6話 リラックス
今俺がしなきゃいけない事は二つだ。それは『自分の実力を認める事』と『戦闘スタイルの確立』
もう二度と仲間に迷惑をかけない。かけたくない。
戦闘中、山本さんとかりんさんは自分に出来る事と出来ない事を分かっていた。
俺にはそれが出来ていなかった。それ以前に今は自分に出来る事が少ない。
当面の目標は出来る事を増やす事だな。
俺は桃ちゃんほど頭が良いわけでも、敦さんほど指揮を取るのが上手いわけでもない。
ここで『戦闘スタイルの確立』が必要になってくる。
俺の攻撃は隙が大きい。よって選択肢は二つだ。
長所を伸ばすか短所を克服するか。
そう考えていると……
「おい鉄。そういえば怪我は大丈夫なのか?」
「怪我?あっ!そういえば……」
ない。俺は確かに戦闘中、筋肉がちぎれ、骨が砕けたはずだ。
だが今はそんな傷はない。
「なんでなんですかね?」
「知るか!とりあえず大丈夫ならいいや」
「あっれ〜?山本も優しいとこあるんだ〜」
「あ"ぁ"?」
2人がいつものように会話している。
いや、そんな事より傷の事だ。
今までにこんな事はなかったはずだ。
頭が痛い。少し考え事し過ぎたな。
「俺もちょっと散歩行ってきますね」
気分転換は大事だ。
20分くらい歩いた所にある喫茶店に来た。
俺はコーヒーを頼んで一息つく。
店内にあるテレビに目を向ける。
テレビの奥ではこの国の総理大臣である『鬼塚嵐』が今回の騒動について語っている。
「今回の異能生物発生の原因は未だ分かっておりません。ゴホッゴホッ。失礼しました。今後は異能生物対策課や異能警察官と協力し、原因を追求する予定です」
風邪か?総理大臣も大変そうだな。異能生物対策課って確か、敦さんが会議しに行ってるところだよな…
ダメだダメだ。リラックスしに来てるんだから難しい事は考えるな。
思考を切り替えて店員さんに渡されたコーヒーを口に運ぶ。
優雅なひと時、これぞ至高の時間。
バラエティ番組で見たお洒落な飲み方の真似をしたら……
にがっっ!!何これ!?コーヒーなんすか!?
何か見落としたのかと思いメニュー表に手を伸ばす。メニュー表にはこう書いてある。「当店のコーヒーはブラックのみの販売となっております。砂糖やミルクはご注文の際に店員にお申し付け下さい」
終わった……
ブラックコーヒーとか人類の飲み物ではない。俺はこれからどうすればいいのか。ここでもし「すみませーん。砂糖頼み忘れてしまってー」とか言ってみろ!(こいつブラック飲めないのか)とか思われるぞ!
苦味に耐えながらチビチビ飲むこと20分。熱々のコーヒーも今は常温になってしまった。常温の方が味を感じてしまう。これが何を意味するか分かるか?今までよりもさらに苦いのを味合わなきゃいけないんだよ!
コップに残った蒸気を出さないコーヒーを見て俺は絶望した。
これまた20分後、俺は気合でコーヒーを飲み干し店を後にした。
リラックスとはなんだったのか。永く苦しい戦いを振り返りつつ街を散策する。
スーパーの前を通りかかると、見知った顔を見つけた。
拓人君と桃ちゃんだ。
すると拓人君が声をかけてきた。
「お久しぶりですー」
「久しぶり…?1時間くらいしか経っていないのでは?」
「先輩、久しぶりとはしばらくぶり。という意味です。よって具体的な定義はありません。そこに疑問を抱くのは浅はかだと考えます。それから以前お会いしてから1時間31分です」
桃ちゃんがものすごく早口で訂正してくる。
「桃ちゃん…そこまで言わなくても…」
「いえ、言わせていただきます。その少しの妥協が命取りになる事もあるんです。自分は助かったとしても仲間が怪我をするかもしれません。その可能性があるというのになぜ妥協を出来るのですか?私にはその考えが分かりません」
やめてくれ。その言葉は今の俺に突き刺さる。
俺が言葉の槍に突き刺され、のけぞると、桃ちゃんは「やってやりました!」と言わんばかりに腰に手を当て胸を張る。いや、まな板を……
満足気だった顔が一瞬で殺気立った顔に豹変する。
刹那、俺の身体は考えるより先に土下座をしていた。
「何やってんですかー」
拓人君に白い目で見られてる。というか周りの人たちにも白い目で見られてる。穴があったら入りたい!
「ところで2人は何を買ってたの?」
強引に話を変えてなかった事にする。
「最近割れてしまったので新しいお皿を購入しました。後は油とマッチですね」
「何する気なの!?」
「え?料理ですけど……」
雑談をしながら本部に帰っていると…
上空にゲートが出現した。ゲートからは烏型が三体。
「拓人君!桃ちゃん!」
「分かってますよー」「了解です」
2人ともすぐさま戦闘態勢となる。全員が異能の解放を済ませた途端……敵が3方向から近づいてくる。
「1人1匹の撃破!出来る?」
俺は2人に確認を取る。すると
「当たり前ですよー」「はい!」
頼もしい返事だ。
俺は俺の敵に集中する。
烏型なら間違いなく一撃で仕留められる。だが犬型の例もある。慢心はダメだな。
そう考え、俺は軽く蹴りを放つ。蹴りによって軌道を曲げられた敵は地面に衝突するが、すぐに体勢を立て直し飛翔する。
今の感じだと危険度1クラスだ。落ち着いて戦えば必ず勝てる。
俺は勢いをつけて跳躍し、敵の目の前で拳を構える。
敵が回避しようとするがもう遅い。気合いと共に拳を突き出す。
コンクリートに埋まるくらい吹っ飛ばしたが油断はしない。翼を使って次の一手に備える。
1秒、5秒、10秒…時間が経つが敵は動かない。
だが、敵が突然思い出したかのように活動を再開し、全速力で突進してくる。
それに対して回し蹴りで対応し、吹っ飛ばす。
敵がモヤとなって消滅する事を確認してから、2人の戦闘に意識を向ける。
どうやら拓人君は『鷲』の力を使い、空中線をしているようだ。
空中を舞う戦闘機の如き速さで、幾度となく衝突する様はまるでパフォーマンスを観てるかのように錯覚する。
戦闘を眺めていたら戦況が動いた。
拓人君の足により敵の翼の根本が掴まれた。
敵は翼を動かさず、もがく事すら出来ていない。
そのまま拓人君は敵の翼を根本からもぎ取る。
敵が姿勢制御もままならないまま地上に落下する。
いつもの敵なら今ので消滅するはずだが、やはりまだ消えない。
しかし翼をもがれた烏型に出来ることなどなく、空中から落下してきた拓人君の一撃によって呆気なく消滅させられた。
桃ちゃんの方は……うん、いつも通りだ。
「キャハハハハハハハッッ!!」
桃ちゃんのものだと思いたくない高笑いが戦場に響き渡る。
壁や地面を蹴り、敵を撹乱してる。
敵が完全に桃ちゃんを見失った瞬間、桃ちゃんは敵に接近し、足を敵に押し付ける。
押し付けた足で敵を蹴り出し、敵は地面まで一直線に叩き落とされる。
コンクリートが割れる程の勢いで、地面に衝突した敵は一撃で消滅する。
「あれ?もう終わったの?つまんないなー!もっと強いのと戦いたかったなぁー!」
「桃ちゃーん、異能解除してー」
「はい。見苦しいものをお見せしてしまいましたね…」
桃ちゃんが異能を解除してそう言う。
桃ちゃんの何が怖いって、自覚があることなんだよな…
「とりあえず報告も兼ねて帰りますかー」
「そうしようか」
本日3回目の戦闘を済ませた俺は2人と一緒に本部に帰る。