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59 強敵

錬金術師なりたかったはずなのに、なぜか連勤術師になってしまった青背表紙です。休日と労働を等価交換できます。

「(テイジ、カナメっちは?)」


 迫りくる衛士たちの武装を横凪ぎの蹴りで粉砕したマリは、背後でエイスケたちを守っている幼馴染に通信で問いかけた。


「(まだ、目を覚まさない。エイスケくんが今にも音を上げそうだよ。)」


 エイスケは今、眠りに就いているカナメを背負って、必死にマリたちに着いてきている。戦う力のないエイスケとカナ博士を守るために全力を尽くしている、テイジや女騎士たちの負担を減らすため、エイスケが自分でカナメを運ぶと言い出したのだ。


 一応、カナ博士が急ごしらえで完成させた動作補助用の強化外装を身に着けているため、あまり体を動かすのが得意でないエイスケも、カナメを背負ったまま何とかマリたちについてこられている。ただ、元々の体力のなさは如何ともしがたく、じわじわと進行速度が落ちている状態だった。


「(目的地まであとどれくらい?)」


「(あと二つ上のフロアだよ、マリちゃん。次の廊下を進んだ先の階段を登ろう。)」


 地図を読むのが苦手なマリのために、テイジが戦いながら道案内ナビゲートしていく。本来ならこれは、ホノカが担当する役割だが、彼女は今いない。


 ホノカの現在の様子を思いやり、頭の中に嫌な想像が過る。マリは大きく頭をブンと振ることで、それを振り払った。


「(先行して、待ち伏せしてる奴らをぶっ倒す! テイジはマルちゃんたちをお願い!)」


 テイジの返事を聞く前に、マリは気を失った兵士たちを乗り越え、暗い廊下を駆け抜ける。


 刑部省の中央官庁であるこの建物内に侵入してから、すでに30分以上が経過している。その間、ずっと戦いっぱなしの状態だ。


 進んだ廊下の暗闇の向こうに僅かに光を感じると同時にマリは体を翻し、壁と天井を足場に跳躍することで一気に前進した。


 飛んでくる魔力光弾をものともせず、マリは衛士たちの立て籠もる阻塞バリケードの内側に飛び込む。そのまま彼女は、衛士たちが反応するよりも早く、手近にいる相手に向かって拳を振り抜いた。脅威となる近接武器を狙って放った拳が、その持ち主の強化外装ごと粉砕していく。


 体勢を立て直した衛士たちが魔力で強化した剣や短槍を突き出してくるのを躱し、跳躍して距離を取る。移動した彼女に合わせて対人魔力銃の照準灯が動き、魔力光弾が飛んでくるが、それは気にしない。


 衛士たちの使う携行魔力銃では、マリの強化外装を打ち破ることはできないからだ。せいぜい外装を強化する彼女の魔力を、じわじわと削り取るくらいの効果しかない。


 剣や短槍、手斧などの直接攻撃を受ければさすがに外装を傷つけられてしまうが、この暗闇の中、暗視装置をつけた状態でマリの機動を捕捉できるほどの衛士はそう多くない。ただ目的地に近づくほど、徐々に敵の力量が上がっていることを、マリは気が付いていた。


 この先にはもっともっと手練れの相手が待ち構えていることだろう。後方にいる仲間を思い、彼女の心にジワリと不安が滲む。


 しかし、それを上回る勢いで、彼女の心の中に戦いへの歓喜が湧き上がっていく。闘争を求める獣人としての本能が、更なる強敵との戦いに備えて、彼女の体に魔力を満たしていく。


「うおおおおおおぉぉぃっ!!!」


 感情のままに鬨の声を上げ、マリは再び衛士たちの中に飛び込んでいった。












 大きな衝撃を感じ、僕は咄嗟に体を起こした。


「おう・・新道・・・ようやく・・目が覚めたな・・。」


「エイスケ!!」


 僕は目の前に横たわるエイスケに驚き、思わず声を上げた。彼はつぎはぎだらけのヘンテコな強化外装を身に着けていたが、その顔面装甲フェイスガードが大きく破損し、額から血が流れ落ちていた。


「!! カナメさん! エイスケ氏をこちら早く!!」


 僕の隣に駆け寄ってきたカナ博士と一緒に、僕はエイスケを暗い廊下から近くにある小部屋に運び込んだ。整然と並ぶ事務机と資料棚から、ここは書記官たちの事務室だろうと思われた。


 僕とカナ博士は、荒い息を吐くエイスケを机と棚に挟まれたわずかなスペースに横たえさせた。その直後、女騎士さんの一人が小部屋に入って来て、エイスケを治癒魔法で癒し始めた。


「目的地はこの上のフロアなのですが、敵が多すぎて前進できない状態なんです。足止めされたことで追いついて来た後続の敵に攻撃されました。」


 テイジや女騎士さんたちの守りを掻い潜って放たれた魔力炸裂弾によって、エイスケは負傷したのだと博士が教えてくれた。エイスケは背中に負ぶった僕を庇おうとして、炸裂弾の衝撃を自分の体で受け止めたらしい。


「本当にあんな無茶をして! 隣で見ていて、心臓が止まりそうでしたよ!」


 そう言って目の端に涙を浮かべるカナ博士も、体のあちこちに傷を負っていた。エイスケの治療を終えた女騎士さんは、すぐに博士の傷を癒し始めた。暗い部屋の中が、女騎士さんの治癒魔法が放つ暖かい魔力光でぼんやりと照らし出される。


 治療をする女騎士さんの褐色の肌に青みが差している。これまでの戦いと治療で、すでにかなりの量の魔力を使ってしまっているのだろう。


 治療を終えたエイスケは小さく呻き声を上げて身体を起こした。


「エイスケ!!」


 駆け寄った僕の手を、彼はしっかりと握った。


「・・・俺は大丈夫だ。それよりも阿久猫を何とかしてやってくれ。もう2時間近く、一人で戦ってるんだ。頼む。」


 暗闇の中でも、彼の真剣な目の輝きははっきりと僕の目に映った。


「(カナメ、魔力は十分に回復している。)」


 頭の中に響くクロの声を聞きながら、僕はエイスケに向かって大きく頷いた。


「行ってくるね。」


 僕がそう言うと、エイスケは僕の手を強く握った後、ぐらりと体を傾けた。僕は気を失った彼をそっと床に横たえると、部屋を出て全力で暗い廊下を駆け抜けた。







 上のフロアに続く階段の前で、戦っているマリさんの姿が見えた。彼女の足元には、強化外装を破壊された多くの衛士たちが気を失って倒れている。


「マリさん!!」


 複数の相手からの攻撃を躱しながら反撃の隙を伺っていたマリさんは、僕の声を聞くと同時に大きく後退して僕の隣に立った。


「カナメっち・・・! 来てくれたんだ・・・!!」


 荒い息を吐く彼女の強化外装は、あちこちが破損して体が露出していた。彼女の白い素肌には僅かな火傷や小さな刀傷が残っている。


 それを見た僕の心に、感謝や申し訳なさ、そして怒りといった様々な感情が綯い交ぜになって一気に噴き出してきた。胸の奥から魔力が溢れ出し、僕の体を駆け巡っていく。






「この逆賊どもが!! 死ねえ!!」


 マリさんが後退したことで自由になった衛士たちが、槍や剣などを振りかざして突進してくる。マリさんはそれに合わせ、僕を守ろうと身構えたが、僕は左手でそれを制止し、さっと右手を掲げた。


「《白陣はくじん》」


 僕の呟きに合わせて中空に出現した六角形の防御壁が、衛士たちの武器を跳ね返す。突然の事態に動きを止めた衛士の体に向けて、僕は右手を触れさせた。


「《吸奪きゅうだつ》」


 僕が手を右手を触れさせた衛士はたちまち白目を剝き、その場に崩れ落ちた。右手の義手を通して、クロが強化外装と同期している衛士の魔力を抜き取ったのだ。突然気を失った仲間の姿に驚き、衛士たちが咄嗟に距離を取る。






「おかしな術を使うぞ! 距離を取って撃て!」


 剣を持った衛士の叫びに応え、階段を塞ぐ阻塞から魔力光弾銃が放たれる。


「《碧陣へきじん》」


 僕とマリさんを中心に半球型の光の壁が現れた。衛士たちの光弾は、緑色の光を放つ半透明の壁に触れると同時に、音もなく消え去った。光の壁が吸収した光弾の魔力が、僕の体を通してクロの中に満ちていくのがはっきりと伝わってきた。


 ありえない事態を目の当たりにして、衛士たちの動きが一瞬止まる。


「攻撃は無意味です。後退して道を空けてください。」


 僕は静かに警告を発した。しかし、衛士たちは僕の警告を無視し、攻撃を再開した。僕は《白陣》と《碧陣》でそれを防ぎながら、マリさんにお願いをした。







「マリさん、エイスケたちのところまで下がって。」


「え、でも・・・!」


 戸惑いの声を出す彼女に、僕はゆっくりと話しかけた。


「僕のことなら大丈夫。それよりもこのままだと、マリさんを巻き込んでしまうんだ。」


 マリさんはハッとしたように、フードに隠された僕の顔をじっと覗き込んだ。


「・・・分かった。」


 彼女は固い表情で小さく頷くと、すぐに僕から離れていった。






「!! 逃がすか! 追え!!」


 近接武器を持った衛士たちが、離れていくマリさんを追跡しようと走り出す。僕はマリさんが十分に離れたのを確認してから、小さく呟いた。


「《黒波こくは》」


 僕の足元から黒い魔力の衝撃波が放たれ、同心円状に広がっていった。魔力の動きを阻害する衝撃波によって瞬時に意識を刈り取られ、衛士たちは糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちていった。


 戦場を静寂が包む。一人その場に立った僕は、倒れた衛士たちの間を抜け、素早く階段を駆け上がっていった。






 襲い掛かってくる衛士たちを無力化しながら、僕は目的地へと進んでいった。目指しているのは、要人専用の取調室。笹崎教官の指示書によれば、その奥に宇津井教官が監禁されているらしい。


 取調室へと続く廊下にはいくつかの扉が設けられており、そのすべてを衛士たちが守っていたが、クロの力の前には何の障害にもならなかった。もし仮に、衛士たちがもっと大型で高火力の火器、例えば戦闘用魔導機に搭載されている高出力の魔力機銃のようなものを装備していたら、もう少し突破するのに時間がかかったかもしれない。


 でも、ここは『八十柱結界』に守られた城砦の中だ。そんな高出力の兵器は持ち込むことができないし、仮に持ち込んだとしても十分にその機能を使うことはできない。皇国を守護する結界によって、ある程度以上の魔力の動きは抑え込まれてしまうからだ。


 僕は無人の野を歩くように、廊下を進んでいった。扉には魔力錠がかけられていたが、すべてクロが破壊してくれたから、何の問題もなかった。






 おそらく最後の扉だろうと思われる魔力錠を破壊したところで、後ろから足音が聞こえてきた。


「新道!!」


「エイスケ。来てくれたんだ。」


 僕はエイスケを振り返った。笑顔を作ろうと思ったけれど、顔が引きつったような感じがして上手く笑えなかった。


 ふと見ると、エイスケの壊れた頭部装甲にはフードを被った僕の姿が映りこんでいた。扉に手をかけたまま振り向いたフードの奥の暗闇に、爛々と輝く二つの光が見えた。


 エイスケは僕の足元に倒れているたくさんの衛士たちに目を向けた後、青ざめた顔で小さく唾を飲んだ。






「お前、大丈夫か?」


 僕は思わず、彼の顔を覗き込んだ。


 何を言ってるんだろう? 問題なんか起こるはずがない。もしかして、僕が衛士たちに危害を加えられると思っていたのかな?


 こんな下等な技術テクノロジーしか持っていない種族相手に、この僕が後れを取るはずがないのに。


「もちろんだよ。さあ、早く任務を遂行しよう。」


 僕がそう言うと、マリさんは涙を堪えるような表情で小さく唇を噛んだ。それを見た瞬間、僕は胸の奥がずきりと痛むのを感じた。でも、僕には、その理由を説明できなかった。


 合理的な説明ができないことの違和感から逃れるように、僕は扉を開いて先へ進んだ。






 扉の向こうにはこれまでと同様に、阻塞の向こうに多くの衛士たちが待ち構えていた。ただこれまでと違い、廊下は照明で明るく照らされていた。さらに、衛士たちの奥には、豪奢な官服を着た恰幅のいい中年男性が立っている。


 青ざめた顔で魔力光弾銃を構える衛士たちの向こうから、その男性は僕たちに向かって怒鳴り声を上げた。


「貴様ら! ここがどこか分かっておるのか! 貴様らのやっていることは、皇国に対する重大な反逆行為だぞ!!」


「もちろん十分に理解しています。恫喝のつもりかもしれませんが、そのような問いかけは、何の意味もありません。」


 激高する彼に、僕は分かりやすく事実を伝えた。


「貴様! 平民の分際で、皇都防衛隊指揮官の私を愚弄しおって!!」


 彼はますます怒り狂って大声を張り上げた。まったく話が通じていない。僕は会話を諦め、任務遂行のため、彼に要求を伝えた。


「あなた方が監禁している宇津井教官を解放し、引き渡してください。」


「撃て!!」






 衛士たちが一斉に光弾を放つ。僕はそれを《碧陣》で吸収しながら、これまでと同じように《黒波》で彼らを無力化しようとした。


 しかしすぐに、後ろにエイスケたちがいるのを思い出した。このままでは、エイスケたちまで《黒波》に巻き込んでしまう。


 まったく面倒なことだ。大人しく後ろで待っていてくれればいいのに、わざわざここまでやって来るなんて。


 十分に戦う力がないのに僕についてくるのは、不合理極まりない選択だ。完全に足手まといじゃないか。なんでそんなことをするんだろう?


 いっそのこと、敵と一緒にエイスケたちも排除してしまおうか。戦う力がないなら、排除しても任務の遂行には何の問題もないはずだ。


 そう、戦う力がないなら。戦う力が力がない・・から?






『魔力を持たない私でも、皆の役に立てることが、本当にうれしいの。』


 記憶の中にある愛おしい笑顔が、僕の心に閃いた。その瞬間、分隊の皆と一緒に過ごした記憶が一気に脳内に溢れ出し、僕の思考を押し流していった。


 そうだ。皆は僕を心配してくれているんだ。それなのに僕は・・・!


 ついさっきまで自分の考えていたことを思い出し、ゾッと怖気が走った。自分が自分で無くなっていくことを自覚した僕は、強い恐怖を感じ、頭を抱えて思わずその場にしゃがみ込んだ。


「新道!!」


「マルちゃん、カナメっちをお願い!!」


 エイスケが僕に駆け寄って来て、僕の体を庇うように抱え込む。その横を通って、マリさんとテイジが衛士たちに向かって飛び出した。






「エ、エイスケ・・・! 僕は・・・僕は!!」


 僕は混乱してエイスケに肩を掴んだ。その拍子にフードが外れて、僕の素顔が露になる。


「ば、化け物!?」


 僕の顔を見た衛士と中年男性が、悲鳴のような叫びを上げる。僕は目を傷める照明の眩しさも忘れて、エイスケの顔を覗き込んだ。


 エイスケは眉をぐっと寄せて、僕の顔をじっと見つめた。僕は胸に激しい痛みを覚えた。


 もしかしたら、僕が考えていたことをエイスケは感じ取っていたのだろうか。そう思った瞬間、僕はこれまで以上に強い恐怖を感じた。


 エイスケたちは、人外の力を持った僕のことを恐ろしいと感じているのかもしれない。人間性を失って変わっていく僕から離れたいと思っているかもしれない。僕は彼の顔を見ていられなかった。


 嫌だ。いやだ。イヤだ。


 そんな言葉が強く胸を駆け巡る。しかし、それを彼に伝える勇気がどうしても出なかった。体の震えが止まらない。それを伝えた時、彼がどんな顔をするのか想像しただけで、僕は足元から世界が崩れていくような感覚に襲われた。






「おい、新道!!」


 エイスケに怒鳴りつけられ、僕はハッと顔を上げた。彼の黒い瞳には、機械と魔獣と人間とを混ぜあわせたような顔の僕が映っていた。化け物そのものの自分の姿を見られるのが恐ろしくて、僕は慌ててずり落ちたフードに手をかけた。


 でも、彼は僕がフードを引き寄せるよりも早く、僕の体を強く抱きしめた。その瞬間、僕の思考が停止し、周囲の戦闘音が一切感じられなくなった。彼は僕の体を離し、僕の顔をじっと見た。


「馬鹿野郎。なんて目をしてやがる。」


 そう言った彼の小さな目には、涙が光っていた。


「どうせ、また余計なこと考えてたんだろう。わけのわかんねえ力に振り回されやがって、この中二病野郎が。」


 僕の左手に落ちた彼の涙は物凄く熱かった。その熱は、僕の心に暖かな火を灯してくれた。






「ごめん、エイスケ。僕は・・・。」


 僕はエイスケに謝ろうとした。でも彼は僕の言葉を遮り、僕の左肩を拳で軽く突いて言った。


「俺たちは分隊チームだ。そうだろう、分隊長?」


「・・・うん!」


 僕は彼と一緒に立ち上がった。すでに廊下での戦闘は終わろうとしていた。マリさんとテイジは飛んで来る光弾を外装で防ぎながら、次々と衛士を無力化していった。






「く、くそっ!!」


 戦闘の趨勢を見た指揮官は、部下をその場において逃走した。


「あっ!! 待て!!」


 最後の衛士を片付けたマリさんがすぐに追いかけて走る。しかし、いくらも行かないうちに、突然目の前に落ちてきた巨大な金属製の格子によって行く手を塞がれてしまった。精霊樹の強化樹脂が一般的な素材となっているこの大日本皇国では、金属製のものなど滅多にお目にかかれない。


「卑怯だぞ、こんにゃろめ!!」


 そう言って金属格子にガンガンと拳をぶつけるマリさんを、指揮官は離れた場所から青い顔で眺めていた。彼女の拳をまともに受けても傷一つ付かないところから見て、おそらくただの金属ではないのだろう。


 マリさんが格子を破壊できないのを確認した指揮官は、荒い息を整え終えた後、手に持った魔力端末に向かって叫んだ。


「こうなれば仕方がない。ヤマトをだせ!!」


 その叫びに呼応したかのように、廊下の奥からゴンという大きな音が響く。そして暗闇に沈む長い廊下の向こうからゆっくりと誰かがこちらへやって来る足音が響いてきた。それに伴って、悍ましい魔力の気配がじわじわとこちらに伝わってきた。


「カナメっち、気を付けて。」


 金属格子を叩いていたマリさんがさっと体を翻して身構える。頭部装甲の内側に見える彼女の髪は、危険を察知した猫の毛のように逆立っていた。テイジの棍棒を握る手にもぐっと力が籠っていた。二人は僕と同じように、近寄ってくる存在の圧倒的な威圧感を感じ取っているようだった。






「やあ、また会ったな。だが随分と、気色悪くなったもんだ。」


 闇の中から現れたのはひょろりとした金髪の若者だった。黒いタンクトップにカーゴパンツと身に着けた彼は、僕の方を見て憎々し気に顔を歪めてみせた。彼を見たマリさんは、怒りに任せた叫び声を上げた。


「お前! あの時の!!」


「ジン・・・やっぱり生きてたんだね。」


 僕が名前を呼ぶと、ジンは意外そうに目を僅かに見開いた。


「俺の名をよく覚えていたな。」


 彼は少し表情を引き締めると、僕とまっすぐに目を合わせた。






「俺はジン。ジン・ヤマトだ。だが、ヤマトって名は嫌いでな。ジンって呼んでもらえて嬉しいぜ、カナメ。」


 ジンはそう言って、鉄格子の向こう側から僕たちの姿を順番に眺めた。


 クロの秘密を探り出すために僕を誘拐したのが、このジンという青年だ。とんでもないサイコパスで、恐ろしい能力を持つ強敵。団長さんの一撃で命を落としたと思っていたけれど、死んではいなかったようだ。


 あの時、体をぐちゃぐちゃに潰されたはずなのに、今の彼には傷一つ見当たらない。それどころか、以前とは感じる威圧感が段違いだ。おそらく、彼が僕たちを遮る最後の障壁になるだろう。


 僕たちは鉄格子を挟んで、お互いに見つめ合った。ただ黙って立っているだけなのに、静かな闘気がじわじわを伝わってくる。






 彼の闘気に引きずられるように、僕の魔力もじわじわと高まった行く。それにつれ、僕はまるで鏡を見ている時のような奇妙な感覚に囚われた。顔立ちも、身長も、年恰好も、何一つ共通点がないにも関わらず、僕はなぜか、彼が自分にそっくりだと思った。


 その理由は全く分からない。でも、僕と彼が闘う運命にあることだけは、なぜかはっきりと確信できた。そして、彼が僕と同じように感じていることもまた。


 空気が音を立てるのではないかと思うほどに、闘気と魔力が張り詰めていく。戦いの時は、刻一刻と近づいてきていた。

読んでくださった方、ありがとうございました。校正する時間が十分になかったので、後で書き直すかもしれません。すみません。

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