61話 胸糞悪い話
猫型の異能生物はそのまま振り返り、俺の身体を隅々まで見据えてくる。
その気配はまさしく異能生物そのままのように感じた。
というか間違いないだろう。
1ヶ月間、嫌というほど戦ってきたんだ。
間違えるはずもない。
あれは異能生物だ。
結論がまとまったところで、猫型が俺の足元まで素早く跳ねてくる。
「速い!」
さっきの突進でも分かっていたことだが、この異能生物は間違いなくそこらの猫型よりも強い。
猫型は足元から、地面を蹴って俺の顔面スレスレまで跳ぶ。
そして身体をヒョイと回したサマーソルトが、鼻先に繰り出される。
それを俺は後ろに倒れ込むことで回避し、そのままバク転。からの蹴りで猫型を後方に蹴り飛ばす。
着地と同時に追撃に向かい、後を追う。
視界に映る猫型はピクピクと痙攣しており、弱っているのは一目瞭然だった。
それを確認しトドメを刺すように右の拳を振りかざした。
腕に生物を殴った感触が伝わってくる。
しっかり当たった。
あとはこれが消滅するか確認するだけだが……。
「……よかった」
しっかりとモヤとなり消滅した。
「女性は今どうなっているんだ?」
異能生物を倒しひと段落ついたが、あの異能生物はもとを辿ればおそらく女性の猫型だろう。
自分の意思で異能を外に放出できるなんて話は聞いたこともない。
まぁ研究でいろいろできたんだろう。
あんまり気にすることではないな。
そして俺は女性の側にしゃがみ、息を確認する。
「え? さっきまで息あっただろ?」
その女性に脈はなく、呼吸音すら聞こえなくなっていた。
命懸けで異能生物を?
異能の再生略があれば生きられたかもしれないのに?
この考えを遮るように足音が聞こえてきた。
明らかに敵意はない。
「鉄平、大丈夫だったか?」
敦さんと兄さんだ。
「はい、問題なく勝てました……」
俺は勝てたという割には沈んだ声で返事をする。
「その反応、お前の敵も死んだのか?」
兄さんが聞いてくる。
「も?」
ということは兄さんの敵も死んだのか。
「あぁ、敦さんの担当した敵も死んだ。異能生物を体から引き剥がして一瞬でこときれたよ。鉄平の方は?」
「俺の方も同じような感じだよ。気絶したと思ったら異能がいきなり異能生物になっちゃって。それで異能生物を倒して戻ってきたら……死んでた」
「そうか。俺の方は戦闘中いきなり苦しみだして、異能生物を引き剥がすと同時に絶命したって感じだ」
ん? それってつまり本人の意思じゃないってことか?
戦闘中に引き剥がすメリットがない。
「兄さん、敦さん。それが起きたのってどのくらい前ですか?」
これの答えによっては思っていたよりも非人道的なことが行われている証明になるだろう。
「えーと、今からだと3分前くらいかな?」
「同じくだ」
だいたい俺も同じだ。
「これってつまり……」
「誰かがそうさせるように裏で操作したか、タイマーのようなものであらかじめこうなることが決まっていたか。だな」
どっちだとしても胸糞悪い話だ。
人間を兵器としか見ていない。
「……早く行きましょう」
1秒でも早く異能研究会を潰したくなった。




