60話 執着
挑発をしてみたものの、全く攻撃の糸口が見えない。
防ぐたび次の攻撃があらゆる方向から降り注ぐ。
俺は異能の都合上、左からの攻撃にめっぽう弱い。
一撃でも貰ったら戦線離脱を余儀なくされるだろう。
そしてそれを分かってきたのか、たまに右からの攻撃を織り交ぜつつも基本的に左半身への攻撃に切り替えられた。
「嫌な攻撃しますね……!」
「随分と煽ってきた割に防戦一方なんじゃない?」
本当にその通りだ。
なんとか隙を作って、そこを一撃で突く。
これしか勝ち筋はないだろう。
まぁその隙を作るのが難しいんだけど……。
「なんでそんなことしてるんですか?」
「そんなことってどんなことよ」
会話によって隙を……と思ったが攻撃が止むことはない。
「異能の研究なんてして、それで人が大勢死んでる。そこまでして研究する意味があるんですか?」
純粋に気になるのもあるが、情に訴えればなにかボロが出ると考えた。が、そんなのは夢物語だったみたいだ。
「そんなの知らないわよ。私が強くなること、それ以外に何か必要なことがあるの? あんたらの世界のことは知らないけど、こっちじゃそれが常識よ? むしろ私からしたらあんたらの方が異常よ」
「……そうです、か!」
言い切ると同時に右足で強く地面を踏み込んだ。
相手の動揺こそ誘えなかったが、会話に脳のリソースを使わせることができた。
だから相手は俺の予備動作に気付かなかった。
相手が地面に着地した瞬間に踏み込んだので、そのまま体制を崩さざるを得ない。
その無防備な身体に、踏み込みの反発を乗せた拳を突き出す。
ドォン!
相手は工場内のコンベアーなどを粉砕するほどの衝撃で叩きつけられた。
当分立って来れないだろう。
まぁ一応確認しておくか。
そして俺は派手に破壊され散乱している機械をかき分け、敵である女性を探す。
「……あ、いた」
女性は気絶していてもなお、まだ異能を纏っていた。
かろうじて息はあるが、異能の回復力が繋ぎ止めているような状態だろう。
「すごい執念だな」
何が異能にそれだけ執着させるんだ?
そんなことを考えていると、突然女性の異能が揺らいだ。
波のような揺らぎがだんだん大きくなり、津波といってもいいくらい大きく波打つ。
「なんだこれ!」
異能の波はやがて女性の体を離れ、一つの塊となる。
その塊は空中で形を作り、俺に向かって急速に突進してきた。
「くっ!」
反応しきれずに右の脇腹にぶつかってしまい、多少のダメージを受けてしまった。
「あれは……?」
異能の塊を目で追うと、そこには猫型の異能生物がいた。




