33 女騎士
今日はたまたま時間が出来たので、一話書いてみました。
突然現れた女騎士の姿に、部屋の中にいた全員が呆気にとられて言葉を無くした。しかし、彼女はそんな凍り付いた空気など全く知らぬ顔で、僕の方へコツコツと規則正しい足音を立てながら歩み寄ってきた。
「大丈夫ですか、少年?」
彼女はそう言って少し屈み、倒れたまま動けずにいる僕の顔を覗き込んだ。不思議な光を放つ白銀の鎧が触れ合い、澄んだ音を響かせる。
彼女は少し褐色がかった肌をしていた。意志の強そうな眉毛は髪と同じ銀色をしていて、形よくきりりと引き上げられている。でもその下にある透き通った緑色の瞳は、優しい色を湛えて僕を心配そうに見つめていた。
彼女の鎧はいわゆる騎士鎧だった。布製の服の上から革ベルトで固定された金属製の胸当てと籠手、それに革のロングブーツの上に脛あてを装着している。左の籠手の上には、胸当てと同じ金属製の小型盾が固定されていた。
細い腰に巻いたベルトには、おそらく鎚矛用だろうと思われる固定補助具が付いている。そして同じベルトの正面には、足元近くまである黒い布製の前垂れが下げられていた。
金色の縁取りがされたその前垂れの真ん中には、二つの輪が8の字になるように重なった紋章が、金糸で刺繍されている。この紋章、以前どこかで見たことがある気がする。でもそれがどこだったか、全然思い出せなかった。
こうやって近くで見ても、彼女は神々しいほどに綺麗な人だった。本当に古代の騎士物語の中から現れたのかと思うほどだ。
容貌から考えて、彼女は明らかに皇国人ではない。それなのに流暢な皇国語を話している。それがとても奇妙な感じがした。
機能停止した脳を必死に動かし、僕は彼女の問いかけに答えた。
「は、はい、僕は大丈夫です。でも、その、仲間が・・・。」
すると彼女は部屋の中をちらりと見回し、そのまま僕を守るように仁王立ちになった。
「穢らわしい気を感じて来てみれば案の定、よからぬことが行われていたようですね。」
彼女の目は油断なくサイコ野郎と黒マスクの男たち、そして彼らに囚われているマリさんとテイジを見つめている。
「安心なさい少年。すべてはこの団長に任せておいてください。」
彼女はそう言って僕に微笑みかけると、右手に持った槌矛の先を黒マスクの男たちに向けながら朗々とした声で呼びかけた。
「さあ、あなたたち。今すぐにその二人の子どもたちを解放なさい。さもなければこの団長自らが、裁きの鉄槌を下すことになります。」
黒マスクの男たちは戸惑った様子で視線を交わし合った。そんな中、部屋の反対側、唯一の出口である階段の前にいたサイコ野郎が、彼女に向かってずかずかと近づいてきた。
「なんだあ、このコスプレ女は?」
僕の放った《魔法の矢》でボロボロになったはずのサイコ野郎の服は、もうすっかり元通りになっていた。奴は顔にあからさまな侮蔑の表情を浮かべながら、団長(?)さんの数歩前で立ち止まった。
「どうやらあなたが首魁のようですね。あなたからは強い罪の穢れを感じます。」
「はあ、何言ってんだお前? 頭いかれてんのか?」
団長さんの言葉に、サイコ野郎は心底呆れたような声でそう言った。
奴はあからさまに馬鹿にした態度で団長さんを見下ろしていた。確かにこの団長さん、残念ながらさほど強そうには見えない。
女性にしてはやや背が高い方だと思うけれど、それでも長身のサイコ野郎に比べたら頭一つ分ほど小さい。体つきもいたって普通だ。肌が露出していないからよく分からないけれど、それほど鍛え上げているような雰囲気もない。
でも団長さんは自分よりも遥かに大きいサイコ野郎に物怖じするそぶりも見せず、静かな声で奴に語り掛けた。
「今すぐそこへ跪き、頭を垂れて悔い改めなさい。真摯に祈りを捧げれば、あなたの罪も聖女様が受け入れてくださるでしょう。この団長にすべての罪を告白し、聖女様に許しを請うのです。」
彼女はそう言い、籠手を着けた左手を胸にあてて軽く目を瞑った。祈りを捧げる姿がすごく様になっていた。逆に彼女が戦っている様子なんか全然想像できない。
彼女の言葉を聞いたサイコ野郎は、たちまち真っ赤になって顔を大きく歪めさせた。奴の額には血管が浮き上がり、憎々しげな表情で団長さんを睨みつけている。僕は今にも奴が彼女に飛び掛かっていくのではないかと、はらはらしながらその姿を見つめた。
しかし奴はその直後、狂ったように笑いだした。
「跪いて許しを乞えだって? こりゃあ、傑作だぜ。」
笑い終えた奴は、目の端に浮かんだ涙を指先で拭いながら彼女に言った。
「お前こそ、そこに這いつくばって命乞いした方がいいんじゃねえか? まさか、お前一人で俺たちに勝つつもりじゃねえよな? そんなちゃちな鎚矛一つで、どうするっていうんだよ。俺たちには人質もいるんだぞ。」
サイコ野郎の言葉で黒マスクの男たちは自分の仕事を思い出したようだ。マリさんとテイジを捕えている男たちは、二人に銃を突きつけた。それ以外の男たちも、団長さんに向けて銃を構える。
それを横目で確認したサイコ野郎は、満足そうな表情で舐めるように団長さんの体を眺めた。
「よく見れば、なかなかいい女だ。きれいな皇国語を話してるが皇国人じゃねえよな。出身は欧州神聖国か?」
欧州神聖国は、ユーラシア大陸の西端に位置する国だ。魔境と化した欧州で生き残った人々が、法皇を中心として作り上げた宗教国家。様々な『秘儀』を使う騎士たちが魔獣から人々を守っていると聞いている。
でも僕が聞いた話では神聖欧州国の騎士たちも、皇国軍と同じような強化外装を身に着けているらしい。そう思うと、団長さんの姿は少し古風すぎるような気がする。
団長さんはサイコ野郎の問いかけに、怪訝な顔で小さく首を傾げた。それを見たサイコ野郎は呆れたように肩を竦めた。
「どうやら頭のネジが緩んでるようだが、別に構いやしねえ。大人しくしてりゃあ、大事に飼ってやるぞ。」
奴は下卑た笑いを浮かべて団長さんの体、特に胸当てで隠し切れないほどに大きい胸と細くくびれた腰をねっとりと見つめた。
「なるほど、悔い改めるつもりはないようですね。では、仕方がありません。」
団長さんは僅かに眉を潜め、悲しそうな声で呟くようにそう言った。そして右手に持っていた鎚矛を無造作に構えた。
「おい、妙な真似をするな。人質がどうなっても・・・。」
サイコ野郎がその言葉を言い終えるより早く、部屋全体を揺るがすドンという衝撃が走った。床に横になっていた僕は、一瞬全身が浮き上がるような感覚を味わった。
次の瞬間、テイジとマリさんに銃を突き付けていた男たちは全員壁に叩きつけられていた。そしてさっきまで団長さんが立っていた場所は、強化樹脂の床がひび割れ、すごい力で打ち抜いたような足跡がきれいに残っていた。
サイコ野郎は慌てて後ろを振り返った。その時すでに団長さんは、足元に横たわるマリさんとテイジを守るように仁王立ちしていた。
「降伏しますか?」
「撃て!!」
二人の声が重なった。サイコ野郎の命令によって黒マスクの男たちの銃が一斉に放たれた。無数の強化樹脂製の弾丸が団長さんの体を捉えた。
しかしその弾は、金属に当たったような鋭い音を立て、団長さんの体に触れる直前ですべて跳ね返されてしまった。次々と放たれる弾丸を避けもせずに受け止めながら、団長さんはちょっと憐れむような調子で、悲しそうに呟いた。
「礫などで、この団長の信仰を打ち破れるはずがないでしょう。」
彼女はその体を盾として、降り注ぐ弾丸の雨からマリさんとテイジを守っていた。
その時、闇熊に変身したサイコ野郎が彼女に向かって突進していった。奴は最初の弾丸が放たれたその隙に変身を終えていたようだ。
仁王立ちしたまま動かない団長さんめがけて、巨木のような闇熊の腕が全力で振り下ろされる。
「危ない!!」
僕は咄嗟にそう叫んでしまった。凄まじい衝撃音が部屋の中に響き渡った。
しかし闇熊の攻撃は団長さんに届いていなかった。彼女は僅かに掲げた左腕の小型盾で、巨大な闇熊の腕を軽々と受け止めていた。信じられないようなその光景に、僕は思わず言葉を無くし、目を見張った。
それは闇熊も同じだったようだ。虚を突かれた奴は一瞬のその動きを止めた。しかしすぐに我に返って、がら空きになった彼女の胴体をもう片方の腕で薙ぎ払った。鋭い魔獣の鉤爪が彼女の体に迫る。
彼女はそれを予想していたかのように、鎚矛をさっと振って闇熊の攻撃を軽々といなした。その軽い動作に不釣り合いなほど激しい衝突音が響く。ほんの僅かな動きだったにもかかわらず、闇熊は彼女の反撃によってその巨体を大きくのけ反らせた。
直後、彼女は鎚矛を大きく振り上げると軽く両目を瞑った。
「聖女様、お救いください。」
その静かな声を聞いた瞬間、僕は魂がヒヤリと凍えるような寒気を感じた。闇熊はなりふり構わず強引に体勢を立て直し、大きく後ろに飛び下がって彼女から距離を取った。
しかし離れたはずの彼女は、闇熊に吸い寄せられるかのようにぴたりと同じ間合いで移動していた。彼女の鎚矛を見た闇熊は、目を大きく見開き歪んだ声で叫んだ。
「や、やめっ・・・!!」
「《断罪》」
強烈な光を放ちながら、彼女の鎚矛が振り下ろされた。咄嗟に突き出した闇熊の両腕ごと叩き潰して、鎚矛は奴の脳天に命中した。
めしゃりという嫌な音と共に、闇熊は穴という穴から体液を飛び散らせ、どうと大きな音を立てて仰向けに倒れ、動かなくなった。
闇熊が倒れたのを見た男たちは、一目散にその場から逃げ始めた。彼女はそれを追おうともせず、すぐに倒れているマリさんとテイジの方へ歩み寄っていった。
男たちと入れ替わるように、壊れたエレベーターシャフトから誰かが侵入してくる音が聞こえてきた。直後、女性の悲鳴がして、ドスンという何かが落ちたような音が響いた。
「だ、大丈夫ですか、博士!!」
「あいたたた、足を滑らせてしまいました。慣れないことをするものではありませんね。」
そう言って腰をさすりながら姿を見せたのは、ゆったりとした白衣を纏った小柄な亜人の女性だった。
小さな丸眼鏡を鼻の上にちょこんと乗せた彼女は、黒に近い濃緑色の肌をしていた。真っ白の長い髪を三つ編みにして無造作に背中に垂らしている。
爬虫類のように赤く縦になった瞳孔のある金色の目と、小さな牙が覗く口。そしてその小さな頭に不釣り合いなほど大きな耳。
見方によっては美少女と呼んでも差し支えないくらい、とても整った顔立ちをした女性だ。けれど明らかに人間ではない。
亜人のたくさん暮らしている第3城砦でも、一度も見たことのない種族だ。一体何者なんだろう?
子どもみたいに小さい彼女の側には、団長さんと同じ鎧を身に着けた真面目そうな女騎士が、心配そうな様子で付き添っていた。亜人の女性は腰に手を当て痛そうに顔を顰めたあと、小さくため息を吐いて後ろを振り返った。
「この昇降機が使えたら、壁降りなどしなくて済んだのに。さすがにこれだけ壊れてしまうと、私にも直せません。まったく追いかける方の身にもなってほしいものです。」
「申し訳ありません。団長には後でちゃんと言っておきますから・・・。」
傍らにいた女騎士がそう言うと、亜人の女性は少し慌てた様子で取り繕うような笑顔を見せた。
「いえ、副官殿を責めているのではありませんよ。すべてはあの脳筋が悪いのですから。」
その言葉に副官殿と呼ばれた女騎士は、困ったような笑みを浮かべた。
なぜだろう。この副官(?)さん、すごく良い人そうだけど、なんだかとても苦労をしてそうな感じがする。
二人に続いて、さらに何人かの女騎士たちが姿を現した。するとマリさんとテイジの様子を見ていた団長さんが立ち上がり、背後にいた二人に声をかけた。
「ハフサ! ちょうどよいところに来てくれました。この子たちを診てあげてください。魔獣の攻撃でマヒしてしまっているようなのです。」
ハフサと呼ばれた副官さんは、すぐにマリさんとテイジに駆け寄っていった。横たわった二人の胸に手を当てたハフサさんが目を瞑って何ごとか唱えると、マネキン人形のように硬直していた二人の体から、ぐったりと力が抜けたのが分かった。
ハフサさんのおかげでマヒ状態から回復したようだ。けれど二人はそのまま動く気配がなかった。どうやら気を失ったらしい。
「さすがはハフサですね! 素晴らしい癒しの技です。あなたの信仰を聖女様もお喜びのことでしょう。」
軽く胸に手を当て、にこやかにそう言った団長さんに対し、ハフサさんは額に青筋を浮かべながら食って掛かった。
「団長! 独断専行はお止めくださいと常々申し上げているではありませんか! それに今回の作戦は、隠密行動だとお伝えしましたよね!?」
すると団長さんは途端に困った顔をして、おろおろした様子を見せた。
「あらあら、そうだったわね。穢れの気配を感じたものだから、つい・・・。ごめんなさい、ハフサ。」
団長さんはそう言って、ぺこりと頭を下げた。ハフサさんは顔を真っ赤にして、ググっと歯を噛み締めた後、大きくため息を吐いた。
「分かってくださればよいのです。ところでこの子どもたちは何者ですか?」
そう言われた団長さんは、こてんと首を横に傾けた。
「さあ、何者なのでしょう? そこに倒れている不埒な輩に捕まっていたようなので、とりあえず助けたのですが・・・。」
ぐしゃぐしゃに潰れたサイコ野郎の死体を指さしながら団長さんがそう言うと、副長さんは額に片手を当てて天を仰いだ。
「敵か味方かも分からないのに、助けに入ったのですか・・・。この倒した相手が我々の交渉相手の関係者でないといいのですが・・・。」
すると団長さんは明るい声で副長さんに語り掛けた。
「それは大丈夫ですよ、ハフサ! この者はきっと我々の敵対者です。この団長が保証します!」
「えっ!? もしかして何か、確証を掴んでいらしたのですか?」
そう言って申し訳なさそうに謝る副官さんに、団長さんは元気な笑顔できっぱりと言い切った。
「いいえ、団長としての勘です。確証などありませんが、聖女様が導いてくださった結果なのですから、きっと間違いはありません。だって聖女様がお間違えになるはずありませんから。」
団長さんはそう言って、また目を瞑り祈りを捧げはじめた。副長さんはすごく疲れた顔でそんな彼女を見ていた。そのちょっと恨めしそうな視線を見て僕は、やっぱりこの人かなり苦労してるに違いないと確信した。
祈りを終えた団長さんはパッと目を開くと、籠手のはまった両手をパチンと打ち合わせた。
「そうだ! あの子に聞けば分かりますよ、きっと。」
マリさんとテイジの介抱を側にいた女騎士さんに依頼した後、団長さんは僕の方へつかつかと歩み寄ってきた。団長さんを副官さんが慌てて追いかけてくる。その後をやれやれと言った調子で、白衣の女性が付いてきていた。
「少年。あなたは誰ですか? どうしてあの者たちに捕まっていたんですか?」
団長さんに尋ねられた僕はちょっと迷ったものの、学校の帰りに誘拐されてここに連れてこられたと、これまでの事情を説明した。ただクロや防衛学校のことについては話さなかった。何となくだけど、今は話すべきではないと思ったからだ。
そのせいで僕の説明は少し不自然な感じになってしまった。でも団長さんはそれを特に追及することもなく、僕の言うことを信じてくれたようだった。こんなに簡単に人を信じて本当に大丈夫なのだろうかと、彼女のことが心配になってしまう。
そんな僕の心配をよそに、団長さんはうんうんと大きく頷いた。
「なるほど。帰宅途中に突然、誘拐されたというわけですね。あの二人はあなたの学友ということですか。ではその女性は?」
団長さんは僕の隣で女騎士さんたちに介抱されている女性を指さして尋ねた。女性は拘束を解かれ、横たわった状態で体に布をかけられていた。
頭に被らされていた布袋もすでに取り除かれている。けれど、彼女の顔はひどく腫れあがりとても人相を判別できる状態ではなかった。分隊の関係者でもなさそうだし、本当に心当たりがない。
「分かりません。」
僕は正直にそう答えた。
「ふむ。では彼女も被害者の可能性が高いですね。ハフサ、傷を癒してあげてください。」
「分かりました。でもかなり酷い傷です。私の癒しの技でどこまで回復できるか・・・。」
ハフサさんはそう言いながら倒れている女性の体に手を当て、彼女の傷の状態を調べ始めた。あまりにも傷が酷いため、どこから手を治療すべきか慎重に確かめているようだ。
するとその時、亜人の女性が不意に団長さんに向かって質問した。
「団長殿は癒しの技を使えないのですか? 」
その瞬間、副官さんをはじめとする周囲にいた女騎士さんたちが凍り付いたように動きを止めた。張り詰めた沈黙が一瞬流れた後、ハフサさんが白衣の女性に向かって、あわあわと説明をし始めた。
「あ、あの博士、その、団長は・・・。」
焦った様子の副官さんを、団長さんは片手で押しとどめた。そしてとてもいい笑顔で白衣の女性に向き直った。
「もしや博士は、この団長の信仰を、疑っていらっしゃるのですか?」
一見すると慈愛に満ちた穏やかな笑顔。でもよく見ると目が全く笑っていない。僕は周囲の気温が一瞬下がったような錯覚を覚えた。
でも白衣の女性はそんな空気をものともせず、何でもない調子で団長さんの問いかけに答えた。
「いえ、そんなことはありません。ただの好奇心です。」
そう言って彼女は悪びれもせず微笑み、言葉を続けた。
「私は勝手に、聖堂騎士の皆さんは全員癒しの技を身に着けているのだろうと思い込んでいたのですよ。でもこれまでに一度も、団長殿が癒しの技を使うところを見たことがありません。ですからきっと、団長殿は癒しの技を使えないのだと思ったのです。それだけです。特に他意はありません。」
白衣の女性の言葉が発せられるにつれて、女騎士さんたちの顔色が青から白、そして土気色へと変わっていくのがはっきりと分かった。
女騎士さんたちが目を見開いて団長さんを見つめる中、彼女は小さく唇の端を震わせながら彼女に抗弁した。
「団長だって・・・団長だってちゃんと癒しの技を使えます!」
そう言うと突然、彼女は籠手を外し、身に着けた胸当ての革ベルトを解き始めた。
「だ、団長!! やめてください! バレたらまた聖女様に叱られますよ!!」
慌てて副官さんたちが止めに入ったけれど、その時にはもう、団長さんは上半身のシャツを脱ぎ捨てた後だった。下着越しに彼女の豊かな胸が大きく揺れるのを目にして、僕は慌てて目を逸らした。
白衣の女性は興味深そうに、そんな団長さんの様子を観察していた。
団長さんは倒れている女性をそっと抱え上げると、腫れ上がった彼女の顔を自分の柔らかな双丘で優しく包み込んだ。
「我が祈りに応え給え。《自己再生》」
団長さんが短く祈りの言葉を発した途端、暖かな白い光が彼女の体から発せられた。その光をすぐ隣で浴びた僕は、それまで魔力枯渇のせいで起きていた様々な体の不調が瞬く間に無くなっていくのを感じた。
団長さんが抱えている女性の傷も、まるで逆再生のように癒えていく。赤黒い傷や火傷の跡はもちろん、腫れ上がっていた顔も滑らかさを取り戻していった。僕はその顔を見て、これまでにないくらい強い衝撃を受け、思わず彼女の名前を叫んでいた。
「四宮先生!? なんで先生がここに・・・!!」
僕の叫びが聞こえたのか、四宮先生はゆっくりと目を開けた。まだ意識が朦朧としているようだ。
けれど先生は僕の姿を目にするなり、はっきりとした声で僕に言った。
「カナメくん・・逃げて・・・!」
それだけ言うと、先生の体からがっくりと力が抜けた。先生はまた意識を失ってしまった。
なぜ四宮先生があのサイコ野郎に? それに逃げてってどういうことなんだろう?
僕は混乱した頭を何とか整理しようとした。でもそれを打ち破るかのように、大きな物音が階段の方から響いた。
「新道、無事か!?・・・って、何じゃこりゃあ!?」
階段から飛び出してきたのは魔導銃を手にしたエイスケ、それに笹崎教官と宇津井先生だった。
「あら、あなたのお友達かしら?」
張り詰めた緊張感が満ちる中、団長さんの穏やかな声だけが、やけにはっきりと聞こえたのだった。
読んでくださった方、ありがとうございました。




