65話 豹変
拓人たちと男の距離はどんどん近づいていく。
反撃を警戒し、潤が盾となり拓人が矛となる。
「なーんで答えないのー?」
2人が猛スピードで接近しているのにも関わらず、全く焦る様子もなく喋り続ける。
そして、その問いかけを無視して攻撃を仕掛けてくる2人に言い放った。
「おい、答えろ」
2人は動きを止めた。
止まったのではなく、自らの意思で止めた。
これ以上無駄なことをすると死ぬ。
指先一つでも動かしたら殺される。
「なぁ、さっきからなんで喋らねぇんだ? 喋れるだろ? じゃぁ喋れ」
いざ声を発そうとしても恐怖で喉が震えるだけだった。
言葉にならず、息だけが途切れ途切れで漏れる。
「あ? 喋れねぇのか? じゃあ死ねよ。お前らいらねぇよ」
男は右足だけ異能を解放し、2人の下まで歩み寄る。
その足が地面についた瞬間、ジューという音が聞こえ、コンクリートが焼けているのが分かる。
逃げなければ死ぬのは分かっている。
だがもう身体が動かない。
動けない。
拓人はなすすべなく音速を超える速さで壁に叩きつけられた。
「次はお前だ」
潤は必死に身体を動かし、翼で防御の姿勢をとった。
「どうした? 防ぎ切れると思ってんのか?」
男は右足を翼に押し当てる。
「俺が蹴りしかできないと思ったか?」
押し当てられた右足にはどんどん熱が貯まっていく。
そして爆発した。
その熱が一瞬で放出され、潤は全身を炎で焼かれた。
「ちっ、なんも聞き出せなかったじゃねぇか」
そう悪態をつきながら拓人の下へ再び歩み寄る。
「まだ意識あるんだろ? 生きてるんだろ? 何してたかだけ教えてくれよ。いいだろ? なぁ」
拓人を足蹴にしながら喋り続ける。
対する拓人は意識こそあれど、声はおろか指先一つ動かせない。
恐怖、痛み、疲労。その全てが一瞬にして身体を走り、戦意を失わせた。
男はその様子を見て、潤に対してやったように拓人にも炎を浴びせた。
威力こそ十分の一にも満たないが、それでも拓人を刺激するには充分だった。
「グッ、ア"ァ"!」
身体を炙られ、神経が全身を刺激する。
「お、喋れるじゃん。じゃあ答えろー。あそこでなーにしてたんですかー?」
語調こそ穏やかになったものの、それが返ってさらに恐怖を与える原因になった。
「答えねぇのかよ。もういいわ。お前らもう死ね」
何度も聞いてやったのによ。
そんな言葉を言い残して拓人に炎を浴びせようとした。
その時。
「そこで何してる?」




