43話 階段
扉の向こうには薄暗い通路が地下に向かって伸びていた。
長年放置されていたのか、階段は埃を被っている。
しかし不思議なことに蜘蛛の巣やネズミなどの、生き物がいる形跡が全くない。
それにしても、こんなに長い通路があるなら気付く人もいるだろうに。
しかもここは本来なら地下鉄が通っている筈だ。
なおさら気付かない方がおかしい。
ここはいったいなんなんだ?
「司さん、ここはいったい?」
「俺も中に入るのは初めてだ。もちろん淳吾もな」
潤さんの問いにそう答えた龍宮寺さんを、松島さんが補足する。
「ここは10年前に作られた場所だ。ある一人の男によってな。それも一晩で」
そんなこと可能なのか?
「その男は死ぬ間際、あの場所をお前たちに託す。と言っていた」
松島さんは俺と兄さんを見て言った。
「俺たちに?」
「そうだ。男は最後の力を振り絞り、俺と龍宮寺に全てを伝えた」
「全て……?」
「この空間の場所。扉の開け方。異能生物についての簡単な知識。そして双鬼について。残りは全てここにある。とも言っていた」
「……その男って……?」
松島さんは少しの沈黙の後、俺たちの目を見ながら言った。
「お前たちの父だ」
……そんな気はしていた。
父さんがあの時、俺を逃がした後、松島さんたちと会った。っていうことだろう。
「父さんは何者なんですか……?なんであの組織に追われて、なんで異能についての知識を持っていて、なんでこの空間を作ったんですか!」
兄さんが叫んだ。
「分からない」
「じゃあ……!」
握った拳を壁に叩きつけようとしたところで。
「だからここに来た。お前たちの父は言った。ここに全てがある。と。だからそれを確認しに来た。違うか?」
「そう……ですけど」
兄さんは拳を握ったまま、肩の力を抜きながら言った。
「そろそろだ」
龍宮寺さんの言う通り、階段の先に部屋のようなものが見えてきた。
「……ここは?」
そこに広がっているのはただの広い空間と一つの机だけ。
その机の上に何冊か、本が乗っていた。
松島さんはその本を一つ一つ丁寧に持ち上げ、表紙を確認している。
「日記……、研究資料……、手紙……、異能研究会……?なんだこれは?」
最初の3つは分かる。
父さんの日記と研究資料。そして手紙。
だが異能研究会ってなんだ?




