64話 謎の男
2人は軽い観察で得た情報を共有し、結論を出す。
「この塔は何かすごいものだね。でも何に使うのかもわからないし、どう使うかもわからない」
「そうとしか言えませんもんねー」
いかんせん情報が少ないため、現状のまとめ方としては最適解だと思う。
「これからどうしますー? 調査を続けますかー? それとも別の場所を見にいきますかー?」
拓人から提案された2択に潤は頭を捻る。
「どうしようかな。まぁ、もう少しだけ見てみるのもいいんじゃない?」
「分かりましたー」
方針を立て行動に移そうとしたその瞬間、遠方より声が響いてきた。
「なーにしてんのかなー?」
気の抜けた言葉選びだが、その内には底知れぬ威圧感が含まれていた。
2人の身体は思わずビクッと硬直してしまう。
それでもかろうじて身体を捻り、声のした方向と向き合う。
「はーい、ここでーす。ここ、ここだよー」
謎の人物は堂々と場所を知らせる素振りを見せる。
そして2人はその奇怪な行動によって謎の人物を見つけることができた。
その人物は堂々と道路の真ん中を歩き、メガホンを片手に大きく手を振っていた。
「やっと気付いたー?」
その男は見つかってもなお焦る様子を見せることなく、むしろそれを待ってたかのような喜びを見せた。
「もーいっかい聞くよー? そこでなーにしてんのー?」
全く他意を感じさせない語調だが、2人からしたら凄まじいプレッシャーだった。
言葉を間違えたら殺される。
そう錯覚させられるほど……いや、むしろその通りだとしか感じられなくなっていた。
「どうしますー?」
普段の気の抜けた声からは想像できないほど焦っているのが目に見えて分かる。
「見る限り丸腰だよね……」
だからといって安易に特攻を仕掛けるほど2人はバカではない。
「逃げますー?」
「できると思う?」
「無理ですねー」
即答だった。
異能を持っているかどうかすらも分からないが、逃げ切ることは不可能だと肌で感じ取れた。
「逆に聞きますが、戦って勝てると思いますー?」
「分からない」
2体1だからいけるかもしれない。
そんな考えがよぎってしまった。
個としての能力では勝てない自信があるからこそ、逃げるのは無理だと思った。
だが2人でならどうだ?
戦闘ならまだ分からないし、逃亡よりは可能性があるだろう。
安直な考えだが、別の案が浮かぶほど余裕はなかった。
「戦おう」
「それしかないですよねー」
拓人も同じく思考に余裕がない。
逃亡を選択すれば1人は逃げられるかもしれないという考えに至らなかったのだ。
「なーにをべちゃくちゃ喋ってんのー?」
男が口を開いた瞬間、2人は飛び出した。




