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妖怪(=人間)事典  作者: とほかみエミタメ
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化け猫

 ~化け猫……日本の妖怪の一種。その名のとおりネコが妖怪に変化へんげしたものである。化け猫のなす怪異は様々だが、主なものとしては人間に変化する、手拭を頭にかぶって踊る、人間の言葉を喋る、人間を祟る、死人を操る、人間に憑く、山に潜み、オオカミを引き連れて旅人を襲う、などといったことがあげられる。珍しい例では、宮城県牡鹿郡網地島や島根県隠岐諸島で、人間に化けたネコが相撲を取りたがったという話もある。※フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』より抜粋~


 僕の恋人はそこそこ人気のコスプレイヤーで、彼女との出会いは世界最大の同人誌即売会だった。


 当時、某アニメの猫耳キャラクターのコスプレで撮影会に臨んでいた彼女。その名状(めいじょう)(がた)い愛らしさに僕は虜となり、夢中でカメラのシャッターを切りまくっていた。


 それから数日後の事、僕はその彼女と近所のスーパーマーケットで、思い掛けず出くわしたのだ。


 当たり前だが、その時は猫の恰好なぞはしておらず、むしろプライベートは必要以上に地味な服装の彼女であった。


 だが、どこか華がある人と言うものは、ちょっとした変装などではオーラを隠し切れないものである。


 なので、一発で彼女だと見抜いた僕は、速攻で声を掛けたのだ。


 話してみると、何と彼女の住まいは僕と同じ町内で、しかもこのスーパーをよく利用しているとの事だった。


 それからも、しばしばこの店舗で顔を合わせる事があり、漫画やアニメやゲームの話題で盛り上がる事が出来た。やはり同じ趣味をもつ者同士だと会話も弾むものだ。


 かるがゆえに、何時しか僕は彼女に対してガチ恋を煩うのに、そう時間を要さなかった。


 そして、取り敢えず連絡先を交換してからは、急転直下の展開であった。驚いた事に、お付き合いの申し出は彼女の方からであったし、しかも僕のアパートで同棲をし始めるまで、とんとん拍子に話は進んだのだ。


 この怒濤の展開には、僕も若干ついていけてない感があるのだが、今が幸福であることに変わりはないので、そのうち僕は考えるのをやめた。因みに僕にとっては、人生初の彼女である。


 それはさておき、普段外に居る時の彼女は質素な見た目なのだが、ひとたび家の中に入ると()()()()()()()()()()に大変身である。


 コスプレに関して、彼女には彼女なりのコスの(こだわ)りがあり、必ず猫縛りのキャラコスしかしないのだ。そう言った信念を貫く姿勢も、多くの固定ファンが付いている所以(ゆえん)であろう。


 最近では彼女もメディア露出が急増し、ファンの絶対数も鰻登(うなぎのぼ)りだ。このような中、彼女のプライベートコスを間近で見られる僕は幸せ者だと思う反面、何時(いつ)か何者かに刺されやしないかと戦々恐々である。


 これは余談になってしまうが、自分は同人即売会で買い手にしか回った事が無かったのだが、彼女がモデル兼製作で販売する写真集繋がりで、売り手側で参加する経験も出来た。彼女と親しくならなければ、あるはずがない貴重な体験だったろう。


 いやはや、彼女と一緒に居る日々は本当に楽しくって、恋……()いては恋人とは本当に素晴らしい物だと実感させられる。


 それを証するように、仕事でくたくたになって帰って来たとしても、彼女の猫コスで「お帰りなさいだニャン♡」と言われた日には、立所(たちどころ)疲労困憊(ひろうこんぱい)も吹っ飛んでしまうレベルなのである。


 そんなある日、本日も例によって詰まらないルーティンワークだった。だがしかし、就業を終業し(意図せず韻踏み(笑))、家に帰りさえすれば、愛しの彼女が出迎えてくれるのである。その一心で今日も一日乗り切れた。


 そうして、僕は「ただいま!」と元気に入り口のドアを開けた訳だが、何時もの「お帰りなさいだニャン♡」の台詞が返ってこない。


 部屋の中央には一つテーブルが置いてあるのだが、そこには「バイバイだニャン」と一言だけ書き記されたメモ書きが置かれていた。


 訳が分からなかった。ここ数日不仲だった訳でも……と言うか、今まで一度も喧嘩なんてした事が無いのに、一体何故?


 ああ、すっかり忘れていたけれど、猫って滅茶苦茶(めちゃくちゃ)気まぐれだったわ。

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