19 悪意 前編
休みの日にお話を書くのが、最近の楽しみです。
「な、なあ、本当にこんなことして大丈夫なのか?」
大きな体の割には気の小さい山野は、いがぐり頭を落ち着きなく左右に振りながら、相棒の小内に話しかける。小内は落ち着かない様子の相棒に、ブタのような鼻を鳴らしめんどくさそうに答えた。
「さあな、でも俺たちは言われた通りやってるだけだ。何が起きたって俺たちが悪いんじゃねえよ。悪いのは調子に乗ってるあの連中の方だろ。加瀬様もそうおっしゃってたしな。」
単純な山野は相棒の言葉にしきりに頷いてみせた。
「そうだな、そうだよな。よし、さっさと終わらせようぜ。もし憲兵隊に見つかったりしたら・・・。」
「ああ、加瀬様もこれはかなりやばいもんだって言ってたもんな。早いとこ仕掛けてずらかろうぜ。」
豚鬼のように筋肉質な体を小さくしながら、二人は加瀬に指示された通り、呪物を222分隊の練習機『白鷹』に仕掛けた。魔獣皮紙から機体表面に転写された呪印は一瞬、強い魔力光を放った。
山野が驚いて「ひぃ」と声を上げかけたが、相棒から睨まれ、すぐに両手で口を塞いだ。全身冷や汗まみれになりながら、二人は222分隊の隊舎格納庫からこそこそと逃げだした。
222分隊の隊舎を離れてしばらく歩いてから、二人はようやく格納庫のカギをかけていないことに気が付いた。彼らは慌てて分隊舎へと引き返し、加瀬から託されたマスターキーを使って強化樹脂製の扉にカギをかける。
午前4時。巡回警備の間を縫って演習場に入り込んだ二人の周りに人影はない。あらかじめ今夜の警備コースのシフト表を入手してあるので、衛士に鉢合わせする可能性はないのだ。
それでも重犯罪を犯していることを自覚している彼らは、心配そうに周囲を見回した。誰もいない演習場には日が昇る前のひんやりとした秋夜の闇が広がるばかりだ。二人は胸にかかった護符をしっかりと握り締めながら、そろそろと移動を始めた。
隊舎付近には、警戒用の魔力常夜灯が灯されている。だがその光の中を横切っても、二人の姿はおろか影すら目にすることはできなかった。事前に加瀬が準備してくれた『隠れ身の護符』の効果だ。
この護符は装着者の姿を光学・魔力両面から完全に『隠して』しまうことができる。効果時間が短い上に一回限りの使い捨てだが、その効果は絶大だ。この薄明りの中で二人の姿を認識するためには、視覚以外の方法による走査か、相当な魔力感知能力が必要となるだろう。
鈍重で、物事を深く考えたことなどない脳筋二人組が、演習場のあちこちに仕掛けられている探知機器に引っかからず222分隊の隊舎に侵入できたのも、この護符のおかげだった。二人は演習場を巡回する衛士に見つからないよう警戒しながら、出来る限りのスピードで第一男子寮にいる加瀬のところへと戻っていった。
10月になり僕たち高天原防衛学校の生徒たちは、いよいよ他校との合同演習に出発することになった。演習期間は明日から2週間。今日は移動日で、会場である大宰府防衛基地まで分隊機で移動する。
この演習には基本的に全分隊、つまり1年生を除く全校生徒が参加することになっている。その中で代表分隊だけは、他校の代表分隊と独立した合同小隊を編成する。
この合同小隊が正規防衛隊と同じ作戦空域で魔獣掃討作戦に参加するのだ。代表は学年ごとに出すことになっているため、各学校から4分隊ずつ選出される。僕たち222分隊は高天原防衛学校の2年代表として参加する予定だ。
合同演習は毎年この時期に、皇国防衛隊の行う大規模な魔獣掃討作戦に合わせて行われる。代表以外の学生たちは防衛隊の作戦指揮室からの指令に従い、作戦空域外縁部の残敵掃討を行う予定。残敵とはいえれっきとした実戦のため、これまでの訓練とは危険度が段違いだ。
僕たちは他校の代表分隊と合同で小隊を組み行動するため、小隊を構成する分隊同士の連携はもちろん、各分隊ごとの練度も試されることになる。各分隊には合同作戦司令部から監査官が加わり、演習期間中の様子をモニターすることになっている。
笹崎教官によると、合同演習の結果はすべて皇国防衛隊の統合幕僚本部に送られるそうだ。これが代表を出した学校の評価に直結するのはもちろん、隊員一人一人の評価としてもきちんと記録されてしまうらしい。
ちなみにあくまで噂なのだけれど、この評価が卒業後の配属先に直結すると実しやかに言われている。だから上級生たち、特に最終学年である5年生たちは、出発前からかなりピリピリしていた。
簡単なブリーフィングの後、僕たちは先導である笹崎教官機に従って、高天原防衛学校から飛び立った。僕たちと一緒に飛んでいるのは同じ2年生で作る笹崎小隊、全部で32機だ。学年ごとルートを変えて飛行するため、周辺に他学年の小隊機はいない。
現在僕は教官機のすぐ後ろについて、山鹿城砦群と阿蘇防衛基地の中間あたりを西北西に向かって飛行中だ。
「周辺に敵性魔力反応なし。順調ですね、丸山さん。」
「ああ、そうだな。」
エイスケは面白くなさそうな表情のまま、うわの空で彼女に答えた。ホノカさんはそれに気づかず、目の前の魔導レーダーを見ながらほうっと小さく息を吐いた。
「出発前のドキドキが嘘みたい。それに『白鷹』に乗ってる内にだんだん落ち着いてきたし。何だかすごく安心する。」
彼女が独り言のように言った言葉に、すぐ後ろの戦闘員待機席に座っていたマリさんが反応した。
「だよねー。カナメっちが動かしてる『白鷹』ってなんだか、ホカホカする感じなんだよ。」
「え、他のも同じじゃないの!?」
驚いた声を上げるホノカさんに、マリさんは大きく頷いて見せた。
「格闘演習で教官の訓練機に乗ってたけど、こんな感じじゃなかったよ。なんか臭いっていうか、目がひりひりする感じ。ね、テイジ?」
「・・・うむ。」
テイジは小さく頷いた。それを合図にしたみたいに、エイスケは「ちくしょう!」って小さく毒づきながら席を立った。そしてずんぐりした体をうーんと伸ばすと、ホノカさんに向かって話しかけた。
「魔導エンジンで新道の魔力を増幅してるからだろう。獣人族は魔力に敏感だから、違いをよりはっきりと感じるんだろうな。俺は正直、そこまで違いが判らん。」
エイスケの言葉に一瞬きょとんとした後、ホノカさんは恥ずかしそうに頬を染めた。
「そうなんだ、カナメくんの魔力が・・・。」
小さくそう呟いたホノカさんを、マリさんは後ろからぎゅっと抱きしめた。
「何なに、ホノちゃん、やけにうれしそうじゃない?」
「え、そ、そんなことないよ! 何言ってるのマリちゃん!」
「えー、隠すことないのにー。だって・・・。」
目を細めて猫みたいに笑いながら言葉を続けようとするマリさんを、ホノカさんは真っ赤になって必死に止める。
「カナメくんがいないからって、何勝手なこと言ってんのマリちゃん!」
慌ててマリさんの口を塞ごうとしているホノカさんはちょっと涙目だ。ふざけ合う二人の様子を見たエイスケは、ちょっと極まりが悪そうに彼女に話しかけた。
「あー、小桜。『白鷹』と同期中、操縦者は機内の視覚・聴覚情報をすべて把握できるからな。新道もその会話、ばっちり聞いてると思うぜ。」
「え!?本当ですか!?」
通信情報端末席から慌てて立ち上がるホノカさん。顔を真っ赤にしてオロオロし、まるで僕の姿を探すようにあたりを見回している。泣き出しそうな彼女を見て「ふん」と鼻を鳴らしたエイスケは、また自分の機体制御補助端末席に座った。
「つーか小桜。そんなことより、そのスカートの中でも覗かれないように注意した方がいいんじゃねえの? 視覚情報も360度見放題なんだぜ。な、新道、見えてんだろ?」
エイスケが虚空に向かってそう呼び掛けると、ホノカさんはパッと座席に座って足を閉じ、慌ててスカートを押さえた。
「・・・カナメくん、見た?」
「(み、見てないよ!! 何言ってんの、エイスケ!?)」
僕が機内通信でそう答えると、エイスケはニヤリと笑った。
「やっぱ聞こえてんじゃねーか。正直になれ。見たんだろ?」
僕がエイスケに答えるよりも早く、ホノカさんは両手を握り締めながら彼に向かって抗議した。
「もう丸山さん! カナメくんが覗き見なんてするわけないじゃないですか!」
ホノカさんの言葉に彼は呆れたように肩をすくめ、また機体制御モニターに目を落とした。僕は彼女の言葉にちょっとだけ罪悪感を覚えた。
実は発進前の機内走査点検の時、うっかり見ちゃったのです。ピンクと白の可愛らしい縞々を。
もちろんちらりと目(というか視覚情報)に入っただけだし、意識して覗いたりはしてません。ホノカさん、本当にごめんなさい!
「スカートの中、見たいのー? あたしの見る? ほれほれ!」
そう言ってひざ丈のスカートをおへその上までめくりあげるマリさん。マリさんはわざわざ立ち上がって、制服の下に着こんでいる格闘隊の実習服を見せびらかした。
もちろんパンツではないのだけれど、実習服は競泳水着みたいに体にぴったりしたデザインなので、こうやって見るとほとんど下着と変わらない。というかすらりと伸びたすべすべの太ももが目にまぶしい。
僕が慌てて視覚を逸らした途端、エイスケが焦ってマリさんを怒鳴りつけた。
「お、おい、やめろ阿久猫! エンジンの出力が・・・。」
『(こちら2年小隊リーダー。どうした222分隊、出力が乱れてるぞ。先導機にしっかり同期しろ。)』
「(こちら222分隊。すみません出力修正します。)」
『(ああ、しっかり頼むぞ、2年代表。)』
たちまち小隊長機を操縦している笹崎教官から分隊への個別通信が入った。機内に響いた教官の声に、分隊の皆は背筋を伸ばして椅子に座りなおした。エイスケが「ほら見ろ」と言わんばかりにマリさんを軽く睨む。マリさんは「てへ、ごめんね」って感じで舌をぺろりと出してそれに応じた。
「なあ新道、阿久猫の太ももに興奮しちまったのは仕方ないとして、今日はちょっと魔力の流れがおかしくないか?」
「(・・・そうかな? いつもとあんまり変わらないと思うけど。)」
一瞬、興奮してないって言いそうになったけど、出力が乱れたことはなんて言い訳してもツッコまれそうだったので、前半は普通にスルーした。
「機体右後部からのフィードバックがおかしい気がするんだ。いつもなら還流するはずの魔力がフローしてる。」
エイスケの言葉にマリさんは腕組みしたまま大きく頷いた。
「なるほど、わからん! ねえ、マルちゃん、今のどういうこと?」
エイスケはあからさまに面倒くさそうな顔をした後、小さなため息を吐きながら彼女に説明した。
「簡単に言えば燃料漏れみたいなもんだな。新道に還っていくはずの魔力がごく一部、機体のどっかから外に流れてんだよ。」
僕の操るこの『白鷹』をはじめとして、魔導機には魔導エンジンという機関が搭載されている。発明したのは『魔晶石の父』と呼ばれる偉大な魔導物理者、伊集院ゲンイチロウ博士だ。
魔晶石は伊集院博士が開発した人工魔石で、人間に内在する魔力を外部の魔素と直接結合させることができるという特性を持っている。現代の魔導物理学の原点ともいえるこの発明を、博士はまだ魔素の存在が明確に発見されていない超魔力彗星到来前から研究していたらしい。魔導エンジンはこの魔晶石の特性を利用して作られているのだ。
大日本皇国がその後の大変動を最小の被害で免れることができたのは、伊集院博士の功績に他ならない。このことは幼年学校で使っている魔導物理の教科書の1ページ目に書かれているので、皇国民なら誰でも知っていることだ。
ちなみに博士は、大変動直後の混乱期に謎の失踪を遂げたそうだ。懸命の捜索にもかかわらず遺体すら見つからなかったらしい。だからおそらく異界門に巻き込まれて、虚数空間に飲まれてしまったのではないかというのが現在の定説になっている。
魔導エンジンの仕組みは、ある意味とても単純だ。まずは使用者の魔力を発火点として魔術回路を起動し、エンジン内へ円形に配置された属性の異なる魔晶石を同時に共鳴させる。
操縦者の持っている魔力の属性にはバラツキがあるので、当然、魔晶石には共鳴の差が起こる。するとバランスよく配置された魔晶石はこの差を埋めようとして大気中の魔素を吸収しはじめるのだ。
大気中にある魔素は基本的に属性を持たない。魔導エンジンの中心には無属性の魔晶石柱が配置されていて、外側に配置された魔晶石が魔素を定着するよりも早く吸収してしまう。無属性の魔晶石は属性を持った魔晶石に比べて、魔素を吸着する力が格段に強いからだ。
これは魔素が密度の濃いところから薄いところに流れる性質を利用したもの。魔素が魔晶石柱に吸収されるとき、石柱の周囲に魔力が生じる。
この魔力は属性を持たない純粋なエネルギーで、魔術回路を使って簡単に誘導することが可能だ。僕たちの日ごろ使っている様々な道具類は、この仕組みを様々に応用して作られている。現代の魔導物理学を支える基礎理論なので、幼年学校を卒業した人ならみんな知っていることだ。
なお魔力の属性には組み合わせによって反発しあうもの、親和性の高いもの、対消滅してしまうものなどがある。それを用途によって使い分けるのだ。例えばマギホやテレビモニターなどの光学機器は、光属性の魔力に闇属性の魔力の波長をぶつけることで色の差を生み出し、画像を表示している。
また配置する属性の組み合わせによって出力や発火点となる魔力の必要量が変わる。家庭用のコンロや冷蔵庫などの魔道具に使われているものであれば、小さい子供でも自分の魔力を使って起動できるし、小さな魔石を使って簡単に効果を持続させることもできる。
こういう家庭用の魔道具に使われている魔術回路は魔方陣と呼ばれる比較的単純なもので、仕組みを知っていれば幼年学校の生徒でも簡単に作ることができる。僕も幼年学校の自由研究で保温機能のある水筒を作ってずっと使っていた。今でもその水筒は、マドカがお下がりで使ってくれている。
『白鷹』をはじめとする戦闘用魔導機には膨大な量の魔晶石を使った巨大な魔導エンジンが搭載されている。そのため発火点となる魔力の必要量も桁違いに大きい。魔力適性が高く、魔力量の多い貴族出身者が魔導機の操縦者に選ばれるのはそのためだ。
もちろんいくら魔力量が多いといっても、巨大な魔導機を常に自分の魔力だけで動かし続けることはできない。だから魔導エンジンで魔力を増幅させつつ、無属性の魔晶石柱が吸収した大気中の魔素を魔術回路で操縦者に還流させながら運用している。
つまり簡単に言えば、操縦者自身が魔術回路の一部となるわけだ。操縦者が魔導機と完全に同調しなくてはいけない理由はここにある。
もちろん魔力を飛行などの物理現象として発現させると、その分だけエンジン内の魔力も消費される。その段階で還流している操縦者の魔力も一緒に少しずつ流れ出てしまう。そのため一般的に操縦者の魔力量が多ければ多いほど、魔導機を長時間運用できるのだ。
もしも100%大気中の魔素だけで動き続ける魔導エンジンができたら、それは皇紀の大発明だ。でもそんな夢のような機械はまだ存在していない。
この永久魔導機関の創造は魔導物理学の終着点と言われている。研究者の人たちはきっと、今この瞬間も研究を続けてるんだろう。
少し話がそれちゃったけど、ともかくエイスケが言うような魔力漏れがあるとしたら大問題だ。ただ僕自身はその問題をあまり深刻には感じていなかった。
「(そんないっぱい漏れてる? 特に飛行に問題はないけどなー。出発前の点検でも何にも感じなかったよ。)」
僕の言葉にエイスケは小さく頷いた。
「ああ、漏れてるって言ってもほんのごく微量だよ。通常飛行なら何の問題もねえ。多分いつもこの機体を見てる俺じゃなきゃ、この異状には気づかないだろうよ。」
彼はそこで面白くなさそうに「ふん」と鼻を鳴らし、うーんと唸り声を上げた。
「今日は計器を見ただけで、自分の目で機体を確かめたわけじゃねえからな。ちょっとしたことが気になっちまう。ったく、だから他のやつに機体を触らせるのは嫌なんだ。」
エイスケが機体制御端末のモニターを見ながらブツブツ文句を言う。今日は大宰府基地への移動があるため、エイスケとホノカさんの二人は『白鷹』機内の後方支援用端末の調整にかかりきりだったのだ。
機体の整備点検はどの分隊も、今日のために特別に配属された城砦防衛支援部隊が担当してくれた。自分よりもずっと経験のある大人の仕事にも文句を言うあたり、とてもエイスケらしいと僕は思った。エイスケの機体への愛とこだわりは、それくらい並々ならないものがあるのだ。
「(そんなにちょっとならまだまだ飛べそうだし、大丈夫じゃないかな? ホノカさん、大宰府防衛基地まであとどれくらい?)」
「到着予定時間はおよそ5分後ですね。この辺りは魔獣の出現ポイントが多いですから、それをだいぶ迂回しながら飛行してますし。」
「あー、阿蘇と有明か。たしかにどっちも厄介だな。」
ホノカさんの言葉にエイスケは軽く眉を寄せて独り言のように呟いた。阿蘇には強力な火属性と土属性の魔獣が出現する危険区域があり、有明は巨大な海棲魔獣が多数生息している。そのため周辺の魔素が非常に濃密になっており、異界門が開きやすいのだ。
彼は難しい顔でモニターを睨んだ後、小さくため息を吐いて言った。
「くそっ、5分我慢するしかねえか。でも大宰府に着いたらすぐに機体の総点検するぞ、いいな新道。」
僕はその言葉を本当に彼らしいなと思いながら、彼に言った。
「(・・・着いたらすぐに開会式典だってば。式典に代表分隊が遅れたら懲罰じゃすまないよ。)」
「そんなもんと機体、どっちが大事か分かってんだろ!」
どうしても機体の整備をしたい様子のエイスケを見て、マリさんとホノカさんが顔を見合わせて苦笑した。僕も二人と同じ気持ちだ。でもここは心を鬼にして頑固な彼を説得することにする。
「(式典が終わったら思う存分やらせてもらえるって。僕たちは代表分隊は防衛本隊と同じ格納庫を使わせてもらえるんだし。でも怒られたら格納庫に入れてもらえなくなるかもよ。エイスケも皇国防衛後方支援部隊の仕事が見たいって言ってたじゃない。)」
僕がそう言うと、彼はうぐっと言葉に詰まった。
「うう、それは困る・・・仕方ねえな。でも新道、なんかあったらすぐに通信で連絡しろよ。」
「(了解、心配してくれてありがとうエイスケ。)」
僕は機体に巡らせた魔力をもう一度走査する。確かにいつもよりほんの少し魔力の還流が弱い気がした。でも僕が自分一人で『飛燕』を動かしてた時に比べたら、全然安定している。
今の僕は休憩なしでほぼ8時間、『白鷹』を飛行させることができる。もちろん戦闘機動をしたり防壁を展開したりすればその分、航続時間は短くなるけど。
今までの僕は魔力量や魔力適性の高さの割りに、実地ではどうしても効率が悪くなってしまい、うまく飛ぶことができなかった。エイスケが言うには右足を無意識に『踏み込みすぎて』いるらしい。今みたいに飛べるようになったのはエイスケの誘導・調整のおかげだった。
『白鷹』のような汎用作戦支援機を動かせる適合者は一万人に一人くらい。僕が否応なく防衛学校に入学させられたのもこの適合者だったからだ。
マリさんやテイジくらいの魔力なら『白鷹』は無理でも、訓練機『飛燕』をすこし飛ばすことくらいはできるんじゃないかと思う。ただ後方支援科の二人は多分無理だ。起動させた時点で魔力切れを起こしてしまうに違いない。
魔力切れになると大概、ものすごいめまいと頭痛に襲われた後、失神する。魔力が回復すれば自然と目が覚めるけど、その後も猛烈な頭痛と吐き気に苦しめられることになる。おまけに僕の場合は、義眼や義手を含め右半身が動かなくなってしまうので、ほとんど行動不能になってしまう。
魔導機に乗り始めた一年生のころに魔力切れを何回か経験したけど、あれは本当につらい。1年生の時の担任だった中川教官は「繰り返せば魔力の総量上がるから。ぶっ倒れるまでがんばれ」って言ってたけど、余りにもつらいので気絶寸前で止めるコツが身についてしまった。
あの頃に比べたら、僕も随分長く飛べるようになったものだ。僕がそんな益体もない物思いに耽っていたら、ホノカさんが突然、鋭い声を上げた。
読んでくださった方、ありがとうございました。




