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アグネスは、異動したい

 ハウスキーパー殿は説明を続けた。

「どうして、“アンバー=キース”が方針を変えたのかは、今となっては分からずじまいだな。ただ、彼女は、どうも別世界への穴を完全に閉じようとしていたみたいだ。」


 別世界とこちらの世界を繋ぐゲートはテロ事件の際にゲラム=キースによって開けられ、そして、破壊された。しかし、破壊されたゲートは完全には閉じず、小さなほころびとして残ってしまったという。そこから、魔力はこちらの世界へと洩れ、流れ続けていたらしいのだ。


「ほころびは森の中にあったんだ。ただ、ゲラムはそれを巧妙に隠していた。と言うか、洩れてくる魔力を実験に使うことで、ある意味で拡散を防いでいたのさ。小さなほころびからは、幸い魔物は侵入できなかった。魔力もそれほど多い量ではなかったから、消費し尽せていたらしい。それにあの森には捨てられたクリーチャーが野良クリーチャーとなって結構な数いたから、他の材料には事欠かなかったんだ。」

「野良クリーチャー?」

「ペットとして愛玩用に仕立てられたクリーチャーだが、飽きるやつもいるんだな。で、あれは、太陽光からのエネルギー、水を分解して得た水素エネルギー、普通にヒトの食料からでもエネルギーを得られる仕組みになってる。要するに、餌はどこにでもあるんだ。野良として普通に生き延びるのさ。言い方は悪いが、増殖しないのが幸いなんだ。で、ゲラムは、そいつらを捕まえては実験材料にしてたんだ。その集大成が“アンバー=キース”。ただ、アンバーの血液を使ったのは1度だけだったようだ。あとは、形を魔物のように変えるとかやっていたらしい。それがテロ終結後に出現した“スライム”と“オーク”の正体だ。」


 ゲラムは実の娘を失ったことで、精神のバランスを崩してしまったのだが、正気であった時には、優勝な研究者だったと、カンダガワ博士が言っていた。


「何かのきっかけで、ほころびが広がり、大きく穴が開きそうになったと推測されてる。その際、ゲラムは穴を塞ぐのに、結構な量の魔力を使っちまった。で、一時的に森から大量の魔力が溢れた。さらに、実験で創られた“スライム”や“オーク”が、建物から逃げ出してしまった。建物は昔、王族が別邸として使っていたもので、放置され、半分は廃墟になっていたやつなんだ。だから誰も近付かなかった。が、考えてみれば、王族には魔力を扱える者も含まれていたんだ。その王族がかつて利用していた建物。真っ先に調べるべきだった。」


 建物は、白い家(カサブランカ)と呼ばれていた。ゲラムが魔力を封じ込めた魔石は、そこに隠されていた、というわけである。


 ほころびは、森の中以外にもあった。

 それが、あのリコディマーレの空に開いた穴だ。

 穴を塞ぐためには大量の魔力が必要だが……。


「一旦、穴を大きくして別世界から多くの魔力をこちらの世界に入れ、それを使って塞いだ。そしてその際CATを利用した。CATは魔石以上に大量の魔力を溜め込むことができる器でもあったから。そういうことなのね。」


 CATを利用するためにアグネスを排除した場合、CATは1体を除いて全く動かなくなる可能性があったという。しかし、アグネスに、CATが魔力を溜め込むことを容認させれば目的は果たせる……。


 地震自体が魔力に関係しているかどうかは、今のところ分かっていない。

 が、ちょうどのタイミングで“アンバー=キース”が動いたことは間違いなかった。


 “アンバー=キース”は消え、CATもヴァンが行方不明のままという状況だ。

 そして、ハウスキーパー殿は、国王陛下直々の命により軍組織内に隠れていたテロ事件の関係者を突き止める任を負っていたことが公表され、よって公式に死亡は取り消された。

 

 アグネスは、残されたCATと共に、こちらの世界に流入してしまった魔力の回収をする毎日である。魔力を感知できないアグネスのために、魔力を感知して知らせる魔力測定装置が開発部によって造られた。魔力を感知すると、ブザーが鳴るという代物である。


 ヴァンを再度、造り直すという提案があったが、アグネスは拒否した。娘アンバーの血液を、これ以上使って欲しくないということもあったが、人工生命体は簡単に補充できるもの、という認識を他の軍組織関係者に持たれるのを防ぐ意味もあった。


 実は、野良クリーチャーの問題は、少し前から社会問題化していた。

 病気にならない、死なないペット。そういう触れ込みで、人工生命体・クリーチャーは扱われている。決して安いものではないにもかかわらず、飽きて捨ててしまう利用者が一定数いて、可愛らしい容姿の野良クリーチャーが近郊の森の中や公園などで目撃されていた。

 材料には生きものの血液が使われている。その点を強調すべきであると、テレビで評論家が語っていた。


 ヒトは、なかなか学習しないものなのかもしれない。


「で、どうしてジュリオはずっと屋敷にいるわけ?」

アグネスは貴重な休日を、やっとの思いで確保しているというのに、ジュリオときたら、相変わらず、ずっと屋敷にいるのだ。


「ああ、有給消化のためさ。なにせ国王陛下勅命の特殊任務だったせいで、全く休養を取っていないことになっているから。24時間365日の10年間以上、ラスティ=J=ターナーという人物に扮して極秘調査を続けていたという記録になるらしくって……。」

「何なのそれ? ずるくない? こっちは完全に適正外の職務を与えられて、四苦八苦してるっていうのに!」

「まぁ、頑張って。魔力を感知できなくても、アグネスがいないとCATは動かないからね。」


 結局、開発部もいろいろ調べ、ためしてみたが、CATのメンバーのうち5人はアグネスからの指示が届いたと認識しないと動かないという残念な結果が判明したのだった。1人だけ、スコティッシュだけは例外的にジュリオの指示にも従うのだが……。


「スーパークリーチャーにアンバーの血液を使うことが決まった時点で、開発部に承諾を兼ねて見学に行ったんだが、カンダガワ博士が1体にだけ俺の血液を混ぜてみたいと言われて……。」


 カンダガワ博士もマッドサイエンティストの素質充分ということだ。そして、しっかり乗っかっていたのが、他でもないジュリオ=ヤンであった。アグネスは溜息しか出てこない。


 スコティッシュが他のメンバーと違う動きをするのは、ジュリオの悪戯ということだ。何から何まで、ジュリオには振り回されっぱなしなのである。


 いずれにしても、拡散してしまった魔力は魔石に封じ込めて回収してしまわなければならない。本来こちらの世界にある魔力の量よりも魔力が増えてしまった場合、どんな影響がどこに、どのように与えられるか、正確なことを知る者が誰もいないのだ。その上、魔力を扱うことができるとされる者の数も限られており、さらに、魔力の扱い方に長けている者となると、もう絶望的なのである。

 

「国王陛下が、古い文献、とくに魔力に関する文献を今一度調べなおし、整理することを決められたから、魔力集めが終わったら、そっちにまわしてもらえると思うよ。古文書だと普通の読書とは勝手が違いそうだけど。」


 アグネスの希望が残されているとすれば、まさにそれ、である。

 アグネスが軍組織内の資料庫へ戻る道は、かなり険しい。というのも、今回の働きで、ジェラルド=キム閣下の覚えが相当にめでたくなってしまったからである。


 はっきり言ってほとんど見ていただけ、あるいはへたり込んでいただけに近いのだが、そんな様子はジェラルドには伝わっていない。単純に、重要都市への津波の損害を防いだ、ということのみが事実として残された。CATの隊員1人の犠牲はあったが、彼は、CATの正体が人工生命体だと知っている層だった。


 そんなわけで、今日もアグネスは憂鬱である。


―――― 完 ――――

アグネス「黒森 様の顎が心配。」

ジュリオ「どういうことだ?」

アグネス「開いた口が塞がらなくて……。」

ジュリオ「それは確かに。」

猫「黒森 様は、心が広いから、大丈夫。だと思う。」

アグネス「ところでさ、途中から魔物が攻撃してこなくなったのはなぜ? そこも『なろう』におけるご都合主義的展開?」

猫「まあね。一度、穴を大きくして多量の魔力を取り込んでから塞ぐ、という展開を考えた時、穴が大きくなる時に魔物、入ってきちゃうよねって思ったんだけど、津波を消す時にも大量の魔力を消費してる形になるはずだから、その関係で、一時的に真空じゃないけど魔力の完全消失が周辺に起こったということにすれば、魔物が近付けなくなったとしても……。まぁ設定ガバガバだし、というか適当なのよ。でもほら、変身モノとかだって変身している最中、結構尺取ってるのに攻撃してこないじゃん。そこもネタのうちってことで。」

アグネス「ねえ、せめて、資料室は駄目でも、宮殿内の図書室の資料漁りの方に異動できるよね!」

ジュリオ「必至だね。」

アグネス「長期有給休暇中の人は黙ってて!」

ジュリオ「まとまった休みが欲しいの?」

アグネス「そりゃあ。」

ジュリオ「産休取得とかなら、協力できなくもないけど。」

アグネス・猫「「へ?」」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ∀・)いやぁ~ふざけているところがあるんでしょうけど、僕は「カッコいいなぁ」って最後まで読んでしまいました(笑) [気になる点] A・)黒森さんの件ですかね?企画の絶妙なところを突く猫らて…
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