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5 第222訓練分隊

5話目です。次回はゆとりがあれば、明日投稿したいと思っています。

 その日の午後は初めての総合演習だった。他の科の生徒と協力してチームを作り、模擬戦をしたり与えられた課題に挑戦したりする。


 チームの編成は5人一組。作戦の指揮と戦闘員輸送、地上部隊の直掩を担当する航空隊員が一人。地上に降りて魔獣との戦闘や災害の救助活動を行う格闘隊員が二人。そして通信や索敵、魔石回収・救助支援などを担当する支援隊が二人となる。


 今日作るのはあくまで仮のチームだ。でも仮チームといっても大概のチームはあらかじめ話し合ってすでに組む相手を決めているので、今後メンバーが変わることはほとんどない。


 誰が誰と組むかはチームメンバーに一任されている。訓練とはいえ互いに命を預けあう関係なのだから、能力よりもチームメンバー同士の相性が優先されているからだ。


 いわゆる『好きなもの同士でグループ作れー』状態だが、僕はこういう場合、いつも当たり前のように最後まで残ってしまうのがお決まりのパターンだった。そして他のメンバーに嫌な顔をされながら最後に残ったところへ入るのだ。


 幼年学校の時はそれが嫌で嫌で仕方がなかったけど、今ではすっかり慣れっこになってしまった。グループ内のギスギスした空気も無視できるくらいには耐性ができている。






 他のチームが次々と出来上がっていくのを見ながら、僕は最後の一組が残るのをぼんやりと待っていた。すると突然、視界が暗くなり、背中に柔らかく温かいものが押し付けられた。


「だーれだ?」


 左の耳元からいたずらっぽく囁く声と甘い匂いがした。誰かに後ろから抱きつかれていると分かったのは、混乱した頭がようやく動き出してからだった。


「阿久猫さん!?」


「もう! マリって呼べって言ったじゃん!」


 慌てて振り向くと格闘隊の阿久猫あくねマリさんがニコニコ笑いながら立っていた。彼女の後ろでムッツリと口を結んだまま立っている巨漢は、同じく格闘隊の鬼留おにどめテイジくんだ。






「カナメっち! あたしらと一緒にチーム組も!」


「え、な、なんで・・・!?」


「なんでって・・・だってあたしらもう友達じゃん! ね、テイジ?」


 阿久猫さんの言葉に鬼留くんも黙って頷いた。周りにいる同級生たちが自然と距離を取りつつ僕たちに視線を向けているのをひしひしと感じる。そんな中、僕は彼女の言葉に何と答えていいかわからず馬鹿みたいに口をポカンと開けてしまっていた。






 4月に初めて出会った時から、阿久猫さんは学校で会うたびに僕に声をかけてくれていた。といっても何か話をするわけでも、一緒に何かをするわけでもない。ただのあいさつ程度だ。


 その時はたいてい阿久猫さんと一緒に鬼留くんもいた。彼は僕のあいさつにも黙って頷くだけ。言葉を交わしたことはない。正直、僕はこの二人を友達だと思ったことは一度もなかった。


 もちろん親しげに話しかけてもらうことが嫌だとか迷惑だなんて思ってはいない。ただ『気まぐれに声をかけてくれているのだろう』と思っていた。だから阿久猫さんの「友達じゃん!」という言葉を聞いても何と答えていいかわからなかったのだ。


「カナメっち、あたしらと一緒じゃイヤなの?」


 阿久猫さんがちょっと寂しそうな感じで聞いてくる。鬼留くんはその後ろで僕を睨みながら黙って拳を握りしめていた。お願いだから何かしゃべって、テイジくん!!






「イヤなんてそんなことないよ! でも、僕なんかでいいのかなって・・・。」


「よしよしじゃあ決まりね! あとは後衛の子を見つけなきゃ。」


 阿久猫さんは猫みたいに目を細めて笑うと、残った生徒たちを物色し始めた。体にぴったりした挌闘科の実習服を着た彼女が動くたび、実習服の赤い飾り紐とショートヘアの後れ毛がゆらゆらと揺れる。周りの生徒たちはその視線を避けるようにそっと目をそらした。


 その姿を見ていたらさっき背中に当たったものの正体に気が付いて、思わず阿久猫さんの胸に目が行ってしまう。引き締まった体に似合わず確かな存在感を主張する二つの球体を目にした途端、僕はたまらなく恥ずかしくなって慌てて目を伏せてしまった。






「んー、みんな目合わせてくれないねえ。」


 阿久猫さんの言う通り、僕たちの周りでは急速にグループが出来上がりつつあった。まるでぐずぐずしてたら巻き込まれるとでも思っているみたいだ。


 結局最後までチームが見つからず残っていた二人を、阿久猫さんが強引に引っ張ってきた。ずんぐり太った男子とマドカと同じくらい小柄な女子だ。


「にゃはは、これで5人そろったね。カナメっち、分隊登録してきて!」


「え、なんで僕が・・・。」


「指揮機の操縦者なんだから当然でしょ! さ、早く早く!!」


 ぐいぐいと僕の背中を押す阿久猫さんに、後方支援科の小柄な女子生徒が涙目で訴えた。






「ちょ、ちょっと待っ・・! 私、このチームに入るなんてまだ一言も・・!!」


 でも僕が何か言う前に、太った男の子が彼女の前に立った。


「・・・俺も小桜ももうどこのチームにも入れないだろ。今回は諦めろ。」


 太った男子は鬼留くんから小柄な女子を守るようにしながらそう言った。小柄な女子生徒はずんぐり太った男子生徒の言葉に「ううっ」と言ったきり俯いてしまった。僕は二人を気の毒に思いながらも名前を確認し、実習担当の笹崎教官のところに報告に行く。






「航空隊 新道カナメ。格闘隊 鬼留テイジ、阿久猫マリ。支援隊 丸山エイスケ、小桜ホノカ。分隊登録お願いします。」


「おお新道。やっと登録に来たか。お前たちで最後だな。・・・よし第222訓練分隊登録完了。がんばれよ分隊長!」


 タブレットに入力を終えた笹崎教官が僕の背中をバシバシ叩く。笹崎教官からはかすかに柑橘系の香水の香りがした。何人かの男子生徒がうらやましそうな目で僕のことを睨んだ。


 すでに整列し終わっている他の分隊の一番端に222分隊の皆を整列させて、僕は笹崎教官の指示を待った。






「いよいよ今日から実戦を想定しての本格的な訓練開始だ。秋の他校との合同演習までにみっちり鍛えてやるから覚悟しておけよ?」


「「はい、教官殿!」」


「よろしい。と言っても今日は顔合わせだからな。基礎的なポイント降下とマーカーの回収訓練を行う。前衛部隊は指示されたポイントに降下し、隠されたマーカーを回収して帰投する。後衛部隊は機器の整備およびポイントの周辺の情報収集だ。わかったか?」


「「はい、教官殿!」」


「うむ。いい返事だ。事前にそれぞれの隊や科で実習してきたことをきちんとやればいい。とにかく安全・確実に任務を遂行することだけを考えろ。危険だと判断した場合は分隊長の判断で中止を申告すること。いいな?」


「「はい、教官殿!」」


「ではそれぞれの分隊舎へ移動し、降下ポイントが特定できた隊から出撃しろ。解散!」


 広大な演習場の一角にある分隊舎に向けて、それぞれの分隊が駆け足で移動していく。僕も222分隊の皆と一緒に自分たちの分隊舎へ向かって急いだ。







 自分なりに一生懸命に走ってはいるが、マヒした右足を引きずりながらのため、どうしても僕らの隊が一番最後になってしまう。


「僕のせいで遅くなっちゃってごめん。先に行ってていいよ。」


「んー、いいって、いいって。少しくらい遅れたってあたしとテイジがパパっとマーカー回収しちゃうからさ。ね、テイジ?」


 まるでスキップでもしてるみたいにピョンピョンと走りながら阿久猫さんは言った。その言葉に黙って頷く鬼留くん。後衛部隊の丸山くんと小桜さんは鬼留くんが動くたびにビクッと体を震わせる。そんな僕たちの様子を他の分隊員たちが冷笑交じりの目で見つめていた。






 分隊舎は練習機の装甲と同じ強化樹脂で作られた2階建て。長方形の巨大な建物だ。1階が格納庫で、2階が簡易的な作戦通信室及び待機所になっている。建物の正面にある格納庫の機体搬出口は大きく開かれており、僕たちの隊が使うことになる機体がすでに見えていた。


 格納庫の壁正面は横20m縦30m位の大きさだが、搬出口はその半分以上を占めている。


「にゃは、近くで見るとやっぱでっかいね!」


 阿久猫さんが格納庫内の白く輝く機体を見上げてうれしそうにそう言った。これがこれから僕たち222分隊が使うことになる訓練機『白鷹はくよう』だ。






 練習機『飛燕ひえん』と形はそっくりだが、その大きさは段違い。全長は約20m。機体前部は僕が乗る操縦席、その後ろに地上部隊用の待機席がある。機体後部は格納スペースになっていて、ミッションによって様々な物品を載せられるようになっている。


 機体は水滴を横にしたような流線型で、操縦席のある最前部と機体後部は細く尖っている。でも地上部隊の待機席がある機体の最も膨らんだ部分は、長身の鬼留くんが立ったまま乗り込めるくらいの高さがある。


 シミュレーションや事前訓練では何度も見ていたけど、こうして目の前で実際の機体を見るとやっぱり大きい。これに人間を載せて飛ぶのだと思うと、今にも胸の奥からすっぱいものがこみあげてくるような感じがする。


 他の隊から大幅に遅れて分隊舎についた僕たちは、格納庫内の階段を上って2階の待機所に向かった。






「じゃあ、カナメっち。指揮をお願いね。」


 分隊メンバーからの四者四様の視線が向けられ、僕の顔と頭がカーッと熱くなる。大丈夫。練習したとおりにやればいいんだ。ドキマギしながら僕は何とか言葉を吐き出した。


「えっと、阿久猫さ・・マリさんとテイジくんは降下とマーカー回収用の装備を準備してください。」


「おっけー、まっかせといて! いこ、テイジ!」


 待機所に準備してある標準装備を手に取った二人は、一階の格納庫へと降りていく。その様子を見て後衛部隊の二人があからさまにホッとした顔をした。よっぽどテイジくんが怖かったみたいだ。






「エイスケくんとホノカさんは情報収集・分析と機体整備を分担してほしいんだけど・・・。」


「俺が機体整備をするよ。小桜は情報収集とポイントの特定。」


 エイスケくんはきっぱりとした口調でそういうとさっさと1階に降りて行ってしまった。その様子はまるでマリさんたちからホノカさんを遠ざけようとしてるみたいだと思った。


「ちょ、わた、私、ムリです・・・!?」


 ホノカさんが涙目で何か言いかけたが、エイスケくんはそれを無視した。残された僕がホノカさんの方を向くと、彼女はビクリと体を震わせた。そして僕の右目をちらりと見て慌てて目をそらした。






「・・・僕はエイスケくんと一緒に機体の調整をしてくるね。操縦席にいるから情報収集とポイントの特定は通信しながらやりましょう。それでいいかな?」


「う、うん。あの・・・ご、ごめんね。」


 ホノカさんはじっと俯いたまま小さな声で僕にそう言った。僕は「気にしないで」と言ってから、ホノカさんを通信室に残して格納庫へ向かう。・・・ホノカさんに気の毒なことしちゃったな。


 階段の踊り場でつるつるした分隊舎の壁面に映った自分の顔を眺める。右手で顔の半分を隠してみた。一つ小さなため息をつき、僕は右足を引きずりながら階段を降りていった。






 格納庫に降りると継ぎ目なく見えていた『白鷹』のハッチが開き、機体内部が丸見えになっていた。地上部隊用の待機席では格闘隊の二人が強化外装を身に着けたまま、降下用の装備を点検している。


 エイスケくんは機体の下部にある点検用ハッチの下に、丸い体を無理やり押し込んで、機体の点検を行っていた。目に魔力光遮断用のゴーグル、頭に通信用のインカムをつけている。


 右足を引きずりながら白鷹に近づいて行くと、いち早く僕に気が付いたマリさんが声をかけてきた。


「カナメっち、もう特定できたの?」


「ううん、整備しながらやったほうが効率いいから。通信でやることにしたんだ。」


「ふーん、あ、そう。あたしたちはもう準備できたよ。いつでも行けるからね!」


「ありがとう。なるべく早く出撃できるようにするね。」


 僕は操縦席のハッチを開き中に乗り込んだ。上から降りてきたゴーグルをつけると同時にエイスケくんから通信が入った。






「(新道、リンクした後、軽く魔力流してみてくれ。)」


「(了解。)」


 僕は『白鷹』と自分の魔力を同調させた。機体と一体となったことで、うつ伏せになった自分の背中にマリさんとテイジくんが乗っかり、太ももの下あたりにエイスケくんがいるような感じがする。何だかちょっとくすぐったい。


 僕はエイスケくんに言われた通り、体に軽く魔力を循環させた。


「(・・・出力は安定してるけど、ちょっとバランスが悪いな。もうちょっと右足を踏ん張ってみてくれ。)」


 エイスケくんに通信で指示されながら少しずつ出力を調整していく。のんびりした口調と裏腹に指示がすごく的確で細かい。あっという間に調整が終わった。


「(ありがとうエイスケくん。すごいね。)」


「(・・・まあな。これしか取り柄がねえから。)」


 ぶっきらぼうにそうつぶやくエイスケくん。これでポイントが特定出来たらいつでも出発できる。そういえばまだ一回もホノカさんから通信が来てない。情報の整理に手間取ってるのかな?






 そう思ってたらホノカさんが通信で話しかけてきた。


「(あ、あの、データ送ります。)」


 僕の視界内に半透明のウインドウが開き、そこに地図とポイントの情報、マーカーの位置が表示された。


「(えっ、もう特定できたの!?)」


「(あの、えっと、たぶん。合ってるかどうかわからないけど・・・。)」


「(・・・一応、教官から示された情報も送ってもらえる?)」


「(ご、ごめんなさい! すぐ送りますっ!!)」


 視界内に別のウインドウが開き、そこにとんでもない数の文字や数式が表示された。教官から事前に示された座標情報の他、ホノカさんが集めた周辺地理の情報が入ってるみたいだ。これを解析してポイントの位置を割り出さなくてはならない。


「(うわっ、ナニコレ!?)」


 途端にマリさんの心底イヤそうな声が聞こえた。テンパったホノカさんがどうやら分隊全員にデータを送信したみたいだ。マリさんの気持ちはよくわかる。僕だって見ただけでうんざりさせられたもの。






 マリさんの「みんな頑張ってー!」という声を聴きながら僕が苦労して地図と座標を表す数式を見比べていたら、エイスケくんから通信が入った。


「(新道。小桜が特定したポイントなら間違いねえよ。出撃して大丈夫。)」


「(あ、エイスケくんも見てくれたんだ。)」


「(いや、読んでねえよ。俺、解析嫌いだから。)」


「(え?)」


「(でも小桜の解析なら大丈夫。間違いないって。)」


「(いいね、いいねー!! すごいじゃん二人とも!! よしカナメっち、いこいこ!!)」


 ホノカさんの「そんなっ! ちゃんと確かめてから・・・」という小さな声を押しのけて、マリさんの威勢のいい声が響く。






「(わかった。出撃しよう。皆、『白鷹』に乗ってください。エイスケくんは航行補助、ホノカさんは索敵と管制をお願いします。」


「(りょうかい!)」「(・・・了解。)」「(了解。)」「(りょ、了解しました!)」


 四人からの応答を受けて僕は体に魔力をゆっくりと満たし、機体を少し浮き上がらせた。それにしてもテイジくんの声、初めて聴いた。すごく渋くてかっこいい。僕はよく「本当に声変わりしてるの?」って言われるくらい女声なので、正直うらやましいです。






「(こちら第222訓練分隊、出撃します。)」


『(総合管制了解した。いつでもいいぞ!)』


 機体内に響く自分の声にコンプレックスを刺激されながら、僕は総合管制所にいる笹崎教官に出撃を告げると『白鷹』をゆっくり前進させ、青い夏空の下、大きく光の翼を広げた。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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