42話 扉
5分ほど歩き、本来の目的地に着いた。
「ここだ」
松島さんが振り返りながら言う。
その背中には、異様なほどの存在感を放つ金属の扉がある。
こんなに目立つ扉ならSNSとかで騒ぎになっていてもおかしくないはずだ。
「この扉は異能を持たない人間にとっては、扉に見えるがただの壁としか認識できないようになっている。原理は不明だがな」
「存在するのが普通すぎて気付かない、みたいな感じですか?」
「そうだ。そして異能を持つ人間には扉だと認識できるがそれ以上でも以下でもないものに見えるらしい」
らしい、というのは松島さんが異能を持っていないからだな。
しかし不思議だな。
少なくとも俺には、異様な存在感を放っているように感じる。
「虎徹さん、本当にただの扉に見えるんですか?」
「あぁ、少なくとも俺にはそう見える。お前は違うのか?」
「はい……」
兄さんが虎徹さんに確認していた。
「まさか兄さんも?」
「鉄平もか?」
どうやら同じようだ。
この2人に共通すること。
双鬼。
これしか思いつかないな。
「お前たちには分かるのか?」
松島さんの問いかけに俺たちは口を揃えて返事をした。
「やはりあの人が……」
松島さんの独り言が聞こえたが、なんと言っているかまでは聞き取れなかった。
「よく分かんねぇけどさっさと入りましょうよ」
山本さんは扉に近づき、開けようとした。
扉の端から端まで見回すこと5秒。
振り返りながら言った。
「どうやって開けんだ?」
「…………」
「ドアノブもないし」
「…………」
「壊せるようにも見えないし」
「…………」
本格的にどうするんだろうね?
「あっ、あの、松島さん?開け方……知ってますか?」
みんなの視線に耐えられなくなったのか、山本さんは三下のように松島さんに頼み込んだ。
「俺も開けたことはない」
「そんなぁぁ!!どうしてぇぇ!!」
ん?なんかキャラ違くないか?
「山本のやつ、さっきの戦闘で手柄を全部美玲ちゃんに取られちゃって……」
「なるほど、精神が……」
かりんさんは両の掌を合わせて、南無三と呟いた。
「真面目な話に戻すぞ」
松島さんの呆れを感じさせるような言葉で、現場の空気は引き締まった。
「鉄平、治。扉に近付いてみろ」
俺たちは言われるがまま歩いた。
2人と扉の距離が1メートルほどになった時、扉が光った。
「!?」
反射的に腕で目を隠し、光は5秒ほどで収まった。
腕を退かすと、扉にはさっきまでなかったはずの紋章のようなものが浮かんでいた。
その紋章は、扉の隙間を挟んで二つに割れた『鬼』だった。
「……これは?」
「よく分からない。だが、お前たちのために作られた扉であることは分かっている。この扉の制作者に直接聞いたからな」
「なるほど。で、これからどうすれば?」
「紋章に手をかざしてみてくれ」
俺たちは本能的に異能を解放し、俺は右手、兄さんは左手をかざした。
途端、扉からプシュー!という蒸気の抜ける音が聞こえ、数秒もすれば扉は自動的に開いていた。
「なんかSFチックですねー」
「考え方によれば異能もSFですからね」
異能はSF……か。
そう考えると、異能はどうやって生まれたんだろうな。
「入るぞ」
「了解」




