37話 松島淳吾
「敦さん、とりあえず準備終わりましたよ」
俺は呆れながら言った。
俺と山本さん、かりんさんだけで椅子や机を並べて資料をまとめた。
今日って大事な日なんだよな?
それでいいのか?本当にいいのか?
しかし、この気の抜けた現状に困惑を隠しきれずにいるなら俺だけのようだ。
先輩方は割り切って仕事をし、後輩たちは気の抜けた現状を作っている側だ。
「おうおう、そこの青年よ!はたいふべきにあらずって言うだろ?そう焦んなって!」
焦らせている原因が何か言ってますね。
「おうそりゃないぜ!まさに炭もてわたるもだな!」
文山さんは、やれやれといった風に言った。
もう話しても無駄だな。無視しようそうしよう。
「かりんさん、手伝いますよ……」
そう言った瞬間文山さんが、今までと明らかに雰囲気の違う声音で言う。
「鬼灯、焦るな。俺とて別に遊んでいたわけではない」
「というと?」
「マフィアとの会議だ。当然事前に準備はした。ここに資料もある」
「内容を見せてもらっても……?」
もちろん。と言って文山さんは資料を見せてくれた。
「……!」
「どうしたんですか!何が書いてあるんですか!」
桃ちゃんが食い入るように資料に顔を覗かせた。
「変人、これって?」
「こっちには秘策があるんだよ!」
資料には、『松島がなんとかする』としか書かれていない。
要するに……。
「他力本願じゃないですか?」
「そういう説もほたるの多く飛びちがひたる」
本当に無駄な時間を過ごしてしまった。
マフィアが到着する2時まであと10分。
なんとか準備が終わった。
「俺は淳吾を呼んでくる。少し待ってろ」
淳吾とは松島さんのことだ。
松島淳吾。異能対策課の総司令だ。
「分かりました」
返事をしてから2分後、ドアが開いた。
「待たせたな」
敦さんの後ろには、40くらいの男性が立っていた。
「おはよう諸君。今日はご苦労だった。と言っても本当の仕事はこれからだ。早速だが流れを確認する」
空気が締まる声音だった。
自然と俺たちの背筋は伸び、顔付きも真剣なものになった。
「基本的に俺が話を進める。確認を取った時だけ正直に答えてくれればいい。鬼灯だけは会議が終わった後も残れ」
「何故私が?」
「双鬼が揃うんだ。一つ調べたいことがある」
なるほど?
納得はしたが、一つ疑問が残る。
松島さんは双鬼のことを知っているのか?
敦さんは神話級や双鬼について知らなかったはずだ。
俺はその事を聞こうとしたが、
「もうそろそろだ。席に着いとけ」
「はい!」
聞くことはできなかった。




