5話 方針
敦さんは自分の過去を語る。
「まずは20年前の事からだ」
聞く限り、異能力者になった当初はかなり辛い環境だったらしい。異能力者だと石を投げられ、常に監視されていたらしい。
それなのに異能生物が現れた時は戦場に駆り出され、休みもなく働かされた。
こんな経験をしていても人の為に戦い続けたのは敦さんの優しさがあったからだろう。これが敦さんの『強さ』なのかもしれない。
ここで敦さんが大きな手掛かりとなりそうな事を言う。
「俺が異能力者になる時に、茶色の。熊の体毛の様な色のオーラが身体に纏わりついてきた。何処から現れたのかも、何だったのかも分からない。だが確かなのは、数秒でオーラが消え、その後頭にイメージが浮かんだ」
「イメージ?」
「あぁ。熊になる時のイメージだ。いつも異能を解放する時のイメージ」
「なんかご都合主義ですねー」
拓人君がぽろっと言葉を溢す。
でも確かにそうだ。未知の能力なのに使い方が分かるなんて…。
「確かに。これは手掛かりになる。桃、これをメモしといてくれ」
「はい」
この会議では要点を書記である桃ちゃんがホワイトボードに記入する。後でその要点から議題について考えるらしい。敦さんらしい合理的な考えだ。
その後も会議は淡々と進む。
[異能警察官について]
→異能生物に対応する為の組織。10年前につくられた。
[異能警察官養成所]
→異能力者を異能警察官に育てる為の施設。
→10歳の時に入り、15歳の時に社会に出るか異能警察官になるかを自分の意思で選ぶ。
[異能に関する法律]
→異能警察官が異能生物に対してだけ使用可能。
[異能生物の種類について]
→異能警察官が扱っている異能生物を『友好性○型』と呼ぶ。俺の場合は友好性鬼型だ。
→理性を持たず暴れ回る個体を『敵性○型』前回の敵は敵性蛇型。
→今までに、犬・猫・鳩・烏・蛇・狼……といった風に多くの種類が発見されている。
[異能生物の出現頻度について]
→20年前は頻繁に現れていた。
→以前までは大体一ヶ月に一体。
→現在はペースが早くなっている。今日拓人君が発見した個体三体も含めて、今日だけで五体だ。
[異能生物の出現方法について]
→20年前はゲートからの出現。
→以前は自然発生。
→今回の個体はゲートからの出現。
[異能生物の強さについて]
→20年前と以前まではあまり変わらない。俺一人でも倒せる。
→犬型や蛇型の様に異常な個体が出現。拓人君が発見した個体は以前の強さだった。
「とりあえず一つ目の議題に関してはこんなものか。次の議題に移る」
なんか異能生物に関しては人間が関わっているような気がする。
そんな事より次の議題か。あの謎の男についてだな。
「では謎の男を直接見た鉄平、山本、かりん、3人から話を聞きたい」
「「「はい」」」
「では、私から。まずあの男の容姿についてですが、黒のスーツを見に纏っていました。身長は180くらいで茶髪。なんか山本みたいな雰囲気を漂わせていました」
「どういう事だよそれはよぉ」
「こんな感じです」
「なるほど。気性が荒いと」
「ちょっ敦さん!?」
山本さんが少しかわいそうだ。
俺はかりんさんの説明に補足をする。
「山本さんみたいと言っても何も考えてないわけでは無かったと思いました。何か信念を持ってるような感じでした」
「おい鉄!」
「なるほど。戦闘面ではどうだった?それと拓人は山本を抑えとけ」
「はいー」
拓人君に抑えられた山本さんは犬歯を剥き出しにして威嚇してくる。というか拓人君欠伸する余裕があるらしい。はわー。とか言ってる。そんな事より説明だ。
「戦力で言えば敦さんと同等かそれ以上だと思います。弱っていたとはいえ、3人で全力を出しても倒せなかった相手を喋りながらでも一撃でした」
「喋りながら?内容は?」
「確か「その程度でこの街が守れるのか」とか言ってた気がします」
「なるほど」
敦さんの顔が曇る。
「どうしたんです?敦さん」
かりんさんも気付いたのか心配している。
「あぁ。俺の中の仮定が違ったかもしれない」
「仮定?」
多分俺と敦さんの考えている事は同じだろう。だがとりあえず敦さんの説明を聞こう。
「そうだ。前回の議題で、20年前と今日。どちらも考え方によっては人がやったと考えられると思った。例えば出現方法、以前は自然発生。20年前と今日はゲートから。例えば頻度、これも20年前と今日だけ異常だ」
「確かにそうですね。でもなんでその二回だけなんですか?」
かりんさんが質問をする。
「これは推測だが、異能生物は人間の手によって作られたものだと思う。20年前に実用段階になり、ゲートを使い街に放った。だが、不慮の事故により俺に異能が宿り撃退された。そして今。20年の研究を得て、再度ゲートで異能生物を放った。敵の強さがそれを物語っていると思う」
「確かに…。今回の敵が強くなったのは改良が加えられたから。と考えることも出来ますね。では、自然発生は何だったのですか?」
確かにそれは俺も思った。だが納得の出来る理由が思いつかなかった。それは敦さんも同じなようで「分からない」と素直に言った。
拓人君が少し脱線した話を戻す。
「つまり、その異能生物を作った奴らがその男と関係ある。と、思っていたけど違ったって事ですよねー」
「そうだ。街を壊していたような奴らが街を守るというなんて考えられない」
そう。問題はそこなんだ。あの男が何を考え、何をしたいのかが分からない。
「この情報からあの男について考える。考えられる可能性は三つだ。
一つは『異能生物を作っている組織とは全く別の組織の人間』
二つは『異能生物を作っている組織内の人間だが、方向性が違う人間』
三つは『ただのハッタリの可能性』」
「ハッタリ?多分それはないでしょう」
「だろうな。言ってみただけだ」
となると可能性は二つか。だけど今の情報だとどっちか分からないな。
ここで敦さんが結論をつける。
「今後の方針を決める。まずは異能生物を作っている組織があると仮定し、その組織について調べる。それと同時に謎の男がどちらに属しているのかも調べる。いいな?」
敦さんの確認に全員で「了解」と同意する。
「じゃあ俺はまた上と会議してくる」
「いってらっしゃい」
敦さん、忙しそうだな。そう考えながら会議室を片付ける。
「これから仕事増えそうですねー」
「そうよね。少なくとも私たちが入ってからは一番忙しくなりそう」
拓人君とかりんさんが雑談をしてる。内容はもっともで、今までに類を見ないほど忙しく危険なものになるだろう。
「とりあえず敦さんが帰ってくるまで休憩でもしますかー」
「そうですね。少し疲れてしまいました。散歩に行ってきます」
「ついて行きますよー」
拓人君と桃ちゃんが散歩に行ってくるそうだ。俺はどうしようか。いや、悩むまでもないな。今回の戦闘の反省だ。
そう考え、俺はソファに身を預け目蓋を閉じた。