アグネス、資料庫から作戦ルームへ
黒森 冬炎 様主催の「ライドオン・テイクオフ〜移動企画〜」の参加作品です。
ネタ作品です。
ただ、以下の方には、あまりお楽しみいただけないかもしれません。
①小説にしても、テレビ番組、映画にしても、とにかくディティールがしっかりしていないものは許せない。
②ガチの理系である。
③冗談が通じない。
隊員たちは既に基地の中の一室、作戦ルームと呼ばれる部屋に揃っていた。
Creature's Attack Team、通称CATは、対魔物戦闘部隊として結成された、現時点では、軍組織内で最も新しい部隊である。隊員に選ばれたメンバーは7人。その7人は、実は全てがクリーチャーと呼ばれる人工生命体である。
しかし、それは軍組織内でも上層部のごく一部にしか知られていない秘密であった。しかもその秘密を共有する上層部の人間のうち半分は、クリーチャーという存在に懐疑的であった。つまり、知っているからといって好意的ではなく、むしろ、どれだけ役に立つのか様子見、あるいは失敗を見届けるつもりになっている者が半分だったのだ。
クリーチャー自体は、安定的なものとして造り出されるようになって、既に30年ほどが経っている。
最初は、ほんの数秒ほどで消滅してしまうような脆く不安定な存在であったが、研究開発が繰り返されるうちに、子供の愛玩用として十分に間に合う程度の強度と安定性、さらには非常に愛らしい見た目を有する存在となっていった。
だから、一般にクリーチャーといえば、ペットとして扱われる存在なのだ。
そのクリーチャーを対魔物戦に動員しようというアイデアが出たのは、10年前に起こったテロ事件がきっかけだった。
そのテロ事件は、某宗教団体が引き起こしたものだったが、こともあろうに、別世界から魔物を召喚し市中に放つという、政府の想定を遥かに超えたものだった。突如街中に出現した、ファンタジー世界の空想上の生き物としか認識されていなかった魔物たちを前に、ほぼ手も足も出ない警察組織。そして政府が慌てて投入した軍組織も、勝手が分からないという状況に加え、魔物が放つ特殊攻撃に対応が後手後手となってしまったのだ。
「あ、あれは何だ?」
「どうやらワイバーンという飛行能力を有する竜型の魔物のようです。『西洋ファンタジー辞典』によりますれば……。」
「飛行能力があるのは、飛んでいるのだから自明である。竜型なのも当然の如く自明。もっと有用な情報は無いのか?」
「文献として届けられたのが、先ほどの『西洋ファンタジー辞典』と『これから異世界転生しちゃいます』、『追放されたので、言ってやる。お前の母ちゃん○○〇! 俺は魔王と組むことにする』という状況でして……。」
そうこうしているうちに、ワイバーンの咆哮とそれに続く火炎攻撃によって甚大な被害が出てしまったのである。
それにしても、軍組織内の資料庫にはもっとまともな文献が無かったのだろうか? 古い文献には伝説的な内容を含むものが無いではなかったが、王家の歴史にもので、魔物の話は添え物程度であった。50年近く、大きな騒乱もなく、また他国とも良好な関係を結んでいたため、新しい方の資料は白書や業績集のような、行政上の保存的側面が大きいものがほとんどであった。さらにファンタジー世界との対峙など完全に想定外だったのである。
文献としてまわされてきたものは、実は、資料庫担当者の私物であった。その担当者は暇にあかせて、好みのファンタジー小説を職場に持ち込んで、勤務時間に読みふけっていたのである。
防戦一方となった軍組織であるが、なぜか、突如として魔物たちは撤退、というか次々と姿を消していった。
理由は不明。
しかし、そのおかげで形勢は逆転。某宗教団体の幹部たちは捉えられ、今も禁固刑に処せられている。おそらくは、一生、表の世界には出てくることはないだろう。
問題は、再び、ファンタジー世界の魔物による侵略が起こるのか? 起こるとしたら、いつなのか? 誰にも分からないという点である。
そのため、対策が必要ということに当然なった。
そして、導入されたのがCATというわけだった。
人工生命体クリーチャーの開発担当者が満を持して準備した成果が、極めて精巧な、一見して人と見間違えるようなクリーチャー、スーパークリーチャーであった。そのスーパークリーチャー7体、いや、7名が、対魔物戦に特化した武器を与えられ、ここにCATが誕生した。
CATを統括する責任者に充てられたのは、件の資料庫担当者だった、マダムヤンこと、アグネス=ヤン、だった。
「なんだって? ヤン、というとあのヤン家の者か?」
「はい、あのヤン家の嫁です。」
「大丈夫なのか?」
「しかし、適任者が他に見つからなかったのです。」
アグネス自身も、最後までその就任を渋っていた。理由は、資料庫勤務ならば、暇な時間がたっぷりあり、好きな本が読めるという、誠にふざけたものだった。
しかし、テロ事件において、資料庫内に未知の敵に関する適切な資料が無いことを即座に見抜き、私物を提供。それにより、多少は軍部に貢献したという事情(魔物が勝手に撤退したので、他に功労者と認められるものが一人もいなかった)、ファンタジー世界の魔物などという、およそ勝手の違う分野に従事したいという者が誰もいなかったという事情から、アグネス以外に候補者が挙がらなかった。
結局、嫌々ながら、アグネスはCATの統括責任者の席に座らざるを得なかった。
軍組織内において、ヤン家は、いわくつきの存在だった。ヤン家は、その源流をたどると王家に繋がるという、一応、名門ではあった。しかし、ヤン家の代々の当主が、ことごとく問題人物ばかりなのであった。
分かりやすく表現すると、怠け者、なのだった。責任ある役職をことごとく忌避。閑職を狙って、そのためにのみ優れた頭脳を働かせたという、残念至極な一家だった。そう。頭脳は明晰である、というのは、周囲の一致した評価であった。ただし、それらが、宝の持ち腐れ以上になったことは、これまでになかった。
アグネスは先代当主、ジュリオ=ヤンの妻であった。
ジュリオは、10年前のテロ事件の半年ほど前に亡くなっていた。享年24歳。死因は、酔っぱらって階段から転げ落ち、運悪く頭部を強打したというものだった。しかし、この不名誉な死に、軍上層部が関わっていたことから、話が別方向へと展開することとなった。
ジュリオが飲んだワインは、すり替えられたものだったのだ。そして、それが、軍上層部に縁故のある将校がいたずらで行ったという事情が明らかになりかけたことで、急遽、死因は隠蔽され、殉職扱いにされたのだった。
ヤン家の当主の座はジュリオの弟が引き継いだ。
そして、当時まだ18歳であったアグネスは、幼子を抱えており、また、ヤン家が一応は名門であったが故に、軍組織内で最も暇な職が与えられることとなったのだ。
もともとアグネスは、軍の幼年学校の卒業生であったこともあり、急展開にも大きな動揺を見せることはなかった。
そして資料庫担当者という閑職に無事着任したアグネスは、そこで読書三昧の日々を過ごしていた。最初は資料庫内の資料、それで足りなくなると私物の本も持ち込んでいた。
ヤン家の嫁として、その怠け者ぶりを遺憾なく発揮していたところに、テロ事件が起こってしまったのだった。
今や、新しい組織の統括責任者となったアグネス。
初日の挨拶のために、新しくあつらえられた制服を着こみ、1体を除くCAT隊員が勢ぞろいした作戦ルームへと向かったのである。なお、1体は、アグネスの運転手兼護衛役で、アグネスの横にピッタリと付いてきていた。ヘリオトロープスコティッシュ。性別不明の個体である。
「CAT隊員の皆さん、残念ながら統括責任者を押し付けられてしまったアグネス=ヤンです。以後、よろしくお願いしますね。」
初っ端から、この挨拶であった。
スーパークリーチャーは、開発の段階で、人間の言葉を理解する能力を得てはいた。
が、まだ、感情の発露と呼べるような現象は確認されていなかった。ただ、黙って聞いているのみのように見えた。
実際、彼らに期待されていたのは、指示通りに魔物に対峙し、それらを撃滅することであったので、人間の言葉に対し感情を見せる必要性はなかった。
が、アグネスとしてはつまらない。7人もいる部下が、揃ってただ黙っているだけ。
「開発責任者を呼んで頂戴。」
アグネスは、クリーチャー開発担当者を呼び付けることにした。
アグネス「黒森 様の当惑する顔が浮かぶわ。」
猫「すんません。もう、猫は、枯れ木要員というか、ネタ要員確定なので。」
アグネス「ネタ要員。笑ってもらえるかしら? サブタイトルも微妙だし。」
猫「一応、移動要素はあったようなので、サブタイトルにしました。」
アグネス「それ移動じゃなくて、異動じゃない? 職場異動。」
猫「でも、移動もしてるよね。そういうことにしておいて! サブタイトル決めるのに時間がかかって、先進めないんだもん。」
アグネス「本文書くよりも、時間がかかってるみたいよね。」
猫「うん。サブタイトルで、移動要素を強調するしかないのに、なんか微妙なのしか浮かんでこないの。このままだと……。」
アグネス「何?」
猫「さらに次の企画に移動しないとだめになるかも……。」
アグネス「……。」