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アグネス、逃亡者の方から訪ねてこられる

 娘アンバーの安全は、ヤン家、さらには王家によって、全力で以て守られるであろう。

 アンバー=ヤンの血は、それほどまでに貴重なのだ。

 だとしたら、もう1人のアンバー、“アンバー=キース”は……。


「意外に早かったわね。もう少しお会いできるのは先になると思っていたのだけど。」

アグネスの前に現れたのは、ゲラム=キース。もう1人のアンバーを、この世界に生み出してしまった男だ。


「今度こそ、アンバーを、あの子の病気を治してやれる。あの子は再び元気になるのだ。」

ゲラムの目は焦点が合っていなかった。


「アンバーは、“アンバー=キース”はどこにいるの?」

「アンバーは病院だ。私が病気を治すための薬を届けるのを待っている。」

既に、まともな会話が成立するとは思えなかった。


「さあ、血液を、あの子の薬を作るのに必要な血液を出してくれ。あんたの娘の血液だ。少しぐらい分けてくれてもいいだろう?」

「アンバーはここにはいないわ。だから、アンバーの血液もここには無いの。」

「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ! あれが言っていた。あれが、ここに血液があると言っていた!」

「あれって何?」

「あれは、あれは何だろう? あれは……。あれ、あれは……。そんなことはどうでもいい。早く、早く血液を出すんだ。もう時間が無い。」


 アグネスは、目の前の男の言う“あれ”が、結局は“アンバー=キース”のことなのだろうと、至極残念に思った。

 “アンバー=キース”は、この男にとって“娘”ではないのだ。せめて、彼女に対してもう少し想いを寄せてくれていたなら……。

 彼女はどこにいるのだろう?


「おい、いい加減にしろよ。あんた、馬鹿にしてるのか?」

ゲラムは、突如アグネスに掴みかかってきた。いや、掴みかかろうとした。


「げぇ。ぐえっ。」

ゲラムは、アグネスの体に触れる前に、ヘリオトロープスコティッシュに捕らえられていた。そして、物陰から様子を窺っていた大勢の捜査員たちが現れた。ゲラム=キースはあっけなくその身柄を確保されたのだった。


 ゲラムは、魔石を持っていなかった。

 もはや、精神状態に異常をきたしてしまったその男からは、それ以上の情報を引き出すことは不可能だった。男が口にするのは、ただひたすらに、男の実の娘であるアンバー=キース、病に侵され、もうこの世にはいない少女のことのみだった。


 ゲラムの妻、本当のアンバー=キースの母でもある女は、参考人として捜査への協力は承知したが、ほとんど何も知らされてはいなかった。キース家から出ていたからだ。キース家にゲラムが帰っているらしいとは聞いていたが、ゲラムが創り出してしまった“アンバー=キース”については知らなかった。


「宮殿に病気を治す方法を知っている医者がいると言っていたんです。仕事を手伝う代わりに治療薬の入手方法を教えてもらえることになったと……。でも、アンバーは助かりませんでした。アンバーは別人のように瘦せ細ってしまい、棺に入れた時、あの人は、『これはアンバーじゃない、アンバーのために薬を貰ってくる』と言って出ていってしまったんです。それっきりです。もうずっと会っていません。」


 結局、“アンバー=キース”は見つからなかった。

 彼女がその姿を見せたのは、それから数か月後のことだった。


 アグネスに面会の申し込みがなされたのである。

 突然、軍組織へ、アグネスに繋いでほしいという電話がかけられてきたのである。逆探知が試みられたが、成功しなかった。本当に“アンバー=キース”からなのか、疑念もあったが、手掛かりがほとんど無い状況において、違うと言える者はいなかった。


 軍組織の施設、アグネスが普段使用している控用私室にて、面会は行われることになった。

 “アンバー=キース”の方が、魔石を所持していることは、ほぼ間違いなかった。それがどんな意味を持つのか正確に理解できている者はほとんどいなかったが、何を起こすか、何が起こるか分からないという恐怖が、軍組織内部に広まっていた。

 

 当日は、アグネスのすぐ隣にスコティッシュが立ち、私室のすぐ横の部屋には他のCATメンバーが配された。そして、考え得る限りの防御アイテムを身に付けた捜査員たちが通路を固めた。軍の他の人員は、周辺への立ち入りが禁じられ、安全が確かめられるまで待機せよとの命が下ったのである。


 指定の時間の5分ほど前に、“アンバー=キース”は施設の門の前に現れた。

 しかし彼女は、その時までの最後にその姿を捉えていた画像、スコティッシュの特殊センサーを通じて得られていた姿の“アンバー=キース”とは、別人のようであった。

 現れた“アンバー=キース”は、どう見ても20代の女性だった。成長していたのである。

 

 遠巻きに見守る者たちに対しては一瞥もくれず、彼女は真っすぐ前を向き、通路を歩いていった。誰の案内もないというのに、そして、初めて訪れたはずの建物だというのに、一切迷いなく、アグネスの私室の前まで最短距離を通って辿り着いてみせたのである。


「初めまして。というのも変かしら? あなたは私をよく知っているようだもの。」

アグネスは、いつもの制服姿である。席を立ち、部屋の入口まで歩き、“アンバー=キース”を出迎えた。


 アグネスは、手でスコティッシュを制して、立ち止まらせると、“アンバー=キース”のすぐ前に立った。“アンバー=キース”はそのまま、たじろぎもせず、微動だにしなかった。

 アグネスは、“アンバー=キース”の方へ手を伸ばし、そのまま抱き止めた。「おかえりなさい。」アグネスの口から一言、言葉がこぼれた。

 

 抵抗する気配がないと見て取った捜査員たちは、一斉に、周りを取り囲んだ。

 しかし、その時、その場をかなり大きな揺れが襲ったのである。

 地震が起きたのであった。


 皆、その場で立っていることができず、揺れの収まるのを待つしかなかった。時間にすれば、それほど長い間ではなかったようだが、感覚の方は別であった。揺れが収まった後も、しばらくは動くことが躊躇われた。部屋の中は滅茶苦茶になっていた。本棚から本は飛び出し、あちこちに散乱。観葉植物の鉢は倒れ、書類も机の上から舞っていた。


「みんな無事? 返事をしなさい!」

アグネスはどうにか声を上げた。再び、その場にいた人間が動きだし、互いの無事を確認し合った。アグネスは床に座り込んだまま、“アンバー=キース”の体を抱き寄せていた。


 館内放送が地震に関しての第一報をそのまま伝え、施設内に大きな破損は無い様子であるが、念のため退避行動を取るようにとの指示が出された。

 もはや面会どころではなくなってしまったのだった。そして、再び捜査員たちが近付いてきた。


「アグネス=ヤン一尉、おるかね?」

ぐちゃぐちゃになった室内の床にひっくり返ったスピーカーから聞こえてきたのは、今や軍組織のトップとなっていたジェラルド=キムの声だった。


「はい、閣下。アグネス=ヤン以下CAT全員は、どうにか無事であります。」

「それは結構。では、直ちに、港湾都市リコディマーレへ急行したまえ。地元護衛官に協力し、市民の避難誘導と救援の任に就くように。」


 はぁ、CATは、対魔物戦闘部隊のはずなんですが……。

 と言ったところで、緊急事態である。しかし、アグネスは、いまだその腕の中でおとなしくしている“アンバー=キース”の処遇を決めかねていた。


「私も行く。」

“アンバー=キース”は短く、きっぱりと言うと、アグネスの腕をほどき、素早く立ち上がった。捜査員たちの方を見渡し、その左腕を前に伸ばし掌を向けると、捜査員たちは道を開けた。


「急ごう。」

“アンバー=キース”に促されるようにして、アグネスとCATはその場を離れたのである。

アグネス「これ、任務完遂のチャンス逃がしてない?」

猫「だね。真の目的からすると、まず身柄確保しとかないと……。」

ジュリオ「それにしても、本当に『なろう』におけるご都合主義的展開を導入するとは。」

猫「だって、ここ『なろう』だもん。」

アグネス「だったらそれで、お終いで良くない? 早く資料庫へ戻してよ。地震なんか起こしてくれちゃって……。」

ジュリオ「俺は、どうなるの?」

アグネス・猫「「知らん!」」

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