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アグネス、出勤中に襲撃される

 神様がアグネスの切実なる願いに耳を傾けてくれたのか、その後しばらくは、平穏な日々が続いた。

 しかし、今回、例のテロ事件を引き起こした宗教団体関係者がまだ在野に残っている可能性を含めて、検討が必要であることがはっきりした。別世界から今後も魔物たちが侵入してくる恐れは、解消されていなかったのである。

 

 アグネスは、あちらこちらの会議への出席が求められた。

 もっとも、出席したからといって何か有用な情報が与えられるわけでも、協力を申し出てくれるわけでも、さらには今、最も欲しい実戦経験が得られるわけでもなく、実に時間の無駄でしかなかった。

 その間も、得られた分の情報解析はラグドールとアビシニアンによって進められ、開発部は放っておいてもマシンや新作アイテムの提案やら見本やらを届けてくるようになっており、その点においては、アグネス1人が全てを背負う必要はなかった。


 家に帰れば、元ジュリオとアンバーとが、家庭の楽しみを提供してくれていた。

 元ジュリオは実際のところ、アグネスにも完全には手の内を見せてはくれない存在であるから、何を狙って、何をさせようとしているのか、不明点が多すぎるのであるが、少なくとも、現在のところ、普通にアドバイスをくれている。シミュレーション結果を見て、問題点を鋭く指摘してくれるのは、正直ありがたかった。10年経っても、やっぱり彼は、アグネスの先生なのだった。

 

「あぁ、もう、どうしろっていうのかしら? だいたい、軍組織総出で以て相対したのにもかかわらず、結局は、あちらさんの都合でお帰りになられたことで、助けられたっていうのが実情。私とCAT7人の計8人なんて、どう考えてもマンパワー足りなさすぎでしょ。」

「何を焦っているんだい?」

「今後のことがまったく分からないのに、落ち着いてなんかいられないわよ。スライムがちまちま出てくる程度ならばいざ知らず、ワイバーンとかが再びやってこられたら、太刀打ちできないわ。侵入場所が1か所だけで済むとは限らない。実際、テロ事件関連では、最大8か所からの同時侵入があったのよ。そもそもCATなんて、軍組織の内部でだって、万が一の際の“やってますアピール”のため創設した見た目重視のお飾り集団だっていうのが定評なのよ。その目的に即して、私だって、ちゃんとお仕事してみせたのに、方針が勝手に変えられて、でも、人は増やせないって、あんまりだわ。」


 そうなのだ。とりあえずは、CATの活躍で、弱いながらも魔物には違いない存在を、最小限の被害(森林火災がごく狭い範囲で起きた)で押しとどめることができた。という実績は作られた。

 が、そもそも、軍上層部の事情が知らされている面々の方では、CATの正体が、ペット用に利用される人工生命体クリーチャーに文字通り毛が生えた程度のものだと知っているし、知らされていない面々と上層部以外の軍組織の大半の見方は、偶然にしては上出来程度の評価であった。

 見た目重視で派手に動いた分、その能力等で、正当な評価が得られるのは困難となっていた。

 それならそれで、軍組織全体で対魔物戦略に本腰を入れるように方針転換し、アグネスをもとの資料庫へと送り返してくれたらよいのだが、そういうことにもならなかった。

 

「まぁ、そう腐るな。軍というのはおかしな連中が揃ってるんだ。むしろ、アグネスのように目立たない安全な場所に引き籠って、本さえ読めればいいなんていうのは、まず、いない。今後、魔物の出現が続いて、その頻度と規模が増加したら、現場に出ていって実績を上げたいやつ、積極的に魔物とやり合いたいやつ、先のテロ事件の因縁を個人的に晴らしたいやつ、放っておいても、勝手にアグネスの手助けをしてくれるやつらは湧いて出てくるさ。現場はそいつらに任せたらいい。アグネスが、危険な場所にロマンを感じる必要はない。アグネスは情報を押さえるのに専念するぐらいでちょうどいいんだよ。」

ハウスキーパー殿は辛辣だ。


「それなら、いっそのこと、資料庫に戻してくれてもいいのに。」

「CATは実績を作ってしまったからね。実績ができてしまったら、下げることはできない。それが軍組織というものさ。アグネス、君は自ら退路を断ってしまったんだよ。」

ハウスキーパー殿は、さも面白そうに言った。

 きっと、思い通りに動けているのだろう。ハウスキーパー殿の考えは読めないが、少なくとも、現状では、アグネスが邪魔な存在にはなっていないことは確かなようだ。もし、駒としての存在価値が無くなったら、笑って切り捨てにかかる。この男はそういう人間だ。アグネスは、背筋に寒いものを感じていた。


「何を考えてる。」

 沈黙が、余計な疑念を生み出してしまったのか、ジュリオはアグネスを背中から抱きしめてきた。アグネスは、何も答えられなかった。すると、ジュリオは、元夫婦の情に訴えかける行動へと方針を変えてきた。アグネスは、それから、夜が明けるまでの間、ジュリオのなすがままにされ続けたのだった。


 翌朝、スコティッシュの運転する公用車のシートで、うつらうつらとしていたアグネスは、急ブレーキによって、意識が戻されることになった。


「何?」

「しっかり掴まっていていてください。」


 スコティッシュは、暗に状況を説明する余裕が無いことを示し、急発進させ、道を変更した。車体は乱暴に振り回され、掴っているのにも苦労したが、不思議と怖さはなかった。「あぁ、来たか。」それぐらいの感覚である。アグネスはどこかで醒めている自分を自覚していた。

 後ろを追跡してきた車は、黒塗りで、窓には特殊加工がされているらしく、暗くは見えないのにもかかわらず中の様子も見えないようになっていた。

 

 パン、パン。


 乾いた音がした。それが何であるかは、リアウインドーの端に出来た痕が雄弁に語っていた。


「大丈夫ですか?」

「平気。ガラスに当たったみたいだけど、割れてないし。」


 それ以上は追ってこないようだった。なぜ、途中で諦めてくれたのかは、さっぱり分からなかったが、軍組織の施設、アグネスのいつもの職場に到着した直後に、その理由は判明した。

 

 追手は、全員死亡していたのだった。

 公式発表では、追手は3名の男女。運転手役の20代の男性と、狙撃役の30代の女性。そして10代前半の女児だった。女児は巻き込まれただけの可能性も示唆されていた。例のテロ事件を引き起こした某宗教団体の在家信者だったらしい。

 ここに至って、某宗教団体の残存勢力を今一度、調べる必要があるという意見が通り、実行に移されることとなった。禁固刑に処せられている関係者も再び入念にチェックされることになった。しかし、これは真実を隠す目くらましであろうと、アグネスは感じていた。実際、何1つ新しい情報は得られなかったことが後に判明する。

 

 アグネスの乗った公用車が襲われたのにもかかわらず、その日の会議は予定通り、つつがなく開催された。冒頭で、事実は簡単に伝えられたが、出席者の中に、アグネスの身を気遣う発言をする者は誰一人としていなかった。それどころか、あからさまな嫌味を言われた。


「未亡人殿は、早く次の嫁ぎ先を探されたらどうですかな。もう10年も喪に服されたのだ。ヤン家も感謝することはあっても非難はすまい。さすれば危険な目にお遭いになることもありませんぞ。軍組織内部にアイドルグループなど作っていても仕方ないとは思われませんかな。」

発言の主は、CATの正体を知っている層の1人、ジェラルド=キムであった。

アグネス「本文中に移動っぽい内容が入れられるようになってきたのに、ますますサブタイトルがやる気ない感じに……。」

猫「名前とかタイトルとか、ネーミングセンスを問われるもの苦手なんだもん。」

ジュリオ「サブタイトルが大事だとか書いてたくせに……。」

猫「この作品では、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が大事、なんだってば。」

アグネス「登場人物にも、名前付けないこと多いしね。」

ジュリオ「俺たち、名前があるだけマシってことか。」

猫「この作品は、名前有る率高いと思う。」

アグネス「普通は、作品に登場する人物ほぼ全員に名前を付けるものじゃないかしら?」

ジュリオ「そうだ。それが普通だ。」

猫「ジュリオにはもう1つ余分に名前付けてるから、それで勘弁して欲しい。」

ジュリオ「そういう問題なのか?」

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