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54 怒りと悲しみ

ネットがなかなかつながらず、とても困っています。

 僕は笹崎教官と一緒に、輸送コンテナの牽引艇へと向かった。狭い階段を昇って指揮所へ入ると、2人の男性が僕たちを出迎えてくれた。髪を短く刈り込んだ細身の長身男性は、この部隊を指揮する隊長の花村さん。母さんより少し若く見えるから、多分20代後半くらいだと思う。


 花村さんの後ろでタブレットを抱えている、メガネを掛けた神経質そうな人は、花村さんの副官さん。彼は僕たちが部屋に入って来てからずっと、ひどく緊張した様子だった。


 花村さんは笹崎教官の後ろに立っている僕の姿を見て、一瞬目を細めた後、僕たちを席に案内してくれた。


 案内に従って席につく。狭い指揮所内には不釣り合いなほど大きい簡易テーブルに、僕と教官は並んで座った。大きさから考えて、おそらくこのテーブルは、後から持ち込んで設置したものじゃないかな。


 花村さんたちは僕たちの向かい側に腰掛けた。僕の正面に座った副官さんは、フードの中の僕と目を合わせた後、「ヒッ」と小さく声を上げて息を呑んだ。慌てて目を逸らした彼に、僕は心の中で「ごめんなさい」と謝り、さり気なくフードを引き下ろしてそっと視線を下げた。


 席についた後すぐに、花村さんが話し始めた。






「まずは我々を救ってくれたことに対して、礼を言わせてほしい。ありがとう。本当に感謝している。」


 花村さんはそう言って頭を下げた後、今回の一連の出来事について説明をしてくれた。


 花村さんたちは輸送コンテナ艇の護衛部隊ではなく、刑部省直属の特殊部隊だそうだ。普段は御所のある京都で、治安維持や犯罪者捕縛を担当しているらしい。


 でも今回は国家転覆を図る犯罪者確保のため、輸送コンテナ部隊に偽装して、九州まで遠征してきたのだそうだ。そしてその犯罪者というのが、なんと僕たち222分隊のことだったらしい。


「我々は異世界人の超技術を秘匿している君たちを、この場所まで誘導し、捕縛するよう命令を受けていた。首謀者である宇津井上級空佐と君たちを引き離しすとともに、君たちが抵抗した際に一般皇民への被害が及ばないようにするという目的があったからだ。」


 それを聞いた僕は思わず「えっ」と声を出して顔を上げた。僕の目の前にいる副官さんは、ビクッと体を震わせた。






「つまり今回の実習そのものが、我々を捕縛するための作戦だったというわけですね?」


 教官の言葉に花村さんは無言で頷いた。ということは、本来僕たちが参加するはずだった皇国軍の実習に参加できなくなったのも、このことが原因だったのか。僕はそこまで考えて、やっとあることに気づいた。


「それじゃあ、学校に残っている宇津井先生や団長さんたちは、どうなっちゃったんですか?」


 思わず少し強い調子で僕がそう声に出すと、副官さんはたちまち顔を強張らせた。僕は急に大きな声を出したことが申し訳なくなり、小さな声で「すみません」と謝った。すると花村さんが僕の方に向き直った。


「いや、謝る必要はない。君がそう思うのは当然のことだ。」


 花村さんはそう言うと、少し考えるよな表情をしてから、自分でも何かを確認しているような口ぶりで話し始めた。







「宇津井空佐は、君たちがこの作戦に出発すると同時に捕縛されたと聞いている。おそらく刑部省の上層部が直接動いているはずだ。また、君たちに協力している異世界人や、君たちの家族にも捕縛の手は及んでいる。」


「家族にまで!?」


「ああ、反逆に関わった者とその協力者全員を捕縛しろと言うのが、私たちが受けた命令だった。もっとも、それはうまくいかなかったようだが。」


 花村さんは自嘲気味にそう言うと、ちらりと教官に目を向けた。教官は僕に向かって小さく頷いた。


「君の家族の身柄は宇津井先生の協力者たちが安全な場所で保護していると、カナ博士から聞いている。宇津井先生は刑部省に捕まってしまったが、まあ、あの方なら簡単に殺されたりはしないはずだ。それに団長殿も動いているしな。」


 教官はそういうと、意味ありげな表情で僕と花村さんの方へ素早く視線を動かした。いろいろ聞きたいことはある。けどそれは多分、この場では話せないことなのだろうと、僕は何となく察することができた。


 母さんやマドカのことが心配だけど、とりあえず無事でいるということが分かったので、今は口を閉ざすことにした。


 花村さんは教官に僕から教官に目を移すと、軽く息を吐いて言った。






「慎重に動いているという話だったのだが、そちらには筒抜けだったようだな。」


「いえ、こんなこともあろうかと事前に準備しておいただけです。それに、今回の件に関しては、どうやらあなた方も被害者のようですし。」


 教官の言葉に花村さんは難しい顔で小さく頷いた。


「ああ、まったくその通りだ。どうやら知らずしらずの内に、厄介なことへ首を突っ込んじまったらしい。」


「では今回の件に関しては全く、心当たりがないと?」


 教官の問いかけに花村さんは少しの間、黙り込んだ。






「・・・ないわけではない。」


「隊長!!」


 花村さんが呟くように放った一言に、副長さんが切迫した声を上げる。花村さんは副長さんの方へ顔を向けると「いや、大丈夫だ」と言って、また教官の方へ向き直った。


「数か月前、俺たちは皇都内である犯罪組織のアジトを急襲し、そこにいる連中を全員捕まえた。だが、その直後にその連中は全員行方知れずになったんだ。捕縛の際に押収した資料ごとな。」


「随分きな臭い話ですね。」


 教官の淡々として一言に、花村さんはニヤリと口の端を歪めた。


「ああ。ちなみにこの件に関しては、記録が一切残っていない。長月部隊おれたちの出動記録まで、すっかりなかったことになってるのさ。出動報酬だけはもらえたが、ご丁寧なことに日時情報まで出鱈目にしてあった。今ではその件を照会しても何も出てこない。徹底した排除ぶりだろう?」


 そこまで言った後、花村さんは表情を引き締めた。






「そして今回の潜入・捕縛命令を受けたってわけだ。俺たちが最も苦手とする、不慣れな土地での野戦任務をな。今思えば上層部うえの連中は、最初から俺たちごと君たちを抹殺するつもりだったんだろう。俺たちは君たちを弱らせて足止めするための『捨て石』だったってことだ。」


 花村さんの言葉を聞いて、隣に座っていた副長さんはたちまち顔を青ざめさせた。確かにそんな話を聞かされたら、平気ではいられないだろう。彼の反応を見て、僕は花村さんの話が真実なのだということがはっきりと分かった。


「その組織とは、いったい何者なんです?」


 教官の問いかけに、花村さんは副長さんへ視線を投げた。副長さんは手元のタブレットを見ながら、緊張した声で説明を始めた。






「捕縛対象となったのは皇都内で誘拐・人身売買を行っていた犯罪組織でした。そちらに関しては被害者やその家族からの通報を基に、我々の部隊が捜査を行い、全容を把握しています。」


 対象となったのは、花村さんたちが日頃の任務で相手をしている『ごく普通の犯罪組織』の一つであり、何ら不審な点はなかったそうだ。でもそこまで話したところで、副長さんの歯切れが急に悪くなった。


「しかし・・・不審な点がありました。押収した資料の中に、組織が被害者を売り渡した相手先の一覧リストがあったのですが、一つだけ詳細を確認できない取引先があったのです。」


「その名は?」


「一覧にはただ『回帰党』とだけ記載されていました。売買された被害者の安否も不明のままです。」


 少し困惑した様子で副長さんがそう言った後、その場に沈黙が降りた。






「・・・『回帰党』ですか。聞いたことがありませんね。」


 しばらくしてから沈黙を破った教官は、表情を全く変えずそう言った。花村さんはそんな教官の口元をじっと見つめていた。


「俺たちの心当たりと言えばそれぐらいだな。」


 花村さんの言葉を聞いた教官は、彼に問いかけた。


「今後、あなた方はどうするつもりですか?」


 ほんの一瞬、副長さんが花村さんの方へ不安そうな視線を投げた。それに気づいた花村さんは小さく苦笑してから話し始めた。


「もちろん作戦の成否にかかわらず、今回の経緯を報告をするために帰投する。作戦開始前の打ち合わせでは、大宰府城砦の刑部司ぎょうぶのつかさのところへ行くことになっていた。おそらく俺たちを裏切って嵌めた張本人のところに行くのは釈然としないが、これも宮仕えの辛いところだ。」


「そんなところに戻って大丈夫なんですか?」


 思わずそう問いかけた僕に、花村さんはニコリと微笑んで見せた。






「まあ、今回の作戦失敗の責任を問われて、降格・部隊解散くらいは命じられるかもしれない。だが、一応は俺たちも刑部省の公務員だからな。いきなり投獄されるようなことはないだろう。仮にそうなったとしても、責任はすべて隊長である俺が取るつもりだ。」


「隊長、それは・・・!」


 思わず立ち上がりかけた副長さんを手で制して、花村さんは言った。


「お前の言いたいことは分かる。だが、俺もむざむざと殺されるつもりはない。せいぜいあがいてみせるさ。その間、お前は隊の連中のことをしっかり見てやってくれ。」


 副長さんは「はい」と絞り出すような声で言った後、ぎゅっと目を瞑って黙って頷き、下を向いてしまった。


 花村さんは副長さんから目を離すと、フードの奥の僕の目を覗き込むようにして、まっすぐにこちらを見た。






「そんなに心配しなくても大丈夫。この仕事をしている以上、覚悟は出来ている。今はむしろ、君の家族が無事だと聞いて、正直ホッととしているんだ。君が倒したあの呪術師を見るに、上層部うえの連中は形振り構わないやり方をするつもりらしいからな。」


 僕は何と答えたらよいか分からず、言葉に詰まってしまった。すると僕の隣に座っていた教官が、花村さんに尋ねた。


「あの呪術師も、あなた方の仲間なのですよね?」


 花村さんは、途端に苦虫を噛み潰したような表情をしてみせた。


「刑部省中央に12ある特務部隊の一つ、『師走』に所属する呪術師だ。優秀だが、非合法なやり方で任務を遂行する連中が集まっている部隊でね。皇都を守るという名目はあるものの、やっていることは犯罪者と大差ない奴らさ。」


 彼は吐き捨てるようにそう言った後、僕の方を向いた。






「あのビャクドウは『師走』の中でも、悪辣なやり方をすることで有名なんだ。まさかその正体が、若い女だったとは驚きだったが。君が奴を倒してくれて本当に助かった。君は人間なのかい?」


「あ、はい。一応、そうです。」


 まだ鏡を見ていないけれど、僕の見た目はかなり人間離れしてしまっているようだ。クロが言っていた「人間性を失う」って言葉の通りになったということなのだろう。彼は僕の方を気遣うように見た。


「・・・そうか。ありがとう。」


 彼はそう言って僕に左手を差し出した。僕は少し躊躇したけれど、同じように左手を差し出し、彼と握手をした。長い指の先に鋭い爪のある僕の手に触れた時、彼は一瞬、驚いたように動きを止めた。でもその後すぐに、僕の手を力強く握った。彼の手は燃えるように熱かった。まるで熱い湯に手を浸けているような感じがした。手を離した後も、僕の手には彼の熱がじんわりと残ったままだった。


 すると、僕らの握手する様子を横目に何かを考えている様子だった教官が、花村さんに話しかけた。






「花村隊長、もしよかったら、私たちをあなた方に同行させていただけませんか?」


 花村さんと副長さんは、ぎょっとした顔で教官の方を見た。


「そんなことをすれば、君たちは捕縛されてしまうぞ!」


 驚く二人に向けて、教官は極めて冷静に小さく頷いてみせた。


「それについては私に考えがあります。私たちも元々、大宰府に行くつもりだったのですよ。ですがあなた方が協力してくだされば、より安全に目的地に到達することができます。上手くいけば私たちとあなた方、双方にとって良い結果になるかもしれません。」


 教官はそう言って、僕たちに考えを説明してくれた。はじめは半信半疑の様子だった花村さんたちも、教官の説明が終わる頃には納得した表情に変わっていた。






「君の言う通り、そうなれば俺たちとしてもありがたい。どうせこのままでは処分を待つ身だ。君の言うチャンスに賭けてみよう。」


 そう言って、花村さんと教官は固い握手を交わした。教官は僕の方を向いて尋ねた。


「今の話をどう思う、新道。お前は222分隊の隊長として、賛同してくれるか?」


 教官の考えは確かに理に適っているし、上手くいけばいろいろな人を同時に救うことができると思った。でも僕にはその前に、どうしても確認しておかなくてはならないことがあった。


「答える前に、花村隊長にお尋ねしたいことがあります。」


 僕の言葉で、花村隊長と教官は表情を硬くした。多分、僕が何を聞くつもりなのか、分かったのだろうと思う。僕は声が震えないように気を付けながら、花村さんに問いかけた。






「222分隊の小桜ホノカ隊員の安否について、知っていることを教えてください。彼女は僕の・・・婚約者です。」


 副長さんが大きく息を呑んで凍り付いたように僕の方を見た。


 花村さんは厳しい表情で僕に頷いた。そして隣にいる副長さんからタブレットと受け取ると、そこに一枚の画像を表示させて僕に示してきた。そこに映っていたのは、爆散して黒焦げになった《白鷹》の救命脱出カプセルだった。


「君たちの機体から落下したカプセルの内、乗員が発見できなかったのはそのカプセルだけだ。」


 右目の義眼を使って詳しい解析をするまでもなく、その画像を見ただけで中にいたホノカさんが助からなかったことがはっきりと分かった。それほど激しく、彼女の乗っていたカプセルは損傷していた。


 怒りとも悲しみとの付かない感情が溢れ出し、目の前が一瞬暗くなった。






「新道!!」


 教官から鋭い声をかけられて初めて、僕は自分が花村さんの首を掴み上げていることに気が付いた。花村さんは苦しそうに顔を歪めながらも、一切抵抗せず、静かな視線で僕のことをじっと見つめていた。


「(カナメ、体内の魔力圧が急激に変化している。)」


 脳内にクロの冷静な声が響く。だがそれ以上に、僕の心の中には激しい殺意と破壊の衝動が渦巻いていた。


 この連中がホノカさんを殺したんだ! 絶対に許せない! 彼女を殺した連中を、同じように殺してやる!!


 衝動の高まりに応じて、魔力が胸の奥から次々に溢れ出してくる。僕はより一層、花村さんの首を掴み上げている両手に力を込めた。






 僕の鋭い爪が花村さんの首に食い込み、血が滴る。彼の首の骨がミシッと音を立てた瞬間、僕に吊り上げられた彼の胸ポケットからマギホが床に滑り落ちた。


 落ちた衝撃でマギホの待ち受け画面が表示される。そこに映っていたのは、マドカと同じくらいの年齢の女の子と、その母親らしき若い女性だった。それを見た瞬間、僕の脳裏にホノカさんとマドカの泣き顔が過った。


「(クロ、僕の魔力を吸収して!)」


 脳内で僕が上げた声に反応して、クロが僕の魔力を吸収していく。体の中にあった強大な力が不意に失われたことで、僕は激しい脱力感を感じた。そのことで冷静さを取り戻した僕は、花村さんから手を離した。






 激しく咳き込み、副長さんに介抱される花村さんを、僕は呆然と見つめた。破壊の衝動が失われた分、悲しみと喪失感が僕の胸を満たしていく。


「・・・すみませんでした。」


 僕は立ち尽くしたまま、絞り出すようにようやくその言葉を口にした。花村さんは、僕の正面に向かい合うように立った。


「君の怒りは理解できる。だがすべては任務の上でのこと。俺は隊長として、君に謝罪することはできない。それに、許してくれというつもりもない。それは俺が楽になるためだけの言葉だからだ。」


 僕は溢れ出す悲しみに押しつぶされそうになりながら、その言葉を聞いていた。


「君の怒りはすべて俺が受け止める。俺を殺したければ、殺してくれて構わない。」


 その言葉を聞いて、僕はその場に崩れ落ちた。






 なんだよ、それ! ずるいじゃんか! そんなこと、出来るわけないだろう! 僕に、この子からあんたを奪えっていうのか? あんたを殺したって、ホノカさんが戻ってくるわけじゃないのに!


 僕はそう力いっぱい叫んだ。でも、僕の口から出てきたのは、自分でもよく分からない獣のような雄叫びだけだった。


 僕は床にうずくまったまま、力の限りに泣いた。不思議と涙は出なかった。これも「人間性の喪失」の一つなのだろうかと、僕は心の隅でぼんやりと考えた。






 どのくらいそうしていたのだろうか。泣き疲れた僕は、引きずるように体を起こした。いつの間にか隣にいた教官が、僕に手を貸して僕を席に着かせてくれた。


 椅子に座ることはできたが、心が痺れたような感じがして、上手くものを考えることができなかった。教官や花村さんが何か話しかけているけれど、よく分からなかった。すると、脳内でクロが僕に話しかけてきた。


「(カナメ、君に伝えておきたいことがある。)」


 クロの声は痺れた心の中にもよく響いた。僕はそれを非常に煩わしいと思った。


 静かにしてくれと僕が言いかけた時、クロはいつもと同じ冷静な調子で僕にこう告げた。






「(私は君に伝えたはずだ。小桜ホノカの『所在は不明』だと。)」


 僕はクロの言葉を心の中で何度も反芻した。そして、突然その意味を理解した。


「なんだって!?」


 そう叫んで突然立ち上がった僕を見て、教官たちは凍り付いたように動きを止めた。でも、僕はそんなことにどうでもよかった。


「(小桜ホノカは死亡していない。しかし所在は不明だ。)」


 クロの声は冷静だったけど、ほんの少しうんざりしたような雰囲気があった。


「ホノカさんは生きているってこと!?」


「(死亡していないと言っている。現在どんな状態なのかは不明だ。爆発の規模からみてかなりの傷を負っている可能性が高い。しかし、死亡したと断定できる痕跡は感知していない。)」


 クロは非常に回りくどい言い方で僕にそう告げた。ホノカさんは生きてどこかにいる! 僕は思わずその場に立ち上がって、大きく両手を突き上げた。






「どういうことだ、新道?」


「一体何があったんだ? それが異世界人の力なのか?」


 突然の僕の変わりように驚いた教官と花村さんが口々に問いかけてくる。僕はクロから聞いたことを、二人にそのまま伝えた。


「ということは、長月部隊おれたちよりも早く脱出カプセルを見つけ、その少女を連れ去った者がいるということか。考えられるとすれば、ビャクドウや『師走』の連中だが・・・そんなことが本当に可能だろうか?」


 僕の話を聞いた花村さんは、僕の話を信じられないようだった。確かに多くの人の目を避けて傷を負ったホノカさんを連れ去るのは難しいだろうし、またその目的も分からない。


 でも、僕はそんなことはどうでもよかった。






「くわしいことは僕にも分かりません。でも彼女が死んでいない以上、誰かが連れ去ったと考えるのが自然だと思います。」


 僕はきっぱりとそう言った。こうなると、あのビャクドウと名乗った女呪術師に逃げられたのが本当に痛い。あの時、何を置いても捕まえておくべきだった。後悔先に立たずとはまさにこのことだ。


「なんにせよ、この一件を裏で操っていた者に直接聞くのが一番だろう。小桜もそこにいるかもしれん。そうだろう、新道?」


「はい、教官!」


 僕はそう返事をした。さっきまでの悲しみが嘘のように消え、僕の心に希望が満ちる。今こうしている時にも、彼女はどこかで助けを求めているかもしれないのだ。一刻も早く彼女の所へ行きたい!


 こうして僕たちは、今回の事件の黒幕が待つ地、大宰府城砦へと向かうことになったのだった。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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