71話 決着
「充分だ、よくやったな。潤」
朱雀の全力になんとか対応しようとしている潤に、龍宮寺はそう言い放った。
そしてその腕にはただ純粋で膨大なエネルギーの塊が凝縮されている。
その周りには暴風が吹き荒れ、紫電が走る。
充分という宣言通り、龍宮寺も全力の準備ができているのだ。
潤はというと、時間を稼がなければという使命感に駆り立てられ、龍宮寺の言葉が聞こえたのにも関わらず、そこを動こうとしなかった。
正確には言葉が聞こえただけでその意味を理解しきれるほど冷静ではなかった。
それを瞬時に察知した龍宮寺は、潤を戦線から離脱させるように風を発生させる。
その風は穏やかで、まるで包み込むかのような優しさを秘めていた。
潤もそれに流され、そして緩やかに落下していった。
「おいおいおい! ろくに本気も出さねえ腰抜けが勇者の邪魔すんじゃねぇよ!」
朱雀はそういいつつも突進の勢いを緩めない。
「安心しろ、既に本気だ。泣く準備でもしておけ」
「ハッ、よく言うぜ! お前こそ言い訳でも考えてな!」
朱雀はもう一段階加速し、龍宮寺との距離を縮める。
龍宮寺は腕に纏うエネルギーを朱雀に向け、そして放つ。
豪炎ともいえる熱の塊と、嵐そのものともいえるエネルギーの距離が一瞬で縮まる。
音よりも先に衝撃波が広がり、それが建物を粉砕する。
遅れてやってきた音は大地をも震わせた。
土煙をも吹き飛ばす衝撃により、辺りは鮮明によく見える。
当然、朱雀と龍宮寺もだ。
バタッ。
音が静まり返ったその直後、その音が聞こえた。
空に浮かんでいるのは龍宮寺ただ一人。
朱雀はゆっくりと尾を引きながら落下していく。
決着がついた。
拓人が決死の覚悟で潤を運び、潤が身を削って龍宮寺に時間を託し、龍宮寺が一撃でしとめた。
3人が全身全霊で戦って得た勝利だ。
「2人の安全を確保しなければな」
龍宮寺は勝利を確認した後、そう呟いた。
全力をぶつけた瞬間、2人を守るために風で瓦礫などを防いだのだが、それでも守り切れる保証などないほどの衝撃だった。
戦闘の最中、2人が落下した場所を確認していたため探す手間が省け、すぐに見つかった。
拓人の全身はひどい火傷に覆われ、潤の両腕は元の形を保てていなかった。
死んではいない。
異能の力があれば、明日にでも動けるようになる。
だが2人の傷は深いものだった。
「……2人とも、よくやった」
龍宮寺は2人を担ぎ、集合地点へ向かう。




