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74 目覚める力

次で幽世編終わりの予定です。(多分)

 頬に強烈な熱を感じ、僕はハッと目を開けた。


 自分がうつ伏せに倒れていたことに気づいて、一瞬、錯乱し掛けた。けれどすぐに、さっき淀鈴よどすずさんに強烈な一撃を受けたことを思い出して、慌てて体を起こす。






「ここは・・一体?」


 僕がいた場所は、あの夜明けの闘技場ではなかった。夕闇の迫る空の下で、燃え盛る街並み。子どもの頃から繰り返し見てきた、決して忘れらることができない光景。


「これは高天原大嘯!? 僕はまた、あの夢を見ているのか?」


 僕は思わず、自分の身体を見下ろした。いつも見る夢で、5歳の僕が炎の巨人に半身を焼き尽くされるところで終わる。そして、死の間際に、父さんが僕を救ってくれるのだ。


 でも、今の僕は高天原防衛学校の制服を着ていた。しかも、火傷の跡もなく、両手がきちんと揃った状態。つまり、さっき淀鈴さんにやられたときと同じ姿だった。






「ようやく目覚めたか、カナメ。」


「!! 父さん!?」


 後ろから不意に掛けられた声に驚いて振り向くと、そこには父さんが立っていた。


 父さんはあの白い大鎧を身に着け、大太刀を手にしている。僕の記憶の中の父さんとまったく同じ姿だ。


 僕の記憶の中の父さんは、いつも無口で笑顔を絶やさない人だった。でも、今目の前にいる父さんは恐ろしく厳しい表情をしている。


 状況を理解できずに立ち尽くす僕に、父さんは厳しい口調で問いかけてきた。






「カナメ、お前はなぜ幽世に行ったんだ?」


「なぜって・・それはもちろん、ホノカさんを救うためだよ!」


 思いがけない問いに戸惑いながらも、僕はそう叫んだ。父さんはそんな僕を冷たい目で見下ろした。


「救う? お前の力でそんなことができると、本気で思っていたのか?」


 心の中にあった不安をつかれた僕は、言葉に詰まってしまった。父さんは更に言った。


「お前は弱い。そんなお前が、どうやって試練を突破できると言うんだ?」


「た、確かに僕は弱いよ! でも、皆で力を合わせれば、きっと・・・!」


「自分の弱さを、他人に転嫁するな!!」






 僕の言葉は、父さんの叱責で遮られてしまった。僕は体の震えを止めることができず、今にもへたり込んでしまいそうだった。


「ホノカさんを救うと言ったな? だが、それは誰のためだ? 彼女のため、仲間のためと言いながら、本当はお前自身の欲、わがままのためじゃないのか?」


「そ、そんなこと・・・。」


「ない、と断言できるのか?」


 父さんの言葉に、僕は唇を噛んで俯いてしまった。確かに、父さんの言う通りかもしれない、と思ったからだ。






 エイスケも、テイジも、マリさんも、僕の周りにいるのは皆、強くて優しい。僕がホノカさんを助けたいといえば、皆は絶対の僕に協力してくれる。僕はそれを知っていた。そして、実際その通りになったのだ。


 でも、僕は皆のために一体何ができただろうか? 自分のわがままを皆に押し付けておきながら、僕は皆のために何もできていない。


 ここまでの道のりだって、色々な人に助けられてばかりだった。父さんの言葉で、僕は自分の弱さに甘え、皆の優しさに頼ってばかりだったことに、気付かされた。


 いや、本当は最初から気づいていたんだ。でも、それをあえて無視していた。そうしなければ、自分の弱さと向き合ってしまうから。何もできない自分への不安に押しつぶされてしまうから。


 足が震えて、立っているのもやっとだった。そんな僕に、父さんは更に言葉を重ねた。






「取り繕ってばかりで、本当に醜い。お前は本当に、俺が命がけで守った、あのカナメなのか?」


 耳の奥でカチカチと音がする。それが自分の奥歯が震えている音だと自覚するまでに、かなり時間がかかった。


 気がついた時、僕は地面の上にへたり込んでしまっていた。父さんは大太刀を手に、ゆっくりと僕に近づいてきた。


「こんな夢に俺を呼び出すような、お前の未練など、俺が断ち切ってやる。このまま闇に沈み、自分の弱さを噛みしめるがいい。ホノカさんのことは諦めるんだ。そうすれば、誰も傷つけずに済むだろう。お前の仲間も、そして、お前自身もな。」


 自分に振り下ろされる大太刀の刃を、僕はぼんやりと眺めていた。心が完全に死んでしまったみたいで、体がまったく動かない。






 そう。最初から諦めればよかったんだ。そうすれば、皆に余計な希望を持たせることも、それを裏切って失望させることもなかった。


 父さんは大太刀を構えたまま僕に言った。


「お前の力も、魔力も、すべて俺が持っていってやる。お前は、戦いから身を引いて、自由に生きるがいい・・・もう、会うこともないだろう。さらばだ、カナメ。」


 父さんの大太刀が、僕の心臓めがけてまっすぐに振り下ろされた。











『皆、絶対に助けるから!!』


 突然、僕の脳裏にホノカさんの叫び声が響いた。続いて頭の中に、見知らぬ光景が映し出される。


 砕け散る魔導機の中で、必死に脱出機構を操作するホノカさんの姿。彼女は他の乗員が救命カプセルで降下したのを確認してから、自分の脱出機構を作動させた。しかし、直後に起きた機体の爆発によって、彼女は未作動の救命カプセルごと空中に投げ出された。


 そこで、僕はやっと気がついた。これは、ホノカさんの記憶だ。僕らの機体が撃墜されたとき、彼女が体験したことがそのまま、僕の脳裏に流れ込んでくる。


 彼女のカプセルは地上に着く寸前に炎上した。彼女は全身に炎に焼かれたが、爆発によってカプセルから投げ出された。






 そこからは走馬灯のように、場面が移り変わっていく。河童たちとの出会いと別れ。仙女のもとでの修行。そして、大天狗猿多坊との出会いと戦乱の日々。


 長い年月としつきで、彼女は多くの悲劇を目にし、絶望に苛まれた。それでも彼女は、決して諦めることはなかった。現世へ帰るというたった一つの願いを、彼女は手放さなかったのだ。


 彼女の思いに触れた途端、死んでいた僕の心に小さな火が灯った。


 僕は咄嗟に体を翻し、振り下ろされた大太刀を紙一重で躱した。そのまま地面をゴロゴロと転がり、泥だらけになって立ち上がる。






「僕だって、諦めない! 絶対に、ホノカさんと一緒に現世へ帰るんだ!!」


 僕は父さんに向かって叫んだ。僕の体に魔力が満ち、それが白い大鎧と大太刀へと変わる。それを見た父さんは、空気が震えるほどの声で、僕を怒鳴りつけた。


「この期に及んで、なぜ俺の姿を真似る!! どこまで俺に頼ろうとするのだ!!」


 父さんは憤怒の形相で、大太刀を振るい、僕を斬りつけた。僕は咄嗟に自分の大太刀でそれを防いだが、そのまま後ろに弾き飛ばされてしまった。


 ポロポロと溶けるように崩れ去っていく、僕の太刀と鎧。父さんは大太刀を僕に突きつけて、叫んだ。


「脆い! 脆すぎる! その姿こそが、誰かの強さに縋ろうとするお前の弱さそのもの! そんなもので、大切なものを守れるはずがない!」


 父さんは容赦ない斬撃を放った。僕は傷だらけになりながら、それを躱し続けた。父さんが太刀を構え直した一瞬の隙をつき、僕は後ろに飛び下がって間合いをとった。


「醜いお前がなぜ足掻あがく! その醜さが、お前の大切な人を傷つけていると、なぜ分からないのだ!!」


 父さんは僕にそう言った。僕は力の限りの声をあげて叫んだ。






「醜くてもいい! 無様でも構わない! 僕は絶対に諦めない! 皆を守るんだ! そのためには何だってやってやる! 父さんにだって、邪魔はさせない!!!」


 僕の体に再び魔力が満ちる。魔力は実体となって、再び僕の体を包んだ。でも、このとき現れたのは、あの白い大太刀と大鎧ではなかった。


「これは・・強化外装パワードフレーム!!」


 僕が身につけていたのは、皇国軍の強化外装によく似た装備だった。全身をピッタリと覆う強化樹脂の装甲が、僕の体を守ってくれている。


 気密性のある頭部装甲の視界内には、戦闘用魔導機を操縦しているときのようなデジタル表示まで浮かんでいた。自分の魔力で作り出したものが、こんなものまで再現していることに、正直驚いてしまった。






 父さんは再び僕に斬り掛かってきた。僕は咄嗟に左手に装着された小盾シールドを掲げた。魔力で強化された盾は、大太刀の一撃を防いだ。


 衝撃で姿勢が崩れそうになったけれど、強化外装が自動補正してくれて、なんとか踏みとどまることができた。


 僕は目の前にいる父さんに、右手を突き出した。すぐに小さな魔法陣が浮かび上がった。


 てのひらに装備されていた魔力機銃の発射口から、光弾が放たれる。戦闘用魔導機のものと、ほぼ同じ大きさの光の矢が父さんの大鎧に炸裂したことで、僕と父さんはそれぞれ後方へと跳ね飛ばされた。


 僕は強化外装の機能によって踏ん張ることができたけれど、父さんは大太刀を持ったまま、地面に叩きつけられた。






「父さん!!」


 思わず駆け寄った僕の目の前で、父さんはゆっくりと立ち上がった。


「いい一撃だったぞ、カナメ。」


 父さんは大太刀を腰に収めると、穏やかにそう言った。すでにさっきまでの厳しい表情はなく、僕の記憶の中にいる優しい顔に戻っていた。


「やっと自分と向き合えたな。さっき、自分が言ったこと、忘れるんじゃないぞ。」


 父さんは強化外装の上から、僕の頭をポンと叩いた。


「お前が作り出した強化外装それは、お前自身の強さが生み出したものだ。その力で、お前の大切な人を守るんだ。」


 父さんにそう言われて初めて、僕は今まで無意識のうちに、父さんの強さに頼っていたことに気付かされた。


 危機に陥るたび、この大鎧と大太刀は僕を守ってくれた。それ以外のものを作ることはできなかった。それは、僕が父さんの強さに甘えていたからなのだろう。父さんは僕にそのことを教えてくれたのだ。






「父さん、ありがとう。」


 僕の言葉に父さんは黙って頷いた。


「本当に大きくなったな、カナメ。たとえ夢の中でも、こうしてお前と再開できて本当に嬉しかった。」


 その言葉が終わらないうちに、次第に父さんの姿が薄くなり、周囲の風景が白い光に飲み込まれ始めた。


「待って、父さん!!」


「もう時間みたいだ。母さんとマドカを頼む。お前は、俺みたいになるんじゃないぞ。」


 その言葉を残して、父さんはゆっくりと消えていった。僕の意識が白い光に包まれていく。僕は胸に湧き上がる魔力を感じながら、そっと目を瞑った。











 ゆっくりと目を開けた僕は、その場に立ち上がった。胸の中の魔力が全身に満ちたことで、周りの様子がよりはっきりと感じ取れるような気がする。


「そなた、雷霆掌で魔力を刈り取ったはず・・・なぜ、まだ動けるのだ?」


 僕の元から歩み去ろうとしていた淀鈴さんが、足を止めてこちらを振り返る。彼女の目には、驚きとも好奇とも付かない光が浮かんでいた。






「これが俗に言う、友情パワーってやつだぜ。いってて・・!」


 僕の代わりにそう答えたのは、床から起き上がったばかりのエイスケだった。


「エイスケ! 大丈夫!?」


「ああ、なんとかな。ちっと、首が痛いだけだ。」


 彼は少し顔をしかめながらそう言った。かなり痛そうだけれど、無事のようで安心した。


「まさか、お主もか。3日は眠り続けるほどの打撃を加えたはずなのだがな。」


 淀鈴さんの言葉に、エイスケは大きく鼻を鳴らした。






「はん。あんなもん見せられちまったら、のんびり寝てるわけにはいかねえよ。そうだろ、お前ら?」


 よく見ればマリさんとテイジ、それにウズメさんも、意識を取り戻していた。ウズメさんは喉を始め、あちこちに傷を負い、かなり酷い有り様だったけれど、それでも小さくガッツポーズをしてみせた。


「新道先輩の頑張りを見て、私も目が覚めました。絶対に試練を突破しましょう!」


 嗄れた声でそう言った後、彼女は小さく咳き込んだ。マリさんが彼女に駆け寄り、そっと背中をさする。僕たちは、ウズメさんのところに集まった。






「もしかして、皆も僕と同じ夢を見てたの?」


「ああ、見てたぜ。小桜の記憶も、お前と父ちゃんのやり取りもな。」


 エイスケの言葉に皆も頷く。エイスケはニヤニヤしながら、僕の顔を覗き込んできた。


 皆が無事で嬉しい反面、あれを見られてたのかと思うと、ちょっと恥ずかしい。なんで皆が同じ夢を見たんだろう? もしかして、ウズメさんの力なのだろうか?


 僕がそう尋ねると、ウズメさんは小さく頭を振った。


「いいえ、私じゃありません。おそらく・・・。」






「おそらく、穂津媛殿の仕業であろうな。」


 それまで黙って僕たちのやり取りを聞いていた淀鈴さんが、突然そう言った。思わず身構える僕たちの前で、彼女は大きく伸びをしてみせた。


「媛殿の神仙術だな。のう、翁様。これは反則ではないのか?」


 淀鈴さんの問いかけに、闘技場の一段高い場所で僕たちを見守っていた翁様は笑いながら答えた。


「そんなはずはなかろう。この場はお主が術で封じておるではないか。それでも媛殿の願いがこの者たちに届いておるというなら、この者たちと、媛殿の縁がそれだけ強いということじゃろう。それはもう天運というほかないな。」


「くっくっ。なるほど、天運か。ならば、仕方がない。」


 淀鈴さんは小さく笑うと、僕たちに向き直った。






「では、縁の力とやらをみせてもらおう。今度は少しは楽しませてもらえるのだろうな。」


「もちろんだぜ! 新道、お前の力を借りるぞ!」


 エイスケはそう言うと、しゃがみこんで両手を地面につけた。


「我が意に従い、理を示せ!《魔術回路展開》!」


 彼が魔法陣を描くための呪文を詠唱すると、僕たちの足元に、光の線でできた複雑な文様が浮かび上がった。


「なにこれ、体が熱い!」


 驚くマリさんに対して、エイスケが応える。






「新道と俺たちを魔術回路で繋げたんだ。新道、さっきのやつやってみてくれ。」


 僕は精神を集中させ、自分の魔力で体を覆った。体に満ちた魔力が実体化し、強化外装となって僕の体を包む。


 するとなんと、マリさんとテイジの体にも、強化外装が現れた。装備が少し違うだけで、基本的にはまったく僕と同じ物のようだ。


「すごいじゃん、マルちゃん!」


「さっき、新道の戦いぶりを見て、できそうだと思ったんだ。俺は戦いは苦手だが、魔術の調整なら得意中の得意だからな。魔導整備士エンジニア舐めんじゃねーぞ!」


 そう言って笑うエイスケの鼻から、すっと赤い筋が伸びる。


「エイスケ、鼻血が!」


「ああ、流石に魔導機の助けなしで、これやるのはキツい。できるだけ、早く決着をつけてくれると助かるぜ。」


 彼はそう言って不敵に笑った。僕はすぐに立ち上がった。






「行こう!」


 僕の号令で、皆は一斉に動き始めた。


 淀鈴さんが、マリさんに攻撃をかける。マリさんはそれをアクロバットな動きで躱し、逆に爪の攻撃を繰り出した。


「すっごい! めっちゃ動きやすいよ、これ!」


 強化外装によって身体能力が高められたことで、それまで捉えることができなかった淀鈴さんの動きにも、対応できているようだ。


「やるではないか! では、これはどうだ!!」


 淀鈴さんが凄まじい勢いで手刀を繰り出す。彼女の手刀は、またあの黒い稲妻を帯びていた。連続攻撃によって追い詰められるマリさん。しかし、それを救ったのは、彼女の頼れる相棒であるテイジだった。






 二人の間に入ったテイジは、左手に持った大盾で、淀鈴さんの攻撃を受け止めた。そして一瞬動きを止めた彼女に対し、右手に持っていた棍棒を振るった。しかし、豪風と共に放たれたその一撃は、惜しくも淀鈴さんに回避されてしまった。


 二人は巧みに連携しながら、淀鈴さんに詰め寄る。僕は右手から光弾を放って、二人を援護しつつ、エイスケを守った。


「私もお手伝いします!」


 そう叫んだウズメさんは、懐から取り出した人型の呪符を空中にばら撒いた。大量の呪符は、30cm程の木偶人形に変わった。


「お前たち、淀鈴さんの帯を狙うのよ!」


 ウズメさんの号令で、人形たちが一斉に動き始める。






「翁様! 人形に触られるのは、流石に無効であろう!?」


 マリさんたちの攻撃を躱しながら叫んだ淀鈴さんに対し、翁様は高らかに笑ってみせた。


「ほっほっほ。鬼神の里一の戦士の言葉とは思えぬのう。たかだか人間の術を、避けることができぬと言うつもりかな?」


「くっ、この爺め! 面倒なことだ!!」


 言葉とは裏腹に、淀鈴さんは喜色満面で、自分に向かって殺到する人形たちに蹴りを放った。近づいてきていた人形たちは、風に煽られる木の葉のように空中にふわりと吹き飛ばされたが、また地面に着地すると、また淀鈴さんめがけて動き始めた。


「くそ! 軽すぎて打撃が当たらん!!」


 僕たちの攻撃によって、淀鈴さんは次第に追い詰められていった。でも、彼女は恐ろしく素早く、決定的な隙をなかなか見せない。






「ぐふっ! ごほっ!」


 僕の後ろでエイスケが大きく湿った咳きをした。彼の鼻と口からは、血がダラダラと溢れ出ていた。


「エイスケ!!」


「ま、まだ行ける! 俺に構うな!!」


 僕が一瞬エイスケに気を取られた隙を、淀鈴さんは見逃さなかった。弾幕が薄くなったところを狙って、一気に距離を詰めてくる。


「マルちゃん! カナメっち!!」


 マリさんの叫びで振り向いたときには、淀鈴さんがすぐ前まで迫っていた。






「新道先輩!!」


 その時、僕の前にウズメさんが飛び出した。彼女は仁王立ちになって、淀鈴さんの行く手を塞いだ。


「邪魔だ、小娘!!」


 光弾を放とうと狙いを定めた僕の前で、淀鈴さんがウズメさんの胸めがけて手刀を放つ。黒い稲妻を帯びた手刀は、ウズメさんの胸を完全に貫通した。


「ウズメさん!!」


「何いっ!!」


 僕と淀鈴さんの叫びが重なる。僕の目の前で胸を刺し貫かれたウズメさんの体が、あっという間に燃え上がって消えた。






「人形!? しまっ・・・!!」


 棒立ちになった淀鈴さんは、僕が全力で放った光弾を正面から受け止めた。大きく姿勢を崩したものの、なんとかその場に踏みとどまる。


 しかし、その直後、真横の何もない空間に突然現れたウズメさんが、淀鈴さんに向かって全力でタックルした。バランスを崩した淀鈴さんは、ウズメさんをもつれ合うようにして、地面に倒れ込んだ。


「鬼さん! 捕まえました!!」


 地面を転がりながらも、淀鈴さんの帯にしがみついていたウズメさんが、高らかに声を上げた。


「勝負あり! それまでじゃ!!」


 ぬらりひょんの翁様の声が闘技場に響く。すると、僕たちの体を覆っていた強化外装が、空気に溶けるように消えていった。


 ドサリという音に振り返ると、エイスケが前のめりに倒れていた。彼は完全に気を失っていた。


 僕たちはエイスケのもとに駆け寄った。淀鈴さんは苦笑いしながら、少し離れた場所で、僕たちの様子を眺めていた。


 こうして、第一の試練は、僕たちの勝利で終わったのだった。












「いや、あっぱれ。なかなかやるものじゃ。まんまとしてやられた。」


 試練の後、落ち着きを取り戻した僕たちの前で、淀鈴さんは呵々と愉快そうに笑った。


 闘技場はまだ朝の光が差し込み始めたばかり。ずいぶん長い時間戦っていたような気がするけれど、実際はものすごく短い時間だった。エイスケの回復にかかった時間を含めても、おそらくまだ30分も経っていないはずだ。


「これでここでの試練は終わりですよね? 次はどこに向かえばいいんですか?」


 僕がそう尋ねると、淀鈴さんはひらひらと手を振って、僕の質問を遮った。






「まあ、急くでない。次の試練は、根の里じゃが、あそこは妾のように優しくはないからのう。負ければ容赦なく命を奪われることになる。しばらくはゆっくり休んで行くがよいぞ。なんなら、次の試練のために妾が稽古をつけてやってもよい。」


 嬉しそうにそういう淀鈴さんの言葉を聞いて、僕たちは思わず顔を見合わせた。


「気持ちはありがたいですけど・・・どうして、そんなことをしてくれるんですか?」


「それはもちろん、お前たちに勝ってもらわねば、妾が困るからよ。鬼神の里は媛殿を手に入れられぬ。こうなった以上、他の里に取られるのは業腹じゃからな。」


 そう言うと、淀鈴さんはニヤリと笑って、僕の顔を覗き込んだ。






「あとは単純に、そなたたちが気に入ったからよ。実は妾と媛殿は、飲み友達でなあ。以前から、お主のことは聞かされておったのじゃ。第一の試練を鬼神の里が受け持つことになったのも、媛殿の力添えがあってのこと。妾が自ら、そなたたちの力量を見極めさせてほしいと、媛殿に頼んだのじゃ。他の里のものは当然知らぬ。妾と媛殿だけの秘密の約束ぞ。」


 そんな裏取引があったことに、僕たちはすっかり驚いてしまった。彼女はまた、機嫌良さそうに笑ったあと、僕たちに言った。


「媛殿は常々、そなたたちのことを話しておった。『私はちっぽけな火に過ぎない。私の仲間もそう。でも、皆と一緒なら一つの大きな炎になって、どんな逆境にも立ち向かえる』とな。これがまさに、そなたの言う『友情バワー』ということなのじゃろう。」


 僕たちはその後、ホノカさんと淀鈴さんの交流について、いろいろな話を聞くことができた。そして、第一の試練の刻限である、3日後の日暮れまでの間、淀鈴さんに残りの試練のための修行をさせてもらった。






「これだけやっておけば大丈夫であろう。そなたたちと媛殿の悲願が叶うこと、妾も願っておるぞ。」


 鬼神の里を出発する日、淀鈴さんはそう言って僕たちを送り出してくれた。


 こうして僕たちは、次の試練に挑むため、屍霊の住まう地、根の里へ向けて出発したのだった。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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