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25 死闘 後編

本日2話投稿しています。こちらは後編です。よろしくお願いします。


※ 後半、生死に関する生々しい表現があります。苦手な方はご注意ください。

 飛竜たちと戦うために外に出たマリさんとテイジの二人は、機体の側面を伝って機体上部に立った。


 同時に青白い魔力でできた飛竜の群れが『白鷹』に向かって接近してくるのが見えた。彼らは器用に魔方陣を避けるように移動している。おそらくあの白龍が眷属である飛竜たちにそう指示しているのだろう。


 飛竜が魔方陣に接触すれば構築中の魔術が壊れてしまうからだ。僕の機体からだの下方と側面は積層型魔方陣の天辺に接しているから、飛竜の攻撃は上からに限定されることになる。






 マリさんとテイジは、機体の上方に集まりつつある飛竜たちをじっと睨んでいた。冷気の塊みたいな不安定な体ながらも翼を大きく広げ、長い尾を引きながら滑空する姿はゾッとするほど美しかった。


 『白鷹』の上部、僕の背中の真ん中辺りに立ったマリさんは、さっきまでと同じ耐寒・耐圧外装に戦闘用の籠手グローブブーツを装着していた。彼女の魔力に反応して、手足の先に魔力で出来た光のブレードを発生させる格闘武器。彼女がいつも愛用している武装だ。


 彼女の背中を守るように立っているテイジは、降下の時には持っていなかった巨大な盾を両腕に装備している。この盾は戦闘用魔導機の物理装甲板に使われているのと同じ強化樹脂製で、一枚だけでもかなりの重量がある。


 ずっと前に二人の外装点検を手伝った時、僕も一回だけ触らせてもらったことがある。その時は床から持ち上げることすらできなかったっけ。


 けれどテイジはそれを軽々と扱っている。もちろん魔力による身体強化のせいもあるんだろうけれど、それも日頃の鍛錬の成果があってこそだ。盾を構える彼の姿はとても頼もしくかっこいいと、僕は素直に思った。






 何の前触れもなく、上空を旋回していた飛竜の一体が飛来し『白鷹』に攻撃を仕掛けてきた。


 飛竜ワイバーンは竜の亜種と言われているけれど、知能や魔力はさほど高くなく《龍の吐息ブレス》などの特殊攻撃も使ってこない。


 しかしその巨体を生かした体当たりと噛みつきは、武装を整えた魔導機にとっても十分すぎるほどの脅威。そして彼らの攻撃で最も恐ろしいのが、鞭のようにしならせた長い尾での薙ぎ払いだ。特に尾の先にある棘には猛毒があり、生身の人間なら僅かに掠っただけで命を落としてしまうほど。


 そんな強敵相手にマリさんとテイジはたった二人きりで、狭い足場の上に立ち、戦おうとしている。僕は固唾を飲んでその様子を見つめた。





 テイジは両腕に装備した盾に光り輝く緑の力場を発生させ、突進してきた飛竜の前に飛び出した。


 テイジの盾と飛竜の巨体が正面から激突し魔力光があがる。機体の上でわずかに後ずさったテイジは、しかし巨体の突進を見事に受け止め、飛竜の頭を下から跳ね上げるように押し返した。


 それに合わせて、わずかに上がった飛竜の首めがけ、マリさんが鋭い蹴りを放つ。マリさんの爪先に現れた光の刃が飛竜の首を切断し、飛竜は氷の粒となって空中に四散した。






 次の瞬間、マリさんの後ろから水平に飛行してきた飛竜が、長い尾の薙ぎ払いを放った。マリさんは降下翼を使って、蹴りを放った姿勢のまま空中で一回転し、寸での所でそれを回避する。必殺の薙ぎ払いを回避された飛竜は、姿勢を整えるため機体から離れていった。


 着地と同時に、逆方向から接近してきた別の飛竜がマリさんを噛み砕こうと顎を開くが、それはテイジが盾で防いだ。動きの止まった飛竜の頭をマリさんが踵落としで砕く。


「2体撃破! 残り22です!」


 ホノカさんが戦況を報告する。僕の視界の遥か下方で、じわじわとゲートに飲み込まれていく巨大な白龍が、苛立たし気に頭を振るのが見えた。魔術を逆転させられたことを、かなり怒っているようだ。


 あの白龍がこのまま消えれば僕たちの勝ち。少しずつ異界門ゲートは閉じつつあるが、その速度はじれったいほどに遅かった。






 一度『白鷹』から離れた飛竜たちは空中で態勢を整え、今度は機体の前後から同時に攻撃を仕掛けてきた。いわゆる挟み撃ちだ。そのせいでマリさんとテイジはさっと機体の前後に分かれ、それぞれの飛竜と交戦しなくてはならなかった。


 さっきの攻撃はこちらの様子を伺うための威力偵察だったらしい。その結果、こちらの戦力がマリさんたちだけだと見破ったのだ。


 さほど知能の高くない飛竜たちにあんな統率のとれた動きができるとは思えない。きっとあの白龍が眷属たちに指示を出しているのだろう。本当に、一筋縄ではいかない相手だ。






 僕がそう思った瞬間、二人が前後に分かれたのを見計らったかのように、機体の中央部に三体目の飛竜が真上から垂直に体当たりをしてきた。


「(・・・っぐ!!)」


 背中に巨大な質量がぶつかった強い衝撃を感じ、思わず苦痛の声が漏れた。だけど姿勢を崩すわけにはいかない。今、僕がここから動いてしまったら、逆回転させている魔術が元に戻ってしまうからだ。


 僕は必死に歯を食いしばって残された魔力の翼に力を籠め、なんとか機体を安定させた。


 時を同じくして、機体内にいるエイスケとホノカさんも僕と同じように衝撃に襲われていた。二人は衝撃で投げ出されないように、目の前の操作コンソールにしがみ付いていた。機体の非常灯が激しく明滅する。






 飛竜たちが一体ずつしか体当たりをしてこないのはおそらく、僕が機体からだを接している魔方陣を壊さないようにするためだ。


 もし一斉に攻撃を仕掛けられれば、僕たちには対処のしようがない。あっという間に機体をバラバラにされてしまうだろう。


 けれど、そんなことをすればその攻撃の勢いで、僕らの接している魔方陣も一緒に壊れてしまう。魔術を取り戻したい白龍にとって、それは一番避けたい事態に違いない。つまり白龍は魔方陣を守りつつ、『白鷹』を排除しなくてはならないのだ。


 もちろん僕たちにとっては魔方陣が崩壊しても何の問題もない。むしろそれは歓迎すべき事態だ。ただそうなれば僕たちはすぐにでも、白龍自身に殺されてしまうだろうけどね。


 だから僕たちにとっては今のこの状態を維持することが、白龍の動きを縛りつつ自分たちの命を守ることに繋がっている。これもすべて、ホノカさんの考えてくれた作戦だ。






 体当たりをしてきた飛竜は再び上空へと戻っていく。やはり前後の飛竜は囮だったってことか。僕はホノカさんに機内通信で呼びかけた。


「(ホノカさん、戦況をモニターして最適な攻撃対処パターンを表示してあげて!!)」


 機内に響いた僕の声で、端末にしがみついていた彼女はハッと顔を上げ、すぐに二人に通信を入れた。


「了解!! マリちゃん、鬼留くん、データ表示します!」


 空中にいる飛竜たちにターゲットマークが浮かび上がった。接近してくる動きを感知すればマークの色が変わり、アラートが知らせてくれる。これで不意を突くような攻撃にもある程度は対処できるはずだ。






「(ありがと、ホノちゃん!!)」


 マリさんは飛竜の噛みつき攻撃を姿勢を低くして躱し、地面すれすれの位置から飛竜の胸に右拳を叩き込んだ。心臓の位置にある魔石を魔力の刃で砕かれ、飛竜が消滅する。彼女はそれを見届けえることさえせず再びテイジと背中合わせになり、飛竜の攻撃に備えた。残り21体。


 エイスケはこの間も、巨龍に魔術回路を奪い返されないよう回路の書き換えをどんどん進めていた。ゲートは三分の二程まで縮まり、見え始めていた龍の前足もすでに見えなくなっている。


 あとどのくらい耐えればよいのか。僕は何もできない自分を歯痒く思いながら、戦況を見つめていた。






 その後も飛竜たちの猛攻は続いた。広い機体上部を二人だけで守るにはやはり限界がある。


 マリさんとテイジは少しずつ動きが鈍り始めた。身体強化をしていた二人の魔力が枯渇したことが、動きを見るだけでもはっきりと分かった。


 飛竜の体当たりを食らったテイジが膝をつき、機体に衝撃が走る。マリさんは尾の薙ぎ払いを躱し損ねて跳ね飛ばされ、機体の上を滑っていった。


「マリちゃん!!」


 ホノカさんの悲鳴が上がった。その声に応えるかのように、マリさんは機体に魔力の爪を立てて何とか踏みとどまった。魔力切れのため、すでに彼女の降下翼はなくなっている。そのため、落下すれば確実に死ぬことになる。






 テイジの盾の力場も弱々しく明滅していた。テイジは両腕の盾を捨てると、背中のユニットケースから50㎝くらいの棍棒を取り出した。彼の捨てた盾は機体の上を滑って落下し、たちまち見えなくなった。


 彼が握り部分グリップを操作すると、圧縮されていた棍棒が伸び2m以上はある巨大な金棒に変化した。金棒を両手で構え、牽制しつつ周辺を飛び回る飛竜たちを睨む。残りの飛竜は9体。


 すでに二人は飛竜の攻撃を受け流すのが精一杯の様子だった。それでも機体へのダメージを最小限に食い止めようと動き続けている。


 だいぶ前から二人は声を発することもなくなっていた。強化外装の通信からは荒い息と共に胃液を吐き戻す音が聞こえる。けれど二人は善戦を続け、わずかな隙を突いて確実に飛竜の数を減らしていった。






『機体の損傷が60%を超過しました。まもなく乗員の生命維持機能が消失します。乗員はただちに緊急脱出の準備を始めてください。』


 無機質な女性の合成音声が機内に響く。けれどそれに反応する人は誰もいない。僕らは皆、この戦いをやめるつもりはなかった。


 すでにゲートは三分の一以下の大きさになり、白龍の鼻先がぎりぎり見えるくらいになっている。あと少し、あと少し頑張れば!!






 けれど事ここに至って、いよいよ龍もなりふり構えなくなったようだ。3体までに減った飛竜たちは隊列を整えると急上昇し、そのまま一気に機体めがけて突撃してきた。おそらくこれが最後の攻撃になるはずだ。


「多少術式を犠牲にしても、俺たちを排除するつもりか!! 新道!!!」


 エイスケが思わず魔術回路の操作を中断して叫んだ。


「二人とも避けて!!」


 ホノカさんの悲鳴が上がるが、マリさんもテイジも一歩も動こうとせず飛竜の突撃を迎え撃った。






 二人は突進してくる最初の一体に体当たりをして、わずかにその軌道を逸らした。そのため他の2体は先頭の飛竜にぶつからないよう軌道を変えざる得なくなった。


 一瞬空中で動きを止めた飛竜たちに向かって、二人はそれぞれの最後の力を振り絞った攻撃を放った。マリさんの爪が飛竜の胸を切り裂き、テイジの金棒が飛竜の首を二体まとめて薙ぎ払う。


 飛竜たちの体が砕けたことで機体への直撃は免れた。飛竜たちは機体の側面に激突して巨龍の構築していた魔方陣の一部を破壊し、そのまま氷の粒となって消えた。






 二人はついにすべての飛竜を倒し終えた。しかしそれは二人にとって最後の、捨て身の攻撃だった。着地のことを考えず全力で攻撃を繰り出した二人は、雪崩をうつように崩れ落ちる飛竜たちの体に大きく跳ね飛ばされた。


 機体を揺るがす大きな衝撃の中、飛竜に跳ね飛ばされた二人は、壊れた強化外装をキラキラと飛び散らせながら、機体から落下した。


「マリちゃん! 鬼留くん! お願い、返事をして!!」


 ホノカさんの必死の呼びかけにも応答がない。完全に意識をなくしているようだ。飛竜が破壊した部分から連鎖的に崩壊していく魔方陣の間を、頭を下にした二人はまっすぐに落ちていく。


 僕は祈るような気持ちで、エイスケの叫び声を聞いたときから準備しておいた最後の切り札を始動させた。






「(クラゲ射出!! エイスケ!!)」


 機体下部の射出口を開き、僕は回収用ドローンクラゲを空中に撃ちだした。これは今動かせる唯一のドローンだ。他のドローンはすべて壊れて動かなくなっている。この機能がまだ残っていたのは本当に奇跡だった。


 射出ハッチが機体下部にあったことも幸いした。勢いよく飛び出したドローンは、二人を追い越したところで回収用の機械腕マニピュレータを展開し、海を漂うクラゲのように空中にふわりと浮かんだ。


 それを待ち構えていたエイスケが、すぐにクラゲを操作し二人の救出に向かわせる。僕はドキドキしながらその様子を見つめた。






 クラゲの機械腕が二人を空中で捕まえるのと同時に、『白鷹』がガクンと大きく揺れた。『白鷹』を空中に固定していた白龍の魔力領域がついに消失しはじめたのだ。


 落下し始めた機体を、僕は姿勢制御用の翼だけを使って滑空させた。白龍の魔術を乗っ取るために『白鷹』の魔術回路を書き換えてしまったせいで、主翼を作り出すことができなかったからだ。


 僕が機体を安定させると同時に、エイスケが大きな声で僕に叫んだ。 


「新道! クラゲの姿勢制御だけ頼む!!」


 僕はエイスケからクラゲの操作を引き継いだ。といっても今の僕には機械腕の細かい操作なんかは出来ない。せいぜいマリさんとテイジの体が落ちないように、ドローンを安定させることがなんとかできるくらいだ。






 僕がクラゲを空中にゆっくりと漂わせている間に、エイスケは書き換えた『白鷹』の魔術回路を元に戻し始めた。そのおかげで少しずつだが次第に機体の機能が戻ってくる。ただそのほとんどは壊れてしまっていた。


 僕は苦労して弱々しく輝く主翼を発生させ、機体の姿勢を安定させた。実は少し前からから激しい頭痛がしている。急性魔力枯渇の症状だ。


 飛竜の捨て身の攻撃を二人が逸らしてくれなかったら、魔方陣が崩壊するより先に僕が気絶していたかもしれない。


 それよりも機体がバラバラにされていたかな? とにかく本当にギリギリの戦いだった。






 僕はクラゲに掴まれたまま漂っているマリさんとテイジに向かって、ゆっくりと機体を寄せていった。二人を中心に大きく弧を描くようにしながら機体を滑空させていく。


 二人を掴んでいるクラゲは、ちょうど消えつつある異界門ゲートの200mほど上空に浮かんでいた。


 こじ開けようとしていた白龍の魔術が崩壊したことで、異界門は急速に閉じつつあった。もう白龍の姿は確認できず、空中にできた黒いひび割れくらいになっている。


 あとほんの数秒遅れていたら、二人も異界門に落ちていたかもしれない。あの向こうは時空の狭間。一度落ちたら二度と戻ることのできない、虚数空間が広がっている。黒いひび割れを目にした僕は、背中にゾッとするような寒気が走るのを感じた。






 ようやく二人の側まで来ることができた。目視で見ると、二人は本当に酷い状態だった。強化外装はあちこちのパーツが吹き飛んで無くなっている。その部分は外装の下に着る気密式の戦闘服スーツが露出してしまっていた。


 少し機能を回復してきた通信で呼びかけてみたけれど、やっぱり返事はない。生命維持機能は残っているみたいなんだけど、生命反応バイタルのモニターが壊れているらしく、二人の生死は不明のままだ。


 僕は二人の側で機体を静止させようとした。主翼が上手く扱えず姿勢制御に苦労したけど、何とか収容作業ができるくらいには静止させることができた。


 降下ハッチを開く機能が作動しなかったので、ホノカさんに頼んで手動でハッチを開けてもらった。エイスケがクラゲを操作し、無事にマリさんとテイジを機体内に入れることができた。


 ホノカさんはすぐにハッチを閉め、エイスケと協力して二人を降下デッキの床へ仰向けに寝かせた。大きく破損した強化外装を外していく。フェイスガードの下から青ざめた二人の顔があらわれた。二人は息をしていなかった。






 それに気づいたホノカさんはその場にへたり込んでしまった。でもそんな彼女をエイスケは強い調子で叱り飛ばした。


「ぼさっとすんな!! 実習でやった通りにするんだ! お前は阿久猫の方をやれ!」


 エイスケはそう言うと、すぐにテイジの胸の真ん中に両手を当てて心肺蘇生を始めた。彼の言葉にハッとしたホノカさんは、すぐに涙を拭いて同じようにマリさんの胸を押し始めた。


「マリちゃん、しっかりして!!」


「鬼留!! おい返事しろ、この無口野郎!!」


 ホノカさんとエイスケは何度もそう呼び掛けながら、二人の胸を押し続けた。二人の体には大きな傷はないものの、口と鼻から溢れ出た血と体液と吐瀉物に塗れ、本当に酷い状態だ。でもエイスケたちは自分が汚れるのも気にせず、呼びかけを続けた。


 僕はそんな二人を見ていることしかできない。それが本当にもどかしかったけれど、僕には僕の出来ることをするしかない。


 そう思った僕は、少しでも早く安全な場所に二人を連れていくため、機体を揺らさないように気をつけながら、ゆっくりと機体を最寄りの阿蘇防衛基地に向かって移動させ始めた。






 どのくらい経っただろう。ホノカさんの顔が流れ出る汗と涙でぐしゃぐしゃになった頃、マリさんとテイジは二人ほぼ同時に息を吹き返した。


 僅かに顔を動かした後、突然激しく咳きこむ。その後は激しい息遣いで大きく何度も呼吸をしていた。その間もずっとエイスケたちは、大きな声で二人の名前を呼んでいた。


 二人は程なく目を覚ました。マリさんは涙と鼻水まみれになったホノカさんの方に僅かに顔を傾け、弱々しく何か言おうとしている。ホノカさんは彼女の手をしっかりと握り、顔に耳を近づけた。


「何? どうしたのマリちゃん? どこか痛いの!?」


 マリさんはかすれた小さな声で、絞り出すようにその問いかけに応えた。






「・・・あたまいたい、ゲロまみれ、さいあくだよぅ・・・。」


「・・・もう、マリちゃんったら・・・!!」


 泣き笑いの表情でそう言った後ホノカさんは、横たわるマリさんに抱き着いてわんわん泣き始めた。テイジの方もまだ動けないようだが、命に別条はないようだ。


 汗びっしょりになったエイスケは、テイジと同じくらい苦しそうに荒い呼吸をしながらその場にひっくり返った。


「・・・はあはあ・・ちくしょう・・・手間・・かけさせやがって・・・!」


 ああ、よかった。エイスケの憎まれ口を聞いて、僕は心底ほっとすることができた。











「(こち・・阿蘇・・衛隊航空・・制局。聞こえ・・か。応答・・よ。)」


 ちょうどその時、阿蘇防衛基地から通信が入った。地上を確認すると魔獣たちは城砦内から姿を消していた。白龍が消え去ったことで、城砦の結界が機能し始めたんだと思う。火焔魔神バルログたちの姿も見えない。おそらく正気に戻って火口すみかに帰っていったのだろう。


 僕は残された通信機能を使って、基地に連絡を取った。


「(こちら高天原防衛学校第222訓練分隊。聞こえます。)」


「(・・通信・・態が悪・・な。被害・・況を報・・せよ。)」


 こちらの通信機能が破損しているため、ひどく聞き取りづらい。僕は乗員全員の無事を報告した。






「(了解・・た。ただちに阿・・基地に帰投・・れたし。)」


 僕は了解と応答して、機体を阿蘇基地へ向けた。弱った主翼ではほとんど推力が得られないため、ゆっくりと機体を滑空させながら徐々に降下していく。


 僕たちは生き残った。城砦の皆を守れたんだ。静寂を取り戻した青空の中を飛行しながら、僕の胸にその思いがジワリと湧き上がってきた。


 ホノカさんとエイスケは洗浄装置と救急医療キットを使ってマリさんたちの手当てをしている。僕は皆に向けて呼びかけた。


「(阿蘇基地に帰投します。もう少しだから・・・。)」






  その時、機体に大きな衝撃が走った。空間の揺らぎくらいになっていた異界門のひび割れが突然、再び大きく口を開いた。僕の機体からだは黒いひび割れに向かって急速に引き寄せられた。


「馬鹿な!? こんなところで空間乱流か!?」


 エイスケが信じられないと言った調子で叫んだ。異界門ゲートが閉じる瞬間、周辺の空間の歪みが急速に元に戻ろうとする働きで、空間内に強い乱流が生じることがあるのは僕も知っている。


 でもこんなに距離があるのに乱流が起きるなんて聞いたことがない。明らかに異常な事態だ。






「新道、逃げろ!!」


 エイスケはそう言って、すぐに航行補助席に駆け寄った。でも突然の激しい揺れと衝撃のため、彼はそのまま端末に激突して気を失った。


 ホノカさんは必死にマリさんを守ろうとして、彼女の体に覆いかぶさった。


 僕は魔導エンジンを全力で動かし、乱流から逃れようとした。だけど推力の無くなった『白鷹』では強い力に抵抗することはできなかった。僕の機体からだは見えない糸に引かれたみたいに黒い穴へ引き寄せられ、そのまま時空の裂け目へと落ちた。






 僕たちが世界から引き離されると同時に、時空の裂け目は揺らぐように消えた。


 その瞬間、凍えるような寒さを感じた。僕の体から魔力が急速に失われていく。黒い裂け目の間に見える青空に、一瞬マドカと母さんの顔が見えた気がした。


 けれどそれを確かめることもできないまま僕は意識を失い、暗い闇の底へと沈んでいったのだった。

読んでくださった方、ありがとうございました。

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