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13 分隊の危機?

本日2話投稿しています。こちらは2話目です。

「マリちゃん!! マリちゃんしっかりして!! ねえ、新道くん!!」


 意識を無くすように突っ伏したマリさんへ懸命に声をかけながら、ホノカさんが僕の方を振り返った。


「・・・ホノちゃん、カナメっち・・・・。」


 苦しそうに呻き声を上げ、マリさんが僅かに顔を起こして僕らの方を見る。彼女の目の端には小さく涙が浮かんでいた。


「マリさん! あきらめちゃだめだ! 今、あきらめたら・・・!!」


「・・・ごめん・・・あたし・・・もう・・・。」


 僕の励ましの言葉も虚しく、マリさんは弱々しい声で呟くように答えた。同時に力を失ったマリさんの手が、ぐったりとその場に落ちる。


「マリさーん!!!!」


 目の端に涙を滲ませ、安らかな表情で目を閉じるマリさんを、僕とホノカさんは必死に揺り動かした。











「うるっせぇぞ、お前ら!!」


 エイスケが机に突っ伏しているマリさんの頭を、手にした分厚い単語帳でスパーンっと引っぱたいた。途端に目を覚まし、がばっと身体を起こすマリさん。


「ひどーい、マルちゃん! 叩くことないでしょー!!」


 抗議の声を上げたマリさんに負けないくらいの声で、エイスケは彼女に言い返した。


「ひどいのはお前の成績だろうが! 誰のために休みの日にこうやって集まってると思ってんだ! まじめにやれ!」


 ふくれ顔のマリさんの後ろで、テイジは心配そうにウロウロしている。マリさんの世話を焼きすぎて、さっきエイスケから「阿久猫のためを思うなら、甘やかすんじゃねぇ!!」って怒鳴られたばかりだからだろう。






「お前らもだ、新道!小桜! こいつの小芝居にいちいち付き合ってんじゃねえよ!」


 エイスケの言葉にホノカさんが驚いたように声を上げた。


「え、今のお芝居だったんですか!?」


 ホノカさんはエイスケと僕、そしてマリさんを見て目を白黒させている。真面目な反応を見せる彼女に思わず苦笑しながら、僕はふざけてしまったことを謝った。


「ごめんごめん、なんか深夜テンションになっちゃったみたいで。さ、マリさん、続きをがんばろう?」


「あーもー!! なんで格闘隊に筆記試験なんてあるのさー!!」


 そう叫んで頭を掻きむしるマリさん。でも彼女はぶつぶつ言いながらも机に向かい、また問題を解き始めた。僕とホノカさんは、マリさんが引っかかるたびにそれを一つ一つ丁寧に説明していった。











 7月最後の休日、僕たちは222分隊の隊舎に集まっていた。先週行われた前期試験でほぼ全教科赤点をとってしまったマリさんのために、勉強会を開くことにしたからだ。


 現在時刻は深夜1:00。日が沈んで大分時間が経ったが、外にはまだ茹だるような昼間の暑さが残っている。でも隊舎の中は空調の魔道具があるために快適だ。


 僕たちは隊舎2階の休憩室の机に座り、問題を解くマリさんを取り囲むようにして彼女の勉強を見ていた。ちなみに今やっているのは国語。護符作成や魔方陣構築に必要な単語や呪文などの問題の解答を、学習用のタブレットにペンで書きこんでいる。


 格闘隊員がこれらの呪文や魔方陣を直接扱うことはほとんどない。けれど、任務中に読み取りが求められる場面もあるので、格闘隊員にとっても必須の内容なのだ。


 国語の説明をしているのは主に僕だ。歴史と国語、そして美術は、幼年学校のころから得意教科だった。マリさんの手が止まるたびに、呪文を一緒に詠唱して少しずつ進めている。


 ちなみに地理と数学、魔導物理はエイスケが教えている。ホノカさんは全教科の解説役兼マリさんの応援係。テイジは、まあ、マリさんが心配でついてきた付き添いって感じかな。






「ねえねえ、カナメっち! この問題の例文って・・・。」


 困った顔で問題を指し示すマリさん。僕はすぐに自分の学習用タブレットを取り出した。


「ああ、それはこのページに書いてあるよ。」


 僕は自分のタブレットを開いて、国語の練習問題に出された例文の引用元を彼女に示した。大災厄前の世界地図と、現在の世界地図の違いについて書いてある解説文だ。


 僕が解説文の用語を説明していると、彼女は大半が灰色で塗りつぶされた北アメリカ大陸をペン先でコツコツとつつきながら僕に尋ねた。


「ここってもう誰も住んでないんでしょ? なんで今更勉強する必要あんの?」


 興味無さそうに言う彼女に、僕はできるだけ丁寧に答えた。






「誰も住んでないわけじゃないよ。東側は核兵器の暴発で不毛の地になっちゃったけど、西海岸の一部にはまだ人が住める場所が残ってるんだ。それに今、中央部の砂漠と山岳地帯には山小人族の入植地があるみたいだよ。それで大陸東部の開発も少しずつ進んでるんだって。」


 僕の説明に、彼女はたちまち目を輝かせた。


「あー、それ知ってるよ! 核兵器って大災厄以前にあった『さいきょー武器』なんでしょ!?」


「お前、そう言うのは詳しいのな・・・。」


 エイスケが呆れたように言うと、彼女はグイっと胸を張って見せた。ポヨンと弾む形のいい二つのふくらみから、僕は慌てて目を逸らした。


「とーぜん! あたし、戦いのことなら得意なんだよ!」


 彼女の言葉に苦笑してホノカさんの方を見ると、目線に気づいた彼女は頬を赤くして顔を伏せてしまった。僕もなんだかちょっと気まずくなり俯いてしまう。最近、こういうことがすごく多い。


 そんな僕たちを生暖かい目で見ながら、エイスケが「はん」と大きく鼻を鳴らした。






「確かに核兵器はすごかったらしいけどな。今となっちゃ、あんな不安定で危ないもん、使うどころか作ることも出来ねえよ。」


 エイスケのいう通り、超魔力彗星の引き起こした魔力災害によって、大災厄以前の科学技術はそのほとんどが再現不能になってしまっている。


 大災厄前、主要なエネルギーだった化石燃料や電力は、火や雷の精霊たちの大好物だからだ。どんなに物理的に閉鎖された空間であっても、実体を持たない彼らには関係がない。魔力災害で活性化した彼らによってそれらの資源はほとんど食べ尽くされ、発火・暴走を繰り返して使用できなくなってしまった。


 武器に使用されていた火薬類も同様だ。火薬は今でも火の上位精霊を呼び出すときの触媒として使われることはあるけれど、その時も結界で厳重に封鎖しておかないと扱うことができない。材料を持ち歩いているだけでも小精霊たちが集まってくるくらいなので、とても危険なのだ。


 大災厄直後に起った大陸各地での核兵器の暴発も、そのほとんどが彼らの仕業だ。そのせいで現在、北アメリカ大陸のほぼ全域とユーラシア大陸の東半分、それに南アメリカ大陸とオーストラリア大陸の一部は不死者と呪霊の徘徊する不毛の大地になってしまっている。


 かつて地球上のほぼ全域にわたっていたという人類の支配領域は、今ではごくわずかになった。各地の『異界門ゲート』から出現した強力な飛行魔獣や超大型の海棲魔獣たちがいるために、他の国との交流もほとんど行われていない。


 僕がそう説明すると、マリさんはソファにどさっと沈み込んで大げさにため息を吐いた。


 




「大災厄の前は誰でも海を越えて大陸へ移動できてたんでしょ? あーあ、私も他の国に行ってみたかったなあ。」


「他の国!?」


 彼女の言葉にホノカさんが悲鳴のような声を上げた。大日本皇国と違って、霊的結界に守られていない他国は魔獣の被害が段違いに多いと聞いている。ほとんどの皇国民にとって、他の国は恐ろしい場所なのだ。ホノカさんの反応はごく一般的なものだといえる。


 でもマリさんは違った。彼女は猫みたいな顔でにゃははと笑って言った。


「だって他の国にはすごい強い魔獣がいっぱいいるんだよ! あたし、そいつらと戦ってみたいんだ!!」


 その言葉があまりにも彼女らしかったので、僕とホノカさんは顔を見合わせ思わず笑ってしまった。でもエイスケは厳しい顔をしながら、そんな彼女に向かって問題の表示されたタブレットをぐいっと突き付けた。






「そりゃ確かに結構なことだ。卒業後に国連討伐部隊にでも入れたらいくらでも戦えるさ。だがまずは、こいつを片付けてからだ。」


「もう! ちょっとくらい休憩させてくれてもいいじゃん!!」


 マリさんは頬を膨らませながらも、タブレットの練習問題に取り組み始めた。そんな彼女を見てエイスケは盛大なため息を吐いた。


「ったく、だいたい俺たち全員が付き合う必要があったのか?」


 そうブツブツ言うエイスケに、ホノカさんはぺこりと頭を下げた。


「ごめんなさい、私がマリちゃんを助けてあげられたらよかったんだけど・・・。」


「い、いや、お前を責めてるわけじゃねえよ、小桜。」


 自分の何気ない愚痴に応えて真面目に謝るホノカさんに、エイスケは慌ててそう言った。






「ホノちゃんの教え方は、あたしには高度すぎてついていけなくってさー。さすがは学年トップだよねー。」


 マリさんはタブレットにペンで解答を書き込みながらそう言った。ホノカさんはこの間の試験の共通科目全教科で満点。ぶっちぎりの学年一位だった。ちなみに僕は真ん中より少し上くらいの成績だ。


 試験後、赤点を取ってしまったマリさんのために、ホノカさんは第2女子寮で彼女の勉強を見てあげていたそうだ。でもそれがなかなかうまくいかなかったらしい。


 先週の演習後、ホノカさんから相談を受けた僕たちは隊舎で勉強会を開き、ホノカさんがマリさんに説明する様子を実際に見せてもらった。






「えっとね、この式の解答はこうじゃない? これを地図に当てはめるとこの座標になって、だから索敵の必要な範囲はここからここまでで・・・。」


「?? ちょっと待って待って、ホノちゃん! この式の解答、なんでこうなるの!??」


「え、だって、提示された資料を見たら、ここの数値が出てくるでしょ? それを当てはめて・・・。」


 そう言ってホノカさんが指し示した例題の資料は、タブレットの画面を埋め尽くすほどの数式とデータの集まりだ。見ているだけで目が滑る。僕は思わず彼女に尋ねてしまった。






「ちょっと待って、ホノカさん。この問題って前にやったことある?」


「え? ううん、今、初めて見た練習問題だよ。」


 僕と同じように顔を顰めながら資料を読んでいたエイスケも、彼女に尋ねた。


「・・・この資料、事前に読んでたのか、小桜?」


「そんなわけないですよ、丸山さん。これ、試験範囲からのランダム出題なんですから。」


「「「「・・・・・。」」」」


 僕たちは言葉を無くしてきょとんとしている彼女を見つめた。そして不思議そうな顔をして無言の僕たちを見つめるホノカさん。


 うん、これは確かにうまくいきそうにない。基礎学力が僕たちとはあまりにもかけ離れている。






 そんなわけでそれ以来、放課後に勉強会を開くことになったのだ。マリさんが次の追試に合格しなければ、特別補習を受けることになってしまう。そうなれば222分隊はマリさん抜きで演習に出なくてはならない。


 今のところ、順調にスコアを伸ばしているとはいっても、まだまだ他の分隊との差は大きい。魔獣の掃討や地上での索敵・感知に優れたマリさんが抜けてしまったら、分隊の演習単位が足りなくなってしまうかもしれない。つまり222分隊存続の危機というわけだ。


 僕は妹のマドカの面倒を見なくてはいけないため、どうしても勉強会に参加できる時間が限られる。その間はエイスケが先生役となり、彼女の勉強を見てくれていた。その甲斐あって少しずつ彼女の模試の結果もよくなってきてはいる。


 でもいかんせん元々の成績が低すぎるのだ。そのため合格ラインに届くかどうか、今のところとても微妙。そこで試験前日の休日、つまり今日、最後の仕上げをするために僕たちは隊舎に集まったのだった。











「ほれ、この単語帳見ながら自分で調べろ。なんでもかんでも新道に聞いてたら、いつまでたっても覚えねえぞ。新道、お前もあんまり甘やかすな。」


 エイスケがさっきマリさんの頭を引っぱたいた分厚い単語帳を彼女に手渡した。


「おー、すごい!! めっちゃきれいにまとめてある! これって、マルちゃんの手作り?」


「まあな。俺が1年の時に使ってたやつだよ。もう覚えちまったから、お前にやるよ。」


 僕もマリさん、ホノカさんと一緒に単語帳を覗き込む。共通科目に必要な単語や呪文、用語などが分かりやすい解説付きでまとめてある。図やグラフ、魔方陣の構造なども、几帳面で丁寧なメモとともに書き込まれていた。






 マリさんがパラパラとめくった単語帳を見て、僕はエイスケに言った。


「これって2年生だけじゃなくて、上の学年の分までまとめてあるんだね。」


 僕の言葉にエイスケは少し気まずそうな顔で「まあな」と小さく答えた。


「ふえー、マルちゃんも勉強できるんだね! あ!! ひょっとして留年一回目じゃないとか!?」


 嬉しそうな声で能天気にそう言ったマリさんの頭を、またエイスケが無言でひっぱたいた。「あんまり叩くと馬鹿になるじゃん!」と抗議する彼女に、エイスケは大声で言い返した。


「留年したのは一回だけだよ、この馬鹿!」


 でも彼はそこで一度言葉を止めた。急に無言になったその様子を不思議に思って、僕は思わず彼へ目を向けた。






「・・・前の学校の授業の進みが早かったからな。予習してたんだよ。」


 エイスケはちょっと目を逸らしながらそう言った。最後の方はほとんど呟きになってしまっていて、よく聞き取れなかった。言い淀むようなその様子が気になって、僕はエイスケの顔を覗き込んだ。ホノカさんも彼を気にしているようだ。


 でも彼は聞かれたくなさそうな感じだった。だから今はそっとしておく方がいいかなと思い、僕は口をつぐんだ。


 ただ僕のそんな思いとは裏腹に、マリさんは悪びれることもなく無邪気に尋ねた。






「へー、そーなんだー! 前の学校ってどんなとこ?」


 エイスケはちょっと逡巡した後、マリさんのわくわくした目を見て、はーっとため息をついた。


 きっと彼は今の一瞬で、言った時と言わなかった時、どっちがめんどくさいかをシミュレーションしていたんだろう。


「・・・出雲だよ。」


 そのぶっきらぼうな言葉で、僕とテイジ、それにホノカさんは一斉にエイスケの顔を見た。マリさんだけは「出雲ってどこだっけ? 九州のどっか?」って言ってたけど。






 出雲防衛士官学校。西日本を代表する超名門校だ。皇国防衛隊の士官を育成するための特別なカリキュラムを持つ軍学校で、入学するのはもちろん、卒業するのも困難と言われるエリート育成機関。


 生徒のほとんどは上位貴族出身者だと聞いたことがある。そんな名門に通っていたエリートが辺境の高天原このがっこうにやってくるなんて。彼の転校と留年には、何かよほどの事情があるに違いない。


 僕はこれまでエイスケが貴族だという話は聞いたことがなかった。ひょっとして身分が壁になって、出雲にいられなくなり転校してきたのかな。少し心配にはなるけれどエイスケの様子を見るに、これは彼にとって触れてほしくない話題のようだ。


 マリさんも答えが聞けて満足したみたいだし、これ以上の詮索はしないほうがいいだろう。僕がそう思ってテイジ、ホノカさんの目をみると、二人もそっと頷いてくれた。二人も分かったみたいだ。


 でも一人何も分かっていないマリさんは、何の悪気もなくまた単語帳をエイスケに差し出した。






「あれ、この単語帳、表紙の裏に名前が書いてあるよ! 『不二屋エイスケ』? これ、マルちゃんの名前?」


 マリさんの問いかけにビクッと体を震わせる僕たち。エイスケが目を泳がせながら、ごまかすように答えた。


「あ、ああ、それな。離婚した親父の苗字なんだ。丸山はおふくろの姓だよ。」


 そこまで言ったところで、彼はハッとしたように表情を変えてマリさんを怒鳴りつけた。


「てかお前! さては勉強したくなくて話逸らしてんだろう! まじめにやれ!」


 エイスケはマリさんから単語帳を取り上げると、また彼女の頭をひっぱたこうとした。でもマリさんはサッと身を逸らしてその一撃を躱すと、猫みたいな顔でにゃははと笑った。






「えへへ、バレた?」


「も、もうマリちゃん、だめじゃない! ほら、一緒に考えてあげるから、終わらせちゃおう?」


 まだ何か言いたそうなエイスケを取り繕うように、ホノカさんがマリさんに話しかける。僕も彼女に便乗して言った。


「そ、そうだね。もう遅いし、これ以上は明日の試験に響きそうだ。これ終わったらもう休もう。」


 その後「お腹すいたー」というマリさんのために一回、夜食休憩をとった。結局すべての問題が終わった時には午前3:00になっていた。ちなみに夜食はテイジが作ってくれたうどんだった。出汁が効いててすごく美味しかったです。


 明日の始業時間まで5時間近くは休めそうだ。女子は仮眠室に、男子は休憩室でそれぞれ横になった。眠りに落ちる寸前『不二屋』ってどこかで聞いた名前だなって思ったけど、はっきり思い出す前に眠りに落ちてしまい、それきりそのことを思い出すことはなかった。











 翌日というか今日。寝ぼけた頭でなんとか午前の授業を終えた僕たちは、分隊舎に集まり機体の整備や装備の点検などをしていた。


 午後からマリさんの追試が行われるため、222分隊は総合演習に参加しなかった。別に4人で参加しても問題はないのだけれど、マリさん抜きで行くのは嫌だった。ほかの3人も僕と同じ思いのようで、誰もが当たり前のように不参加前提で午後の予定を過ごしていた。


「・・・おい、鬼留。『白鷹』の降下デッキでウロウロすんな。上からコツンコツン音がして気が散るんだよ。」


 機体の下に潜り込んでいたエイスケがテイジに声をかけた。彼は今、整備用の装備と魔力光遮蔽ゴーグルを身につけ、魔導エンジンの整備をしている。テイジがいる地上降下用デッキは、彼の顔の真上にあるのだ。






「・・・すまん。」


 テイジは一言謝って降下デッキの戦闘員待機席に座ると、自分とマリさんの強化外装を点検し始めた。だが、いくらもしないうちにまた立ち上がり、デッキ内をウロウロと歩き始める。エイスケは「ふん」と鼻を鳴らし、盛大に顔を顰めた。


 僕は機体と同化したまま、コックピット内から通信でみんなに話しかけた。


「(でも、僕もテイジの気持ちわかるよ。マリさん、大丈夫かな?)」


 僕の言葉にエイスケは整備の手を止めないままで答えた。






「まあ、俺も心配だがな。だからって今、何かしてやれるわけじゃねぇ。できることはやったんだし、あとは阿久猫を信じるだけだろ。」


 エイスケの言葉に、ホノカさんとテイジが動きを止めて彼の方を見た。


 それでやっと、彼は自分の言ったことに気が付いたようだった。彼は恥ずかしそうに顔を赤らめ、自分の言葉を誤魔化すように「ごほんごほん」とわざとらしい咳払いをした。そんなエイスケを見て、ホノカさんが楽しそうにくすくすと笑う。


 きまりが悪そうなエイスケにちょっと助け船を出すため、僕は彼に話しかけた。






「(ところでエイスケの試験順位、まだ聞いてなかったね。順位表に名前あったっけ?)」


 すると彼はちょっと整備の手を止めた後、間延びした声で僕の問いかけに答えた。


「あー、俺、共通科目は受験してねえよ。共通の単位は去年全部取得してるからな。受けたのは専門科目だけだ。」


「(あ、そうなの? 専門科目って、機体制御と通信?)」


「あとは情報解析と機体整備、索敵基礎かな。まあそこそこの出来だぜ。専門科目も全教科満点の小桜には全然、負けてるけどな。」


 その言葉に驚いて、僕は思わず声を上げてしまった。


「(ホノカさん、専門も満点なの!?)」


 僕がそう言うとホノカさんは困ったように照れて笑った。


 ホノカさん、本当にすごい。専門科目の成績は他の科の生徒には知らされないから、全然知らなかったよ。


 あれ? ということは、エイスケは去年、後方支援科の専門科目の単位を取ってなかったんだ。なんか事情があるのかな。


 もしかして去年までは別の学科だったとか・・・。






「終わったよー! みんな、お待たせー!!」


 僕のそんな物思いは、元気よく隊舎に飛び込んできたマリさんによって中断された。テイジが機体を飛び出して、マリさんのもとに駆け寄る。僕も機体との接続を一時中断して、コックピットを出た。


「こら新道! 勝手に同期止めんじゃねぇ!! モニターやり直しじゃねえか!!」


 エイスケはぶつぶつ言いながらも、機体の下からごそごそ這い出すと、ゴーグルを外すのもそこそこにマリさんに駆け寄った。もちろんホノカさんもだ。僕たち4人は我先にとマリさんの周りへ集まった。






「マリさん、どうだった!?」


 僕の問いかけに対して、マリさんは猫のように眼を細め、満面の笑みで両手でVサインを作った。それを見て全員が同時に歓声を上げた。「みんな、ほんとにありがと!!」というマリさんと手を打ち合わせ、僕たちはお互いに自然と手を取り合った。


 マリさんの試験結果は合格ラインぎりぎりだった。でもなんとか特別補習を免れることができたのだ。これで総合演習に集中できる。


 今までの遅れを取り返さなきゃ。僕はそんな思いで皆と一人一人目を合わせ頷きあった。取り合った手からみんなの思いが熱となって伝わってくる。


 この5人ならどんな困難でも、きっと乗り越えていける。僕の胸にはまた、そんな思いが自然と湧き上がってきたのだった。






 ちなみに後で調べたら、格闘隊の専門科目筆記試験一位はテイジでした。


 テイジ、勉強できたんだね・・・。勝手に脳筋だと思ってて、なんかごめんよ。

読んでくださった方、ありがとうございました。前の話が少し短かったのでもう一話いけるかと思って書き始めたら、結構時間がかかってしまいました。この続きは来週になると思います。

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