62話 空中戦
場面は変わって南部隊の潤と拓人の話になる。
2人は空を大きく飛び、工場の上から全体を見回していた。
「誰もいないですねー」
「そうだねぇ、そもそも人口がすくないのかもね」
「それか東京が極端に過疎ってるかですねー」
2人には雑談を交えるだけの余裕があった。
実際、地上活動特化の異能では空中戦は圧倒的に不向きだ。
多少、空中の異能が来たところで負ける気もしなかった。
「……拓人君」
「分かってますよー」
バサバサと翼をはためかせる音が微かにだが聞こえた。
「んー、多分3人ですねー」
「わかった」
基本的に翼を振る速度は一定である。
その周期の差を聞き取り、それで人数を判断した。
天才肌であり、そして同じく翼を持っている拓人だからできたことだろう。
「正面に2人、右後方に1人であってる?」
「はいー、間違いないと思いますー」
確認に対しても自信を持って答える。
「じゃあ僕が1発受けるから誰でも1人やっちゃって」
「了解ですー」
軽く言ったが、平然と3人の攻撃を受けきると断言できる潤もなかなかの天才だ。
潤よりも異能の扱いが上手い人間は、少なくとも異能警察にもマフィアにもいない。
「来るよ!」
2方向から、より強い翼音が聞こえた。
3人は翼を折りたたみ、空気抵抗を最大限減らすことで潤の周囲に一瞬で距離を詰める。
潤はそれを瞬時に感じ取り、翼を大きく広げる。
どの方向からでもかかってこい。そんな気概を感じ取ることができる。
3人の異能は燕型だ。
翼や足による攻撃の威力は大したことないが、くちばしによる鋭い突きを使うことで攻撃する。
例に漏れず3人も、分散し3方向から同時に突くために突進する。
潤の翼はそれら全てをカバーできるだけの広さがあるが、なにしろ多方向からの攻撃には弱い。
実はピンチだったりする。
以前までなら。
潤は身体をコマのようにクルッと回し、全てのくちばしをしっかりと翼で受ける。
ただ受けるだけなら、衝撃が一直線に抜けていっただろう。
だが今は身体を回すことによって衝撃すらも曲げた。
コマの中心、つまり潤に到達することなく衝撃は外周を伝う。
潤がちょうど1回転し、翼を再び広がるとともに衝撃を外に逃した。
その広げた翼で敵の頭部を弾き、バランスを崩させる。
「今だよ」
「分かってますー」
潤の掛け声に応じて拓人は体制を崩した1人を狙う。
目にも止まらぬ速さで落下し、足でその翼の付け根をガッチリと掴む。
地面はどんどん近づいていき、1人は抵抗する余裕もなく顔面から地面に衝突する。
言うまでもなく気絶した。
「まず1人ー」
「拓人、こいつも頼む」
潤は難なく2人目の体制も崩し、それを翼で拓人の方に叩きつけた。
拓人は上空から落下してくる2人目を逆さまになりながらキャッチし、クルッと回って後頭部を再度地面に叩きつけた。
「2人目ー」
もはや作業のような感覚になっている。
そしてほどなくして3人目も片付けた。
「なんか拍子抜けですねー」
「そうだよね。まさかこんなに弱いとは思ってなかったよ」
2人はそんな談笑をしながら、再び飛び上がった。
研究会はこんなものだ。2人はやがてそういった感覚を覚えてしまったことを後悔することになる。




