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双鬼  作者: 鷹棒
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69話 気合

 2人は飛び上がった瞬間、後悔した。


 決して無策だったわけではない。


 それどころか己が何をすべきか、何ができるか。


 それらを間違いなく理解していた。


 しかし、一つだけ想定していない事態が発生したのだ。



「俺が手を抜いてちゃお前も全力はださねぇよな……」


 朱雀がぽつりと呟いた直後、そこに太陽が現れたかのように錯覚するほどの熱が周囲を襲う。


「これでお前も全力出すだろ?」


 朱雀は不敵に笑った。


 それに対し、龍宮寺は不動の体勢を貫く。


 2人を信じているから。



 2人が想定していなかった事態……正確には想定を上回られた事態。


 それは朱雀の全力が強すぎたこと。


 全力を出した朱雀にもなんとか近づけはするだろう。


 そう考えていたが、現実は常に非常である。



 赤い閃光が走る。


 朱雀が龍宮寺に一撃を入れた。


 あの龍宮寺が反応すらできずに一撃食らったのだ。


「っク!」


「なんでだ……? なんでお前は全力を出さない? どうして俺を楽しませてくれないんだよ!」


 朱雀が叫ぶ。


 当然、潤と拓人からも龍宮寺が手を抜いているという事実は容易に確認することができた。


「どうして司さんは……」


 潤が理解できず困惑する。


 それはそうだ。


 本気を出せば少なくとも互角くらいで戦えるはずだから。


「分かってるんでしょー? ()()()()()()だってー」


 拓人は力の抜けた声を出す。


 決して気は抜けていない。


「分かってる……分かってるけど! 本当にできるの?」


 ただ自分たちの無力さからなる言葉だ。


「できるできないで言うなら分からないですねー。でもやるかやらないかで言うとやらなきゃいけないでしょー」


「まぁそうなんだろうね」


 最初から分かっていたことだが、潤は拓人の言葉を聞いて決意を再び固めた。


「軽い作戦を立てようか。時間はないから簡潔に」


 2人は顔を合わせ、一度頷き合う。


「「気合でなんとかする」」


 2人は笑い合った。


 1ヶ月前……いや、1時間前の2人からは考えられないセリフだ。


 それを2人は自覚している。


 だからこそ2人は言ったのだ。


 だからこそ2人は精神論を語ったのだ。


 2人は2度目の飛翔をした。

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