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50 湿原の戦い 中編

先週投稿できなかった分を投稿しています。こちらは中編です。

読み返したら、前編と全く同じ引きを書いてました。引き出しが少なくて、恥ずかしいです。上手い引きが書けるようになりたいです。

 花村とアヤメが対峙している一方で、高速艇内では必死に端末を叩いていたエイスケが、やっと顔を上げて博士に声をかけた。


「博士、こっちは終わった! そっちはどうだ!?」


「こちらもあと少しで・・・よし、完了です!」


 その声と共に機関部から走ってきた博士が操縦席に飛び込む。


「では行きますよ!! 高速艇、浮上!!」


 博士の操縦桿の操作に従って、高速艇はゆっくりとその高度を上げた。


「やった! 成功です!!」


 緩慢な動きで高速艇が動き出したのを見て、直掩に当たっていた女騎士たちがすぐに後退してくる。エイスケはハッチと降下梯子を操作して、彼女たちを艇内に収容した。 


 その間、高速艇の窓を開けた博士は、手に持ったライフル型の銃で、追いすがる兵士たちへ向け出鱈目に威嚇射撃を繰り返していた。






「博士、それは?」


「高速艇の魔力炉の一部を使って作った魔力光学銃です。出力は弱いですし、弾数にも限りがありますが、撤退時の威嚇くらいには使えますよ。そっちがエイスケ氏の分です。」


 女騎士たちを収容し終えたエイスケの問いに、再び操縦席に戻った博士が応える。エイスケは座席に置いてあった白く輝く銃を取り上げると、開け放した窓から構えた。彼の放った一撃は過たず、狙った兵士の脚部装甲に命中し、その兵士を転倒させた。


「エイスケ氏、上手いですね!」


「エイムには結構自信がある。まあ、実銃を撃ったのは初めてだけどな。」


 博士とエイスケは顔を合わせてニヤリと微笑みあう。二人は同じFPSゲーム内でチームを組んでいる。今エイスケが手にしている銃は、そのゲーム内で彼が使っている銃と全く同じものだった。






 マリたちを回収すべく、博士は高速艇をゆっくりと動かした。だがその時、ぱあっと強烈な光が戦場全体を包んだ。


「ぎゃああああ、目が! 目がああ!!」


 夜目の利く闇小鬼ゴブリン族の博士は、突然出現した光をまともに見たことで、両目を押さえてその場に崩れ落ちた。


「照明弾!? バカな、なんてことを!!」


 機体整備用のゴーグルをつけたままだったエイスケは、カナ博士に代わって操縦席に座った。うずくまったままの博士に、女騎士が駆け寄りすぐに癒しの呪文を唱える。






 照明弾が照らす闇の向こうに、エイスケの予想通り青白い光の粒が次々と浮かび上がっていく。その光が戦場を取り囲むように、徐々にその数を増していく。彼は顔を引き攣らせて叫んだ。


「やばいことになった! 悠長に戦ってる場合じゃねえ。早く脱出しないと俺たちもあの連中も、揃って全滅だぞ!! 阿久猫、テイジ、どこにいる!! 笹崎教官、返事をしてください!!」


 隊内通信でそう、仲間たちに何度も呼び掛ける。彼は迫りくる危険を避けるように高速艇の高度を上げると、仲間たちの反応を必死に探し始めた。











 戦場が明るい光で照らされた直後、マリとテイジは咄嗟に目を伏せることで何とか視界を失うことを免れていた。だが暗視装置を使っていた兵士たちの多くは視界を奪われ、その場に蹲った。残っている僅かな兵士たちは、仲間を救うため動き始めたが、すぐに戦場の異変に気付いてその動きを止めた。


 照明弾の照らす薄明りの中、戦場を無数の青白い光が漂っている。まるで蛍の大群を見ているような光景だ。だが直径5㎝程のその光の中にいるのは、ふわふわとした大きなひれを持つ、不思議な魚だった。


「な、なんだ、こいつら?」


 細身の金魚のような美しい魚は、水中を泳ぐようにゆらゆらと兵士たちに近づいて行く。兵士の一人がその魚を確かめようとして、魚に向かって手をかざした。


 その途端、その魚は体を高速で回転させ始めた。体を中心にひれが畳まれ、ドリルの刃のような形状に変化した魚は、信じられない速度で兵士に向かって突進した。


「危ない!!」


 兵士に魚がぶつかるより早く、猛然とダッシュしたテイジがその兵士を突き飛ばす。ドリルのように回転しながら、魚はテイジの強化外装に深々と突き刺さった。






「ぐうっ。」


 思わず苦悶の声を上げるテイジ。強化外装を着ていても打ち消すことのできないほどの衝撃によって、テイジの骨がぎしりと悲鳴を上げる。


「テイジ、大丈夫!?」


 テイジは痛みを堪え、自分の胸部装甲に突き刺さった生物を引き抜いた。その痛みから、おそらく肋骨が折れているだろうとテイジは確信した。


「装甲を砕かれただけだよ。でもこの状況はまずい。これを見てマリちゃん。」


 テイジは抜き取った魚をマリに見せた。青白い弾丸のように固まった魚は、まだわずかに動いている。テイジは魔力を込めた拳で、魚を握り殺した。






「これって、『弾丸魚バレットフィッシュ』!! なんて数なの・・・!!」


「多分、あの光に寄ってきたんだ。下手すると、この辺りの群れ全部を呼び寄せたかもしれない。」


 テイジは驚き戸惑う周囲の兵士たちに向き直ると、頭部外装を外して大声で叫んだ。


「早く地面に伏せろ!! 立ってるとこいつらの餌食になるぞ!!」


 叫んだ直後、テイジもすぐに体を沈める。直後、彼の顔があった場所を青白い光が幾筋も通り過ぎていった。その光景を見た兵士たちはすぐに地面に体を伏せた。


「すぐに丈夫な物陰に隠れるんだ。早く!!」


 地面に伏せたままテイジが叫ぶ。しかし多くの兵士たちは動かないままだった。恐怖で動けないのか、あるいは照明弾の衝撃で気を失ったのか。


「大変だ。このままじゃ・・・!」


 拳を握って呟くテイジ。そんな彼にマリが体を伏せたまま近づき、声をかけた。


「テイジ、いったんマルちゃんたちに合流しよう!」


「そうだね。分かった。」


 エイスケに自分たちの位置を知らせるため、二人は通信装置を起動させた。











「な、なんだ?」


 突然自分に向かってきた青白い光を躱した花村は、思わずそう声を上げた。アヤメは体を地面に伏せさせたまま、目の前の花村に呼びかけた。


「すぐに部下たちを伏せさせろ!! あの魔獣は強化外装も貫通してくる。魔力で外装を強化できない一般兵は即死だぞ!!」


 花村の指示を受けた兵士たちが一斉に地面に体を伏せる。伏せるのが遅れた兵士が魚の一撃を喰らって悲鳴を上げた。


「こうなった以上、私たちが争っている場合じゃない。ぐずぐずしてると全員死ぬ!!」


 アヤメは体を伏せたまま、数m先にいる花村に叫んだ。


「なんだ、あれは? 魔獣なのか?」


「『弾丸魚バレットフィッシュ』だ。この辺りに生息してる厄介な魔獣だよ。よりによってとんでもない奴をおびき寄せてくれたもんだ。」


 アヤメは大きな舌打ちと共に、そう言葉を吐きだした。






 『弾丸魚』は空中の魔素の中を遊泳する空魚族という魔獣の一種だ。空魚族は一般的に、実体と霊体の中間である星幽体と呼ばれる体を持っていることで知られている。彼らは空気中の魔素を介して呼吸し、植物や動物など実体の食物から栄養を摂取してする。


 空魚族の中には様々な種類がおり、大きさや危険度もそれぞれ大きく異なっている。なかでもこの弾丸魚は、飛びぬけて危険度が高い。


 体長はおよそ5~10㎝。ほっそりとした金魚のような体に、大きくて美しいひれを持っているのが特徴だ。青白い光を放ちながらゆらゆらと空中を漂う姿は非常に美しい。だがその名前が現す通り、彼らは獲物を見つけると体を実体化させ、弾丸のように回転させながら突進してくる。


 その威力はすさまじく、戦闘用の強化外装も容易く撃ち抜くほど。ただ幸いなことにその飛距離は非常に短く、およそ1mほどしかない。また普段の移動速度も人間の徒歩以下だ。そのため接近されるよりも早く離れてしまえば、安全に攻撃を避けることができる。


 ただしそれはあくまで弾丸魚が単体で行動している場合の話。彼らは通常、数百から数千匹の群れをつくって生活している。ゆえに遭遇する際には、周囲を無数の弾丸魚に取り囲まれることになる。彼らは群れで獲物を追い込み、捕食しているのだ。






 彼らは夜行性であり、太陽の光の下で遭遇することはない。昼間に個体が確認された事例は今まで一度もないため、その生態は謎に包まれたままだ。研究者の間では、昼の間は霊体化して光に溶け込んでいるという説が有力とされている。


 その説が有力とされる根拠として、彼らの持つ、強い光に集まる性質がある。有明海に生息する巨大ザリガニサンダークラブは、そのハサミでプラズマ光を発して弾丸魚を呼び寄せ、捕食していることが知られている。強い光に集まる理由は明らかになっていないが、繁殖時にメスの弾丸魚が赤い光を発することと何らかの関係があるのではないかと推測されている。


 普段の彼らには実体がないため、物理攻撃は一切受け付けない。物理攻撃が有効なのは、弾丸化している時だけだ。そんな彼らの弱点は大地の魔素。彼らは星幽体状態で大地の魔素に触れると簡単に死んでしまう。そのため、地上およそ1mより下には決して近づかない。


 湿地帯で強い光源を使わないこと。弾丸魚の群れに遭遇したら、体を地面に伏せて速やかにその場を離れること。これは九州西方に展開している皇国軍兵士にとっては常識とされているのだ。






「お前たちはこの辺りの部隊じゃないな。」


 アヤメの問いに花村は黙して答えなかった。だがアヤメはそれを無視して話を続けた。


「おそらくそっちの部下の誰かが、焦ってあの照明弾を打ち上げたんだろう。だからこれ以上の戦闘は不可能だ。あなたたちも、私たちもな。」


 そう言ってアヤメは姿勢を低くしたまま、素早くその場を離れ始めた。


「待て! どこへ行く!!」


「もちろん私の生徒のところだ。あなたも早く部下を撤退させた方がいい。対処が遅れると犠牲者が増えることになる。この後、さらに厄介な奴が来るからな。」


「それはどういう意味だ?」


 アヤメはそこで足を止めると、花村に向かって小さく肩を竦めてみせた。


「そこまで教えてやる義理はない。そんな時間もないしな。とにかく早く逃げることだ。」


 アヤメはそう言うと、たちまちのうちに花村の視界から消えた。


「とにかく指揮所に戻ろう。作戦は・・・失敗だな。」


 花村はそう独り言ちると、アヤメと同じように体を低くし移動を始めた。道々、動ける兵士たちに指示を出しながら、彼は指揮所へ向かって進み続けた。











「阿久猫、鬼留! 早く掴まれ!!」


「マルちゃん!!」


 通信によってマリとテイジの位置を特定したエイスケは、二人を高速艇で回収することに成功した。弾丸魚が飛び交う中を回収するのはかなりの危険を伴ったが、二人は強化外装を魔力で強化することでそれに耐えていた。


「あとは笹崎教官だな。」


 その声に合わせるように、操縦席のカナ博士が声を上げる。


「いました、アヤメ殿です!」


 程なくアヤメが高速艇内に入ってきた。彼女の強化外装はあちこち切り裂かれ傷ついていた。肌が露出した部分には薄い刀傷があり、酷く流血している。明らかに弾丸魚によるものとは違うその傷にエイスケたちは驚き、彼女のもとに駆け寄った。






「教官! 大丈夫ですか!?」


 すぐに女騎士たちがアヤメの傷を回復させる。女騎士に礼を言った後、アヤメはエイスケたちに向き直った。


「問題ない。それよりも急いで撤退しよう。おそらくあいつが来る。」


「あいつって?」


「!! エイスケ氏、モニターを見てください!!」


 博士の声に、全員が操縦席のモニターを覗き込む。


「なんだありゃあ、地面がうねってやがる。」


「やはり来たか。湿地の掃除屋だ。すぐにこの場を離れるぞ。」


 アヤメは厳しい声でそう言い放った。するとそれに対してマリが抗議の叫びを上げた。






「で、でも教官! あれって魔獣ですよね。じゃあ、あの兵士たちはどうなるんですか? このままじゃ身動きできないまま、魔獣にやられちゃいますよ!!」


 アヤメは一瞬虚を突かれたような表情をしたが、すぐにマリに向き直った。


「何を言ってるんだ阿久猫? それはあいつらの自業自得だろう。それにあいつらは私たちの敵だぞ?」


 マリはそのアヤメの言葉に、大きく頭を振った。


「でも同じ人間、皇国人です! 私たちは皇国を守って魔獣と闘う軍人でしょう!?」


 燃えるような瞳でアヤメを見つめるマリ。アヤメはマリとじっと目を合わせていたが、やがてふと目を逸らして、マリの傍らにいるエイスケを見た。エイスケは困ったような顔で頭を掻き、大きく手を広げて言った。






「あー教官、こいつがこう言いだしたら、もう止まりませんよ。多分、一人でも飛び出して行っちまいます。なにしろあの白龍に生身でぶつかろうとしたぐらいの大馬鹿女ですからね。」


 おどけた様子でそう言った後、エイスケは表情を改め、アヤメに向き直った。


「俺からもお願いします、教官。教官の判断が正しいってことは百も承知です。でもここで引いちまったら、俺たちがこれから戦う意味が無くなっちまいます。ここにはいませんけど、新道や小桜もきっと俺と同じことを言うと思います。」


 彼はそう言って、アヤメに深々と頭を下げた。アヤメは彼の丸い後頭部を見つめながら、焼け爛れた脱出カプセルを思い浮かべていた。






 彼らの大切な仲間、小桜ホノカはあの兵士たちの加担した企みによって、おそらく命を落としている。彼はそれを知ってもなお、あの兵士たちを助けようというだろうか?


 アヤメは口の中に苦い唾が広がるのを感じた。だが、それを無理矢理飲み込み、彼女はエイスケに言った。


「・・・そうだな、阿久猫の言うとおりだ。」


 アヤメの言葉を聞いて、エイスケたちが顔を輝かせる。そのまっすぐな表情を見て、彼女は胸の奥が酷く痛むのを感じた。


 今は彼らに真実を告げる時ではない。この痛みは責任を取るべき私が、然る時まで抱えておく。


 彼女はそう決意すると、はっきりとした声で生徒たちに号令をかけた。






「戦意をなくした兵士は一般人と同義。すなわち皇国軍われわれの保護対象だ。我々は皇国臣民を保護するため、魔獣討伐を実施する。」


「はい、教官殿!!」


 エイスケたちが元気よく返事を返す。それに続いて女騎士たちもアヤメに語り掛けてきた。


「及ばずながら、私たちも協力いたします。弱者の救済は聖女様の教えの根本ですから。」


 女騎士たちは互いに顔を見合わせると、胸に左手を当て、静かに祈りを捧げた。


 静かな祈りと決意が満ちる中、戦いの第2幕が始まろうとしていた。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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