を燃やしたと話す先生は、とても辛そうだったのを覚えている。


 でも、僕の答えを聞いたジンは、それを嘲笑った。


「お前も、お前の家族も、本当におめでたい奴らばかりだぜ。」


「さっきから何が言いたいんだ!!」


 僕は先程から感じていた怒りと苛立ちを彼にぶつけた。しかし、彼は傲然とそれを跳ねのけた。


「分からねえみたいだから、説明してやるよ。いいか? お前の親父は、皇国が作り出した最強の生物兵器だぞ。そんな貴重な兵器の情報を、皇国の上層部が簡単に手放すわけないだろ?」


「どういうこと?」


 僕の問いかけに、ジンは苦々しい表情を浮かべた。


「お前の親父の死体の一部を、焼却前にこっそり回収した奴がいたのさ。何のためかは、説明しなくてもわかるだろう?」


「まさか・・・太政官が!?」


「その通り。あのお偉い太政官様は、自分の兄貴が死んだ後になって、『蛭子計画』のことを知ったのさ。最強の生物兵器が失われるのを惜しんだあの野郎は、内通者を使って、お前の親父の死体から、体組織の一部を入手させた。」


 先ほどまでとはうって変わって、彼は静かな声で一気にそう話した。僕は彼の言葉に、頭を殴られたような強い衝撃を受けた。


「じゃあ、父さんみたいな実験兵士が、まだ・・・?」


 僕の父さんは、先々代の帝が魔王に対抗できる『兵器』を作るために生み出された実験兵士の生き残りだ。先々代の帝は、蛭子の持つ無限の再生力と、魔素を具現化して強力な武装を作り出す力を、人間に植え付けようとした。


 父さんは僕と母さんたちを守るために死んでしまったけれど、その右目だけは僕に移植され、その力と共に生き続けている。僕がクロの力を借りることができるのも、元はと言えば、クロの眷属である蛭子の力が、父さんを通じて僕に引き継がれているからだ。


 実験兵士として生み出された父さんの前半生は、本当に悲惨なものだった。その悲劇が再び繰り返されたかもしれないという事実に、僕は魔力を練るのも忘れてしまっていた。


「(カナメ、しっかりしろ。)」


 クロの声で、ハッと我に返り、慌てて身構える。でも、驚いたことにジンは、僕をそっと手で押しとどめた。


「そう焦るなよ。ここからがいいところなんだから。」


 彼はそう言って話を再開した。


「研究資料が大半失われた状態で、僅かな体組織から新たな生物兵器を作ることなんてできるわけがない。太政官ヤツは手に入れた僅かな情報を元にH因子のことを突き止め、因子を持つ人間に体組織を適合させようとした。だが、当然のごとく失敗しちまった。暴走した後のハヤトの体組織は制御不可能なほど強力で、被験者たちを次々と理性のない化け物に変えちまったのさ。」


 ジンはそこで言葉を切り、僕をじっと睨みつけた。僕は途端に、暗い池の底を見つめているような、不安な気持ちにさせられた。彼は一層静かな声で、話を続けた。


「だが、そこで奴は思い出しちまったのさ。ハヤトには息子がいたってことをな。」


 ジンはぐっと眉を寄せた。僕はなぜか、彼が今にも泣きだしてしまうのではないかと思った。でも、彼はまるで歴史の教科書でも読んでいるみたいに、淡々と言葉を続けた。


「いくら強いH因子を持っていようと、人間の肉体は暴走したハヤトの力に対抗できない。だが、生殖によってハヤトの力を引き継がせれば、力を安定させることができるのではないか。奴はそう考えた。」


「まさか・・・!!」


 自分の声が酷くかすれ、震えて聞こえる。ジンは僅かに頷いてみせた。


「3年前、奴はハヤトの体組織を培養し、生殖細胞を作り出すことに成功した。そいつを強いH因子を持つ女から集めた生殖細胞と結合させ、人工的に胎児を作り出そうとした。」


 彼の声は、もはや囁きと言っていいほど小さくなっていた。彼はまるで自分に言い聞かせるように言った。


「もっとも、実験の大半は失敗だった。蛭子の力を持つハヤトの生殖細胞に、人間の細胞は耐え切れなかったんだ。だが、最悪なことに、運悪く成功しちまったケースがたった一例だけあった。」


 彼は小さく息を呑んだ。


「生み出された胎児は、ヤマトと名付けられた。ハヤトを越える存在になるようにって、皇国の神話になぞらえてつけたらしいぜ。」


「それじゃあ、君は・・・!?」


 彼の言っていることがようやく理解できた僕が、絞り出すように言った言葉に、ジンは自嘲気味な笑みを浮かべて頷いた。


「ああ、そうさ。言うなれば、俺もハヤトの息子ってわけだ。お前と違って母親の顔も知らねえし、腹違いだが一応、お前の弟ってことになるのかな。改めてよろしくだぜ、お兄ちゃん?」


 からかうような口ぶりとは反対に、彼は強い感情を込めた目で、僕と僕の後ろにいる分隊の仲間たちを睨みつけた。


「俺とこいつは同じ血を分けた兄弟で、化け物同士ってわけだ。どうだい子猫ちゃん、これでも、俺とこいつは『違う』って言えるか?」


 そう問いかけたジンに対して、マリさんはすぐに声を上げた。


「違うさ! カナメっちはあんたみたいに、人殺しを喜んだりしない! お前はただの殺人鬼じゃないか!! 化け物なのはお前の体じゃない! 心の方だ!」


 思わず後ろを振り返ると、皆はマリさんの言葉に大きく頷き、強い視線をジンに向けていた。僕はジンが襲い掛かって来るのではないかと思い、すぐに彼に視線を戻した。しかし、彼は表情を歪めたまま、その場にじっと立ち尽くしていた。


「なんで、お前ばかり・・・俺だって、仲間がいれば・・・。。」


 彼は自分の両手を見下ろし、僕にしか聞こえないほど小さい、消え入りそうな声でそう呟いた。


 しかし、次の瞬間、空気を圧するような咆哮を上げた。彼の体がみるみる膨れ上がっていく。筋肉の盛り上がった体は白銀の毛に覆われ、耳まで裂けた口から巨大な牙がせり出してきた。


「馬鹿に何言っても無駄だったな。さっさと始めようぜ。」


 銀色の体毛を持つ魔猿は、歪んだ声で言った。彼は鋭い爪のある拳を、僕に向かってぐっと突き出した。


「俺はこれまでに自分で殺して捕食した生き物の能力をすべて再現できる。俺が獲得した能力をすべて複合させた結果がこの姿さ。話によると、どうやら暴走した俺たちの親父ハヤトにそっくりらしいぜ。まあ、どうでもいいが。」


 魔猿となったジンがゆっくりと身構えるのに合わせて、僕はこれまで練っていた魔力を一気に解き放った。


「《疑似精霊憑依》!」


 クロが僕の魔力と周囲の魔素を結合させ、実体化させる。僕の体は白く輝く強化外装パワードフレームに覆われた。それを見たジンは、怒りで全身の毛を逆立てた。


「それ、前にも見たな。『疑似精霊憑依』っていうのか。俺の上にいる連中が『魔装化』って呼んでる力だ。」


 長く伸びた尾で、ジンは苛立たし気に床を強く打つ。石造りの床はひび割れ、砕けた破片が周囲に飛び散った。


「俺はお前みたいな魔素を実体化させる力はねえ。そのせいで散々言われたよ。『お前は出来損ないの不良品だ』ってな。」


 彼はくぐもった声で、唸るように言った後、激しく両腕を床に叩きつけた。


「その代わりに得たのが、この『捕食強化』の力だ。もっともそのおかげで、お前がお仲間や家族と過ごしている間ずっと、クソ不味い魔獣の肉ばかり食わせられたがなぁ!!」


 彼の全身に力が満ちていく。彼は僕を指さしながら叫んだ。


「俺は家族を知らない。友人を知らない。俺が知っているのは、人殺しの方法だけだ!! そんな俺がお前を殺し、お前を超える。俺が不良品じゃないってことを証明してやるんだ!」


 すると、彼の叫びを聞いたホノカさんが、僕の背後で小さく呟いた。


「かわいそうな子。」


 それを聞いたジンは、怒りに任せて咆哮を上げた。


「おんなぁ!! 俺を憐れむな!」


 僕は皆を守るように、彼の前に立った。


「はじめよう、ジン。」


「ああ、いいだろうクソ兄貴! お前ら全員、ぶっ殺して、骨まで食らいつくしてやる! さあ、お前の力を寄越せぇ!!」


 その叫びと共に、魔猿と化したジンは、僕に向かってその巨大な拳を振り下ろしたのだった。

読んでくださった方、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ