3.ケーキ
夏休みが始まって1週間、やっと木曜日になった。
蒼介は家を出て、凛の家に向かう。
彼女の家は習字教室と僕の家の間にある。
一階がケーキ屋で彼女の両親がしている、この田舎では1番オシャレな空間だと僕は思っている。
宿題は全く手をつけてなかったが、流石に1週間溜めてるのはどうなんだろうと昨日慌ててプリントを何枚か終わらせた。
今までどう思われようが気にしていなかったのに、ここ最近は彼女が僕の言動でどう思うか考えるとつい見栄を張ってしまうのだ。
ケーキ屋のそばの階段を上り、インターホンを鳴らす。
ドキドキする間もなくボタンを押した直後に彼女は扉を勢いよく開けた。
「もうお腹減ったよー!ご飯にしよう!!あっいらっしゃい!」
「…………お邪魔しまーす」
彼女の勢いに押されながら僕は家の中にそろりと入る。
「入って入ってー!こっちが私の部屋、でも片付け間に合ってないからリビングでしよう!あっそこがトイレだから好きに使って!」
彼女が家の中を早口で紹介していく。
机の上には彼女のお弁当が置いてあって、彼女が冷蔵庫から麦茶を出しコップへそそぐ。
「はい、座って?ご飯食べよ?お腹空いた」
「あ、ごめん」
僕は慌てて座り弁当を広げる。
彼女の両親はケーキ屋で働いているから、彼女は夏休み中のお昼ご飯はお弁当を作ってもらっているとのことで、
僕もお弁当を持ってきて一緒に食べて欲しいと言った。
彼女はとても素直だった。
寂しい、と素直に言えることはすごいと思った。
僕は隠そうとしてしまう。
「ねぇ凛はトマトすき?」
「……嫌いなの?」
「あのプチって潰れる感じがどうも苦手で
でもかぁちゃんは関係なく見栄えが〜って弁当には絶対いれるんだよ」
「あはは、そうなんだ!」
そう言って彼女は僕の弁当からミニトマトをひょいっととり口の中に放り込んだ。
夏休みの宿題は小学校6年間の総復習だった。
今日は国語。漢字の問題を解いていく。間違えたところは漢字練習帳に10回づつ練習する。
「蒼介くんは頭いいよねぇ」
「凛よりはな」
「字が綺麗だったら文句なしだね」
「……一言余計だよ。
凛は字が綺麗だから気づきにくいけど実はおバカだよな」
凛は字がとても綺麗だが、漢字はとても弱かった。
そして字を丁寧に時間をかけて書くため、やり直しが多くプリント一枚するのにとても時間がかかっていた。
「りーん!ケーキおやつ持ってきたよ!
あっ蒼介くん!いらっしゃい!」
凛のお母さんがシュークリームを持ってきた。
少し前から習字の帰りに凛のお母さんに会い、余ったケーキをもらったことがあった。
僕のお母さんがお礼にと惣菜を持って行ったみたいでそれ以降母親同士仲良くしているみたいだ。
「お邪魔してます」
「凛に勉強教えてあげて〜!通知表に字は綺麗です、暗記を頑張りましょうって」
「もぅお母さんやめてぇぇえ!」
凛は恥ずかしそうに机にうつ伏せていた。