49話 自分勝手
一応昨日のことを書いておく。
研究会の奴らがゲートの細工を突破してこっちの世界に来やがった。
こっちの世界の国籍なんてないから病院で出産できなかった彩花は、鉄平を産んだから体力が雀の涙ほどしかなかった。
俺に鬼の力も残ってない。
ガキ2人に鬼の力が使えるわけでもない。
逃げ切れるはずがなかった。
彩花の機転がなけりゃ全員死んでてもおかしくなかった。
でもよ……彩花のいない世界で生きる理由があるのか?
……クソッ!最後になんでこいつらを託すとか言ったんだよ……。
彩花の頼みじゃ断れねぇよ。
仕方ねぇ、こいつらが大人になるまで守ってやるよ。
なんでだ?
どこに行った!
治がいなくなった。
治はまだ7歳だ。
このままじゃ絶対に死ぬ。
そろそろ武器の貯蔵も無くなってきた。
鉄平1人守れるかどうかすらも怪しい。
どうしたらいいんだよ……。
治がいなくなってから1年。
俺の体力ももう持たない。
偶然にもこっちの世界で異能を研究する組織があるらしい。
そこに鉄平を預ける。
同時に研究会にあの情報を流せばあと10年は攻めてこないはずだ。
それでようやく彩花のところにいけるんだ。
鉄平と別れた。
なんだよ、あいつらが憎かったのにいざ別れるとなると寂しいな。
こんなんでも一応父親だからな。
子供の成長は願っちまうもんなんだよ。
はぁ〜、俺の命もあと数時間か。
治は元気にしてるかな?
鉄平は無事に辿り着けたかな?
彩花に会いたいな……。
松島さんに全てを託す。
鉄平のこと。
今後、研究会を終わらせてくれること。
治と鉄平が成長したらこの日記達を読ませるようにだけ伝えた。
後はなるようになるさ。
ーーー
松島さんは静かに日記を閉じた。
俺と兄さんはなんのために生まれたんだ?
愛も与えられず、父さんの勝手な都合で鬼を託されて、しかも母さんに内緒で?ふざけるなよ!
自分勝手にもほどがあるだろ。
しかも最後には親らしいことをしたつもりか?
親ならもっと親らしくしろよ!
子供に苦労かけんなよ!
「鉄平、落ち着け」
敦さんが俺の肩を押さえる。
「……すいません」
いったん深呼吸をして落ち着こう。
兄さんは俺とは対照的に落ち着いている。
「いまさら父さんの気持ちなんて考えても分かりませんよ。でも父さんが勝手に託したこの力で俺と鉄平が命を狙われているのは事実です。それは許せません。ですが恨むべき相手は父さんじゃない。異能研究会とやらが父さんにそうさせた。俺はそう思います」
俺とは違い現状が見えてるんだ。
「研究会を倒さなければ変わらないなら俺は迷いませんよ。仮に他の方々が止めたところで俺は1人でも研究会を倒しに行きますよ」
兄さんの決意は固かった。
「鉄平はどう思っているんだ?」
俺はまだ迷っている。
「確かに父さんを憎むべきじゃないのは分かっています。それでも俺は許せない。それに研究会と戦って勝てるんですか?下っ端にも苦戦したんですよ。そんな俺たちで大丈夫なんですか?」
研究会を倒したい気持ちはある。
だけどそれ以上に戦力差という現実が襲ってくる。
「理屈は抜きにしてお前の気持ちが知りたい。どっちだ?倒すか逃げるか」
その2択なら決まっている。
「倒すに決まってるじゃないですか!」
「ならいい。俺とて無策でこんなことを言ってるわけじゃない」
松島さんのいう作戦ってなんなんだ?




