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アグネスの夫、ジュリオからラスティへ

 クリーチャー開発の責任者が、作戦ルームへと案内されてやってきたのは、30分後であった。


 呼び付けた張本人であるアグネスは、すっかり待ちくたびれてしまい、部屋の大部分を占拠している中央の大きなテーブルの備え付けられた、これまた妙に大きな椅子に収まって、本を読んでいた。


 CAT隊員7名は、テーブルを囲むように、そのまま立って待機していた。


 ふと顔を上げたアグネスは、7名が相変わらず立ったままでいることに気付いて、目を瞬かせた。

「やだ。あなたたち、いつまで、そんなところに突っ立ったままでいるつもりなの? 座って頂戴。私、一々指示するなんて面倒臭いことするつもりないから、そのつもりでね。」


 隊員たちの内6名は、直ちに指示に従った。テーブルに備え付けられた各自の席に着いたのだった。

 しかし、ヘリオトロープスコティッシュだけは、いつでもアグネスの前に出られる位置に立っていた。そういう仕様になっているらしかった。


 そこで、現れたクリーチャー開発責任者、オサム=カンダガワは、自身が開発に携わったスーパークリーチャーたちの現在の姿と対峙した。


「随分と時間がかかったのね。」

アグネスは、カンダガワ博士に声をかけた。


「どなたかが、無理をおっしゃいますので、書類の整理だけでも途方もない時間がかかるのです。」

カンダガワ博士はアグネスに返した。

「個体識別のために7体の外見をすべて違うものにするのは、分かりますがね。支給する制服は同じものでよかったのではないですか? それをこと細かに指示されましたよね。特に色に関しては、まったくもって分野違いな者たちばかりで苦労しましたぞ。」


 アグネスはあらかじめ、スーパークリーチャーの特性についての情報を得ていた。

 クリーチャーが、その非常に愛らしい見た目を有する存在であるが故に、ペットとして扱われているように、その上位種であるスーパークリーチャーの外見も、やはり悪いはずがなかった。しかも、ヒト型で、製造過程で髪の色、瞳の色などを変更することが可能という。7体の識別に必要であると強硬に主張して、アグネスが好き勝手に組み合わせを決めたのは、言うまでもない。


 そして、アグネスはそれぞれに与える制服にも口出しした。

 7人なのだから7色で、という、意味があるのか無いのかよく分からない指示だった。

 具体的には、ペールオーキッドピンク、ライトタンジェリンオレンジ、ディープジャスミンイエロー、パウダーペパーミントグリーン、アイスヒアシンスブルー、ミスティーインディゴオリエンタル、スウィートヘリオトロープという、7色を指定した。

 そのおかげで、CAT隊員は美男美女美ハーフで、砂糖菓子のようなパステルカラーの制服を纏って作戦ルームに集合していたのだった。


「彼らへの教育プログラムの更新について訊きたいの。こちらの言うことは理解しているようだけれど、まったく反応が見られないのよ。どうなっているの?」

「返答を求められましたか?」

「一々、返答せよ、と指示しなきゃ駄目なの? そんな面倒な事やってられないわ。各自、自由に発言できるように教育し直して。あと、表情が無いのが気持ち悪い。情操面でも改善を求めます。」

「よろしいのですか?」

「何か問題でも?」

「いえ、開発担当としましては、改善点を上げていただけることはありがたいことです。が、あくまでも人工生命体であるスーパークリーチャーをそのような形に変えてしまうことはいかがでしょう? 情が移ってしまったりはしませんか?」

「そうね。でも、私は、嫌なものは嫌。CATは私の自由にしていいと聞いているから引き受けたの。」

アグネスの方は譲る気は無い。


となれば、引き下がるのはカンダガワ博士の方だった。

「承知しました。」


 結局、打ち合わせはそのまま終了となり、カンダガワ博士とその部下たちによって、CAT隊員6名は研究室の方へと連れていかれたのだった。ヘリオトロープスコティッシュだけは、アグネスから距離を置くことができない仕様になってるため、教育プログラムは別途届けられることとなった。どうも、アグネスが自分で行わねばならないようだ。


 アグネスは、自室に閉じこもって、何やらあちこちをチェックし、それが終わると、どこかと通信を始めた。

「ジュリオ。いったい、私はあと、どれくらい、この馬鹿げた茶番を続けなくてはならないの?」

開口一番、アグネスは文句を言った。


「アグネス、済まない。ここまで長引くとは思っていなかったんだ。」

アグネスに謝罪する声が返ってくる。


 ん? ジュリオだって? ジュリオ=ヤンは死んだのではなかったのか?

 そう、ジュリオ=ヤンは10年前に死んでいる。……公式には。


 ジュリオ=ヤンは、軍上層部に縁故のある将校がいたずらですり替えたワインを飲んで酔っぱらった挙句、階段から転げ落ち、運悪く頭部を強打したことで亡くなった。しかし、外聞を気にした軍部によって死因は隠蔽され、殉職扱いになっている。というのが、公式の記録である。が、これ自体がでっち上げなのであった。


 ジュリオには、ラスティ=J=ターナーという人物の身分証明書が渡されていた。

 そして、ラスティはヤン家のハウスキーパーとして、アグネスと娘のアンバーをサポートしているのだった。つまり、専業主夫となっているのだった。


「実質、何もしなくていい職だと聞いていたから、引き受けたのに……。」

「いや、君、実際に、本ばかり読んでいたじゃないか。それも、10年間だよ。」

「そうよ。10年間よ。そろそろ引退してもよい頃合いだったはずなのに。」

「年金受給資格を得るには、あと10年は頑張ってもらわないと……。」

「何よ、それ。騙したわね。」

アグネスは、元夫、公式には自宅のハウスキーパーに対して抗議の意を表した。


「済まないと思っている。しかし、今更、死んだはずの人間が表に登場するわけにもいかないんだよ。それは、理解してくれていると信じているのだが……。」

ジュリオとしても、自身の存在が公式に消滅した半年後に、テロ事件が起こってしまったのは、完全に想定外だったのである。


 ジュリオがその存在を消し、ハウスキーパーに変わったことを知っているのは、アグネスと、2人の娘であるアンバー、アグネスの両親に兄弟姉妹、現ヤン家当主であるジュリオの実弟スターリングとその妻リナーテ、ヤン家の使用人たち、更に、とある組織に繋がる人物たちのみであった。


 とある組織というのは、有り体に表現すれば諜報機関だ。

 ジュリオはその存在を消すことによって、諜報機関の切り札となったのであった。これは、怠け者揃いのヤン家の一員としては、異例のことであった。

 ジュリオが自ら希望したわけでは、決してなかったのであるが。

 

 ジュリオは、賭けに負けたのである。しかも、極めてくだらない賭けであった。目の前を通り過ぎた猫の肉球の色が、黒か否か? という、およそこんな内容に人生を賭ける人間がいるとは思えないような賭けであった。

 実際に、賭けてしまったのが、ジュリオ=ヤンという男だったのだが。

 このことは、アグネスも知らない。

 さすがに、このような内容を知らせる勇気、というか無謀さを持ち合わせている者は、当事者であるジュリオを含めて、諜報機関には誰一人としていなかった。

 

 ちなみに、賭けの対象となった猫は野良猫であった。

 勝負の行方を確認する代償として、諜報部員2名が名誉の負傷を負った。1人は鼻の頭を、そしてもう1人は、左のこめかみに傷を得たのだった。

 そして、その4つの脚先を厳正に確かめた結果、すべての肉球はきれいなピンク色であることが判明し、ジュリオの運命は決まった。そして野良猫の運命も。野良猫はトビーという名を得て、アンバーの寵愛を一身に受けることとなり、昨年、寿命を全うした。

 

 話を元に戻そう。


 ジュリオは、通常、ヤン家のハウスキーパーとして過ごしながら、アグネスと打ち合わせたり、場合によっては秘密裏に交信し、軍組織内部の情報を得ていた。アグネスは、本ばかり読んでいる怠け者の嫁であるからして、軍組織の多くの者は、警戒を解いていたのだ。情報は引っ張り出し放題である。

 ジュリオが、その忠誠心を捧げていたのは、軍組織ではなく王家である。そして、ジュリオは、そのために妻であるアグネスすらも利用することを決意していたのだった。

 アグネスも、そのことに関しては、薄々気付いてはいた。その上で、それも運命であると諦めていた。彼女が常に身に付けている小さなロケットには、自決用の毒薬が入れられていたのだった。

アグネス「サブタイトルに移動の要素を入れるとか言ってなかった?」

猫「ジュリオからラスティという名に移動……。」

アグネス「それ、移動とは言わないんじゃ?」

猫「ないかもしれないけど、名簿とかはJからRの欄に移動ってならないかなぁ?」

アグネス「今どき、名簿?」

猫「どうしよう。」

アグネス「まぁ、仕方ないんじゃない。きっとこれ以上考えたって無理そうだし。」

猫「そうだよね。」

アグネス「それに、ラスティって名、ほとんど使ってないんだよね。この後読めば分かるだろうけど。」

猫「名前考えるのにも、時間かかってるのにね。」

アグネス「猫の場合、本文書くのに費やした時間より、登場人物の名前を考えたり、サブタイトルが浮かんでこなくて無駄にした時間の方がはるかに長いよね。」

猫「うん。いつも、それで嫌になっちゃって、登場人物は名無しになるんだよ。」

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