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双鬼  作者: 鷹棒
33/78

32話 敦さんの過去

 敦さんから語られた内容は、俺たちが予想もしていなかったことだった。



 俺の家庭は厳しい、というよりは家庭内暴力が横行している家だった。


 必死に耐えて耐えて耐えて、何度も死のうとした事もあった、。


 小学生の頃に、家が嫌になって逃げ出すことが何度もあった。


 家に帰るたびに殴られた。


 家にいても殴られる。家から出たら住む場所がなかった。


 俺には何もできなかった。


 友達を作ることも、おいしいご飯を食べることも。


 公園で泣いている子供を慰めようと近づいたら、その子の親に怒鳴られた事もあった。


 全てが嫌になって、本気で自殺しようとした。


 勝手にビルの最上階に上がって、街を見下ろした。


 ここから飛び降りれば楽になれる。そう思った。


 一歩踏み出そうとしたとき、後ろから声が聞こえた。


「何をしている?」


 驚いて体が動かなかった。


 振り返ると20代の男がいた。


 その男は一歩二歩と近づいてきた。


 俺は後退り、足を滑らせてビルから落ちてしまった。


 反射的に叫んでしまった。


「助けて!!!」


 死のうとしてここまで来たのに、覚悟を決めたのに。まだ生きたいと思ってしまった。


 生きていて楽しいことなんて何もないのに…。


 そこで敦さんの意識はなくなった。


 目が覚めたらそこはベットの上だった。


 しかし病院とは言い難いほど不気味な場所だった。


 隣にはさっきの男が、包帯に巻かれながら座っていた。


 確信はない、しかし本能的に思った。この人が助けてくれたと。


「大丈夫か?」


「…はい、大丈夫です…。ありがとうございます…」


「俺の名前は龍宮寺司だ。どうしてあんなところにいた?」


 口調は決して子供に向けたものではなかったが、とても優しい声音で聞いてきた。


「もう家が嫌になって…。辛くて…。苦しくて…。死にたくて…」


 頭に浮かんだ言葉を片っ端から言った。


 司は「頑張れ」などといった無責任な言葉を投げかけることはしなかった。


 ただ一言、


「そうか、お前が望むならここに住むか?」


 俺の言うことを信じてくれて、しかも真摯に向き合ってくれた。


 そのことがとても嬉しかった。


 涙が溢れた。親の前では見せなかった涙が。


「お願いします」



 それからはずっと司と一緒に過ごした。


 勉強を教えてもらい、体を鍛えた。


 外に出て、人助けもした。


 それからだったか、俺の生きる理由は人を助けることになっていた。


 俺が18になる日に、司は俺の前から姿を消していた。



「こんなところだ。別に面白い話でもなかっただろう?」


 敦さんはそう言うが、俺たちは敦さんにそんな過去があることを知らなかった。


 しかし一つ気になるがある。


「龍宮寺さんと昔からの知り合いならなんでマフィアの情報として伝えなかったのですか?」


 教えてくれればもう少し楽に調査が進んだかもしれない。


「そうだな、お前たちが司の情報だけ得ても無駄だと判断したからだ。司は強すぎる。もし司を見つけてしまったら、無謀にも挑んでしまうと思った」


「じゃあ俺が調査に行くのを止めなかったのはなんでですか!?そんなにその嘘を貫き通したかったんですか!」


 山本さんが言う。


「そうだ。止めてしまってはバレると思った」


「そこまでして隠し通したい理由はなんスカ?」


 敦さんは少し悩む素振りを見せてから言う。


「俺はお前たちを本当の意味で信じていな()()()。異能について詳しく言わなかったのもそうだ。お前たちが自分の力を信じられなくなると思っていた。だが、今回の戦闘で分かった」


 敦さんは俺たちの目を見て言う。


「お前たちは強い。肉体的な強さではない、精神的な強さだ。俺はお前たちのことをよく見ていなかった。すまなかった」


 敦さんは頭を下げた。


「別に説明してくれるんならいいっスよ…」


 山本さんだけじゃない、ほかのみんなも同じだ。


 特に怒るわけでもなく、真剣な顔で敦さんを見つめている。


「これから隠していた事を全て話す」

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