28話 兄
「立てるか?」
兄と思しき人物が俺を心配してくれている。
「はい、なんとか…」
俺は、潤さんがやっていた回復を見様見真似で行った。
結果、なんとか立ち上がる事が出来るほどには回復したが、同時にものすごい疲労感が襲ってくる。
「敬語使うのやめろよ、昔みたいに普通に話してくれ。兄弟だろ?」
「やっぱり兄さんなの?」
「当たり前だろ、ていうかさっき兄さんって言ってたよな?」
「なんか反射的に…。俺、あんまり兄さんの事覚えてないんだ」
「やっぱりか…。まぁ仕方ないな、とりあえずこいつら倒すか」
兄さんはそう言って、俺たちに迫る大量の鳩を見据えながら異能を解放した。
兄さんの異能は『鬼』だ。
それも左っ側だけ。虎徹さんが言ってた通りだ。
それからは一瞬だった。
兄さんが腕を動かせば敵はぐちゃぐちゃになり、足を動かせば敵は吹き飛んだ。
俺たちの周りにいる敵は全て片付いた。
他はどうだ?
俺は辺りを見回した。
良かった、全て倒してる。
幸い、復活する個体ではなかったようだ。
これで敵も少しは焦るだろう。熊は倒れ、鳩はやられた。
しかし結果は逆だった。
焦りを浮かべると思っていたが、逆に恍惚とした表情を浮かべていた。
「まさかこの現場に双鬼が揃うなんて…!双鬼を捕まえたらどんなに褒められるでしょう?どんなに出世出来るでしょう?あぁ楽しみだわぁ!」
寒気が走るほど、欲望に満ちた声だった。
そんな俺の肩に兄さんは手を回してくれる。
「大丈夫、なんてったってあの人が来てるんだから」
「あの人?」
俺の疑問と同時に、その人物は現れた。
「悪い、待たせた」
その男の声に、虎徹さんが反応する。
「大丈夫です、わざわざお手を煩わせてすみません。司さん」
その男は、龍宮寺司だった。
「あんたもしかして龍宮寺って奴?まさか神話級が3人も揃うなんてね…」
女性が言った。
それにしても神話級ってなんだ?おそらく俺と兄さん、そして龍宮寺さんの事を言っていると思う。
この3人に共通する事、それは実在しない生物という事だ。
実在しないから神話級?神話級が何か特別なのか?
疑問は尽きない。
しかしこの状況で考える余裕もない。
「何故俺の名前を知っているかは知らないが、この街をこのような状況にした事の罪、償ってもらおう」
龍宮寺さんの言葉に対して女性はこう答えた。
「罪?知らないわよ、こっちの世界の事なんて。私たちの目的はただ一つよ。盗まれた異能を取り返す事だけ。罪って言うならそっちも犯してるんじゃないの?確か窃盗罪とかいったっけ?むこうじゃ機能してないから覚えてないけどね」
女性は発する言葉の端々に、よく分からない事を言う。
こっちの世界?異能が盗まれた?むこうじゃ機能してない?
しかし、龍宮寺さんはその事を気にも止めずに異能を解放した。




