76話 守る
「そ、そんなの無理に決まってるじゃない! そもそも限界の超え方なんて知らないし、知ってたとしても簡単にできるわけないでしょ!」
かりんが訴える。
「は? 口答えするなよ。お前らができなかったとしても量産型が2匹死ぬだけだ。こっちとしては前と何も変わらない」
それだけ言って白虎はかりんとの距離を一瞬で詰める。
そして握り拳をかりんの腹に軽く放った。
「かはっ!」
体内の空気が血液と共に口から溢れ出し、かりんは膝をつく。
「これが最後だよ」
白虎はもはや何も期待していないかのような瞳でかりんを見下ろし、こう言った。
「死にたくないなら死ぬ気で戦え」
それだけ伝え、白虎は未だ咳き込み続けるかりんの顔面に回し蹴りを放とうとする。
それは空気を切る音だけを残して元ある場所に戻った。
「かりん姉、かりん姉……!」
美玲がかりんを抱えながら呼びかけ続ける。
寸でのところで美玲が動き、蹴りの軌道からかりんを逸らすことに成功したのだ。
美玲の身体もボロボロ、すでに満身創痍だ。
それでも動き続ける。
ひとえに守りたいという願いからくる力だった。
「話聞いてたよね? 君が頑張っても意味はないの、昼寝してるワンちゃんか風邪ひいてるねこちゃんにしかできないんだよ」
白虎はやれやれとでも言わんばかりの仕草をしながら美玲に諭す。
「分かってる、だから守るの……。だから、だから……、いい加減起きろよ、犬摩」
美玲が山本の名前を叫ぶ。
「そんなことしたって現実は変わらないよ。君たちは死ぬ。もう期待なんてしてないからね」
そう言って白虎は2人に拳を振り下ろした。




