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夢幻心中

作者: 黒森 冬炎

夏のホラー2021参加作品です



 真夏の太陽は、アスファルトを焼き上げる。街中で影を作るといえばビルや看板くらいだろう。陽射しを避けるなら、影に入るより屋内に避難する。当然である。


 先程駅の外へ出たばかりなのだが、人っ子ひとりいない。電車を降りたホームには、たくさんの人がいた。改札でも着飾った利用客が街を目指して列をなしていた。


 だけど、いつの間にみんな隠れてしまったのだろう。見えない。見つからない。誰もいない街。

 ビルに入ろうとしても、入口がない。見当たらない。


 どこ?

 どこへ行けばこの暑さから逃れられるの?



 暑い。



 誰もいない街では、ジューススタンドも無人だ。

 この人波が途絶えた繁華街には、水飲場すら見当たらない。ここを抜けた先に、公園があった筈。そこまで行けば、水分が摂れる。


 持っていた水筒など、とうに空っぽ。駅を出てから飲み物を売る自動販売機は見当たらない。



 ああ。

 暑い。



 頭に靄がかかる。

 目が霞む。


 どこに向かっているのか、もうわからない。



 暑い。


 暑い。




 それはとても暑い、真夏のことだった。

 都会の住宅街にある自宅を出てから、あっという間に手持ちのスポーツドリンクを飲み切ってしまった。公園で水を飲んでいたら、向こうに陽炎が立った。こんな街中で。


 暑さも盛りで、人の気配はない町外れだ。


 ゆらりゆらり、それは人の形をつくる。

 暑さに両手をダラリと下げて、ヒョロガリの不健康な男性の姿を作る。


 ああ、変なものが見えるな。

 輪郭がはっきりしてきた。

 嫌だなあ。

 動きもくっきりと見える。


 見えてはいけないものっぽいよ。




 ああ、喉が渇く。


 ああ、暑い。



 真っ直ぐくる。


 もうすぐ表情も見えそうだ。


お読みくださりありがとうございました

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― 新着の感想 ―
[良い点] 『ホラーといえばすずしいもの』という固定概念を一発で壊すようなストーリー展開に、とても丁寧で恐怖心をあおる描写が素晴らしく、今のうだるような暑さにちょうどいいような背筋がぞっとするホラーだ…
[一言] いろんな想像ができて怖く、面白かったです! 最初、「暑さから隠れるのかな?」と単純思考な私はそう思ってしまいました が、不穏な雰囲気の街、みんな隠れている、そして最後の展開…… 誰が鬼でこの…
[良い点] 夏の暑さと怖さが混じり合って、短い文章なのに情景が浮かんでくるような不思議な作品でした。 最後はどちら側になったのか、どちら側へ行ったのか…考えてしまいますね。
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