66話 援軍
どこからか現れた声に、男は動きを止めた。
「あんたさー、なんなのー?」
不機嫌そうに吐き捨てるが、その言い方からは喜びが容易に見て取れた。
「分かるよ、姿なんか見なくても分かるさ。あんた強いだろ?」
それが歓喜の理由だった。
「俺は強い奴と戦いたいんだよ。なまじ強い異能を貰っちまったから相手は弱いやつばっかだ。肉食獣なんかじゃ足りない。神話級だ、神話級と戦わせろ。あんたはどうなんだ? なぁ」
拓人たちに向けられた言葉数より圧倒的に多いことから、男が声の主に期待を寄せていることが分かる。
「答えろ、お前は2人に何をしていた?」
声の主は戦いに関する話は無視し、ただ問いを重ねる。
「うるさいなぁ、俺が聞いてるのはあんたが強いかどうかだけなんだよ」
「だったら俺が聞いてるのはお前が何をしていたかだけだ」
2人は譲る気がない。
男は自身の快楽のため。
声の主は仲間のため。
「……あぁもう! 答えたら戦うか? それさえ誓ってくれたらなんでも答えてやるよ! だからはやく戦おうぜ!」
「約束しよう」
声の主が戦いに応じた瞬間、男の顔にはニチャアという汚い笑みが浮かび上がる。
「こいつらとは遊んでただけだ! さぁ戦おう! 出てこい!」
「詳しく」
「あ? めんどくせぇなぁ……」
男は頭を掻き、つまんねぇ、と呟いてから気怠げに言う。
「こいつらがあれの周り飛んでた。何してるか聞いた。襲われた。返り討ちにした。以上。さぁやろう!」
完璧すぎる要約をし、再び戦闘の意思を見せる。
「……分かった。ただし2人の安全は保証してもらう」
「あぁ? いちいち条件付け足すなよ……。まぁでも俺はこいつらには興味がない。よって俺から手はださねぇ。勝手に死んでも知らねぇ」
「充分だ」
声の主は歩き出し、コツコツと足音が響く。
工場の裏から姿を現し、そしてこう言う。
「待たせたな、潤、拓人。あとは任せろ」
その言葉は2人の耳に、特に潤の耳により強く届いた。
「……司さん……!」
飛びかけていた意識が現実に引き戻された。
「……龍宮寺、さんー?」
遅れて拓人も龍宮寺の声に気付き、意識を取り戻す。
「なんだなんだ? お前ら知り合い? 仲間? どっちでもいいけど、なんでこいつらはこんなに弱くてあんたは強そうなんだよ! 強いなら弱い奴を強くしろよ! そして俺と戦わせろよ!」
ただ己の欲望に忠実に生きている男は弱い奴がいるという現実が嫌いだった。
「最後の質問をする。お前、名前は?」
龍宮寺は質問に答えず、逆に別のことを問いかけた。
そこに理由はない。
ただ興味を持っただけだ。
「名前? あー、なんだったっけなぁ……。名前で呼ばれねぇから忘れたな。……だけど気付いたときから朱雀って呼ばれてるなぁ」
「分かった。じゃあ望み通り戦うか」
「待ってたぜ! 簡単に死ぬんじゃねぇぞ!」
両者、異能を解放する。
龍宮寺は龍を。
朱雀は朱雀を。
使いこなされた神話級同士の争いが始まる。




