31話 終戦
女性が気絶した直後、熊沢と呼ばれた異能生物が人の姿に戻った。
「こいつらの身柄はどうする?」
龍宮寺さんが、マフィアのボスとして敦さんに問う。
「マフィアの仕事でもなければ俺たちの仕事でもない。犯罪者の身柄引き取りは警察の仕事だ。もうすぐ到着するだろうからそれまで押さえておく。いいな?」
敦さんの言葉はそれだけではなかった。
「マフィアとは後で話がある。この一件が終わったら異能警察官本部に来い」
「話があるのはこちらも同じだ。だがお前たちがマフィアの本部に来い。場所は分かるだろ?」
「マフィアの本部を信用しろと?こっちは国直属だ。何も仕掛けなどしないし出来ない。こっちの方が安全に話し合えるだろう?」
「生憎俺は昔指名手配犯だったものでな、そう易々と国直属の場所には行きたくないんだ」
「ならば上に話を通しておく。マフィアに危害は加えない」
「その言葉が信用出来ないと言っている」
2人の間に火花が散り始めた。
話が一切進まない。両方言っていることが分かるだけに話の落とし所が見つからない。
話は平行線になってしまったと思ったが、敦さんの一言で全てが動いた。
「司、俺が嘘をつくとでも?」
「…そうだな。仕方ない、明日の14時にそちらに向かう」
そう言ってマフィアの全員が俺たちに背を向けて去っていった。
俺たちは警察にあの女性と熊沢を預けた後、本部に戻る。
負傷者100名弱、死傷者0。復旧が始まったばかりの新大久保駅付近は壊滅。
死者が出なかった事が不幸中の幸いだったが、俺はただ自分の力の無さを呪うばかりだ。
「鉄、お前が気負うことじゃねぇ。できることをしたんだ。同時にできねぇことも分かっただろ?じゃあ何するべきか分かるだろ?お前は俺より頭がいいんだからよ」
山本さんだ。
何をするべきか?
本当は分かっている。
強くなる。
それだけだ。
本部に着いた時にはもう夕方だった。
みんなが順番に風呂に入り、みんなで食事をとる。
「そういえば敦さんと龍宮寺の会話の最後、知り合いみたいに見えたのですが…」
かりんさんが敦さんに聞いた。
「そうだな…。ただ古い知り合いなだけだ。聞きたいなら話すが、どうだ?」
「お願いします」
敦さんの口から、龍宮寺さんと敦さんの過去が語られた。




