アグネス、軍組織からヤン家へ
アグネスは、ジュリオに経過を簡単に説明した。
そして、CATに関しては、軍組織内であまり期待されてはいないこと。さらに、統括責任者に任じられたアグネス自身がまったく意味の無い馬鹿げた行動をしていることから、およそ役には立たない無駄遣いと判断される日も近いということ。一方で、開発されたスーパークリーチャーの能力は、後付けされる教育プログラムによってまだまだ上がっていく余地があること。開発担当者は、こちらの意向を尊重してくれそうなこと。を伝えた。
「つまり、使えそうなのか?」
「おそらくね。私の好きにして良いという言質は取ってあるし、その言質を取ったことで、CATが文字通り私の7匹の猫、ペットになることは決まったようなものだから。軍上層部であれの正体を知っている層のほとんどの人間は、あれがタダの愛玩用人工生命体に過ぎないって信じてるもの。そして、正体を知らされていない層には、上層部の気まぐれに予算が無駄遣いされて、そこにマダムヤンが乗っかったと思われてるわ。マダムヤンは、軍の予算で上層部公認の愛人たちを飼育することになったらしいって噂で持ちきりよ。それらしく、可愛らしい容姿にさせて、可愛らしい制服を用意させたから、いよいよ信憑性も高まっているでしょうね。」
「やれやれ。怖い怖い。」
「何か言ったかしら? こんなこと、私は望んじゃいなかったのだから、せめて、楽しませてもらうくらいは許容していただきたいわね。それこそ、マダムヤンの7匹の猫ちゃんたちには、うんと奉仕してもらうつもりよ。私の忠実なる僕として、せいぜい傅いてもらうわ。」
アグネスは、きっぱりと宣言した。
ジュリオは通信機の向こうで、そっと溜息をついた。
「大丈夫よ。あくまでも人工生命体なのだから。彼らには真の感情は無いわ。ただ、軍組織内部の人間の目には、派手に映ってもらう方が目くらましとして有効でしょ。女王様と7人の可愛らしい僕たち。コンセプトとしてはそんなところ。でも、実際に可愛らしいだけにしておくつもりはさらさら無いわ。私が自由に使える有効な武器になってもらいます。そのためにも、開発部の連中たちには、飴が必要なの。ご理解いただけるかしら? ハウスキーパー殿。」
「あぁ、十分に理解しているよ。飴だろ。準備は整えてある。」
「よろしくね。あと、アンバーはどうしてる? 元気にしているかしら?」
アグネスは、もはや、自分の身にいつ不測の事態が起こっても仕方がないと諦めてはいた。しかし、娘のアンバーだけは、無事でいて欲しい、自分が身を置いているような危険な場所からは遠くにいて欲しいと望んでいた。万が一のことがあったならば、アンバーは、ヤン家ではなく、アグネスの実家の方に引き取られることとなっている。これだけは絶対に譲れない条件だった。
アグネスの実家は、軍組織とはまったく関係がなく、中華料理のチェーン店を営んでいた。チェーン店の人気メニューである海鮮五目ラーメンが現国王のお気に入りだということは、国民の広く知るところだ。そして、アンバーは、現国王が、旗艦店へ来店した時に、そのお気に入りの海鮮五目ラーメンをテーブルに運ぶ役目を果たし、その模様が各マスコミに取り上げられたことで、チェーン店のマスコット的扱いとなっていた。現国王からも可愛がられ、直筆のバースデーカードが贈られたとか、特別に宮殿内に部屋を賜ったとか、そういったことで、簡単には軍組織から手出しがされないように何重にもガードが付けられていた。もちろん、そうした働きかけの裏には、諜報機関、さらには実父であるジュリオがいたのであるが。
軍組織と関係のない家に生まれ育ったアグネスが、なぜ、軍の幼年学校に入ったのか? という疑問を持たれるかもしれない。それには事情があった。
今でこそ、現国王をも魅了する店として王国中に知れ渡るチェーン店になっているが、アグネスの幼少期、実家は貧しかった。たった1軒の小さな中華料理屋の2階に両親とアグネスを含めた5人の兄弟姉妹、計7人が暮らしていた。
アグネスは3男2女の末っ子で、幼い頃より本ばかり読む変わった子供であった。
その様子を見て両親は、どうにか、この本好きの娘に、高等教育への道を与えたいと願ったのであるが、それに見合う費用を準備することが叶わなかったのだ。
しかし、軍の幼年学校ならば学費はただである。
両親はアグネスに問うた。このまま、義務教育である初等学校を卒業した後、働く道を選ぶか、軍属になることは確定し、宿舎住まいになり、厳しい訓練を受けなければならないが、より多くの本を読むことが可能になる軍の幼年学校へ入る道を選ぶか。と。アグネスは躊躇なく後者を選んだ。
アグネスは初等学校を卒業したその日、軍から派遣された職員に連れられて幼年学校の門をくぐり、宿舎に与えられた一室に移り住んだ。筆記による試験の成績は抜群であったため、本来ならば幼年学校の入学式当日に宿舎へ入るところを、心変わりを心配した関係者によって、早々に退路が断たれたのであった。
アグネスには特別な補佐が付けられた。それは、アグネスの生家が軍人家系ではないが故でもあった。その補佐として付けられたのが、4歳年上のジュリオ=ヤンだったのである。
当時、ジュリオは士官学校の生徒でもあったため、幼年学校の生徒の補佐など、面倒を押し付けられたと感じていた。しかし、アグネスの行動を見、考え方を知るにつれ、どうにか手に入れたいと思うようになった。そして、アグネスが15歳の誕生日を迎えたその当日に、それを実行した。女性側が14歳以下であった場合、犯罪と見なされるからである。
ジュリオが若くしてヤン家の当主に納まったこともあり、アグネスとジュリオの婚約は早々に発表され、王国内で婚姻可能となるアグネス17歳の誕生日を待って滞りなく手続きがなされた。
アグネスとしては、本さえ読めれば、あとの全てはどうでもよかったので、流されるままであった。
ジュリオからすれば、もう少し何らかの反応が欲しいところでもあったが、アグネスは淡々と全てを受け入れた。娘アンバーを授かるまでは。
一応は名門であるヤン家当主の婚約者になることで、アグネスは、幼年学校卒業を以って一旦軍組織を引退することとなった。従って士官学校へは進学しなかった。求められたのは軍人としての活躍ではなく、名門の嫁としての役割になった。
本は読み放題だった。その多くは、上流階級のお約束事だとか、王族貴族名鑑だとか、上流階級ならば知っていて当然の芸術関係だとか、要するに、アグネスに欠けていると思われた内容が書かれたものであり、本を与えてやるという体を取ったジュリオの教育だった。
アグネスはそれによく応えた。
ある意味で、アグネスはジュリオの理想の嫁に躾けられたのであった。
本さえ読めれば。アグネスは、それのみで行動する、ジュリオの手駒となったのである。
軍組織を引退した形にはなっていたが、ジュリオはアグネスに鍛錬を続けるよう命じていた。特に銃火器と暗器の扱い方、通信機器については、たびたび、課題を与え、自ら試験を課した。そして、それに必要な知識として本を与えるのであった。
アグネスは、結局のところ、ジュリオの妻というより部下で、生徒であり続けたのだった。
ジュリオの方はと言えば、この至極出来の良い生徒を溺愛していた。
何かにつけ行われる上流階級の集まりには、常に飾り立てたアグネスを連れて出かけた。と同時に、隙を突いてこようとする他の男どもを決してアグネスに近付けさせなかった。
ジュリオは残業を一切拒否し、アグネスの待つ屋敷にまっすぐ帰った。ますます、怠け者のヤン家の名が軍組織内部で高まっていったのは言うまでもない。実際は、屋敷内で、諜報機関との秘密のやり取りをし、アグネスに教育を続ける毎日であったのだが。
しかし、アグネスは娘アンバーを授かったことで、態度を変えることになった。
アグネス「なんか、全くやる気の無いサブタイトルね。」
ジュリオ「確かに。」
猫「移動っぽい要素が少しはあるよ。のアリバイだから……。」
アグネス「学校関係、分かりにくくない?」
猫「あ、やっぱり。えっと、この作品もそうなんですが、猫はプロットが組み立てられないので、思い付きと勢いだけで書き散らかしてます。で、作品内の設定とかは、かなり、ざっくりとした感じになってます。」
ジュリオ「ざっくりしすぎ。」
猫「そうなんだけど。この作品内の王国での教育に関してはですね、上流階級と呼ばれる王家・王族、貴族社会、あと裕福な一部の層は、子弟に家庭教師を付けるなどして、その家風に合った教育をすることが認められています。そうした層は学校には通わないことも多いです。で、一般庶民に関しては2歳から4歳までは乳幼児園、5歳から11歳までは初等学校という義務教育が定められています。以後は進学組と就職組に分かれます。ただ就職組の方も、職人や商人などの職業において、必要とされる資格を取るための受験資格にそれぞれの専門学校を出ていることが求められるので、働きながら学校には行くことになっています。公務員や王国内で定められた特定の職(指定職業と呼ばれています)に就くことを目指している場合は、進学組となります。中等学校、高等学校、大学、大学院とあります。で、指定職業の内、軍人に関しては、軍組織の幼年学校=中等学校、士官学校=高等学校で、さらに特殊な知識を得たり、研究の方へ進む場合は、大学、大学院への道がある。という感じです。」
アグネス「文章にすると、ごちゃっとした感じになるわね。」
猫「表とか作れるといいんだけど、そういうの分からないんだもん。」
ジュリオ「あっ!」
アグネス・猫「「何?」」
ジュリオ「鍋、火にかけっぱなしだった。急いで戻らないと……。」
猫「キッチンに戻る……。これ、移動でいいよね?」
アグネス「本文にうまく入れられないから、後書きに、移動要素を入れる気なのね。」