婚約破棄された上に斬首された私の前に女神が現れました~許してくれとおっしゃってももう遅いのです。
生まれる前から女神のお告げにて王妃になることが決められていました。王太子殿下の婚約者として努力をしてきたつもりです。
愛はありませんでしたが、国の安定と民の安寧のため、良き関係を築いていけると思っていました。
でもあなたは違ったようですね。
王立学園の卒業パーティで、あなたは私を断罪されましたね。まったく覚えのない罪で婚約破棄を宣言されてしまいました。
あなたがエスコートしていらっしゃるそちらの男爵令嬢のことはもちろん存じておりました。恋人を持つことにも、側妃を持つことにも、私は一度でも意見しましたでしょうか?
私はあなたと国のために尽くせればそれで良かったのです。
そう、私は国と結婚するつもりでした。
でもあなたは違ったようですね。
覚えのない嫉妬に、子どもじみたいじめの数々。いくらでも捏造できる証拠とやらまでは笑って流せましたが。暗殺未遂の冤罪まで用意されていたとは驚きました。少々男爵令嬢を侮っていたかもしれません。これには反省しました。毒は私の部屋で発見されたとのことです。なんて馬鹿らしいと思いましたが、陰謀で堕とされてしまったのなら仕方ありません。私の負けです。私の不手際、私の甘さ。
魔女だ悪女だと口々に罵られるのはともかく、まさかその場で首を刎ねられるとは思っていませんでしたが。
私は死んだ後、女神と出会いました。
「ごっめ〜ん、手違いで死ぬ予定のなかったあなたを死なせちゃった。てへっ。お詫びに生き返らせてあげるね! 遠慮しないで! 女神の加護特盛にしてあげるから! じゃあまたね!」
何とも軽い調子でしたので不敬なことに猜疑心を抱いてしまいましたが、やはりその力は本物だったようです。
私は気づいたら、いままさに斬首される直前の場面に戻っていました。もう少し時と場所を考えてほしいと思ってしまったのは不敬でしょうね。
私の首を刎ねるべく振り下ろされた剣は、なぜか不思議な力で弾き返されて飛んでいきました。そしてなぜか男爵令嬢の胸にぐっさりと刺さってしまいました。
あら大変。どうやら心臓が貫かれてしまったようですね。
魔女だ、殺せと、周囲が騒々しくなります。
たくさんの剣や槍、魔法が私に降り注ぎましたが、そのすべてが女神の加護で跳ね返されてしまいました。多くの者は死に。かろうじて生き残った者は逃げて。
そうして卒業パーティの場に残ったのは、私とあなただけになってしまいましたね。
「殿下。私、女神の加護を賜りましたようです」
許してくれと、私が悪かったと、おっしゃっても困るのです。あなたからの初めてのお願いには心が躍りましたし、私もできればそうして差し上げたかったのですけれど。
「女神はもうこの世界の軌道修正は諦めるとのことです。世界と一緒に眠りましょう。殿下」
ああ、世界が崩れていきます。星が落ち、空が闇に閉ざされていきます。
滅び。これもまたひとつの安定、民の安寧かもしれませんね。
ねえ、殿下?