68話 諦めない
「拓人君、動ける?」
「ギリギリー……!」
2人は未だ地に伏しているが、戦意だけは溢れ続けている。
今もなお眼前の戦闘で力の差を見せつけられているのにも関わらず、その闘志が消えることなどない。
その原動力は悔しさなのか、不甲斐なさなのか、はたまた恨みなのか。
それは分からないが、このような状況下でも折れない心を2人が持っているなど、本人たちも知らなかっただろう。
2人は普段なんでも器用にこなし、飄々と生きてきた。
嫌なことはサラリと躱し、得意なことはヒョイっと終わらせる。
何かに苦労したという経験がないのだ。
そんな生き方をしてきた人間ならば、圧倒的な差を見せつけられた際、普通は絶望し諦めるだろう。
だが2人は絶望も諦めもしない。
ただ自分たちの無力さを理解し、その上で何ができるかを考えている。
2人は周囲が思っているより……2人が思っているより熱い男だった。
結局のところ、まだ諦めない理由などそれしかないだろう。
「体力なんて気合でなんとかなる。全身全霊で傷を治すよ!」
「もちろんですよー!」
この言葉がその何よりの証拠だ。
気合という言葉とは最も縁遠い2人はヨロヨロと徐々に立ち上がり、フラフラとしながらも二足で大地に立った。
その間にも朱雀と龍宮寺は周囲の建物を瓦礫に変えていた。
「あんたはもっと強いだろ! もっと俺を楽しませてくれ!」
朱雀はそんな無駄口を叩きながらも龍宮寺に対して優位に立っていた。
「あいにくこれが限界だ。お前が期待するほど強くない」
そうは答えるが、その声音からはまだ余裕が伺える。
「嘘だな、明らかに手抜いてんじゃねぇか! お前も小鳥さんたちと同じなのか? 俺を楽しませてくれねぇのか?」
その怒りは攻撃に乗せられ、どんどん戦闘にペースが速くなる。
「そうだな、では一ついいことを教えてやる」
龍宮寺はそう言って話を切り出す。
「あ? やっとやる気になったのか? じゃあ早くしろよ、早く戦うぞ!」
朱雀が興奮したが、そんなことを気にも留めず言葉を重ねる。
「全力を出せば一撃でお前を倒せるだろう。どうだ? 一撃くらってみないか?」
「あぁ、それはいい! だけどな、それを当てようと試行錯誤するのが戦いの楽しみだろ! お前なら分かってくれると思ったんだけどなぁ!」
朱雀は冗談だと笑った。
しかし潤と拓人は別の意味を感じ取った。
「……拓人君……」
「言わなくても分かってますよー……」
2人は一斉に飛翔した。




