63話 塔
数十分後、拓人と潤は全身に多大なる火傷を負い、瓦礫に埋もれ、地に伏していた。
異能の回復すらもままならないほど消耗し、指先一つ動かすのすら困難な状況。
敵には傷一つつけることができず、それどころか余裕すらも見せつけられている。
2人は異能研究会との圧倒的実力差を見せつけられると同時に、全身で痛いほど痛感した。
★★★
時は遡り、戦闘終了後。
「調査っていっても何すればいいんですかねー?」
「さぁ? とりあえずあの大きい塔でも目指してみる?」
2人はもともと体育会系な人間ではない。
何事もそつなくこなし、それでもなお優秀な成績を収める。
それゆえ、今この状況でも楽観的に喋り続ける。
「まぁ特に行くところもないですしそうしますかー」
なんとかなるかの精神で目的地を決め、加速していく。
目に見える程度の距離だったため、5分ほどで到着し周囲を見回す。
「誰にも会いませんでしたねー」
「そして何もないね」
敵とは遭遇せず、周りにはめぼしい施設が存在しない。
唯一天高くそびえる塔だけが異様な存在感を放っていた。
「中入りますかー?」
「まぁそれしかないよね」
「入り口はー?」
「まぁ探すしかないよね」
「分かりましたー」
気だるそうに返事をするなり、直径50メートルほどの塔の周囲を旋回しながら空に登っていく。
拓人の視界に映る模様は全く変化せず、あみだくじのような模様が規則的に並んでいる。
それは頂上に近づいても変わらず、雲の先まで同じ模様が続いていた。
「どんな設計してるんだー?」
外見からは耐震工事などが施されているようには見えず、拓人たちの世界では見たこともないほど高い建築物なのだ。
「でも十中八九異能が関係してるんだろうなー」
パラレルワールドだとしても物理法則が変わるわけじゃない。
じゃあなんらかの力が働いているわけだ。
拓人たちの世界になくて、こっちの世界にあるもの。
それは異能だけだろう。
正確に言えば向こうの世界に存在していないわけではないが……。
だが、それは誤差の範囲だろう。
この塔には異能が使われているかもしれない。
その考えが得られただけで充分だと考え、拓人は降下していく。
そのころ潤はというと、拓人が上を探しに行ったため、下の捜索を始めていた。
これまた模様が変わらずに続いており、そして入り口のようなものは見つからなかった。
「さて、拓人君と合流しますか」
呟くと同時に、潤は上昇していく。
その2人を見据えるーーがいることにも気づかずに。




