77話 限界突破
白虎の振り下ろした拳は激しい音を立てながら虚空に弾かれた。
同時に、白虎の左脇に強い衝撃が走り、体がくの字に曲がりながら工場に激突する。
直後、ビルの5階ほどある高さの工場が上空からの衝撃によって崩れ落ちる。
瓦礫の下敷きになっている白虎に向けて一直線に閃光が落ちる。
周囲の瓦礫は風に吹かれたかのように散り、辺りにはひび割れたコンクリートの道路だけが広がる。
その広場の中心にいるのは地に倒れている白虎、そして立ち上るような異能を纏い、その場にいる全員の視線を奪う山本だった。
「かはっ、思ったよりずっと強いね……」
白虎が言葉を絞り出すように発する。
「うるせぇ、死ね」
刹那、山本は白虎の懐に潜り込み腹部に拳を突き上げる。
その後、上空に飛ばされた白虎を追いかけるように跳躍し、さらに上から踵を落とす。
一瞬のうちに白虎と地面との距離がゼロになり、山本は追撃と言わんばかりに落下の勢いを乗せた拳を振り下ろす。
「流石にこれ以上やられると神話級が廃るっていうものだよ」
白虎は素早く横方向に跳躍し山本の攻撃を回避すると同時に死角からカウンターの一撃を放つ。
しかしいかに死角であろうと野生の勘、そして異能により跳ね上がった反射神経を持つ山本には通用しない。
音もなく地面に倒れ込み、白虎の蹴りを回避した。
攻撃、カウンター、回避、攻撃、カウンター、回避、その繰り返し。
両者の本気は完全に拮抗していた。
このバランスを崩さなければ先に限界が来るのは山本だということは明白であった。
バランスを崩せる人物、確かにこの場にいる。
かりんだ。
美玲では戦いについていけない。
山本と同じく限界を超えたかりんでなければ、戦況を動かす一手にはなり得ない。
それはかりんも痛いほど理解している。
だが体は動かない、限界などとうに迎えている。
それを超える一つが足りていないのだ。
「ねぇ、なんで急に強くなり出したの?」
白虎が山本と距離をとり、そう問いかける。
「確かに限界を超えろとは言ってたよ? でもそんな簡単に超えれるわけないでしょ? どうして?」
白虎は期待を上回られたことに対して苛立ちを覚えている。
「守りたいから以外に何がある?」
山本は堂々と答える。
「守るっていう考えは立派だよ。でも人間は結局我が身の可愛さが1番大切なはずだ、人を守ろうと決意を固めたところで自分が死にそうになったら必ず両者の命は天秤にかけられる。そしてその天秤は他人の命に傾くことは絶対にない。それなのに……」
白虎が人間の本質について説明しようとしたその時。
「さっきから聞いてりゃごちゃごちゃうるせぇんだよ」
山本が遮り、そして言葉を重ねる。
「好きな女を守るのに理由なんかいらねぇんだよ」
直後、山本の隣にもう1人の人影が並ぶ。
「そこまで言われたらやるしかないでしょ」




