57話 突入
「ついにこの日が来ましたねー」
拓人君が呟く。
俺たちの目の前には禍々しいような、神々しいような、それこそSFチックなゲートが広がっている。
「そうですね。このために今日まで特訓したんですから」
桃ちゃんが決意に満ちたような声音で拓人君に同意する。
「うん、そうだね」
「おう、そうだな」
それに続いてかりんさん、山本さんも声をかける。
そうだ。今日が決戦の日なんだ。
みんなそれを再確認したんだ。
俺たちは1ヶ月間、文字通り死ぬ気で訓練した。
丸一日動き続けたこともあるし、何度骨折したかもわからない。
異能がなければ何度も死んでいた。
それくらい過酷なものだった。
だが間違いなく結果は出た。
危険度4の異能生物なら余裕で単独撃破。
危険度5になると多少苦戦するが、まず負けることはなくなった。
1ヶ月前は危険度3の大蛇に大苦戦したからな。
それを考えれば大きな成長なはずだ。
……絶対に負けられない。
俺は過去の記憶と父さんの日記の内容を思い出す。
楽しいとは言い難いが、それでも大切な記憶。
それは父さんがいなければ存在するはずがないものだ。
許さない。
誰かは分からないが、異能研究会のリーダーを倒す。
そして俺たちの街をもう異能で壊させない。
俺は覚悟を決めた。
「……そうだね。今日が決戦の日だ」
そうして俺も拓人君の言葉に同意した。
「いいか、今の時刻は午前9時58分。あと2分後の午前10時、一斉に突入する」
残り時間もあと僅かといったところで敦さんが確認のためみんなに声をかける。
「俺たちの目的は異能研究会を徹底的に潰すことだ。いいか?俺たちには相手を思いやれるほどに力がない。人の心を忘れろ。異能研究会の人間を殺してでもリーダーを探し出す。これは戦争だ。仲間のことと目的だけを考えろ」
敦さんは少しためを作り、言葉を重ねる。
「お前たちもわかっているだろう?手を抜けば双鬼……いや、鉄平と治が死ぬ。殺される。俺たちはそれを防ぐために戦うんだ。殺人を気にするなとは言わない、言えない。だが、気負うな。自分を責めるな」
ここにいる人間の半数以上が未成年だ。
人を殺したことも、死体を見たこともない。
だけどやるしかないんだ。
やらなきゃ死ぬのは俺たちだ。
「時間だ。行くぞ!」
「はい!」
敦さんの号令に全員で返事をしてゲートに突入する。
入る直前、兄さんの声が聞こえた。
「死ぬなよ、鉄平」
それに対して俺は真剣に答える。
「もちろん!兄さんも死なないでね!」
「当たり前だ!」




