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妖怪(=人間)事典  作者: とほかみエミタメ
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目競

 ~目競(めくらべ)……鳥山石燕の妖怪画集『今昔百鬼拾遺』にある日本の妖怪。『平家物語』の『物怪之沙汰』において、武将・平清盛が遭遇したという妖怪を描いたもの。福原(現・神戸市兵庫区)の都でのある朝のこと。清盛が帳台から出て中庭を見ると、そこには死人の髑髏が無数に転がっていた。しかもそれらの髑髏は右に左に、上に下にとしきりに動き回っていた。あまりの光景に、清盛は大声で人を呼んだが、誰も来ることはなかった。その内に無数の髑髏が一つに合体し、14~15丈(約42~45メートル)もの巨大な髑髏となり、生きているかのように無数の目で清盛を睨みつけた。清盛は意を決し、髑髏の目を思い切り睨み返した。するとやがて、大髑髏は日の光に溶けるかのように、跡形もなく消え去ってしまったという。「目競」の名は原典『平家物語』にはなく、鳥山石燕が自著において命名したものである。巌谷小波による説話大百科事典『大語園』では「髑髏の怪」(どくろのかい)と題されている。また、江戸時代にはこの清盛と妖怪の睨み合いの逸話にあやかって、にらめっこが「目競」と名づけられたとの説もある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 私は自他共に認めるスマホ依存症の女だ。


 朝から晩までスマホ。外での移動中もずっとスマホ。家に帰ってからも当然スマホ。食事中、トイレ、お風呂でもスマホ。そうやって寝る寸前までスマホ……いいえ、何なら寝ても夢の中でまでスマホを弄っている。


 今や一秒だってスマホと離れた生活なんて有り得ない。ずっとスマホと睨めっこしていたい。


 そう、毎日同じ事の繰り返しで退屈な日常も、スマホさえあれば生き抜いていけるのだ。


 そうして再び朝が来て、こうやってスマホを片手に通勤をする訳だけれど、こんな暮らし向きとか、冗談抜きでスマホが無ければ発狂していると思う。


 ここまでスマホに没頭していると、スマホに集中している時は、周囲の雑音もシャットダウン出来る程になっていた。


 そうなれば都会の喧騒もスマホによって、殆ど気にならなくなった。


 ……うん? だけれども、今日は何時(いつ)もより騒がしい気がする。


 何だか悲鳴に似た声が多いが、私にはスマホの方が大事。気にせず歩きスマホだ。


 その直後、腹部に熱い痛みを感じた。


「女性が通り魔にナイフで刺されたぞ!」


 そんな声が遠くで聞こえたのだけれど、気にせず歩を進めなければ会社に遅刻しちゃう。


 けれども、数歩も歩けぬ内に、私はその場で崩れ落ちた。


 ……ああ、刺されたのって私か。ふふ、だけどスマホは手放さず死守したし。セーフ。


 ふいに、私はスマホのカメラ越しに、自身のお腹を覗いてみた。


 前に戦場カメラマンだか、どっかのジャーナリストだかが言っていたけれど、カメラレンズを通して見える世界は、恐怖心を消し去ってくれるそうだ。


 あはは、今正(いままさ)にそんな感じ。


 (まる)で他人事のような感覚で、ネット動画か映画を見ているみたいだけれど、これって私自身に起きている事なんだよね。


 おお、これ全部私の鮮血かよ。人間の血ってこんなに出るのね。ちょっと触ってみるか。……うーわ、生暖かいし、何かべちょって手に付きまくっちゃったし。つーか、グロい!


 間もなくして、近付いて来た()()()()が、私に呼び掛ける。


「おい君! しっかりしろ! 救急車も呼んだからな! 気を確かに持つんだ! 犯人も向こうで取り押さえられたから安心しろ!」


 五月蠅(うるさ)いなあ。そんな事よりも、私にはスマホの方が大事だっての。


 あれれ? スマホにタップする度に画面に血液がついちゃうんですけど?


 あああ! ついには真っ赤っかで何も見えなくなっちゃったじゃないの!


 ムキーッ! スマホが見られないなんて、私死んでしまいそう!

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